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22 俺達はルルカスにたどり着いた

 ルルカス地区。

 ここはアドム地区と正式な航路で繋がっており、漁獲で得た資源を輸出、または輸入して貿易による発展を行ってきた、古くからの港街だ。

 規模もアドムより数倍程度あり、魔物対策もバッチリな整備の整った、街らしい街と言った感じ。

 まあそれでも、シーリエ(旧称札幌)よりはちっこい街なんだけどな。


 俺達がアドムを出港してから今日で5日目。

 モントロール(旧称青森)地区の中継地点である、ここルルカス(旧称函館)地区までやってきた。


 港の大きさはアドムの10倍以上。

 そんな広大な港の敷地には、所狭しと物資の詰まったコンテナが積まれている。

 これらを大型クレーンや体を強化する魔法で運ぶ、マッチョな作業員達の姿がたくさん見ることが出来た。


 「さあ、ルルカスに到着したぞ!みんなご苦労だった!次の出航日まで、大いに体を休めてくれ!!」


 船を港に固定ロープを繋いだ後、船団員達にねぎらいの言葉をおっちゃんはかけた。

 ようやく一息つけると、みんなホッとしているようだった。

 いくら正規航路とは言え、海では魔物と接触する機会が全くないとは言えない。

 だから海の上では気を張る必要がある。

 みんながホッとするのも頷ける話だ。


 「で、おっちゃん。ここにはどれだけ滞在する予定なんだ?」


 俺はさっそくおっちゃんにそんなことを質問した。

 ハルカと、サリアを連れて。


 「おう、あんちゃん。ここで燃料の補給と物資の積み替え作業をするから、最低でも1日はかかるぜ。その間、おっちゃん達は船から離れらんねぇ」

 「・・・じゃあ、明日まで暇だな」

 「だったら、街を観光すればいいじゃねえか。結構いい経験になると思うぜ?」

 「ルルカスになんかあったっけか?」

 「おう、一応ここも観光地だからな。例えば・・・ルルカス山なんてどうだ?街の光が綺麗だって昔から人気のスポットだぜ?」

 「わぁ・・・すごそうだね」


 おっちゃんの話に目を輝かせるサリア。

 ま、この子は外界のこととか何にも知らないっぽいし、どこ連れてってもいい経験にはなるか。


 「でも、夜まで待ってたら暇そうですね?」


 そんなハルカの意見。

 俺も確かにそう思う。

 暇潰しのための暇潰しだなんて、なんか滑稽ではあるが・・・


 「じゃあ五稜郭なんてどうよ。あそこは数百年前から観光スポットで、広々としていいとこらしいぞ」

 「あ、聞いたことあります。最初は奉公所として作ったのに、あっという間に解体されちゃって、今では憩いの公園だなんて再利用されてる場所ですよね」

 「そうだな。のんびりしたい奴らにとっては、いい場所さ」

 「ふぅん」


 ハルカが興味なさげにそう呟いた。

 ああ、行きたくなさそうだなぁ。


 「おっちゃん、他には何があるんだ?」

 「おいおい、おっちゃんは観光案内所のおじちゃんじゃねえんだぞ?そんなにポンポン観光情報が出てくるわけじゃないんだ。大体あんちゃんは旅人なんだろ?そういうのは自分の足で探して、満喫するもんじゃないのか?」

 「・・・確かに」


 言われて納得だった。

 ホームレスなら、そして旅人であるなら、自分の足で情報源を探すのが筋ってものだ。

 そうじゃないと、いざ辺境の地へ足を踏み入れて人に情報を聞けないから困った、なんて言っても言い訳にすらならない。

 ただ死ぬだけだ。

 こういう場所で、そういうスキルを磨くのも必要なことかもしれないな。


 「・・・ギルドに行こうか」


 俺はサリアとハルカにそう提案していた。


 「ギルドですか?あそこは魔物を狩る者が行く野蛮な場所でしょう?私、嫌ですよ。しかも観光スポットでも何でもないじゃないですか」

 「野蛮なんて失礼な言い方するなよ・・・それに、別に観光じゃなくたっていいだろ?どうせ次のモントロールにたどり着いたら、おっちゃんと別れてまた陸地を歩くんだ。次のルートを調べる時間に充ててもいいと思うんだけどな」


