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66話 愛の魔法

「……なんだかすみません。いつも私の元家族が迷惑をかけてしまって」


 サニアが去った後、私は疲れから大きなため息をついた。ずるずると男の人に連れられて行くのを見送って、疲れがどっとでる。


「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。隔離したつもりだったのですが……借金取りの処分があんな甘い処分だとは思わずに……いや、まぁ仕込み期間なのかもしれませんが」


 と、ヴァイス様もため息をついた。

 仕込み期間ってなんだろう?

 でも聞くと怖い気がして、私は曖昧に笑う。


「どうにも、いつも不手際ばかりで申し訳ありません」


「そんなことありません。守ってくれたのはヴァイス様ですから」


「追い払ったのは貴方の力ですよ」


 私がにっこり笑って言うと、ヴァイス様もにっこり笑ってくれた。


「ヴァイスみたいになりたいなって、目指してみましたけど、あまりうまく行きませんでした」


 照れくさくて、目をそらして言うと、


「そんなことありませんよ。

 毅然とした態度はとても素敵でした」


 手にキスをしてくれる。


「ヴァイス様はそういうところがお上手です」


 私がふふっと笑って言うと、困ったような顔をする。


「貴方に贈る言葉は嘘偽りなく本心なのですが」


 情けなく言う顔が可愛くて、私はクスッと思わず笑ってしまう。


「すみません。大好きですよヴァイス様」


 言いながら手をつなぐと、嬉しそうな顔をしてくれて、少し頬を染めてくれて、本当に可愛くて愛おしく思う。


 ――だからこそ、守らなきゃ。絶対失いたくないもの。


 つい、あの女の子の顔が浮かんでしまって、私は頭を横に振った。


 守るべきものには――優先順位があるはず。

 もちろん今できる技術で最善はつくすつもり。絶対治してみせる。

 けれど――秘術を使う事は駄目。ヴァイス様やキースさん、マーサさんまで危険な事に巻き込むことになる。


「マイレディ?」


 ヴァイスさんが顔を近づけて私の顔を覗きこんできた。


「え!?はい!?」


「すみません、驚かせてしまいました。先ほどから何度か声をかけても返事がなかったものですから」


「あ、すみません、ちょっとボーっとしてしまって」


 私の言葉にヴァイス様は微笑むと、私の手を握る。


「ヴァイス様?」


「少し行きたいところがあるですがよろしいでしょうか?」


 言葉とともに私を抱き上げた。


「ヴァ、ヴァイス様?」


「しっかり捕まっていてくださいね」

 そう言ってヴァイス様にっこり笑うと颯爽と走り出した。


 ★★★



「ここは?」


 ヴァイス様が案内してくれたのは街が一望できる綺麗な丘の上だった。

 沈みゆく夕日に照らされた街並みが綺麗に見える場所。


「はい、なかなか見晴らしがいいでしょう?」


「この街は長年住んでいましがたここは知りませんでした」


「それはよかったです。では」


 ヴァイス様は笑うと、なぜか崖から一歩足を踏み出した。


 え!?


「ヴァイス様!!おちますっつ!!!」


 私が慌ててヴァイス様にしがみつくと


「大丈夫ですよ」


 笑いながら空に足を踏み出し何事もなかったかのように空中を歩き出す。


「……え?どうして?」


 私が空とヴァイス様の顔を交互にみる。ヴァイス様は私ににかっと笑った。


「私は魔法使いですから」


「魔法使いは空も歩けるのでしょうか?」


 私が不思議におもってきくと、ヴァイス様はニコニコした。


「貴方専用の魔法使いですが」


 言いながらすたすたと空を自由に歩いていて、街の景色が眼下に見えてとても幻想的な光景になっている。


「……私専用?」


「はい。あなたの願いならどんな手段を使っても叶えてみせましょう。

マイレディの願いが世界のすべてを手に入れたいだったとしても」


 笑いながら言うヴァイス様に、私も笑った。

 冗談なのだろうけれど、ヴァイス様ならできてしまいそうな気もする。


「そういうわけですので」


 言いながら私を空におろす。


 えええええええ!?


