表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

第十一話 甘いマスク

〈目次〉

・第一節 計算

・第二節 遺伝

・第三節 甘いマスク


〜前回のあらすじ〜

 茜が欠席し、結衣は、教室でスマホをいじっていると、チャラ男の拓海に絡まれた。彼の無神経な発言に結衣は傷付いてしまう。午前の授業終了後、結衣は足早に学食へ向かおうとするが、その時、拓海からランチの誘いがあった。


〜登場人物〜

・山崎結衣(19歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。国立白鳥大学文学部1年生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。


・山崎意義人(17歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。


・山崎弘(45歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。


・山崎美佐子(42歳)

 田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。


・田辺寛夫(71歳)

 美佐子の父。結衣の外祖父。東京大学卒業後、外交官となる。威厳のある見た目をしている。孫娘を愛しているが、教育に関しては非常に厳しい。


・大橋拓海(大学1年生)

 結衣の同級生の男子。黒髪で若干面長なタイプのイケメン。結衣に好意を持っているが、その軽薄な性格は結衣の好きなタイプではない。

第一節 計算


拓海「さっきはごめーん。俺が奢るからさ、結衣の好きなもの教えて♪」


 拓海は、結衣の背中に向かって、いつものチャラい笑顔でそう言った。しかし、今回はいつものからかうような口調ではなく、どこか本心から謝っているような響きがある。しかも、「奢る」という言葉まで飛び出した。結衣は、一瞬戸惑った。

 ここで拓海を振れば、今朝の仕返しは果たせるだろう。彼のチャラい言動に一矢報いることができる。だが、それだけだ。結衣の心には、別の計算が働いていた。もし、拓海の誘いを受け入れれば、茜との攻防戦において、圧倒的に優位に立てる。結衣も茜も、大学に入ってから男子と学食で一緒に食事をしたことは一度もない。茜に「拓海と学食行った」と報告すれば、きっと茜は驚き、悔しがるに違いない。そう思うと、結衣の心は大きく揺れた。

 結衣は、ゆっくりと振り返り、拓海の顔を見た。まだ少し、拓海への不信感と怒りは残っている。しかし、茜を出し抜けるという誘惑は、結衣のプライドを強く刺激した。


結衣「…べ、別に奢ってくれなくてもいいけど。あんたがそこまで言うなら、仕方ないから行ってあげてもいいわよ。ただし、あの時のことは二度と口にしないでよね。」


 結衣は、ツンとした態度でそう言い放った。あくまで上から目線で、拓海に恩を売る形だ。拓海は、結衣の言葉に、嬉しそうにニヤリと笑った。


拓海「お!マジ!?やった!りょー!もう絶対言わないって誓う!じゃ、行こうぜ、結衣!」


 拓海は、結衣の返事に喜び、慣れた様子で結衣の隣に並び立つ。結衣は、心の中で舌打ちしながらも、茜の悔しがる顔を想像して、少しだけ気分が高揚するのを感じた。茜、見てなさいよ。私が先に、男子と学食ランチデビューなんだから!そう心の中で呟き、結衣は拓海と共に学食へと向かった。



第二節 遺伝


 学食の待ち時間、拓海は結衣の顔をじっと見つめていた。その視線から、明らかに好意を持っていることがわかる。結衣は、そんな拓海の視線に気づかないふりをしながら、チラッと横目で拓海を見た。正直、拓海の性格は好きではない。あのチャラチャラした態度も、人をからかうような言動も、結衣の神経を逆撫でする。しかし、拓海は大学でも噂になるくらいの男前だ。整った顔立ちに、すらりとした背丈。特に、吸い込まれそうなほど色気を帯びた瞳は、多くの女子学生を虜にしている。いわゆる「喋らなければイケメン」というやつだ。

 やがて、二人は料理を運ぶ。結衣のトレイに乗せられた大盛りのご飯と、品数の多いおかずを見て、拓海は思わず吹き出した。


拓海「ぶはっ!結衣、それ女子の量じゃないだろ!食いすぎだろー!」


 結衣は、ムッとした表情で拓海を睨みつけた。


結衣「うるさいわね!人の食欲にケチつけないでくれる!?あんたには関係ないでしょ!」


 そう言いながらも、結衣は拓海の言葉に少しだけ気恥ずかしさを感じていた。確かに、他の女子学生に比べると、結衣の食事量はかなり多い。それでも、結衣にとってはこれが普通の量なのだ。

