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第九話 ドラゴン山崎

〈目次〉

・第一節 龍、現る

・第二節 結衣の機転

・第三節 娘のような妻


〜前回のあらすじ〜

 結衣は果歩のアシストもあり、女のマウント合戦を一度は制したが、思わぬハプニングがあり、戦いは膠着状態に陥った。茜が帰ると、お腹を空かせた四人も茜色に染まる公園を後にして、美佐子は夕食の準備を始める。


〜登場人物〜

・山崎結衣(19歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。国立白鳥大学文学部1年生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。


・山崎意義人(17歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。


・山崎弘(45歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。


・山崎美佐子(42歳)

 田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。


・山崎龍(39歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の次男。弘の弟。結衣の叔父。百合奈の夫。果歩の父。弘と違ってイケメンで、若い頃はヤンキーだった。離婚歴があり、百合奈は二度目の妻である。


・山崎百合奈(18歳)

 山崎龍(弘の弟)の後妻。16歳の時、龍と結婚して果歩を産んだ。果歩の出産と育児で疲労しており、大学で青春を謳歌する結衣に羨望の眼差しを向けている。


・山崎果歩(2歳)

 山崎龍と百合奈の娘で、結衣の従妹にあたる。幼稚園児。可愛がってくれる魅力的な従姉の結衣にいつも懐いている。

第一節 龍、現る


挿絵(By みてみん)


 温かい湯気が立ち上る食卓を囲み、四人は夕食を摂っていた。美佐子が腕によりをかけた和食の品々が並び、彩り豊かだ。百合奈は、上品な箸使いでゆっくりと食事を進めている。それに対し、結衣は、百合奈と比較するとその食べる勢いはすさまじい。ごはんを大きめに口に運び、おかずも次々と平らげていく。


結衣「ん〜!ママのご飯、やっぱり最高!この煮物、味が染みてて美味しい!」


 結衣は、口いっぱいに頬張りながら、満足そうに美佐子に話しかける。美佐子は、そんな結衣の食べっぷりを見て、嬉しそうに微笑んだ。果歩も、小さな手で一生懸命ご飯を口に運んでいる。

 食卓が賑やかな雰囲気に包まれる中、突然、軽快なチャイムの音が響き渡った。


「ピンポーン!」


 美佐子は、誰だろうと首を傾げながら玄関へ向かった。ドアを開けると、そこに立っていたのは、弘の弟で、百合奈の夫である龍だった。


龍「美佐子義姉ちゃん久しぶりっす。夕食作ってくれたんすか?ありがとっす!」


 龍は、にこやかな笑顔で美佐子に挨拶をする。美佐子は、突然の来訪に少し驚きながらも、温かく迎え入れた。龍の姿を見つけた果歩は、椅子から飛び降りるように駆け寄っていく。


果歩「パパ〜〜〜!」


 龍は、しゃがみ込んで果歩をしっかりと抱きしめた。


龍「おー、果歩ー。お利口にしてたかー。」


 百合奈は、そんな二人の様子を少し呆れたような、しかし優しい眼差しで見つめていた。


百合奈「もう、龍さんったら…連絡もなしに。」


 龍は、果歩を抱き上げたまま、ダイニングへと足を進めた。美佐子と百合奈、そして結衣の視線が、一斉に龍に注がれる。


龍「美佐子義姉ちゃん、この前は母ちゃん(文枝)と姉ちゃん(まゆみ)が変なこと言ってごめん…」


 龍は、そう言って、美佐子に深々と頭を下げた。その言葉を聞いた瞬間、美佐子の表情が、一瞬にして曇る。百合奈は、美佐子の横顔を見て、同情の目を向けた。文枝とまゆみは、次男嫁の百合奈には優しいが、長男嫁の美佐子に対しては常に冷たく接してきた。その態度は、美佐子の心に深い傷を残している。

 美佐子は、何も言わずに、ただ静かにうつむいた。食卓に、重い空気が流れ始める。賑やかだった夕食の時間は、一転して複雑な感情が渦巻く場へと変わってしまった。結衣は、そんな大人たちの空気を敏感に察し、箸を止めて、心配そうに美佐子の顔を見上げた。



第二節 結衣の機転


 重い空気が流れる食卓で、龍はバツが悪そうに立ち尽くしている。男はとかく、このような複雑な人間関係や感情の機微が絡む状況が苦手だ。何と言って良いのか分からず、抱きかかえた果歩を揺らしながら、視線を泳がせている。

 文枝とまゆみは、美佐子には冷たく接するが、孫である結衣にはとても優しい。そのため、結衣は祖母と叔母からの愛情を感じる一方で、その優しさが母に向けられないことに、いつも複雑な気持ちを抱いていた。今も、美佐子の沈んだ横顔を見て、胸が締め付けられる思いだ。しかし、この重苦しい空気をどうにかしたい。そして、大好きな母がこれ以上傷つく姿は見たくない。結衣は、意を決して、龍に声をかけた。


結衣「龍叔父さん、遠いところからわざわざ果歩ちゃんを迎えに来てくれたんだから、夕食まだだったら一緒に食べませんか?ママが作ったご飯、美味しいですよ!」


 結衣は、努めて明るい声で、龍に語りかけた。美佐子が傷ついていることを知っているからこそ、この場で龍を責めるような言葉ではなく、場を和ませ、美佐子への気遣いを示す言葉を選んだのだ。結衣の言葉に、龍はハッとしたように顔を上げた。


