33 俺達は動く死体と廃墟で遭遇した
今日は辛うじて崩壊していない平屋で野宿することにした。
外で野営するには、ここはあまりにも危険だ。
俺1人ならまだいいが、女を3人も連れているなら話は別だ。
ってことで、仲良く3人はサリアを真ん中にしてもふもふしながら寝ている。
俺はというと・・・隅っこでぶるぶる寒さに震えながら寝ていた。
・・・ぼっちである。
いや、別にいいんですよ?
寂しくないんですよ?
だって相手は女性だもの。
気を使わなきゃね?
しかし、1人だ。
「・・・」
ごめん、やっぱ自分に嘘吐けないわ。
「ぼっちは寂しいよぉぉ!!!」
俺は四つん這いで這いながら3人娘へと迫る。
まるでホラー映画で有名な貞〇のように
「うるさいですよ、クロロ」
「眠いよぉ、クロロお兄ちゃん」
「静かにして、クロロ」
三者様の冷たい反応。
なんか心に冷えたガソリンを撒かれたみたいで。
だから俺の心は点火して、燃え盛る。
ポエムみたいなこと言ったが、まあようするにこういうことだ。
「俺も一緒に寝かしてくれよぉぉ!!」
「zzz」
「zzz」
「zzz」
「みんな無視か!無視ですか!!」
俺は寝ているサリア・・・はかわいそうだから、ルーナ・・・は後で怖いから、ハルカを必死で揺さぶった。
彼女はしぶしぶ仕方なさそうに起き上がる。
「やだぁ、クロロ。夜這いですか?この童貞セクハラクソ野郎」
「今はどんな罵倒でも甘んじて受け入れるから、一緒に寝かしてくれ!!」
「・・・なら、私の要求に答えてくれたらいいですよ?」
「よっしゃ!なんでもかかってこいや!」
「じゃあ、死んでください」
「それは普通に考えて無理だ!!てかいきなり死ね発言は酷すぎないか!?」
初っ端から要求が最高難度すぎる!!
ミッションインポッシブルじゃないか!
「なら、一生セクハラ出来ないようにこの場で去勢してください」
「それも無理だよ!しかもそこで不敵な笑みを浮かべながら手術用のメスを差し出すなよ!!なんかこのメスばっちいし!」
「そこの便所の傍に落ちてた物ですし?」
「便所で拾った物で俺の大事な息子を切り落せって要求したのか!!不衛生極まりないわ!!」
「ええ~クロロって潔癖症なんですか?キモッ」
「いやいや!普通に最低ラインの清潔観念だろ!!廃墟の便所に落ちてる物はどう考えたって汚いじゃん!」
「zzz」
「会話の途中でいきなり寝るなぁぁぁ!!!」
ハルカをガクガクと揺さぶる。
けど、起きない!
「ツッコミを入れた瞬間から寝られると、不完全燃焼でフラストレーション溜まるだろ!!」
「zzz」
「寝ちゃイヤぁぁ!!起きて起きて起きてぇ!!」
「むにゃむにゃ。眠れないです、勘弁してくださいぃ・・・zzz」
「なにその寝言!?バッチリ寝てんじゃん!!」
「フゥッフゥゥ!!!」
「ぼふっ!?」
ハルカは俺に頭突きを喰らわせた!!
俺、痛みでゴロゴロのたうち回る。
「・・・訳が分かんないぞ」
「それは当然ですよ。だって・・・zzz」
「そこで寝言をやめるなよ!続きが気になっちゃうだろ!!」
「続きはCMの後でぇ・・・」
そう言ったきり、ハルカは完全に熟睡モードに入ってしまった。
肩を揺らしても起きる気配が全くない。
これはもう永遠にCMの後は放送されないパターンだな。
お蔵入り決定ですね。
さっきまで騒がしくしてたせいか、寝静まると辺りがシーンとして寂しいことこの上ない。
・・・孤独感が倍増した。
アイウォンチューな気分である。
また、アイニーチューな気分でもある。
「ルーナぁ、起きてくれよぉ・・・」
俺はハルカの反対側で寝ていたルーナに声をかける。
ヒロインの属性的に言うならばツンドラ(ツンツンドライの略)な彼女なので、完全拒否されることは目に見えてるけれども・・・やってみないことには分かんないよね?
