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第十二話 美男美女

〈目次〉

・第一節 柔らかい顔

・第二節 デートの誘い

・第三節 関白堂へ


〜前回のあらすじ〜

 茜との攻防戦という背景もあり、拓海と学食を食べることにした結衣。食後も、結衣の腹の虫はおさまらず、怒りを顔に出していた。その時、拓海は結衣の頬を掴み、結衣は身をよじって抵抗する。


〜登場人物〜

・山崎結衣(19歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。国立白鳥大学文学部1年生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。


・山崎意義人(17歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。


・山崎弘(45歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。


・山崎美佐子(42歳)

 田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。


・大橋拓海(大学1年生)

 結衣の同級生の男子。黒髪で若干面長なタイプのイケメン。その瞳には、人を魅了する色気を帯びている。結衣に好意を持っているが、その軽薄な性格は結衣の好きなタイプではない。

第一節 柔らかい顔


拓海「柔らけェな、顔」


 拓海は、結衣の柔らかい頬の感触を楽しんでいるかのように、指を少し動かした。結衣は、両頬を掴まれた状態で、必死に言い返そうとするが、うまく言葉が出てこない。


結衣「あんたねっ…!」


 その時、拓海がさらに顔を近づけてきた。結衣の視界いっぱいに、拓海の顔が広がる。


拓海「なァに?たぬきさん」


 揶揄うような、しかしどこか甘い声でそう囁かれ、結衣の心臓はドキンと大きく跳ねた。たぬきさん、ですって!?こんな呼び方、されたことない!羞恥心と怒りで、結衣の顔は真っ赤になった。


結衣「た、たぬきさんじゃないっ!離しなさいって言ってるでしょ!!」


 結衣は、拓海の手を力任せに振り払った。そして、拓海から一歩後ずさる。顔の熱が引かない。しかし、拓海はそんな結衣の様子を面白がるように、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。


拓海「午後も一緒に来いよ」


 拓海は、何事もなかったかのようにそう言い、ひょいと結衣の隣に並び立つ。結衣は、まだ拓海の態度に腹を立てていた。しかし、隣り合って歩く拓海と結衣の姿は、周りの学生から見れば、誰もが憧れる美男美女のカップルのそれだった。


「ほら、結衣、早くしないと遅れるぞ?」


 拓海は、結衣の少し後ろを歩きながら、楽しそうに笑いかけた。結衣は、ふん!と鼻を鳴らし、わざと拓海から距離を取って歩き出した。しかし、内心では、拓海に「たぬきさん」と呼ばれたことや、頬を掴まれた感触が、まだ脳裏に焼き付いて離れなかった。



第二節 デートの誘い


 午後の授業を終え、大学から出た二人。結衣はまだ拓海への怒りが完全に収まっているわけではなかったが、一緒に授業を受けたことで、午前中よりは幾分か態度が軟化していた。


拓海「結衣、この後どう?」


 拓海は、結衣に買い物へと誘った。今日の結衣は、生憎というべきか、幸いというべきか、特に予定を入れていなかった。普段なら、友達とカフェに行ったり、課題に取り組んだりする時間だが、今日は何の約束もない。

 結衣は一瞬、迷った。拓海と二人で買い物。それは、まさしく恋人同士がすることではないか。しかし、拓海の顔をチラリと見ると、彼の目は期待に満ちている。それに、今の拓海は、午前中のチャラチャラした態度から一転、どこか紳士的だ。


結衣「…別に、いいわよ。ただし、変な店には行かないでよね。あと、あんたが変なことしたら、即帰るから。」


 結衣は、ぶっきらぼうにそう答えた。しかし、その声には、先ほどまでの刺々しさはなく、どこか上擦っている。拓海は、結衣の返事に嬉しそうに笑った。


拓海「やった!りょー!変なことはしないって!じゃ、どこ行きたい?」


 拓海は、結衣の少し前を歩きながら、振り返って尋ねた。結衣は、そんな拓海の背中を見つめながら、少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。まだ拓海のことは好きではない。しかし、今日一日、彼と一緒に過ごしたことで、拓海に対する認識が少しだけ変わったのかもしれない。そして、茜に自慢できるネタが増えることにも、結衣は密かに期待していた。