 それを聞くと、ハルカはあからさまに嫌そうな顔をした。

 何て言うか・・・「ええ~ギルドに行くぐらいなら、パダシリ弄っていた方が楽しいですぅ」とか言いそうな顔だった。


 「ええ~ギルドに行くぐらいなら、パダシリ弄っていた方が楽しいですぅ」

 「俺の予想が1文字も間違うことなく当たっちゃったよ!!」

 「ふふ、馬鹿ですね。私がこの小説の地の文を読めるということを、もうお忘れですか?」

 「お前、読めるのか!?」

 「というのは冗談です」

 「・・・だよな」

 「というのも冗談です」

 「おい!どっちだよ!?」

 「ふふっ・・・どっちでしょうね?」


 ハルカは不敵な笑みを浮かべて、俺を翻弄する。

 ハルカ・・・恐ろしい子ッ!

 伝説の大女優が少女に戦慄するかのように、俺は驚いてしまった。

 そんな俺のリアクションを無視して、ハルカはとことこと船の出口へ歩いていく。


 「おい、どこ行くんだよ?」

 「あら?ギルドに行かないんですか?」

 「結局行くのかよ・・・」


 俺はハルカの後を追って歩く。

 だが、俺の服の袖にちょこんと軽い抵抗が。

 見ると、サリアが袖をつまんでいたのだった。


 「お兄ちゃんとお姉ちゃんが行くなら、サリアも行きたい」

 「んお?俺、最初からお前もついていくのかと思ってたけど?」

 「・・・いいの?」

 「いいに決まってるだろ?家族は離れ離れになっちゃいけないんだから」


 いや、これは俺の願望か?

 そんな疑問が頭を掠める。


 「・・・じゃあ、ずっと手繋いでいい?」

 「いいぞいいぞ、お兄ちゃん大歓迎」

 「・・・ロリコンお兄ちゃん」

 「!?」


 サリアが驚愕の言葉を・・・言った!?