俺の揺さぶりが効いたのか、ルーナは静かに目を開けてこう言った。
「・・・どうしたのよ?」
「寂しいから一緒に寝ていいか?」
「きもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもい触るな変質者陰湿者強姦魔。あっちいけセクハラ童貞うじんこ低能不能なめくじニートオタクがっ。あなたみたいな卑劣な妄想豚野郎には、強烈なデブホモが収監されている最底辺の監獄がお似合いだわ。骨の髄まで犯しつくされて火葬された末に、骨粉をニワトリの餌にでもされるといいわ・・・zzz」
「・・・泣けるぜ」
ルーナが苛烈な罵倒を吐いた直後に寝直したのを見て、俺は苦笑い。
本当は泣きたいところだが、なんとか堪える。
まるで俺を相手にしてくれん。
どうして今夜に限ってこんなに冷たいんだよ。
理不尽すぎる・・・
こうなれば・・・我が愛しの最終兵器彼女に頼るしかないだろう。
「サリア、起きてくれ・・・」
「うにゅ・・・?」
ゆさゆさ優しく背中を揺らすと、サリアは瞼を擦りながら起き上がった。
真っ白い髪の毛に寝癖がついてて、少しだけかわいく見える。
まあ目の色は真っ赤だから、寝起きだと充血してるように見えなくもないけど。
そこも含めてかわいい、だな。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「・・・俺と一緒に寝てくれないか?」
「なんでぇ?」
「寂しくて死んじゃいそうだからだよ」
「あはっ、うさぎさんみたいでかわいいね?」
「・・・だろ?」
俺、ドヤ顔。
もうプライドなんてどうでもいいや。
この孤独感を紛らわせるためなら、なんだってやってやる。
「・・・お兄ちゃん、なんだか顔が怖いよ」
「怖いのはサリアへの愛を自分の表情で表現しているからだよ・・・なんて言ってみる」
「お兄ちゃんの顔が、ムンクの叫びみたいなことになってるけど、それが愛なの?」
「俺、そんなデフォルメされた怖い顔だったの!?まさかそんなレベルで怖いなんて思ってもみなかったよ!!」
「あるいはサルヴァトール・ダリの『顔の戦争』みたいな感じだよ」
「それ、戦争の醜さを表した髑髏の顔の絵じゃん!そんなに悲惨な顔だったのか!!」
俺は自分の顔に触れて確かめるが、当然の如く分からない。
というか髑髏の顔って言いすぎじゃね?
「・・・ま、まあ顔なんてどうでもいいさ。肝心なのは心だろ?」
「顔も評価の内に入ることを忘れてはいけないわってルーナお姉ちゃんが言ってたよ?」
ルーナめ・・・余計なことを教えおって。
「でも、俺の顔・・・かっこいいだろ?」
「ううん、中の中くらいだよ?」
「いえ、下の下ですね」
「下の中くらいじゃないかしら?」
寝ているはずのルーナとハルカまで答える。
多分、寝言だ。
しかし1人も上ランクの発言がない。
あれか・・・夢の中まで俺をバカにしたいのか。
「・・・酷くね?」
ハルカとルーナは寝静まり、俺は茫然とサリアを見る。
小さい天使のような彼女は、ちょこんと横になって目を閉じ・・・
「お兄ちゃん、サリア眠いしメンドクサイからおやすみするね?」
そのまま寝たのだった。
・・・メンドクサイ?
サリアさん、最近ハルカとルーナに影響されてるんじゃないのか?
俺を軽視しすぎじゃないっすか?