「大丈夫ですよ。実のところ種も仕掛けもありますから」


 言われてみると、確かに足は普通につく。まるでガラスを踏んでいるような感覚。


「す、すごい」


「怖くはありませんか?」


「え、はい。たぶん。でもどこまで歩いていいのか……」


 くるりと振り返るけれど、もう地面から大分離れてしまっている。


「どこまででも大丈夫ですよ。愛の魔法ですから」


「愛の魔法?」


「貴方の夢は全て叶えることのできる、私の魔法です」


 そう言って私の手を取ると、少し薄暗くなった下の街が一斉にぱぁぁぁぁと明かりがともる。

 それが下にあるガラスか何かが光を反射して綺麗な幻想的な雰囲気をかもしだす。


「綺麗」


「一曲踊っていただけますか。マイレディ」


 その言葉とともに、一体いつからいたのかキースさんがヴァイオリンを弾き始めた。


「この曲は確か……」


「豊穣祭の続きですね」


 にっこり笑いながらヴァイス様が私の手をってステップを踏んで私をリードしてくれる。

 ヴァイス様につられて私もステップを踏み出して二人で踊る。

 その景色は幻想的で、まるで夢の中にいるのではないかと錯覚してしまう。

 ヴァイス様と一緒にこうして踊れるのが嬉しくて自然と笑みがこぼれた。


「まるでおとぎ話の中みたいです」


 踊りながら私が言うと、ヴァイス様が笑ってくれた。


「マイレディ」


「はい?」


「先ほどの言葉ですが、決して嘘ではありません。私は貴方が望むならそのすべてを貴方に捧げましょう。……だから決して恐れないでください」


「え?」


「迷っているのではありませんか?エデリー家の力を使う事を」


「……それは……」


 私が口ごもると、ヴァイス様は私を引き寄せる。


「もし国が貴方の力を欲して、貴方や私に害をなすというのなら、私はそれ以上の力をもってねじ伏せましょう。例えそれが全ての国を敵にまわしたとしても。決してあなたの邪魔をさせはしません」


「でも」


「信じていただけませんか?」


「……ヴァイス様はなんでもお見通しなんですね」


 私が悩んでいるのを知っていて、こうやって慰めてくれることも。

 何をしたくて悩んでいるのかも見透かしてしまっていて、本当にすごいと思う。


「そんなことはありませんよ」


 そう言って私の手をとるとヴァイス様の左胸にあてた。

 心なしかヴァイス様の心臓の鼓動が感じられる気がする。


「ヴァイス様?」


「自分でもこの胸の高鳴りの意味がわかりません。恋とは誠に不可解で興味深い。

 貴方を心から欲しているのに、それなのに、貴方に嫌われたくなくて、全てを悟った紳士のふりをしてしまう。今すぐその唇を奪いたいと切望しているのに、嫌がられたらどうしようと、出来ないでいる」


 そう言って、私の頬に手を添えた。


「正直申し上げまして、自分でも自分がよくわかりません。

 今まで欲しいものは何でも、手に入れてきたつもりです。回りくどい事をして他人から奪うその過程すら楽しみながら。でもあなたを相手にするとそれが出来ない。

 駆け引きも、策謀も、貴方を前にすると真っ白になってしまう。

 言葉ではうまく表せないのですが、……きっと心から愛おしいというのはこういう事なのだと思います」


 すごく嬉しそうに微笑むヴァイス様の瞳に思わず見とれてしまう。私の頬に添えられた手に私も手を添えた。


「好きです。大好きで愛してますヴァイス様」


「はい。私もです。言葉では言い表せないほど愛していますマイレディ」


 そう言って、ヴァイス様は初めて唇にキスをしてくれた。

 ヴァイオリンの音を聞きながら、幻想的な景色の中で。




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