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23 3人はギルドで、ご案内パンフレットを眺めた

 ギルド。

 そこには、魔物を倒せるだけの強力な魔法を持つ手練れが集まる。


 明らかにアタッカーを務めそうなマッチョな男、パーティー戦で援護魔法が得意だと豪語する女、剣の技に覚えがあるという青年。

 これだけならまだ戦う面子としては納得なんだが、中には絶対未成年だろうと思われる外見の女の子や、ご老人の方々までいらっしゃる。

 ・・・付き添いかなんかだろうか?


 俺達は、受付の女性職員さんに簡易的なギルドの説明を受けた。

 ハルカは最初から聞く気がなく、サリアは聞いても分かんない状態。

 だから俺がしっかりと聞くしかなかった。

 ハルカが長蛇の列を割って最前列まで来たのに、その本人が話を聞かないとかどういうことだ?みたいな文句が後ろの蹴散らした来客者達から飛んできたが、もちろん無視しましたですはい。


 で、ギルド受付嬢に聞いた話ではちょっと覚えにくいこともあったので、パンフレットをもらってきた。

 そこに書かれている内容は、以下の通り。



 =============================



 ~ギルドマスコットキャラクター、ギルルちゃんのなぜなにコーナーv(●´ω`●)v~


 おはこんばんにちは、みんなの妖精、ギルルちゃんだよ(イェーイ)

 みんな、ギルドって分かるかな?(かなー?)

 きっと分かる人もいれば、分かんない人もいるよね~(いるよね~)

 だからそんな君達のために、このギルルちゃんが親切丁寧波乱万丈天下無双な感じで教えてあげるよ~(パフパフパフ!)

 それじゃあ早速だけど、パンフレットの編集をしてる担当さんが文字をタイピングするのめんどくさがってるから、大人の事情でレッツゴー(フゥー!)



 その1・ギルドってなあに?

  魔物の討伐、捕獲、駆除を専門とする、対魔物企業です(ニコニコ)


 その2・ギルドの職員さん達は、どんなことをしてくれるの?

  もし魔物が街に出たり、物資を運ぶ陸路や航路に出てきちゃったら、誰かが怪我しちゃうよね(アセアセ)

  そういうことがあったら困る人達が、ギルドに来て討伐や護衛などの依頼をしてくれます(うんうん)

  その依頼を私達ギルド職員が仲介して、ハンターである君達に紹介してあげるのですよ(な~るほど)


 その3・依頼ってどうやって受けたらいいの?

  みんな、ギルドの建物に入る前に、大きな電子掲示板があったのを見たよね?(見た見た!)

  そこにはたくさんの依頼情報が表示されてるんだ(すごいね~)

  ただし、そこに載ってるのは依頼のタイトルと、難易度を表すF~Sまでのランク、それと依頼の報奨金だけだよ(へぇ~)

  詳しい依頼の内容は、受付の職員さんに聞いてみてね(はーい)

  詳細を聞いて依頼を受けたいと思ったら、周りにある会議スペースで職員さんと依頼契約するよ(オッケー!)


 その4・ギルドの紹介してくれた依頼を成功させたら、報酬ってもらえるの?

  ハンターの皆さんが1番気になるところですね~(クスクス)。

  安心してください。ちゃあんと依頼を成功させたら、あらかじめ依頼主が例示していた報奨金をもらえますよ(あんしんあんしん)

  報奨金を受け取る時は、ギルドの受付の職員さんに言ってね(ウ~ス)


 その5・もし依頼を達成出来なかった時は、どうなるの?

  そうなんですよ、ここが困りどころなのです(そうなの?)

  もし依頼に何らかの理由で失敗してしまうと、報奨金の2割分の違約金を支払わなければいけません(ええ~!)

  君達は、そんなことにならないように慎重に依頼を選ぼうね?(オッス!)


 その6・ギルドは依頼を紹介する以外に、何かサービスしてくれるの?

