24 俺は今、幸せなんだと感じることが出来た
「あ、おかえりなさいです」
ギルドの休憩スペースを、かの有名なジャイアニズム的なイデオロギーによって独占していたハルカ。
休憩スペースに置いてあった漫画を読みながら、ソファーに寝そべって俺の報告を待っていた。
うわあ・・・
俺はお前達のために頑張ってたってのに・・・
なんか泣けてくるっス。
・・・パダシリじゃないけどな。
「ギルドの登録、上手くいきましたか?」
「ま、一応な」
「流石はクロロ。褒めて遣わしましょう」
「どんだけお前は尊大なんだよ!」
「アドルフヒトラーくらい?」
「その人、超の付く程の独裁者じゃん!!」
「私には選民思想があるのだよ?」
「夢を見るのはいいから、さっさと現実に戻ってこい」
「は~い」
あっけらかんとした態度で、彼女はソファーに座りなおす。
俺は隣にいたサリアと一緒に、ハルカの対面にあったイスに座る。
「でも、よくギルドに登録出来ましたね」
「かなり頑張ったのさ」
「国の支配を?」
「もうナチズムネタはやめとけよ」
「権利意識が細分化した日本人が、よく知りもしない人種主義を雄弁に語ることと同じくらい馬鹿なことだからですか?」
「・・・よく分かってんじゃん」
人種差別はいけません~なんて言ってる奴に限って、自分の恋人や結婚相手、友達や親友の所有権を主張するし。
浮気なんかを認めないのが、良い証拠である。
いやまあ、大昔のことだから関係ないんだけどさ。
そんな下らないことは置いておいて・・・
「とにかく、これでお前とサリアも俺の補助役って名目で登録出来るぞ」
「いや~クロロしゃん?私の名前はなんだっけねぇ~?」
「それ、登録じゃなくて耄碌な」
「もうロクなことないですね?」
「モウロク縛りの会話をしなくていいからさ・・・」
話がちっとも進まないじゃないか。
「・・・ねぇ。クロロお兄ちゃんは、どうやって登録したの?」
サリアがクエスチョンを横から投げかけてくる。
ギルドの職員に魔法を見せる時、サリア傍にいなかったからなぁ・・・
「俺の魔法ってさ、大概のものを消しちゃうだろ?」
「うん。前にサリア、船で聞いたよ」
「けど、その魔法を圧縮するみたいに一か所に集めると、黒い剣みたいになるんだ」
「圧縮ってなに?」
「ギューって果物を握って小さくするみたいに、物が小さくなることさ」
「へぇ~」
「で、その黒い剣だと何でも斬れる。それを、『地中の砂鉄を集めて、剣にする魔法です』って言い張ったんだよ」
「うわぁ~!お兄ちゃん、賢いっ!!」
「マジっすか!」
「マジっすマジっす!!」
サリアと2人できゃっきゃと騒ぐ。
つかの間の癒し成分を補給した。
いや、本当にかわゆいな。
「サリアちゃんに、マジっすとか変な言葉使いを教えないでくださいよ。悪影響が出ますから」
「サリアを洗脳しようとしていたお前が言うことかよ・・・」
「洗う脳と書いて、洗脳ですね」
「そのセリフ2度目!!第23話でその言い訳を使って、俺に嫌味を言われたばかりだろ!!」
「そして歴史は繰り返される」
「マルクスの名言で俺をごまかせるとでも思ってんのか?」
「ほほ!こやつ、やりおるわ」
「なに戦国時代の名将みたいに上から目線で言ってんだよ」
話がちっとも進まないじゃないか(2度目)
「んじゃま、サリアとハルカも登録しに行くぞ」
「いや~クロロしゃん?私の名前はなんだっけねぇ~?」
「・・・行くぞ」
俺は耄碌したハルカおばあちゃん?の手を引っ張って、受付前まで行ったのであった。
---
俺達がギルドの建物から出た時点で、午後4時を過ぎていた。
結構時間経ってるもんだな。
あれから俺達の登録が終了した後、モントロールから先の道まで詳しく情報を聞き出してたし、妥当な時間か。
ギルドで得られる情報は、誤りが非常に少ない。
間違うことがあるのは天気予報ぐらいだ。
現代の気象観測システムは平成と呼ばれる大昔の時代と何ら変わらないが、気象を操作する魔法を使う奴がいる影響で、大気の状態が不安定だったりすることが多い。
それに、”命の膜”の外にある世界が汚染されているせいで、酸性雨などの異常気象も多発してるし。
中々に天気予報士にとっては、厳しい時代なのである。
でも、それを除外すればこれほど様々な情報を探すのに便利な場所はない。
是非、他の地区でも活用したいところだ。