顔も中の中だって言ってたし。
「いやいや、こんな深夜に自分が寂しいからって寝てる人を起こそうとするクロロの方がダメに決まってますよね・・・zzz」
正論に尽きるその一言。
そんなハルカの寝言がグサッと心に刺さって、結局俺は隅っこでしくしく泣きながら寝きましたです、はい。
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「ヴァァァァ・・・」
不吉な声で目を覚ました。
月明かりに照らされた、廃墟の内部。
奥の方の室内から反響した声だった。
「・・・」
喉に異物を詰め込まれてなお、叫ぼうとするような・・・そんな奇声。
明らかに人ならざる者の声色。
考えられる可能性は・・・
「魔物、だろうなぁ」
俺は即座に行動を開始した。
3人娘に駆け寄って、肩をそれぞれ揺らす。
「起きろ、魔物が来てるぞ」
「・・・ケダモノ?それはクロロのことじゃないですかぁ」
「違うっつの!ケダモノじゃなくてマモノ!本当に魔物が来てるんだよ!」
それにしたって、俺がケダモノとか何気に辛辣だぜ・・・
「・・・本当に魔物みたいね」
ルーナが起き上がりながら室内の奥を睨めつける。
流石に元処刑人だけあって、こういう異常な気配には敏感ってことか。
最初に起きた彼女に起こされて、サリアとハルカもすぐに異常を察知した。
・・・切り替えが早いのは普通に助かるな。
月光の届かない真っ暗闇の中から届く、不気味な声。
そんな音の発生源が暗がりから姿を現す。
その正体は・・・
「アンデッドタイプの魔物か」
ソイツは人間の死体だった。
だが、生きているかのように動いている。
何故動いているのに死んでいることが分かるのか?
・・・片腕と両目が抉れているのに、痛みに苦しむ様子もなく奇声を発しているからだ。
「ああ、アンデッドがここにいるってことは・・・やばいな」
「やばいわね」
ルーナが俺に同調して頷く。
ハルカは恐怖と疑問が混じった顔をしながら俺を見る。
「何がやばいんですか・・・私、全然分かりません」
「・・・アンデットタイプってな、元は悪魔とか天使とか人間の死体なんだよ」
「死体・・・?」
「そう、死んでるんだ。治療魔法ってあるだろ?あれを脳にかけると、死体が動くんだよ」
・・・死体の脳に治療の能力を付加させると、その部分にある細胞が活性化する。
神経細胞に電気信号が伝わって、体が動くようになる。
そうして動いた死体は、アンデッドという魔物として識別されるのだ。
体は代謝を必要としないけど、意思はないから本能や純粋な欲求に従って行動する。
結果、大して意味もないのに捕食行動をし始める。
生きるために食べることを必要としないくせに。
死体のくせに、な。
「・・・人が死んだら、普通は死体を残さない決まりなんだ」
「アンデッドになったら困るからですか」
「そう。仲間が死んだら、まず火葬する。定石の1つだ」
近年は火葬が徹底しているから、人型のアンデッドは見ないですんでいる。
ま、それは街の中での話だけど。
「・・・魔物の血を見た時に気付くべきだったわね」
・・・静かな街の中で、不自然に残された血。
あの場に魔物の血があったってことは、そこで戦闘があったってことだ。
誰かが魔物を殺したということ。
しかし、魔物の死体は残っていなかった。
魔物は同族である魔物の死骸を食ったりはしない。
だから討伐者が魔物の死体を持ち帰ったのかもしれない。
でも、目の前にアンデッドがいる。
ギルドの報告では、この町の住人は全員避難していることになっている。
人型のアンデッドの元になるような奴は、討伐者自身しかいないってことだ。
俺達は魔物の血を実際に見ている。
討伐者が魔物を殺したから魔物の血があるんだと、そう思い込む要因だった。
・・・けど、違った。
あの血は、元は討伐者だったアンデッドの血だ。
討伐者が殺されて、その後に治療魔法をかけられてアンデッド化・・・もとい魔物化したから、流れ出た血が凝固せずにあの場に残った。
その後、アンデッドが動き出してその場から立ち去った。
だから魔物の死体がなく、討伐者が魔物を殺し持ち帰ったと・・・俺達はそう思い込んだ。
んで、油断してここに泊まった結果、こうなったと。
しかし、問題なのはアンデッドではない。
むしろそれを作り出した奴の方が危険で・・・
「ああ、俺の判断ミスだ。悪い」
「・・・私も、よ。後でお互いに反省するべきかしらね」
「だな」
俺はアンデッドを見ながら、黒い剣を片手に生成する。
魔法の剣だ。
「・・・幸い、あのアンデットは両目抉れてるから動きがとろい。俺が殺すよ」
その夜。
死体を殺すという珍妙な経験を俺は体験したのだった。