  うん、ギルドでは、魔物を討伐する時に必要な交通情報や、地理、魔物の分布、目撃情報をリアルタイムで教えてくれるよ!(わあ、べんり!)

  世界情勢も教えてくれるから、毎日確認するといいかもね(もっとべんり!)

  上の階にはハンターさんが利用出来るドミトリーの宿泊施設とか、一般開放してる飲食店もあるよ(豪華だね!)


 その7・ギルドのサービスを受けるには、何か資格が必要なの?

  そうだね、ギルドのサービスはハンター登録っていう契約をしなくちゃ利用出来ないよ(そうなんだ~)

  でも、ハンター登録はお金がかからないし、指紋登録と名前(ニックネームも可)の記入、保持してる魔法の種類の目視確認だけすれば、簡単に登録出来るよ(かんたんだね!)

  職員さんに申し出れば、いつでも脱退が出来るし、再登録も出来るよ(とっても親切!)

  1度登録さえすれば、世界中どこのギルドに行っても、同じサービスが受けられるよ(ワールドワイドだね!)


 その8・他に注意点とかあったりする?

  えっとね、1つだけ注意してほしいことがあるんだ(なになに?)

  それは、魔物の大規模な襲撃があった時、被害にあった地区から直接ギルドに討伐依頼が来ることがあるんだ(それはたいへんだ!)

  もしハンターさん達が各地区からの依頼を受けた場合、その依頼は断れないよ(ふぅん)



 うん、ギルドについての説明はこんなところかな?(お疲れ様です!)

 これを読んで何か分からないことがあったら、1番最後のページを参照すること!(イエース!)

 それでも分からなかった脳筋さんやお猿さんは、職員さんに直接聞いてくださいね~(ウッキッキ~!)


 ハンターというお仕事は、苦しいこともあれば危険なこともありますが、それでも私達を魔物から体を張って守ってくれる、みんなに誇れる職業です(うんうん)

 様々な生き物の生態に触れて、各地を旅して魔物を倒す。リスクこそあれど、それはもう素晴らしい経験が出来るジョブなのです!(ビューティフル!)

 さあ、これを読んだ君も、今すぐハンター登録をしに受付へゴーシュウゥ!(キャー素敵!)

 







 ふぅ、タイピングめんどくさかったっ!!



 =============================



 「・・・というわけなんだが、どうっすか」

 「なるほどですね」

 「サリア、分かんないよ」


 俺はパンフレットをハルカとサリアに見せながら、ギルドの飲食店にて説明してやった。

 反応はと言うと、サリアは予想通り。

 だが、ハルカは・・・


 「私が分かった確かなことは、このパンフレットッ! テメーのつらを次見た瞬間、私は多分・・・プッツンするだろうということだけだぜッ!!」

 「何故に奇妙な冒険の名言風に言った!?しかもプッツンする相手がパンフレットかよ!!」

 「だって何ですか、このパンフレット!いちいちセリフの最後に(ニコニコ)とか付けてくるのめんどくさすぎです!!」

 「いや、それは俺も思ったけどさ・・・」

 「それにパンフレットを見る人に対して、脳筋発言はないでしょう!それじゃあサリアちゃんが、脳みそマッチョってことになっちゃうじゃないですか!!」

 「それは大人に対してのセリフだろ!!サリアは子供なんだから、理解出来なくて当然だし!!むしろそこを察することが出来ないお前が脳筋だし!!」

 「脳筋って言った方が脳筋だしっ!!」

 「どんな言い訳だよ・・・」


 いや、それでもパンフレットにそんな言葉が乗ってるのはどうかと思うが。

 てかそれ以前に、こんな軽いギャルのような妖精のセリフで、大企業であるギルドが紹介されていていいのか?


