働く魔法使い
6月中までには間に合いませんでした。ごめんなさい。
ひとまず切りの良いところまで、投稿します。
ここは、フォーツヒル王国の南にある森。
草木が生い茂り、心地よい風が吹き抜ける。木漏れ日の中で小鳥や獣たちが暮らす。穏やかで豊かな森だ。しかし、森には低レベルとはいえモンスターも出現する。王国の住人の中でも、腕に覚えのある者でないと、足を踏み入れない場所だ。
その森の中を、今、一人の少女が歩いている。
皺のないローブに身を包み、肩ほどまで伸びた明るい空色の髪が揺れる。腰には道具を入れるアイテム袋、そして右手には綺麗な青い宝玉のついた杖を持っている。
その装いから分かる通り、少女は冒険者の魔法使いであった。
「探索魔法、発動!」
魔法使いの少女……アルファは、魔法陣が示す方向を確認しながら森の中を歩く。出現した魔法陣は、薄い光の螺旋で矢印のような紋様を描いていた。一定の距離を歩くごとに、アルファは再度魔法を使って自分が向かうべき方向へと進んだ。
やがて魔法陣は地中の一点を向いて止まる。アルファは地面にある雑草をのけて土を掘った。
「……おっ、あったあった!」
土の中から探していた石が顔を出す。アルファは表面の土を払い、その光沢のある石を掴む。
アルファが手にしたのは、“魔石”と呼ばれる魔力を宿した鉱石だ。自然が豊かで魔力が充ちた場所であれば、どこでも採取できる石であるが、特定の金属の精製や薬品の材料などに使われ、一部の人々に需要のあるアイテムだ。
お目当ての物を手にして、アルファはそのままアイテム袋の中へと仕舞った。
「うーん……よし、こんなもんかな」
袋の中に集まった“魔石”を見て、アルファは深く頷いた。探索魔法を使って熱心に集めた結果、予定よりも多くの量を集めることができた。
これで収集を終え、王国へ戻ろう。アルファがそう思っていた時、彼女の背後の茂みが大きく揺れ、不穏な音を響かせた。
「っ!」
背後に何者かの気配を察知したアルファは、すぐに後ろを振り返った。
「げっ!」
そして、目の前にいた“モンスター”の姿に顔を歪めた。
現れたのは、“シャドーウルフ”。見た目は大型犬サイズの黒い狼だが、その牙や爪は鋭く、獰猛な性格をしている。獲物と判断した生物を見境なく襲う習性のため、普通の人間が狙われたら命の保証はない、かなり危険なモンスターだ。
――グルルルルッ!
そんなシャドーウルフの血走った眼が、今、アルファに向けられている。口からは唾液と共に、低い唸り声が漏れていた。
「ありゃりゃ。これはマズいなぁ」
そう呟きながら、アルファは杖を両手で構えた。彼女が込めた魔力によって、先端の宝玉が青い微光を放つ。
緊張した空気が流れる中、シャドーウルフはアルファに向かって飛びかかった。
「火炎魔法、発動! ファイアブレス!」
シャドーウルフの爪がアルファを切り裂く寸前、魔法陣が現れ、炎が放射された。炎はシャドーウルフを包み、後方へと吹き飛ばした。火炎が空気を燃やす音と同時に、シャドーウルフの甲高い悲鳴が響く。
「ふぅぅ……ふふん、私も成長してるね」
アルファは安堵の息をこぼし、自慢げに胸を張った。
しかし、彼女は気づいていない。シャドーウルフは、砂漠や雪原など、あらゆる気候で生き抜くため、温度変化に耐性がある体毛を持っていた。
その場にまた、低い唸り声が響き始める。
「えっ!」
アルファはキョトンと目を丸くした。
倒したと思ったシャドーウルフが、のっそりと起き上がったのだ。体毛が焦げてはいるが、アルファの放った火炎魔法は、シャドーウルフの生身にダメージを与えるには至っていなかった。
「あちゃぁぁ……これは、本当にマズいかも」
冷や汗をかいたアルファは、ゆっくりと後退りする。
――ガァァーーッ!
大きく口を開けたシャドーウルフがアルファに向かって飛びかかる。
「キャっ!」
アルファは振り返って全速力で逃げようとしたが、後退していた足が木の根っこに引っかかり尻もちをついた。
倒れたアルファに、シャドーウルフの牙が迫る。その鋭利な牙と力強い顎は、人間の腕を噛み切るほどの強さがあった。
「ッ!」
アルファは咄嗟に自分の杖を前に突き出す。杖の柄がシャドーウルフの口に猿轡のように突っ張ることで、なんとか致命傷を回避することができた。
しかし、シャドーウルフの勢いは止まらず、首を振り回すように暴れ、口に挟まった杖を振り払おうとする。少しでも気を抜けば、牙がアルファの体に突き刺さってしまいそうだ。
全身の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げるのを、アルファは感じ取った。
「ぐッ! くぉのぉぉーー!」
アルファはありったけの力を込めて杖を押し上げ、なんとかシャドーウルフを振り払った。
アルファとシャドーウルフの間に、わずかな間合いができるが、シャドーウルフはすぐに彼女の方を見る。
その鋭い眼光に臆する間もなく、アルファは杖を持ち直して、輝く宝玉を前に突き出す。
「催眠魔法!」
アルファが呪文を唱えた直後、薄ぼんやりとした青い光が宝玉から放たれる。その光に当てられたシャドーウルフは、光に魅入られるように瞼を落とし、やがて意識を落とした。
直前までの殺気が嘘のように、シャドーウルフは眠りについた。草葉の上で眠る目の前の姿は、飼い犬のソレとあまり大差がない。
「…………はぁぁ」
危機一髪な状況を切り抜けて、アルファは大きなため息をつく。
「はぁ、はぁ……私の戦闘って、こんなのばっか」
今日もなんとかピンチを切り抜けたアルファだが、イマイチカッコ良く戦えない自分に、ひとり肩を落とした。