 「エッチスケッチワンタッチ!お風呂に入ってアッチッチ!お兄ちゃんのおっぱい何センチ?クロロの母ちゃんデーベソ!」

 「1970年代の死語オンパレード!!!しかもチョイスが微妙すぎる!!」

 「めんごめんご~」

 「謝罪まで死語かよ!?て言うかサリア、どうしてそんな使っても誰もネタが分からないような死語を知ってるんだよ!!」

 「チョベリバ~」


 よく見ると、サリアの口がさっきから動いていない。

 サリアの背後を見ると、しゃがみ込みながらサリアそっくりな声マネを駆使して俺を罵倒する、ハルカの姿があった。


 「元凶はお前か!!てかお前の声マネ、声帯模写レベルでビックリしたわ!!」

 「ち、バレましたか」

 「そりゃバレるよ!!サリアがあんなマニアックなこと知ってるわけないし!!」

 「でも、クロロは知ってましたね?マニアックな知識」

 「俺の育った施設で、そういう下らない知識を持ってるルフェ先生って悪魔がいたんだよ」

 「ほほう。そのルフェ先生とやらに伝授していただいたのですね?」

 「伝授じゃないぞ?お前みたいにそうやって度々ボケてくるんだよ」


 懐かしいな。

 いつも割を食うのは、副院長先生だったっけか。


 「・・・1回お会いしてみたいですね」

 「そんなところで興味を抱くなよ・・・」


 俺が呆れていると、ハルカがサリアの手を繋いで、先へ行こうと促す。

 俺もハルカとは反対の手を繋いでいるので、間にサリアを挟む形だった。


 「・・・こうしてると、まるで親子みたいですね」


 ハルカが俺を見ながらそう言った。

 顔が心なしか若干赤いような・・・


 「じゃあ、2人はサリアのお父さんお母さん?」


 サリアまで、俺とハルカを交互に見ながらそんなことを言うし。


 「・・・サリアのお父さんとお母さんは、また別だろ。だって、どこかで生きてるんだろ?」

 「うん、たぶん」

 「俺、前々から思ってたんだよ。サリア、お前の両親をこの旅の中で探せたらなって」

 「・・・そうなの?」

 「そうさ。サリアだって、お父さんとお母さんに会いたいだろ?」

 「・・・うん。会いたいな」


 切なげな気配。

 そんなものを、サリアは纏っていた。

 心に衣を被せて、自分を守るように、柔らかく。


 「だったら、ギルド行けばそんな情報も手に入れられるかもしれないぜ?」

 「サリア、会えるかな?」

 「会えるかどうかは、これからの俺達次第、かな」

 「じゃあサリア、頑張る!」

 「おう!その調子だ!」

 「でも、お父さんとお母さんが見つかっても、お兄ちゃんとお姉ちゃんはずっと家族だよね?」

 「・・・そうだよ。ずっと家族だ」


 出来るだけ、笑ってそう答えた。

 将来のことは正直分からない。

 けど、そうなれたらいいなは、そうするべきことなのだと俺は思ってる。

 安易な希望を口にしてはいけないかもしれない。

 けれど、俺は・・・それでも・・・


 「まあ、それはギルド行ってからの話ですよね?」

 「・・・そうだな」


 結局はギルド行かないと、だもんな。


 「ささ、行きましょう!」

 「うん、お姉ちゃん!」


 2人の声が重なる。

 そんな綺麗な声をずっと聴いていたくて。

 だから俺は元気な2人の後に続いたのだった。



 ---



 で、ルルカスのギルドにやってきた。


 街の観光案内の看板に、地図が乗ってあったのでそれで位置を確認。

 そんで右往左往した挙句、ここまで来たわけだ。

 所要時間、2時間。

 現在時刻、午前11時なのであった。


 ルルカスの街並みはシーリエと似たような感じで、特に中心地はちょっとした高さのビルが数棟そびえたっていた。

 その中の1棟が、ギルドの所有するビルだったわけだ。

 いやいや、りっぱな建物だなぁ。


 ギルドのビルには、様々な者達が出入りしていた。

 天使、悪魔、人間はもちろんだが、老若男女、年齢性別関係なくだ。

 時にはサリアより一回り大きい程度の男の子もビルに入っていく。


 「んじゃ、俺達も入るか」


 俺はサリアの手を引いて、入り口に設置されていた回転扉を押して先へ進む。

 そこから景色が一変した。


 広大なフロア。

 そこに部屋なんてものはなく、中央に魔物に関する依頼受付所があり、それを丸く囲むように簡易的な会議スペースが設置されていた。

 俺達のいる入口付近には、縦横10メートルはあるだろう巨大電光掲示板がいくつも設置されていて、掲示板を中心に来客者の群れが囲っていた。

 受付では外からやって来た者達が長蛇の列を成して並び、受付嬢と話す時を今か今かと待っている。

 会議スペースでは、ギルドの職員と思わしき、スーツを着た者がここの来客者の対応をしている真っ最中。


 「・・・お兄ちゃん」


 ぎゅっとサリアが俺の手を強く握る。

 ・・・怖いのか。


 「大丈夫大丈夫。みんな悪い人じゃないからさ」

 「ほんと?」

 「おう」


 俺は言いながらサリアの手を握り返す。

 ま、いきなり色んな種族が混雑する場所に来たら、怖いよな。

 ずっと部屋に閉じ込められていたのだから、当然だ。


 「で、どこに行くんですか?ここ、何だか混みあっててよく分かりません」

 「俺も初めてだから、よく分からんけど、多分真ん中の受付の場所に行けばいいんじゃないのか?」

 「でも、すごい並んでますが」

 「・・・並ぶのは嫌か?」


 別に、俺達3人で並ばなくてもいいしな。


 「こんな長い列を並ぶくらいなら、目の前の列に並んでいる奴ら全員をぶん殴って気絶させましょう。そうしたら待たなくて済みますよ」

 「いやいや、野蛮すぎるだろ!しかもこんな人数を相手に、生きて受付にたどり着ける気がしない!!」

 「そこはほら、無双系ゲームのように、ズバズバと」

 「現実とゲームの区別はちゃんとつけような?」

 「この世界はフィクションなのに?」

 「危ない危ない!!お前これ以上物語の枠組みをぶっ壊して、どうする気だよ!!」

 「私は神をあざ笑いたい」

 「勝手に1人でやってくれ・・・」


 俺はサリアと一緒に、長い長い列に並ぶ。

 この分だと、1時間は待つだろうな。


 「いやぁだぁ!ハルカ、まつのいやぁだあ!!」


 ハルカが駄々をこねる子供のように、俺の袖を乱暴に引っ張ってくる。

 こいつ、プライドがないのか?