 「しかも最後のタイピングめんどくさかった発言。あれはもう読者に対する純粋な悪意が滲み出てますよ」

 「それは俺も思ったよ」

 「きっとあのパンフレットを編集した者の当時の心情・・・と読者には思わせておいて、この小説の作者の心情を巧妙にカモフラージュして伝えた、パンフレット制作者からの作者に対する悪意ですよ!」

 「マジか!!!と言うかお前、そこまでメタ的にあのセリフを考察してたのか!!」

 「メタに触れる編集者の気概に、私プッツンしました」

 「そこにプッツンしてたのな・・・」


 無駄に深く考えすぎだろ・・・


 「でもサリアは、こういうかわいいキャラがいた方がいいと思うの」

 「ま、キャラがいた方が楽しく読めるよな」

 「うん!サリア、ギルルちゃんのファンになっちゃった」

 「でも、そういうキャラのマネはするなよ?ハルカお姉ちゃんみたいになっちゃうぞ」

 「ちょっと何ですかそれ!サリアちゃんには、この私が新世界の神と同等に正しい存在だと教育しているのに!!」

 「それは教育じゃなくて、洗脳って言うんだよ」

 「洗う脳と書いて、洗脳ですね」

 「実際の脳は汚染されてると思うけどな」


 ああ、本当にサリアにはハルカみたいにはなってほしくないな。

 どうかこのまま、純粋無垢に育っていってほしいものだ。

 そんなことをしみじみと思っていると、ハルカがパンフレットをパラパラとめくりながら、話のベクトルを変えてきた。


 「でも、このパンフレットを見ている限りでは、私達ギルドを利用出来そうにありませんね」

 「・・・やっぱ、そうだよな」


 ふざけてはいても、何だかんだハルカは考えてくれているじゃないか。

 俺、ちょっと関心。


 「ギルドを利用するなら、登録をしなくちゃいけない。登録するなら、職員に自分の魔法を見てもらわなくちゃいけない・・・だもんなぁ」

 「・・・魔法を使えない私は分かりませんが、危険指定の魔法を持ったクロロとサリアちゃんは確実に登録出来ないでしょうね」

 「バレたら即、処刑人が来るよな」


 うん、シャレにならん。

 特にサリアは現時点でも追われている身だ。

 こういう混雑した場所でなら、サリアに意識が向かず、身元がバレることはないが・・・

 それでも魔法を見せれば、あっという間に俺達は捕まって一生投獄か、死ぬかの2択を迫られるだろう。


 「元々俺達は、モントロールの先の情報が欲しいだけだろ?だったらお前がギルドに登録して、地理情報を手に入れればいいじゃないか」

 「魔法を使えない私が、ギルドに登録出来るかどうかは分かりませんよ?」

 「・・・どうなんだろうな?」


 ギルドとは、パンフレットに記載されていた通り、魔物の討伐や捕獲を専門にした企業だ。

 つまり依頼を受注する者は、魔物を討伐出来るスキルを持つ者に限るってことでもある。

 じゃないと魔物に反撃にあったり、最悪の場合殺されたりしてしまうから。

 その線でいけば・・・きっと、ハルカもギルドには登録出来ないだろう。


 ということを俺から話してみたら、ハルカも同じようなことは考えていたみたいだった。

 両者、悪い方向で意見が一致。

 こんなところで気が合っても、何も嬉しくないなぁ・・・


 「私みたいな魔物を討伐出来ない者が登録するのだったら、強い人と一緒に登録しないとダメなんでしょうね」

 「ん、何でだよ?」

 「ギルドの入り口に、小さい男の子がいたでしょう?」

 「ああ、いたな」

 「その子、親と同伴で魔物討伐の依頼を受けていましたよ」

 「・・・まだ魔物と戦えない年齢なのに?」

 「ですね」


 ・・・つまり。


 「その子供は、魔物を直接討伐する奴の補助役か」

 「恐らくは」


 そっか。

 直接魔物と戦わずに、討伐者の補助に徹していれば同伴は可能ってことか。