ま、サリアの身元がバレない程度に、だが。
「そろそろいい時間帯だし、ルルカス山まで歩いて行くか?」
俺は10キロ以上は離れているであろう遠くに見える小山を指さす。
ちょっと時間はかかりそうだが、十分に歩いていける距離だ。
「山まで 歩くなんて とんでもない!」
「何で重要アイテムを捨てる時に出る、システムメッセージみたいな言い方なんだよ」
「別にいいでしょう?私の足は歩くために存在しているわけではないのです。人を踏みにじるために存在しているのです」
「最っ低の名言をどうもありがとう。さあ、サリア。俺と一緒に行こうか」
俺はサリアの手を握って、父子のように仲良く歩いていく。
もちろんハルカは置き去りだ。
「ごめんなさい~待ってください~」
「極めて軽い謝罪だな・・・」
だが、ハルカが謝ったという事実を尊重しようじゃないか。
少しだけ待ってやることにした。
「あと10年待ってください~」
「そんなに待てるか!!下手したらサリアが大人になっちゃうよ!!」
「じゃあ、あと1年で」
「まず年単位がおかしいことに気付けよ!!」
「なら365日は?」
「単位だけ変えたって、何も意味がないわ!!」
「では、46億年で!」
「そんなに待ってたら星が滅ぶよ!!」
うん、反省していないことがよく分かった。
再び俺とサリアは歩き出す。
しかし、ハルカがタイミングを見計らって、俺に飛びかかってきた。
・・・俺の背中にしがみつく形で。
「普通に重いよっ!!お前は子泣きじじいか!!」
「子泣き美少女です」
「子泣きババアの間違い・・・ぶへっ!?」
俺が悪口を言った瞬間、ハルカに頬をぶん殴られた。
ビンタじゃなくて、パンチ!?
「頬が痛いよ!!」
「私は心が痛いですよ!!この世界の美少女と呼ばれたこの私が、まさかババア扱いされるとは」
「子泣きの醜女でもいいかもしれない・・・ぐべらっ!?」
今度は往復で顔面パンチされた。
離した両手の代わりに、ギリギリと両足を俺の腰にホールドしながら。
「痛いし重い・・・最悪だ」
「私の想いは重いのです」
「お前の想いは、ドメスティックバイオレンスに変換されるのか!?」
「ジェンダーバイオレンスでもいいですよ?」
「結局は暴力じゃん!!」
「力は偉大なり!!我は偉大なり!!」
「独裁者の素質がおありのようで・・・」
俺の背中にへばりついている不思議天使ちゃんは、一向に俺から離れようとしない。
ちょっとあなた、俺にそんな密着して恥ずかしくないのかしら?
俺は恥ずかしいわよ?
・・・何故にオカマなんだよ。
自分で自分を無意味にツッコむ。
「では、クロロハイヤーさん。ルルカス山までお願いします」
「俺、タクシーっスか!?」
「もちろんです。あ、それと運賃は1分ごとに1セントでお願いします」
「それ、どんなに足掻いても赤字じゃん!運賃よりガソリン代の方が高く付くぞ!!」
「そこはほら。サービス!サービスぅ!」
「ネ〇フ戦術作戦部作戦局第一課のあの人みたいなことを言っても、運転者にとって鬼畜な運賃であることは変わりないよ!!」
「クロロ君。運賃から逃げちゃだめよ!」
「逃げてません。むしろ果敢に貴方と闘ってます」
「では、クロロハイヤーさん。ルルカス山までお願いします」
「最初のセリフにまたループ!?」
どうやら、何が何でもハルカは歩きたくないらしい。
・・・それはめっちゃ困る。
だって、さっきから柔らかい2つの感触が背中に・・・
「女性の脂肪の感触を楽しめているようですわね、紳士クロロ?」
「・・・何のことですかな、ハルカお嬢様」
「今の貴方の心音が、私の双子果実を通して伝わってきますもの」
「ほほ、お嬢様の双子様は、果実と表現出来る程の大きさでは・・・ぶべらっ!!!」
執事の口調でふざけていたら、ノーマルタイプの往復ビンタを食らった。
右、左、右、左のふつくしい一連の流れ。
無駄に効率的だ。
果たして、ヒリヒリと俺のほっぺちゃんにモミジの形がスタンプされたのであった。
「さっさと行きましょう?」
「・・・ふわぃ」
もう殆ど本能的な恐怖に支配されて、俺は返答した。
男尊女卑の時代よ、さらば。
「いいなぁ。ハルカお姉ちゃん」
「あら、サリアちゃんもクロロハイヤに乗車すればいいのに」
「乗っていいの?」
「もちろん!だってこれは車ですもん」
「やった!!」
なんか俺本人の意見を無視してませんか?
