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第七話 攻防戦

〈目次〉

・第一節 おねだり

・第二節 四面楚歌

・第三節 果歩の援軍


〜前回のあらすじ〜

 四人は昼食を食べ終えると、美佐子と百合奈はテーブルの椅子に腰かけて育児や夫について話し、結衣と果歩はリビングの床で仲良く人形遊びをする。美佐子と百合奈の間には24歳もの歳の差があるが、共に共感し、悲しい過去を聞いて慰め合った。

 一方、リビングで一緒に遊んでいた幼稚園児の果歩と大学生の結衣は、美佐子と百合奈に、無邪気におねだりを始める。


〜登場人物〜

・山崎結衣(19歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。国立白鳥大学文学部1年生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。


・山崎意義人(17歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。


・山崎弘(45歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。


・山崎美佐子(42歳)

 田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。


・山崎百合奈(18歳)

 山崎龍(弘の弟)の後妻。16歳の時、龍と結婚して果歩を産んだ。果歩の出産と育児で疲労しており、大学で青春を謳歌する結衣に羨望の眼差しを向けている。


・山崎果歩(2歳)

 山崎龍と百合奈の娘で、結衣の従妹にあたる。幼稚園児。可愛がってくれる魅力的な従姉の結衣にいつも懐いている。


・小泉まりな(34歳)

 百合奈の母。果歩の祖母。16歳の時、彼氏(当時16歳)の子(百合奈)を出産するが、その後、男に見捨てられ、女手一つで百合奈を育てた。


・田辺高仁

 田辺寛夫・優美子夫妻の次男。美佐子の弟。美佐子とは絶縁状態。


・紀子(旧姓は田辺)

 田辺寛夫・優美子夫妻の次女。美佐子の妹。美佐子とは絶縁状態。


・山田茜(大学1年生)

 結衣の高校時代からの親友。髪型は黒いショートヘアで、生意気な顔をしている。悪戯好きな性格。

第一節 おねだり


 静かだったリビングに、突然、可愛らしい声が響き渡る。


果歩「お散歩いきたい!」


 果歩は、人形遊びに飽きたのか、結衣の腕を掴んでピョンピョン跳ね始めた。その表情は、早く外へ行きたいと訴えている。


結衣「あ、果歩ちゃん、お散歩行きたいの?お姉ちゃんも、ちょっと気分転換したいな〜!」


 結衣は、果歩の可愛らしいおねだりに乗っかるように、美佐子と百合奈の方を振り返った。その瞳は、まるで果歩と同じようにキラキラと輝いている。幼稚園児の果歩と大学生の結衣が、一緒になっておねだりする姿は、美佐子にとって予想外だったのだろう。美佐子は、少し戸惑ったように、二人の顔を見比べた。


美佐子「え、お散歩?でも、もうすぐ夕方になるし…」


 百合奈は、そんな美佐子の様子を見て、優しく微笑んだ。


百合奈「美佐子さん、たまにはいいんじゃないですか?子供たちも喜びますし、私達も気分転換になりますよ。」


 百合奈の言葉に、美佐子の顔に浮かんでいた戸惑いの色が少しずつ薄れていく。百合奈は、美佐子の気持ちを汲み取るのが本当に上手だ。


美佐子「そうね…じゃあ、少しだけなら。でも、遠くに行っちゃダメよ。」


 美佐子が承諾すると、結衣と果歩は「やったー!」と声を揃えて喜んだ。その声に、美佐子も百合奈も、自然と笑顔になる。

 そして、四人は連れ立って家を出た。結衣の服装はいつもの青いワンピースだ。その隣には、果歩が、可愛らしいピンクの服を着て、スキップしている。百合奈の服装は、質素なニットと長ズボンだ。美佐子は、茶色の上着と黒いロングスカートを身につけている。

 四人は、横一列になって、仲良く歩いている。子供の足に合わせて、ゆっくりとしたペースだ。結衣と果歩は、何かを見つけるたびに立ち止まっては、楽しそうに指をさして会話している。美佐子と百合奈も、そんな二人の様子を優しい眼差しで見守りながら、時折、お互いの顔を見合わせて微笑み合った。穏やかな夕暮れの光が、四人の背中を優しく照らしている。家族の温かい絆が、そよ風に乗って、街の風景に溶け込んでいくようだった。