龍「え?あ、ああ、そうだな!美佐子義姉ちゃんの飯、久しぶりに食えるなら嬉しいっす!」


 龍は、結衣の言葉に救われたかのように、笑顔を見せた。美佐子も、結衣の気遣いに、ほんの少しだけ顔を上げて、結衣の顔を見つめる。その瞳には、感謝の気持ちが滲んでいた。

 百合奈も、結衣の機転の利いた言葉に、安堵の表情を浮かべた。そして、龍に促すように、空いている椅子を引いて差し出した。


百合奈「龍さん、どうぞ。せっかく結衣ちゃんも誘ってくれたんだから。」


 龍は、果歩を椅子に座らせ、自分も食卓についた。結衣は、美佐子の顔をそっと覗き込む。美佐子は、まだ完全に笑顔にはなれないものの、結衣の気遣いに心が温まったのか、少しだけ表情が和らいでいた。

 再び食卓には、カチャカチャと食器の音が響き始める。完全に重い空気が晴れたわけではないが、結衣の言葉が、その空気にわずかな光を差し込んだようだった。家族の複雑な感情が入り混じる食卓で、結衣は、一家の姉として、そして娘として、精一杯の気遣いを見せていた。



第三節 娘のような妻


 龍が食卓につき、少しずつ場の雰囲気が和らぎ始めたかと思った矢先、果歩が純粋無垢な瞳で結衣のお腹を指さした。


果歩「パパー、ライオンさん」


 果歩の突然の言葉に、龍はキョトンとした顔をした。娘の言っている意味が全く分からないといった表情だ。結衣は、果歩の指差す先に視線を向け、瞬時に自分が再び晒されることに気づいた。恥ずかしさで、また顔が赤くなる。


龍「ん?果歩、ライオンさんって何だ?結衣姉ちゃんのお腹にライオンがいるのか?」


 龍は、冗談交じりにそう言いながら、結衣のお腹をまじまじと見つめた。まさか本当にライオンがいるわけではないだろうが、果歩がなぜそんなことを言い出したのか、不思議で仕方ない様子だ。


百合奈「あ、あのね、龍さん…実は今日、公園で茜ちゃんに会って…」


 百合奈が、龍に事の経緯を説明しようと口を開きかけた時、結衣はもうこれ以上この話題が広がるのは耐えられないとばかりに、慌てて口を挟んだ。


結衣「もう!果歩ちゃん!何言ってるのよ!ライオンさんなんていないでしょ!」


 結衣は、真っ赤な顔で果歩を窘めたが、その声はどこか裏返っていた。美佐子は、そんな結衣の様子を見て、またもや小さく笑いをこらえている。

 龍は、まだ状況を完全に理解できていないが、結衣の尋常ではない慌てように、何か面白いことがあったのだろうと察したようだ。ニヤニヤと口元を緩めながら、結衣と果歩の顔を交互に見る。


龍「ほうほう、こりゃ一体、どういうこった?」


 龍は、好奇心旺盛な目で百合奈に続きを促した。結衣は、もう逃げ場がないと悟り、天を仰ぐばかりだ。

 結衣の顔は、もう熱々の鉄板のように真っ赤になっていた。百合奈は、そんな結衣の様子を見て、さすがにこれ以上は追い討ちをかけられないと判断したようだ。龍の興味津々な視線を受け流し、首を横に振った。


百合奈「ううん、何でもないの。ただ、今日公園で茜ちゃんに会って、ちょっと面白いことがあっただけ。」


 百合奈は、結衣の顔色を伺いながら、言葉を選んだ。結衣は、百合奈の気遣いに心の中で深く感謝した。


龍「えー、どーゆーこと?気になるなぁ」


 龍は、そう言って残念そうに口を尖らせたが、百合奈がそれ以上話す気がないと察し、それ以上は追求しなかった。代わりに、果歩の頭を優しく撫でる。

 その後も、食卓での会話は楽しく続く。龍は、果歩に今日の出来事をあれこれと尋ねたり、結衣の大学生活の話を聞いたりした。美佐子と百合奈も、時折会話に加わり、賑やかな食卓が戻ってきた。


龍「しかし、こうして見ると、百合奈ちゃんもすっかり大人になったよな。俺にとって百合奈ちゃんは娘で、果歩は孫みてーなもんだ」


 龍は、そう言って、隣に座る百合奈の頭をポンポンと叩いた。龍は、妻である百合奈より21歳年上で、百合奈の母親よりも年上である。歳の差婚ということもあり、龍には百合奈が若く、未熟に見えることもあるのだろう。


百合奈「もう、あなたったら…」


 百合奈は、呆れたようにため息をついた。しかし、その表情には、どこか嬉しそうな色が浮かんでいる。


百合奈「でも、龍さんこそ、私がいないと何もできない甘えん坊なんだから。果歩がお昼寝した時も、『百合奈、お茶』とか『百合奈、リモコンどこ』とか、いちいち私を呼ぶんだから。」


 百合奈の言葉に、龍はギクリとした顔をした。そして、照れ隠しをするように、大きな声で笑い出した。


龍「ははは!それは違うだろ!俺は百合奈ちゃんに甘えてるんじゃなくて、頼りにしてるんだよ!頼りになる妻と娘に囲まれて、俺は幸せ者だよ!」


 龍は、そう言って、満面の笑みで百合奈と果歩を交互に見つめた。その言葉には、百合奈に対する深い愛情が込められているのが伝わってくる。美佐子と結衣は、そんな龍と百合奈のやり取りを温かい眼差しで見守っていた。歳の差はあれど、二人の間には確かに強い夫婦の絆と愛情が存在している。家族それぞれの形があり、それぞれの愛情の表現がある。賑やかな食卓は、夜が更けるまで続いた。




『山崎結衣の憂鬱』第十話につづく

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