おいおいサリア、お前そりゃあお姫様だっこじゃないか。
腕が重いよ。
背中も重いよ。
なんで女2人が俺にわざわざ乗るんだよ。
意味分かんねえよ。
「わぁ!!やっぱりお兄ちゃんは背が高いね!!」
「・・・そりゃあ男だからな」
「男だと、背が高いの?」
「背が高くなるっていう遺伝的な確率が男に多いだけで、女もでかい奴はいっぱいいるぞ~」
「ならサリアも、おっきくなる?」
「たくさん寝たら、背が伸びるって聞いたことはあるかな」
「ならサリア、たくさん寝るね!」
そう言ってサリアは目を閉じてしまった。
お姫様だっこの状態で。
・・・かわゆいなぁ。
と、俺の微笑みが気に入らなかったのか、背中から嫌味が聞こえてきた。
「・・・ロリコン紳士」
「うるせえ、この貧乳淑女・・・うわっ!爪を立てて乳首をつねるな!また紫色になるから!!」
「今度は血まみれにしてやる~!!」
「痛い痛いっ!!そして怖い!!分かったよ!!お前は爆乳Zカップ天使、マミーミルクちゃんだから!な?」
「私の胸を馬鹿にしてますねえぇぇぇ!!!!」
「ぐわあああああ!!!!!」
乳首をアクセルのようにつねって、俺を車のように爆走させる。
周囲の奴らが俺の叫びに注目するが、もうお構いなしだ。
俺は涙をうるうるこぼしながら、サリアを落とさないよう器用に猛ダッシュし、ルルカス山へと向かった。
---
午後8時。
周囲が暗くなり、街灯や建物の明かりが眩しく闇の中で輝く頃。
ルルカス山の山頂で、俺達は壮大な夜景を楽しんでいた。
俺はぜえぜえ息を荒げながら。
ハルカは「これが私の権力の力よ!」とか女王様みたいなことを言いながら、夜景にご満悦し。
サリアは「おっくせんまん!おっくせんまん!」と謎のミュージックをうたいながら、わいわい子供らしく騒いでいた。
傍から見れば、普通の観光客だろう。
それも、一般家庭みたいな感じで。
何だろう。
少し後ろからこの光景を眺めると、心が落ち着く。
今まで、辛いと思うこともあった。
けど、それを一気に打ち消せるようなこの感じ。
・・・これが幸せというやつなのだろうか?
「なにぼーっとしてるんですか、クロロ。せっかく環境汚染を象徴した無駄に綺麗な夜景が目の前にあるというのに」
「相変わらずキツイ皮肉が効いてますな、ハルカよ。せっかくの綺麗な夜景の思い出をぶち壊してくれて、どうもありがとう」
「ほほほほほほ」
「わははははは」
お互いに笑いあう。
視線すら、皮肉という調味料でスパイシーだった。
香辛料で目が染みて、何だかまた泣けてきそう。
「ねえ、クロロ?」
「ん、どうした?」
「今、幸せですか?」
不意の問い。
それはあまりに、不意を突いていた。
「・・・幸せってなんだろう?」
「それは人それぞれです」
「幸せのカタチは、人によって違うってか?」
「万人共通の幸せがあったら、それは最早宗教ですね」
「何だか一気に根拠のなさそうな幸せになったな・・・」
「でも、本人が幸せだと思うなら、それは幸せなのです」
「・・・本人限定の幸せだな」
「それでも幸せです」
・・・やけに押し通すな?
正論のない禅問答的な会話で、彼女が自分の意見を主張するのは珍しい。
だから、俺も通すことにした。
Eye for an eye・・・
目には目を。
攻撃というわけじゃないけれど。
彼女の意見に、自分の意見をぶつけてみる。
「俺の幸せは・・・家族と共有出来る幸せだ。だから、自分限定の幸福なんか、いらないね」
「じゃあ、今幸せですか?」
その言葉を聞いて、俺は目の前を見る。
楽しそうに遊びまわるサリアがいた。
それを見守るハルカがいた。
2人と幸せになりたいと願う俺がいた。
守りたいと思える者がいるだけで・・・本当は幸せなのではないだろうか?
人は目的がなくても生きてはいける。
けど、それだとただ生きることだけしか出来なくなる。
俺は・・・
「幸せだよ」
「・・・よかったです」
うっわ。
今、本当に分かった。
俺、幸せだ。
だって今、とても嬉しいから。
「見て見てお姉ちゃん!そりゃ~!」
サリアが宝石のように輝く夜景を背景に、不格好な側転をしてみせた。
ああ、心臓が跳ねる。
今、この時間の中に、特別な優しさを感じたからだ。
それはこの世界に、確かに存在している。
どこにでもあって、どこにもないもの。
そんな言い方が出来るような、ズルいもの。
優しさがよく見えない時がある。
優しさがよく見える時もある。
でも、いつでも優しさが見えてしまっていたら、慣れてしまうよな。
慣れてしまって、それが当たり前のことなんだと思えてしまったら、怖いよな。
だから、時々でいいんだ。
こんな風に・・・不意にプレゼントされるように。
このかけがえのない思い出を忘れないように。
俺はずっと、2人の大切な家族を眺めていた。