 「おい、みんなお前のこと白い目で見てるぞ」

 「ホワイトアイズ?」

 「何故に英語なんだよ」

 「ブルーアイズなホワイトドラゴン?」

 「それは社長の嫁だろ!!しかもそのドラゴン青い目だし!!」

 「では、社長の愛人で」

 「もう白い目でも青い目でもないし、ただの巨神兵じゃん!!」


 列の最後尾でああだこうだと叫ぶ2人。

 それを周囲の奴らは、奇異の目で見つめていた。

 別に、悪意のある視線じゃない。

 本当に珍しそうに見ているのだ。


 「むむぅ・・・」

 「ほれ、素直に並べ。お前より年下のサリアは、静かにしてるんだぞ?」

 「きっとそれは嵐の前の静けさ、ですよ」

 「サリアが静かにしてるってのに、どうしてそれを意味ありげな風に言っちゃうんですかね!?」

 「どうでもいいんですけど、どうしてクロロ敬語なんですか?」

 「本当にどうでもいいよ!むしろ余計なお世話だよ!!」


 さらにぎゃーぎゃー騒ぐ2人。

 別にこの程度で周囲の奴らは怒ったりしない。

 社会的に器がでかい奴らなのだ。

 この時代、そんな奴ばっかだ。

 俺達みたいに、場を乱す方が珍しいのだ。


 「ふふ、だいぶ周囲の者共は私達に意識を向けてきましたね」

 「何を自慢げに言ってるんだよ。こんなのは恥だ、恥」

 「その恥を代償に、私はトラップカードを発動しますよ」


 ホホホと高らかに笑うハルカ。

 そんな彼女を物珍し気に見る一般の方々。

 それが楽しいのか、ニコニコ笑顔なサリア。

 恥ずかしくって俯くシャイボーイな俺。


 「今です!トラップカードオープン!長蛇のモーゼ割り!!」


 ブゥオンとか擬音語を口にしながら、ハルカが長蛇の列に向かって指をさす。

 その姿に羞恥の一片も見られない。

 きっと彼女の脳内では、ソリッドビジョンで投影された巨大なカードが映し出されてるんだろうなぁ。

 嗚呼、恥ずかしい。


 「このカードの効果は、長蛇の列を遠くに飛ばすことが出来ます!!」

 「出来るもんならやってみろよ」


 どうせ出来やしない。

 だって妄想だもん。

 そう俺は高を括っていた。


 「では・・・」


 そう言って、ハルカは息を吸った。

 そして・・・


 「いやーっ!ホモの痴漢よーっ!!」


 ハルカの叫びで、長蛇の列がザザザとモーゼの滝の如く割れてしまった!!

 列に並んでいた女達は何となく避けた程度だったが、男達は顔面蒼白なのだった。

 おおう、貞操の危機が成せる技か。


 「とうっ!!」


 ハルカは無理矢理俺とサリアを引っ張って、受付の前まで直行する。

 列を乱して避けた奴らは、他の列を乱す形になり、ちょっとした騒ぎに発展していた。

 列を組みなおすどころの話ではない。

 いや、ほんとすんません。


 「はい、到着です」


 誇らしげに、彼女はそう言った。

 こいつ、無茶苦茶すぎるだろ・・・

 自分のワガママを通すために、ここまでやるとは・・・

 ハルカ・・・恐ろしい子ッ!

 またしても俺は、伝説の大女優が少女に戦慄するかのように驚いてしまった。


 「では、職員さん。お騒がしいところ申し訳ないですが、よろしくお願いしますね」

 「え?あ、はい・・・」


 女性の人間である職員さんが、唖然としながら俺達を見ていたのだった。

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