表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

27 強大なる者と俺は激突した

 この船の裏口の外には、緊急用のボートが4隻取り付けられている。

 いずれも救助か、沈没した時のためのものだ。

 俺達が初めて船に乗って魔物を討伐した日に、ゴーマのおっちゃんが教えてくれたのだ。

 だから俺は、サリアとハルカを連れて船の裏口から出ようとした。


 なのに・・・それは全て燃やされていた。

 ボートが文字通り消し炭になっていた。

 船を燃やしている火に引火したわけじゃない。

 明らかに、人為的なものだった。


 「逃げられないぞ?貴様らが死なない限りは」


 絶望の声だった。

 ヴァネールが、上空から炎を纏いながら俺達の目の前に降りてきていた。

 その身に外傷は見当たらない。

 しかし、彼の持つ大剣には返り血がドップリと付着している。

 ・・・つい、最悪の想像をしてしまう。


 「・・・殺したのか?」


 言葉に飾りはいらなかった。

 思ったことを聞き、ありのままを答える。

 それが会話の本質だ。

 けれど、人は取り繕ったり、嘘を吐いたりする。

 俺がそれをしないのは、自分の余裕がもう殆ど残っていないからだ。


 「全て、燃やしたが?」

 「・・・」


 少しだけ、俺の心の一部分が壊死した気がした。

 もう彼らと2度と会えないようにされた。

 それだけで、殺しあう動機となるだろう。

 けど、背後には大切な2人がいた。

 ここで真正面から突っ込んで死ぬのは簡単だ。

 だが、俺が命を捨てる時は、この2人を逃がすための機会でなければならない。


 「ほう、貴様の後ろにいるのが、今回逃亡した危険指定者か」

 「ひっ・・・」


 ヴァネールの燃える瞳がサリアを射抜いた。

 視線だけで見る者を畏怖させる眼力。

 それはある種、カリスマと呼ばれているものと似ている部分もあるのかもしれない。


 俺は恐怖で震えたサリアとハルカを後ろに隠す。

 この行動だけで、もう彼にとって俺は完全な敵となっただろう。

 その証拠に、好戦的で無機質な性質から成す雰囲気に、殺気が混じり始めたからだ。


 それは狩り人の姿だった。

 憎しみも娯楽もなく、ただ純粋に生きる糧として命を刈る者。

 彼の場合、それは生きるための糧ではなく、生きるための仕事なのだろうが。


 「今すぐ殺してやろう。燃やしてやろう。灰にしてやろう。その灰すら燃やし尽くしてやろう。灰燼残さず消え失せろ」


 瞬間、彼の周囲が神々しく光った。

 あれは・・・やばいっ!!!


 俺はハルカとサリアを抱えて、後ろの裏口の中へ跳んだ。

 コンマ1秒後、俺達のいた位置が光に包まれて、爆発した。

 黒煙が舞い、衝撃がメシメシと船の壁を剥がしていく。

 あれを食らえば、俺達は・・・


 いや、考えている暇はない。

 ヴァネールがこちらに手を向けつつ、浮遊しながら迫っているのが見えた。


 「中へ逃げろっ!!!」


 俺は2人に指示して、船の中へ退避させる。

 ここは入口だ。

 奴はここからしか船の中に入って来れない。

 なら、その瞬間を狙って魔法を使えば・・・


 そう判断し、魔法を使おうとしたその時。

 裏口周辺の壁全てが、紅蓮の爆炎で消し飛んだ。

 入り口は消え、裏口の先の通路が外から丸見えの状態だった。

 外には、燃えている大剣を大上段から振って、遠くから炎の斬撃で俺を殺そうとする彼の姿が見えて・・・


 「・・・”何も無いということリターントゥナッシング”っ!!!!」


 俺は構わず魔法を行使した。

 俺の命を動かす燃料が、燃えていく。

 燃えて、超常的な現象を起こすエネルギーへと変化していく。


 人は道の途中で、命の燃料を補給することは出来ない。

 でも、その燃料は最初から燃えていた。

 少しずつ火が燃えて、命を動かし、そしてやがては尽きてしまう。

 尽きてしまえば、命は失われてしまう。

 そんなことが分かっていながら、俺は命の燃焼を加速させていく。


 自己犠牲。

 守りたいものがあればこそ。

 だから命は燃えている。


 「うおおおおおおおお!!!!!!」


 迫る火の海を、俺の魔法で打ち消していく。

 業火は俺の目の前で完全に消え失せ、勢いがなくなる。


 「・・・なんだと?」


 ヴァネールが不思議そうに顔を歪ませる。

 目が見開かれていた。

 初めて、感情らしい感情が表面に出てきた。

 今が、チャンスだと思った。


 俺はヴァネールに向かって魔法を発動しようとする。

 だが、炎が突然消えてしまったことに警戒したのか、彼は炎を纏い、上空へ急上昇を始めた。

 ・・・速すぎて捉え切れない。

 なら、逃げるだけだ。

 彼から、出来るだけ遠くへ。

 そう思い、ハルカ達を俺は追う。


 が、その刹那。

 天井という天井が爆発して、熱風と瓦礫が俺に向かって落下した。

 あいつ、無茶苦茶やりやがる!