挿絵(By みてみん)



第二節 四面楚歌


 公園に到着した四人。ブランコや滑り台に目を輝かせた果歩は、一目散に遊具の方へ駆け寄ろうとする。その小さな手は、結衣のワンピースの裾を引っ張る。


果歩「ゆいちゃーん!あっち!ブランコ!」


 結衣が果歩の指差す方を見ようとすると、不意に聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。


茜「あれ?結衣じゃん!」


 声のする方を振り向くと、そこには見慣れた黒いショートヘアの茜が立っていた。茜は、にこやかな笑顔で美佐子に向かって頭を下げた。


茜「結衣のお母さん、こんばんは!」


美佐子「あら、茜ちゃん。こんばんは。こんな所で会うなんて偶然ね。」


 美佐子と茜が挨拶を交わす傍ら、茜は結衣の隣に立つ百合奈と果歩を興味深そうに見つめる。


茜「ねぇ結衣、その人たち、誰?もしかして、親戚?」


結衣「うん。こっちは、百合奈ちゃんと、従妹の果歩ちゃん。お父さんの弟の奥さんと娘さんなの。」


 結衣の説明に、茜は目を丸くした。


茜「え?結衣のお父さんの弟の奥さん?なんか若くない?」


 茜は、百合奈と結衣を交互に見比べた。百合奈が結衣より1歳年下だとは、とても信じられないといった様子だ。


百合奈「あ、はは…よく言われます。」


 百合奈は、少し困ったように笑った。茜は、次に果歩に目を向け、膝をかがめて顔を近づけた。


茜「果歩ちゃんは…結衣の従妹ってこと?果歩ちゃんが今2歳ってことは、16歳で果歩ちゃんのこと産んだの?すごい!果歩ちゃん、おねえちゃんと一緒に遊ぼ!」


 茜は、果歩の頭をくしゃくしゃと撫でた。果歩は、少し戸惑いながらも、茜の勢いに押されて頷いた。そして、茜は結衣に振り返り、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


茜「果歩ちゃん、結衣はお腹の中で猛獣を飼ってるから気をつけてねwww」


 茜の言葉に、結衣はギョッとした。美佐子と百合奈は、何を言っているのか分からず、きょとんとしている。果歩は、純粋な瞳で結衣のお腹を見つめた。結衣の顔は、みるみるうちに赤くなる。


結衣「あ、茜!何言ってるのよ!もう!」


 結衣は、慌てて茜の口を塞ごうとしたが、茜はひらりとかわした。茜のからかいは、止まることを知らない。

 茜は、結衣の焦る様子を見てさらに面白がっているようだ。ケラケラと笑いながら、果歩に向かって身をかがめた。


茜「果歩ちゃん、知ってる?このお姉ちゃんね、お昼前の授業中、お腹が『ぐぅ〜〜〜』って、すっごい音鳴らしたんだよ!まるでライオンみたいにね!」


 茜は、両手を広げてライオンの咆哮を真似するジェスチャーまで加えた。果歩は、目をまん丸にして茜の話に聞き入っている。


果歩「ライオンさん!?」


 純粋な果歩の反応に、茜はさらに調子に乗る。


茜「そう!ライオンさん!しかもね、そのライオンさんのお腹の音、うち、録音しちゃったんだ〜!聞きたい?」


 茜は、悪戯っぽくウインクしながら、スマホを取り出そうとする仕草をした。結衣は、そんな茜の行動に青ざめる。


結衣「あ、茜!やめなさいってば!子供相手に何を言ってるのよ!」


 結衣は、慌てて茜の腕を掴んだ。まさか、公園で茜に、果歩にまであの時のハプニングをバラされるとは夢にも思わなかっただろう。羞恥心と怒りで、結衣の顔は真っ赤になっている。