第三節 関白堂へ


 関白堂ショッピングモールへ向かう道中、拓海と結衣は楽しそうに会話していた。最初はぎこちなかったものの、共通の話題が見つかると、自然と打ち解けていく。

 まず、部活動の話で盛り上がった。拓海は高校時代、バスケ部に所属していたらしい。


拓海「俺、高校の時バスケ部だったんだぜ。結衣は?」


結衣「私はバレーボール部。セッターやってたの。」


拓海「へー、バレーボール部か!なんか意外!結衣って、もっとインドアなイメージだったわ。」


結衣「失礼ね!私だって運動神経良いんだから!あんたこそ、バスケ部にしては意外とひょろいじゃない。」


 結衣はそう言いながら、拓海の腕を軽く叩いた。拓海は、くすくすと笑っている。そんな他愛ない会話が、二人の距離を少しずつ縮めていく。次に、兄弟の話になった。


拓海「結衣、弟いるんだっけ?仲良いの?」


結衣「いるわよ。意義人って言うんだけど。二歳下。まぁ、仲は良いけど、よく喧嘩もするかな。バカ弟だから、しょっちゅう私に怒られてるの。」


 結衣は、意義人の話をしながら、少しだけ顔を綻ばせた。なんだかんだ言って、弟のことは可愛いのだろう。


拓海「へー、弟か。俺は三人兄弟の末っ子なんだよね。兄貴と姉貴がいる。」


結衣「末っ子?じゃあ、甘やかされて育ったの?」


 結衣の質問に、拓海は少し照れたように頭をかいた。


拓海「あー…まぁ、否定はしないかな。特に姉貴にはめちゃくちゃ甘やかされてた。だから、結衣みたいなしっかりしたお姉さんタイプに惹かれるのかもな〜。」


 拓海は、結衣の顔を覗き込むようにして、そう言った。結衣は、拓海の言葉に少しだけドキッとしたが、それを悟られないように、プイと顔を背けた。


結衣「な、何言ってんのよ。別に私はしっかりしてるわけじゃ…」


 拓海の言葉は、結衣の心にほんの少しだけ、甘い響きを残していった。


 拓海と結衣は、他愛もない会話を続けながら、ショッピングモールの入り口に差し掛かっていた。拓海の軽口にも、結衣は以前ほどイライラしなくなっていた。むしろ、彼の明るい性格が、結衣の気分を少しずつ上向きにさせているのかもしれない。

 その時、結衣のスマホが震えた。見ると、茜からのLINEメッセージだ。


(茜のLINE)「結衣ー。今何してんの?」


 結衣は、スマホの画面をちらりと見て、内心ニヤリと笑った。来た来た、茜からの連絡。これは絶好のチャンスだ。


結衣「…べ、別に。何でもないわよ。」


 小声で、しかしどこか得意げにそう呟いた。そして、拓海にはスマホの画面が見えないように、少し身体を傾けながら、茜に返信を打ち始めた。


「拓海とショッピングモールに来てる。拓海が奢ってくれるって言うから。」


 そう打ち込みながら、結衣は心の中で、茜がどんな反応をするか想像して、密かにほくそ笑んでいた。きっと、驚いて悔しがるに違いない。これで、先日の攻防戦は、チャラどころか、結衣の圧勝だ。

 結衣は、満足げにスマホをポケットにしまい、何食わぬ顔で拓海の方を向いた。


結衣「で、どこ行くのよ。早くしなさい。」


 少しだけ、結衣の表情が明るくなったように見えたのは、拓海の気のせいではなかっただろう。




『山崎結衣の憂鬱』第十三話につづく

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