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65話 なんなのよ!

「な、なんなのよ、一体どういうことなの!?」


 街中で、住み込みのメイドとして働いていたサニアは歯ぎしりした。

 意地の悪い女商人の言いつけで、買い物に出かけてみたら、なぜかあのシルヴィアとヴァイスがイチャイチャと人のいない橋の上でいちゃついていたのだ。

 木の陰で二人の様子を見ながら、サニアは木をがりっと指でひっかく。


 なんで私がこんなに落ちぶれて、あの可愛くないはずの姉があんなイケメン金持ちといちゃついているの!?


 マリアに家を追い出されてからすぐ、サニアは馬車から降りてきたイケメンの商家の青年に拾われた。「貴方は美しい、ぜひ食事に」と。

 サニアが気をよくしてそのままそのイケメンと付き合ったが、マリアの薬騒動があってしばらくした後、「ごめんやっぱり若くて可愛い子がいい★」とサニアより若い女を連れてきて、一方的に捨てられたのだ。


 まるでシルヴィアにやったことをそのまま返されたかのように、イケメン男爵の連れてきた若い女が


「ええぇ、平民のくせにイケメン様と釣り合っていると思っていたの?

 遊ばれていたのに知らなかったなんてかわいそう。ちゃんと自分の身分をわきまえたら?

 容姿だって平民の中じゃマシって程度なのに。

 かわい子ぶりっ子しちゃっていいおばさんがみっともない」


 と、笑ってサニアを追い出した。


 その時の屈辱は今でも忘れられない。

 サニアよりたった1歳若いくらいでなんであの女いい気になっているの!?

 平民の中でもサニアは特別な平民なのに!!


 惨めで、つらくて、悲しくて。

 無一文で放り出されて途方にくれた。


 なんでサニアがこんな目にあうの!?こんあ目にあうのがふさわしいのはシルヴィアお姉さまのはずなのに!?


 大声で抗議をしたが、イケメン男爵がサニアの借金取りを呼んだらしく、門の前で待ち構えていた借金取りに連れていかれ、今は底意地の悪い女商人の元でメイドをやらされているのである。女商人はサニアが気に入らないらしく、ぐちぐちうるさいし、酷い時には食事を抜かれてしまったりまるで地獄のような毎日だ。


 何度か逃げようとしたが、なぜかサニアのいる場所はすぐばれ、すぐ連れ戻されて何時間も拷問に近い説教をされてしまう。


 逃げる事もあきらめ、惨めにとぼとぼと買い物をするために歩いていたら、今度はシルヴィアとヴァイスが橋の上でいちゃいちゃしているのだ。



 許せない!! 私がこんな目にあってるのに!!!


 大体、シルヴィアお姉さまがエデリー家をやめたからこんなことになったんだわ!


 シルヴィアお姉さまが大人しく奴隷をしてくれていたらこんな事にならなかったのに!

 リックスも捕まらなかったし、マリアも捕まらないで大事にしてくれたはず。

 全部、全部、あの女が悪い!


「シルヴィアお姉さま!!!」


 文句を言ってやろうと二人の前に立ちふさがる。そうすると、ヴァイスとシルヴィアが視線をサニアに向けた。途端ヴァイスの顔が冷酷なものに変化したけれど、そんなの知らない!私はシルヴィアお姉さまに文句があるの!と、サニアがきっと、シルヴィアを睨む。


「……サニア」


「なんで私がこんなに苦労しているのに!お姉さまがヴァイス様と一緒なのよ!」


 思いっきりにらみつけて抗議すると、シルヴィアは腕を組んだ。


「貴方に説明する必要がある? 今あなたと私は赤の他人なのに」


「なっ!だってサニアの方が……」


「サニアの方が?」


「お姉さまより可愛くて……」


「うん?可愛いから何?可愛い子なんて街を見渡せばいっぱいいる。

 その人達の言う事を聞く義務も責務もないけれど?」


 シルヴィアが考えるように言う。


「だって、私の方が!!」


「サニア」


 何か言いかけたサニアの言葉をシルヴィアが遮る。


「いい加減現実を見たらどう?もうエデリー家はマリアの犯した罪で取りつぶされる。あなたを守っていたリックスもマリアも犯罪者。あなたの後ろ盾はもう何もないの。

 過去の栄華が忘れられなくて、私には優位に立ちたいみたいだけれど、私はあなたの優越感を満たしてあげるために、黙って罵られるほどお人よしじゃない」


 そう言って、シルヴィアがまっすぐサニアを見つめてくる。


 なんで!?なんであの気弱なシルヴィアお姉さまが反論してくるの!?

 いつもおどおどしてうつむいてばかりいた、あのお姉さまが。


 助けを求めるように後ろを見て、そこにリックスがいない事に気づく。

 いつもなら援護をしてくれていた、リックスもマリアもいない。

 シルヴィアを虐めて優越感に浸れたのもあの二人や、エデリー商会の従業員がいたからだ。彼らはいつだってサニアをちやほやしてくれた。

 でも、今は誰もいない。


 ――そう、サニアを守るものなど何もない現実に気づかされる。


 とたん。


「ここにいたのか」


 いつもサニアが逃げると連れ戻す女商人の従者がサニアの腕を掴んだ。


「なっ!?」


「帰りが遅いからと、ご主人がお怒りだ、こんなところで人様に迷惑をかけるんじゃない」


 従者の言葉にぞっとする。こうやって従者がサニアを連れ戻すときは、ぐちぐちと何時間も女商人が説教をするときだ。


「た、助けてお姉さま!!私人買いに無理やり売られて……っ!!」


 サニアが言うと、今度はヴァイスが冷たい口調で


「よく先ほど罵倒した相手に、助けを求められますね? 恥ずかしくはないのですか?」


 と、せせら笑った。

 シルヴィアの方にすがるように視線を向けると、彼女もため息をついた。


「サニア。もういい大人なのだから、自分でやったことの責任はもちなさい。いつまでも人のせいにして現実から逃げてはだめ。ちゃんと働いて自ら背負った借金を返済するべきよ」


「グズの貴方がなんでそんな偉そうなのよ!!!」


「あなたは、そのグズの私に助けを求めるの?

 それって、グズ以下ってことじゃない?」


 首をかしげてシルヴィアが言う。


「……!?」


 何よ!!何よ!!なんでいちいち反論してくるのよ!!!


「お姉さまなんて不幸になればいいんだわっ!!!」


 サニアが悔しくて、苦し紛れに叫ぶと、シルヴィアは嬉しそうに微笑んで。


「ごめんなさい。今私すごく幸せだから♡」


 と、ヴァイスに抱き着いた。


「そう言う事です♡ そちらは勝手に借金を返済していてくださいね」


 ヴァイスもニコニコとシルヴィアの腰に手を回す。


 その後まるで見せつけるかのように、二人でイチャイチャしだす、シルヴィアとヴァイスにサニアはわなわなと肩を震わせた後


「な、なんなのよこの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 大声で叫んで、そのまま連れていかれるのだった。


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