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第十三話 攻防の末に

〈目次〉

・第一節 ブランド品

・第二節 魔法少女

・第三節 攻防戦の展開


〜前回のあらすじ〜

 放課後、結衣は拓海にデートに誘われる。関白堂ショッピングモールへ向かう道中、二人は高校時代の部活動や兄弟の話をする。茜からLINEが来ると、結衣は得意げに返信した。二人は関白堂に到着し、買い物を始める。


〜登場人物〜

・山崎結衣(19歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。国立白鳥大学文学部1年生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。


・山崎意義人(17歳)

 山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。


・山崎弘(45歳)

 山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。


・山崎美佐子(42歳)

 田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。


・大橋拓海(大学1年生)

 結衣の同級生の男子。黒髪で若干面長なタイプのイケメン。その瞳には、人を魅了する色気を帯びている。結衣に好意を持っているが、その軽薄な性格は結衣の好きなタイプではない。

第一節 ブランド品


 ショッピングモールに入った二人。拓海は、結衣に行きたい場所を尋ねた。結衣は少し迷った後、ファッションフロアを指差す。


拓海「お、結衣、ブランド好き?」


結衣「べ、別に好きってわけじゃないけど、どんな新作が出てるか見るのは好きよ。」


 結衣はそう答えたが、拓海の顔はニヤニヤしている。やがて、二人はブランド品のコーナーへと足を踏み入れた。華やかなディスプレイに並べられたバッグやアクセサリーに、結衣の目は釘付けになる。

 特に、ルイヴィトンのショーウィンドウに飾られた新作バッグを見た結衣の目は、まさに輝いていた。吸い込まれるようにショーウィンドウに近づき、じっとバッグを見つめる。


結衣「わぁ…やっぱり素敵だわ…」


 結衣は、ため息交じりにそう呟いた。普段はあまり物欲を表に出さない結衣だが、本当に気に入ったものを見ると、こうして素直な感情が漏れてしまう。しかし、結衣はすぐに我に返り、拓海の方をちらりと見た。こんな高級品を、拓海に「奢って」などと言えるはずがない。


結衣「な、なんでもないわよ。次行こ、次!」


 結衣は、わざとらしく明るい声を出して、拓海を促した。しかし、その視線はまだ、ショーウィンドウのバッグに吸い寄せられている。

 拓海は、ショーウィンドウに釘付けになっている結衣の横顔を見ていた。その瞳が、普段見せないような少女のような輝きを放っているのを見て、拓海は決心した。


拓海「…ちょっと待ってろ。」


 そう言うと、拓海は結衣の手を引いて店の中に入っていった。結衣は「え、何するの!?」と焦った声を出すが、拓海はそれを無視して店員を呼んだ。


結衣「た、拓海!何するのよ!?見るだけだって言ったじゃない!」


 結衣は慌てて拓海の腕を掴むが、拓海は結衣の言葉を聞かない。そして、先ほど結衣が目を輝かせて見ていたバッグを指差した。


拓海「これ、ください。」


 店員が恭しくバッグをカウンターに運んでくる。結衣は信じられないといった表情で拓海を見上げた。


結衣「ちょ、ちょっと待って!冗談でしょ!?こんな高いもの、買えるわけないじゃない!」


 結衣はパニックになり、拓海の腕を掴んで引っ張る。しかし、拓海はニヤリと笑うと、結衣の耳元に顔を近づけて、ささやいた。


拓海「俺から誘っといて買えねーなんて、そんなダセェ真似できるかよ」


 拓海はそう言うと、カードを店員に差し出した。結衣は、目の前で繰り広げられている光景が信じられず、呆然と立ち尽くす。拓海が、こんな高価なものを自分に買ってくれるなんて、想像もしていなかった。拓海は、決して裕福な家庭ではないと聞いていた。バイト代を貯めて、いざという時のデートのために備えていたなんて。

 結衣の胸に、今まで感じたことのない複雑な感情が渦巻く。拓海に対する怒りや、苛立ち、軽蔑の感情は、急速に薄れていく。代わりに、彼の優しさと、男気に触れたような気がした。