 性格は合わないはずの二人だが、意外と会話は盛り上がった。好きなドラマや映画の話、最近ハマっている漫画の話。拓海の軽薄な印象とは裏腹に、意外と真剣に話を聞いてくれる一面もある。


拓海「結衣のじいちゃん、東大出て外交官になったの?すごっ!」


 結衣は、少し得意げな顔で頷いた。祖父の寛夫は、東京大学法学部を卒業後、試験を突破して外交官となった。祖父は結衣にとって自慢の存在だ。今は既に退職しているが、その功績は家族の中で語り継がれている。


結衣「でしょ?昔から頭良くて、色んな国に行ったんだって。」


拓海「へー、かっけー!じいちゃんは結衣に優しいの?」


 拓海の質問に、結衣は少し考える素振りを見せた。寛夫は孫を溺愛していて、結衣が幼い頃の写真は、ほとんどが寛夫に抱っこされているものだった。しかし、勉強に関しては非常に厳しかった記憶がある。


結衣「うーん…優しいのは優しいんだけど、勉強に関してはめちゃくちゃ厳しいかな。特に英語は、小さい頃からスパルタだったもん。」


 結衣は、少し遠い目をして、幼い頃の記憶を辿る。寛夫の英語の特訓は、結衣にとって苦痛以外の何物でもなかった。しかし、そのおかげで今の結衣の英語力があるのも事実だ。


拓海「結衣の英語の成績いつもすごいかんなー。結衣が食いしん坊なのもじいちゃんの遺伝?」


 拓海の言葉に、結衣は一瞬固まった。食いしん坊の遺伝?おじいちゃんが?

 結衣の身内で食欲旺盛な人物といえば、すぐに思い当たるのは父の弘と、その妹のまゆみだ。あの二人の食事量は半端ない。しかし、寛夫は母の美佐子の父親なので、弘やまゆみとは血縁関係はない。拓海の発言は、完全に筋違いだった。


結衣「はぁ!?何言ってんのよ!おじいちゃんはお母さんの父親だから、私のお父さんとは血が繋がってないわよ!お父さんとおばさんが食いしん坊なだけで、おじいちゃんは関係ない!」


 結衣は、拓海の無神経な発言に、思わず声を荒げてしまった。おじいちゃんの血筋を侮辱されたような気がして、結衣の顔には怒りの色が浮かぶ。しかし、拓海はそんな結衣の反応を面白がるように、ニヤニヤと笑っている。


拓海「えー、そうなの?じゃあ、結衣の食いしん坊は、お父さんからの遺伝ってこと?」


 拓海の言葉に、結衣はぐっと言葉を詰まらせた。確かに、そう言われると反論できない。自分も父や叔母と同じくらい食べる。だが、それを拓海に指摘されるのは、なぜか腹立たしい。


結衣「…だ、だからって、あんたに言われる筋合いないでしょ!」


 結衣は、顔を真っ赤にして反論した。再び、怒りと恥ずかしさが入り混じった感情が結衣の心を支配する。目の前の拓海が、なぜかとても憎らしく思えた。



第三節 甘いマスク


 学食を食べ終えた二人。結衣はまだ、拓海の失礼な発言に顔を赤らめて怒っていた。目の前の残骸となった食器を睨みつけるように見つめていると、拓海の呑気な声が聞こえてきた。


拓海「そんなプリプリすんなよ〜。お前の可愛い顔が台無しだろ?」


 そう言うと、拓海は右手で結衣の丸い小顔を掴んだ。突然のことに、結衣は「きゃっ」と小さく声を上げた。拓海の手は、結衣の頬を包み込むように優しく、しかし確かな力で触れている。

 結衣の目には、至近距離で拓海の無邪気な甘いマスクが見える。整った眉、真っ直ぐな鼻筋、そして少し上がった口角。やっぱり、喋らなければ本当にイケメンだ。怒っていたはずなのに、拓海の顔をまじまじと見ていると、少しだけ心がざわつくのを感じる。


結衣「な、な、何すんのよ!離しなさいよ!」


 結衣は、拓海の手を振り払おうと、身をよじる。頬に触れる拓海の手のひらの熱が、結衣の顔をさらに赤くする。怒りなのか、それとも別の感情なのか、結衣にはもう分からなかった。




『山崎結衣の憂鬱』第十二話につづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