 このままじゃ、ハルカ達も瓦礫の下敷きだ。


 反射的に魔法を使って、広範囲の爆発を瓦礫ごと一瞬で消した。

 鼓膜を破りかねない大きな音が、一気に静寂に変化した。

 その代償として、心不全を起こしかねない激痛が俺の心臓を襲う。


 「がっ!?」


 苦しかった。

 命の苦しみだ。

 だが、この苦痛も生きていればこそ。

 生きるということは、様々な痛みを実感し、その身に受け入れることなのだと俺は悟った。

 そして苦痛は、生きることへの執着を生み出す。

 さあ、駆け出せ!!


 「うっ・・・あああああああ!!!!!」


 意識が朦朧としてしまうが、気力で何とか持ちこたえる。

 ここで俺が死んでもいい。

 だが、ハルカ達だけは、何としても殺させない。

 絶対に。

 俺という存在を懸けて。


 俺は走りながら、上を見上げる。

 船の天井の一切が消滅しているので、外の夜空が見渡せた。

 今は宇宙の暗さを星が照らす頃合いなのに、ヴァネールの広大な炎海が真紅の夜空を俺達の目に入る。


 幻想的な光景の中、彼は莫大な量の火から炎の龍を形成していく。

 日本の神話に出てくる、蛇に角と手を生やしたフォルムだった。

 まるで炎が実際に生きているかのようだ。

 たかが物質の酸化現象が、実際の龍以上の脅威を持って、十数頭顕現した。


 「死ね」


 ただ一言の強烈な言葉と共に、炎の龍は船へと下降していく。

 狙いは・・・俺の先を走る、ハルカとサリアだった。

 くそ、先にハルカ達を狙ってきやがった。


 俺は全力で駆けて、龍より先にハルカ達の元へ。

 僅差で彼女達に追いつき、2人の体を抱えて横っ跳びした。

 遅れて龍が体ごと床に激突し、周囲の木材を燃やしていく。

 飛び散った木材の破片が俺達に飛んでくる。

 これをいちいち消すことは難しい。


 俺は魔法を圧縮させ、黒い剣をその手に生み出した。

 両手持ちで、飛び散る破片を切り捨てていく。

 その隙に、真上から数頭の龍が牙を見せながら落下してくる。


 「らあああっ!!!」


 龍の体当たりを直前で体をひねって回避し、首から切断した。

 だが、龍の首を斬ったその部分から炎が漏れ、大爆発が生じた。


 俺は瞬時に目の前の空間を消滅させ、真空を作り出す。

 そのまま魔法を維持して真空の壁を大きくし、防壁のようにした。

 これで、背後にいるハルカとサリアを守れる。


 爆発が真空に接触した部分から鎮火していく。

 なのに、激しい炎の流れが収まらない。

 炎の龍が更に爆発の中心地へぶつかってきて、真空の壁以上に大きい龍へと肥大化していく。

 炎を統合しているのだ。

 防壁では抑えきれなくなり、横から炎が漏れ出してくる。


 「うおああああああああ!!!!!!」


 俺は気合で叫びながら、真空の防壁を大きくしていく。

 対して龍が続々とヴァネールから生み出され、俺が抑えている巨大な炎の龍と合体していく。

 その度に、熱気が俺を襲ってくる。


 ・・・肺が焼け付くみたいに痛い。

 実際に焼けているのだろう。

 俺の両手だって、火傷で感覚がないに等しい。

 そう、いつの間にか全身に細々とした炎症を負っていた。

 その上、魔法で命まで急速に削られていく。


 何重もの激痛。

 しかし、踏ん張る。

 心臓の鼓動が人生の中で1番速い。

 もう、はち切れてしまいそうな程に。


 頑張れ。

 まだ、倒れるな。

 しっかりしろ。

 立て。

 立てっ・・・!!!


 「あああああああああ!!!!!」

 「ほう、頑張るな・・・押し比べと言ったところか?なら、もっといくぞ」


 ヴァネールの周りに留まっていた空中の炎が全て、地上の龍に収束していく。

 どんどん龍の大きさが膨らみ、遂には船の大きさ以上にまで巨大化した。

 先程の十数倍の大きさ。

 見上げても、龍の顔が見えない。

 あまりの絶望感に、少し笑ってしまった。


 ああ、これ、もうダメかな?