 拓海は、会計を終えると、店員から渡された真新しいバッグを、そのまま結衣に手渡した。


拓海「ほらよ、お似合いだろ?」


 結衣は、差し出されたバッグを受け取ることもできず、ただ拓海の顔を見つめていた。彼の目は、いつものチャラチャラした軽薄な瞳とは違い、真っ直ぐに結衣を見つめている。


結衣「…なんで…」


 結衣の口からか細い声が漏れた。拓海は、そんな結衣の頭をくしゃっと撫でた。


拓海「なんだよ、せっかく奢ってやったのに、嬉しくねーのかよ?」


 その言葉に、結衣はハッと我に返った。嬉しくないわけがない。こんな高価なプレゼントを、しかも憧れのブランドのバッグを、拓海が買ってくれたのだ。


結衣「…っ!嬉しいに決まってるでしょ!ば、馬鹿じゃないの!?こんな高いもの…」


 結衣は、涙声になりながらも、バッグをしっかりと抱きしめた。拓海の行動は、結衣の心を大きく揺さぶった。この感情が、一体何なのか、結衣自身にもまだ分からなかった。



第二節 魔法少女


 拓海の隣で、真新しいバッグを手に持ち、嬉しそうに歩く結衣。先ほどまでの不機嫌そうな態度はどこへやら、その顔は満面の笑みを浮かべている。拓海は、そんな結衣の隣で、満足げに微笑んでいた。

 二人は、ふと玩具屋の前に通りかかった。結衣は、ショーウィンドウに並んだ色とりどりの玩具を見て、懐かしそうに目を細める。


結衣「ねぇ、拓海。ちょっと寄って行かない?」


 結衣は、拓海の腕を軽く引いて、玩具屋の中へ入ろうとする。拓海は、少し困ったような顔をした。


拓海「えー、玩具屋?結衣、玩具欲しいのか?」


結衣「べ、別に欲しくないわよ!ただ、ちょっと見てみたいだけ!お願い!」


 結衣の懇願に、拓海は仕方ないといった表情で、玩具屋の中へと足を踏み入れた。店内には、子供たちの楽しそうな声と、玩具の賑やかなBGMが響いている。結衣は、キラキラと輝く玩具たちを眺めながら、幼い頃の記憶を辿っていた。


「あ…!」


 結衣の目に留まったのは、『魔法少女フウカ』のコーナーだった。結衣が幼い頃、夢中になって見ていたアニメだ。フウカのステッキや人形が、まるで宝石のように輝いて見える。その隣には、男子に人気な『ウルトライダー』の玩具が並んでいた。フウカとウルトライダーは、放送時間が重なるため、結衣と意義人はよくリモコンの取り合いで喧嘩したものだ。そんなことを思い出して、結衣はくすりと笑った。

 しばらく玩具を眺めていると、拓海が楽しそうに笑いながら、結衣の隣にやってきた。その手には、リアルなライオンの模型が握られている。


拓海「結衣、これ、お前にそっくりじゃん?」


 拓海は、そう言いながら、結衣のお腹を指さして、からかうように笑った。


結衣「もう!それ言わないって言ったでしょ!ホントムカつく!」


 結衣は、再び顔を赤くして、拓海の腕をぺしりと叩いた。せっかく良い雰囲気だったのに、この男は本当に余計な一言が多い。でも、そんな拓海のことも、今はなぜか憎めない結衣だった。



第三節 攻防戦の展開


 二階のフードコーナーに移動した二人。結衣は迷わず『天下一匹』ラーメンを注文し、拓海はそんな結衣の食べっぷりの良さに感心していた。大きく口を開けて麺をすすり、あっという間に完食してしまう結衣の姿は、まさに清々しい。


拓海「すげェな結衣。マジで気持ちいい食いっぷり。」


結衣「失礼ね。美味しいから、つい夢中になっちゃうのよ。」


 結衣は、そう言いながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。拓海は、そんな結衣を見て、クスクスと笑っている。

 結衣の授業中の失敗から始まった、茜の総攻撃。それに続く果歩の援軍(茜の貧乳いじり)からの、茜の奇襲(着信音)。そして、拓海の揶揄い、からの拓海とのデート。結衣と茜の女の攻防戦は、まさにジェットコースターのように展開してきた。いや、拓海も加えたこの三つ巴の戦いは、これからどうなるのだろう。結衣自身も、この先の展開が読めずにいた。

 しかし、今は目の前の拓海との時間が、結衣の心を占めている。彼が買ってくれた真新しいバッグを、そっと隣の席に置きながら、結衣はちらりと拓海の顔を見た。相変わらずチャラチャラしているけれど、今日はなんだか格好良く見えた。


結衣「ねぇ、拓海。この後さ…」


 結衣は、何かを言いかけようとして、言葉を止めた。ふと、スマホが震える。画面を見ると、茜からの新しいLINEメッセージだった。


(茜のLINE)「ちょっと!拓海とショッピングモールって何よ!?うちの知らないところで何してるのよー!?」


 茜からの怒涛のメッセージに、結衣は思わず吹き出した。拓海が、不思議そうに結衣の顔を見る。


結衣「…なんでもないわよ。ちょっと、面白そうな展開になってきたみたい。」


 結衣はそう言って、ニヤリと笑った。この女の戦いは、まだまだ終わらない。そして、結衣は、この戦いを制する自信が、今はなぜかあった。




『山崎結衣の憂鬱』第十四話につづく

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