美佐子「あらあら、結衣ったら。本当にそんなことがあったのね。」


 美佐子は、茜と結衣のやり取りを見て、面白そうに笑っている。百合奈も、くすくすと笑いをこらえているようだった。


百合奈「ライオンのお腹の音…聞いてみたいですね。」


 百合奈の言葉に、結衣は「百合奈ちゃんまで!」と、さらに顔を赤くした。果歩は、茜の面白そうな話と、結衣の焦る様子を交互に見て、楽しそうに笑っている。


果歩「ライオンさん!聞きたい!」


 果歩の声援まで加わり、結衣は完全に孤立無援の状態だ。茜は、そんな結衣の反応を心底楽しんでいる。公園の片隅で繰り広げられる、女子たちの賑やかな攻防戦に、夕暮れの公園は、いつもより少しだけ明るく、楽しい雰囲気に包まれていた。



第三節 果歩の援軍


 果歩の「ライオンさん聞きたい!」という純粋な願いに、茜はさらに得意げな表情を見せたが、流石に録音した音源をその場で流すのは結衣のメンツを潰すことになると考えたのか、スマホを取り出す動きは止めた。代わりに、果歩が指差す砂場の方へ視線を向け、満面の笑みで答える。


茜「よし!じゃあ、ライオンさんは後でのお楽しみってことで、果歩ちゃん、お姉さんと一緒に砂山作ろっか!」


 茜は果歩の手を取り、砂場へと向かった。結衣は、茜の配慮にほんの少しだけ安堵したが、再びからかわれる予感に、まだ顔は赤いままだ。

 百合奈は、結衣が今日着ている青いワンピースが、結衣のお気に入りであることを知っている。砂場で遊べば、きっと汚れてしまうだろう。


百合奈「結衣ちゃん、ごめんなさいね。お気に入りのワンピースなのに。」


 百合奈は、申し訳なさそうに結衣に声をかけた。美佐子は、そんな二人を横目に、ベンチに座って優雅にコーヒーを飲んでいる。


結衣「ううん、大丈夫!果歩ちゃんが楽しければ!」


 結衣はそう言いながらも、砂が跳ねてワンピースに付かないよう、少しだけ警戒しながら砂場に座り込んだ。果歩は、すでに小さなスコップで砂を掘り始めている。茜も、その隣で大きな山を作り始めた。


茜「あの時はびっくりしたよ、結衣。こんな美女のお腹から猛獣の鳴き声がするなんてwww」


 茜は、砂を山のように盛り上げながら、ニヤニヤと結衣に話しかける。結衣は、一瞬ムッとしたものの、果歩が隣にいる手前、反論の言葉を飲み込んだ。友達が楽しそうなのは嬉しいが、こうして人前で恥ずかしいことを言われるのは、やはり女子として抵抗がある。


結衣「もう、茜ったら…」


 結衣がそう呟いた時、果歩が、純粋な好奇心に満ちた目で茜の胸元を指さした。


果歩「あかねちゃん、ぺったんこ」


 果歩は、茜の胸部を指さして、そう言った。その言葉に、茜の手がピタリと止まる。果歩は、茜の貧相な身体を見て、結衣との違いに疑問を抱いたのだろう。その無邪気な一言は、結衣にとって、まさに反撃の狼煙だった。

 結衣は、思わず笑いをこらえきれずに、ぷっと吹き出してしまった。茜は、顔を真っ赤にして、果歩と結衣を交互に見て、狼狽えている。


茜「か、果歩ちゃん、何言ってるの!?お姉さん、まだ成長期なの!これからなの!」


 茜は、慌てて両手で胸元を隠す仕草をした。結衣は、そんな茜の様子を見て、溜飲が下がった思いだった。まさか、果歩からの思わぬアシストが入るとは。


結衣「ふふ、茜、残念だったわね。子供は正直だから。」


 結衣は、にこやかな笑顔で茜に追い討ちをかけた。茜は、悔しそうに口を尖らせる。


茜「結衣!あんた、今、絶対喜んだでしょ!?」


 茜の抗議も虚しく、結衣は砂山を作りながら、満面の笑みを浮かべていた。美佐子と百合奈も、二人のやり取りを微笑ましく見守っている。公園の砂場は、子供たちの無邪気な声と、大人たちの笑い声で満たされていた。夕暮れの公園に、和やかな時間が流れていく。




『山崎結衣の憂鬱』第八話につづく

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