 俺の心が折れかける。

 涙が出てきそうだ。


 俺の抵抗は、全て無駄だった?

 サリアをあの施設から出さない方が良かった?

 ・・・ノートムの言ったとおり?

 彼の言うことが正しかった?


 ・・・でも。

 もう、彼はいない。

 俺が殺してしまった。

 そして、約束してしまった。

 サリアを・・・守ると!!


 俺の視界は荒れ狂う炎でいっぱいだ。

 手や腕が焼け、服が燃える。

 耳は何も聞こえなくなり、呼吸をするごとに俺の肺が悲鳴をあげた。


 しかし、立つ。

 いや、実際に立っているかどうかは分からない。

 立っているつもりなだけだ。

 もう、自分がどんな状態なのかうまく把握出来ない。


 痛い。

 熱い。

 死んでしまう。

 そんなことを思いながら、俺は・・・数年分の寿命を、一瞬で殺した。


 「ああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 俺は真空の壁を極限まででかくした

 魔法の範囲を広く、広くしていく。

 

 襲ってくる炎の龍は、もはや俺達が今立っている船よりも大きかった。

 だから、それより一回り大きい防壁を展開する。

 炎を一気に押し込め、真空空間がヴァネールまで到達する。


 「ぐっ・・・!?」


 彼が息苦しそうに、喉を掻く。

 呼吸が出来ないからだ。

 次いで、周囲の炎が全て完全に消え失せた。

 赤い夜空は深い闇の色へと戻り、光源が一気に減少した。

 それでも奴を逃がさない。

 絶対に、ここで殺す。


 殺すのだ。

 こいつは、船員を容赦なく殺した。

 絶対に許せない。

 負けられない。


 死ね。

 死ね死ね死ねっ!!!


 怨念を糧にして、俺は魔法を維持し続ける。

 このままいけば、後少しで・・・

 そう思った直後。


 「あぁっ・・・!?」


 呂律が回らない声で、俺は倒れた。

 バタリと、うつ伏せに。

 足に力が入らなくなったせいで。


 集中力がなくなり、意識が霧散する。

 世界が暗闇に覆われていく。

 いや、俺の視界がおかしいのだ。


 頭が痛い。

 全身が痛い。

 うまく息を吸えない。

 ・・・立てない。


 痛い・・・よ。

 それだけしか、俺のことが分からなかった。


 ヴァネールはどうなった?

 死んだのか?

 俺はちゃんと、殺せたか?

 ・・・分からない。


 俺が倒れてから少し経って、急に俺の腹に衝撃が伝わった。

 だが、弱弱しい。

 痛いは痛いが、耐えられる。

 俺は腹の衝撃で仰向けになる。

 見えたのは、苦しそうに脂汗を掻くヴァネールだった。


 彼は傷を一切負っていなかった。

 内臓の負担による、過呼吸。

 俺が与えたダメージは、その程度だ。


 ああ・・・全力でやったのに。

 失敗した。

 戦いに負けた。

 俺は、死ぬ。

 死ぬのだ。

 ここで。


 いや。

 ハルカも・・・サリアも死ぬ。

 俺が死ねば、殺されてしまう。


 せっかく出会えたのに。

 この出会いは幸運だった。

 でも、彼女が死ねば一気に不幸のどん底だろう。


 嫌だ。

 そんなのは、嫌だ。


 「ぅぅぅぁああっ!!」


 必死にヴァネールの足を掴む。

 せめて、先には行かせない。

 数秒ぐらいは、時間を稼いでやる。


 その間に・・・どうか、どうか逃げてくれ。

 俺は強く願った。


 「ふん」


 蹴り飛ばされ、俺の体が転がる。

 既に痛みを感じなくなっていた。

 眠たい。

 けど、この睡魔に飲み込まれたら、俺は間違いなく死ぬだろう。


 「貴様、何者だ?我をここまで・・・しかも、その魔法は・・・」

 「ごほっ・・・がはっ・・・」

 「まあいい。ここで貴様に会えて良かった。危険な者を、ここで殺すことが出来るからな」


 次の一発を貰えば、俺はもうダメだ。

 そして、もう次はない。

 ここで、終わる。


 死・・・ぬ?

 後悔、しないか?

 でも、彼女が。

 逃げた、か?

 もう・・・分からない。


 頭の中が最大限に稼働しているのに、体は一切動かない。

 ヴァネールが大剣を振り上げる。

 そして・・・


 「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 サリアの悲痛な悲鳴が、俺の耳に届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