 まあ、依頼の成功確率を底上げしたいなら、そういった者達を受け入れる制度があってもおかしくはない。

 それに、その男の子と親が師弟関係だったりするなら、修行代わりにもなるだろうしな。

 むしろ、そのために未熟な奴を連れている場合が多そうだ。


 「なら、俺達もパーティーを組んで、補助役として依頼を受けるという名目で登録は・・・出来る?」

 「と、思うんですけどね」

 「・・・聞いてみるか?」

 「誰にですか?」

 「ギルルちゃんが言ってた、職員さんに、さ」



 ---



 「無理ですね」

 「えー・・・」


 1階の受付で、さっそく俺はダメ出しを受けていた。


 「貴方は、そこのビクビク震えた男性の補助役という形で、ギルドに登録したいとおっしゃいましたね?」

 「そうだよ」


 そう言って、俺は横にいる顔が真っ青なブルブル男をチラリと見る。

 俺達は適当にこの男を捕まえて、そいつの補助役ってことで登録しようとしたのだ。

 が、ここで断られましたです。

 ちなみに、この男はハルカが連れてきた。

 俺は男が連れてこられた場面しか見てないが、もうその時点でハルカに恐怖するように震えていた。

 一体どんな方法で連行してきたんだろう・・・


 「確かに補助役であれば、魔法の確認はしないで済みます。が、その対象は子供のみと決まっています。そこにいるお子様であれば対象に入りますが、クロロ様自身が補助役で登録を行うことは出来ません」


 らしかった。

 うーむ。

 どうしよう。


 助太刀を求めてハルカをチラ見するが、彼女は話も聞かず、呑気に欠伸をしながら休憩スペースに座っていた。

 我、関せずの態度である。

 1回言葉の暴力で精神をビチビチ痛めつけてやりてえ・・・


 「・・・どうするの?」


 手を繋いでいたサリアが、俺を見て首を傾げる。

 不安。

 そんな感情が、瞳の中で揺蕩っているのがよく分かる。

 子供の感情は実に分かりやすい。

 特に、こういうマイナス面での心の動きは。


 「・・・心配ないよ」


 サリアの心が俺に決意を与える。

 俺へ向けられる問いに、黙殺するわけにはいかない。

 家族なら、応えるのだ。

 お互いに助け合う関係なら、俺は返さないといけない。


 双方の意思疎通。

 俺とサリアの関係性。

 数多いふれあいの中で、信頼を確認するまでもない領域まで、お互いを理解したい。

 その先に、きっと家族の形があるはずだから。

 だから、俺は応えなきゃいけない。

 どんな信頼も、最初の一歩目は未熟な意思疎通から始まるのだから。


 千里の道も一歩から。

 まだまだ、先は長い。

 けれど、それでも頑張って一歩目を踏み出さなきゃ、二歩目なんて永遠に来やしない。

 勇気、だな。


 「俺が登録するんだったら、魔法をお前らに見せなきゃいけないんだったな?」

 「そうですね。後、名前の記入などの手続きもありますが・・・」

 「なら、やるよ」


 俺はリスクと勇気を天秤にかけて、勇気の方に重りを入れた。

 あえて、故意的に。


 「・・・」


 サリアが、不安がる。

 それでも何も言わない。

 俺の言葉を信じているのだろう。

 信頼の一歩目を踏み出そうとしているのだろう。


 「・・・ありがとうな」

 「うん」


 簡素な言葉。

 けれど、大事な言葉。

 それは歪でまだ不安定だけど・・・家族の言葉ってやつじゃないだろうか?


 「では、手の空いているスタッフの者をお呼びしますので、その間あちらの休憩スペースでお待ちください」


 業務的な指示に従って。

 さあ、リスクを背負って。

 勇気を振り絞って。


 ・・・ノートム。

 見てるか?

 今、歩くぞ。


 そして俺は一歩目を踏み出した。

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