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2つ目の証拠






 掘り起こした豚をそのままに、リト達は、またディーンの家の前へと戻ってきた。ハイドが言うには、あの豚の遺体は、メイガンの犯行計画が認められれば、衛兵の方で回収することになるらしい。


「それで、次はどうするの?」


 まっすぐディーンの家を見据えて立っているリトに、アルファは訊ねた。


「次は、クエストの依頼人がメイガンさんである証拠を見つけようと思います」

「またどこか探しに行くの?」

「そうですね、この証拠はアルファさんに見つけてもらおうかと」

「そう、私にねぇ……えっ!」


 突然、予期せぬ役割を振られ、アルファはあんぐりと口を開ける。


「えっ、えぇぇ、なんで私が?」

「これはアルファさんにしかできませんから」

「いやいやいやいや!」


 目を大きく見開いたアルファが杖を肩に掛けて両手を勢いよく振った。そのあまりの慌てっぷりに、思わずリトは微笑をこぼす。


「大丈夫、アルファさんならできますよ」

「そんなこと言われても見つけられないよ私! そもそもリトさんの言う証拠が何かも分かんないのに!」

「探してほしい証拠は、これです」

「だから無理だって……えっ?」


 まるですでに持っているかのような言い方に、アルファはまた目を丸くした。そんな彼女の反応に気にも留めず、リトは懐から一枚の紙を取り出した。


「それは何だい?」


 その紙を見てハイドが首を傾げた。


「これはクエストの承諾書です」

「あぁ、クエストの依頼者がギルドから貰うヤツだね」


 リトは頷いてアルファに目を向けた。リトが持っているのは、彼が依頼した時に貰ったものだ。紙面には『ラミュヒの葉が2枚欲しい』と書かれ、クエストの詳細などが記載されている。


「アルファさんには、魔法を使って、これと同じクエストの承諾書を探してほしいんです」

「えっ! どういうこと?」


 アルファは無意識に杖を握り、首を傾げた。


「なるほど。メイガンさんがクエストを依頼しているなら、ギルドから承諾書も貰っているはず」


 アクアは腑に落ちたように頷いた。


「でも、まだ持ってるのかな。もう捨ててるんじゃないかい?」

「捨ててません」


 ハイドの疑問に、リトははっきりと否定した。


「どうして分かるんだい?」

「メイガンさんは、クエストを何度か継続しています。その際に必要になるのが、この承諾書なんです。ギルドは継続されるクエストが未達かどうかの確認として、この承諾書を依頼人から見せてもらう決まりになっているんです」

「へぇぇ、そうなのか」


 ハイドは興味深そうな目でリトの持つ承諾書に目をやった。報酬金の受け取りやクエストの継続や取消など、承諾書の紙が依頼人としての一種の証明書になっている。証拠になるとはいえ、これを捨てる可能性は極めて低いと、リトは踏んでいた。


「やれそうですか、アルファさん?」


 リトは自分の承諾書を仕舞い、アルファのほうに顔を向ける。アルファは暗い顔で俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。


「……う、うん。分かった。やってみる」


 アルファはまっすぐリトを見つめ、大きく頷いた。そして、数回ゆっくりと深呼吸した後、杖を構える。


探索魔法ペンデュラム、発動!」


 杖についた宝玉が輝き、青く眩い光がアルファの周りに広がる。光の線が走り、矢印を描いた魔法陣が地面に浮かんだ。魔法陣の描いた矢印がしばらく時計の針のように回る。相変わらず綺麗な光景だと、リトは一人感心していた。


「……あのぉ」


 魔法が発動しているさなか、アクアがリトの背後に回り、小声で話しかけてきた。


「たしか、探索魔法は一度見たものしか見つけられないと、聞いたことがあるのですが、大丈夫なんですか?」

「あぁ、そうみたいですね。でも、おそらく大丈夫でしょう」

「というと?」

「アルファさんは昨日あの魔法でポイロゼの草を見つけています」

「それが?」

「一度見たものといっても、それは特定の単一のものとは限らないということです。同じポイロゼの草でも、道具屋で売られているポイロゼの草と南の森に生えるポイロゼの草では違うもののはずですけど、アルファさんは魔法で見つけることができていました。だから、メイガンさんの承諾書も私の承諾書も、同じ承諾書と見なせれば、あの魔法で見つけられるはずです」


 そうリトが説明したと同時に、まるで証左を示すように、アルファが作った魔法陣の矢印が回転を止めた。

 青く光る矢印は、ディーンの家を指している。その魔法陣を見て、様々な不安がアルファの表情が曇る。その方角に目的のものが本当にあるのか、得意の探索魔法も失敗してしまうのではないか、あるいは、この魔法によって、本当に誰かを救うことにつながるのか。

 そんなアルファに、リトはポンと背中を叩く。


「それじゃあ、行きましょうか」


 リトはディーンの家へと向かって歩いた。





 ***




 玄関の前に立ってすぐに、リトは拳で扉を叩いた。少し間を置いた後、また数回強く叩く。声はなくとも聞いたものを急かしているのが分かる呼び出し方だ。


「ハイドさん達、ここに立ってもらえます」

「えっ……あ、あぁ」

「アルファさんはこっちに」


 ハイドとアクアを前に立たせて、リトとアルファはドアの外側に立つ。外開きの扉が開くと、ハイド達が見え、リト達は隠れる立ち位置だ。

 やがて中から荒々しい足音が聞こえたと思えば、玄関の扉が開いた。


「チッ、誰だよ!」

「あっ、どうも」


 中から出てきたのは、リト達が訪れた時と同様、ディーンだった。ディーンはボサボサ髪をした後ろ髪を掻きながら顔を出すと、仏頂面で目の前にいたハイドを睨む。だが目の前にいるのが衛兵だと分かった途端、その態度は崩れた。


「な、なんだ、お前等?」


 不機嫌な口調に、戸惑いの色が混じる。

 するとリトが扉に手を伸ばして勢いよく開いた。そしてそのままディーンをどかして中へと入っていく。アルファもリトの背中に付いていく。


「なっ!」


 死角から急に人が現れたこと、その人物が自分の家に入っていくこと、そして、その二人が昨日訪れたリトとアルファだったことに、ディーンは驚きで目の前の出来事が処理しきれず、しばらくその場から動けずにいた。

 ディーンが呆気にとられている間にも、リトは家の奥へと進んでいった。

 薄暗い玄関と廊下を進むと、手狭な部屋があった。火の付いた暖炉の前に痛んだ家具が置かれ、テーブルには酒瓶が置かれている。生活感はあるが、壁や床は汚れ、あちこちに塵や埃が溜まっている。一見しただけで、住人の怠惰な暮らしが見て取れた。


「アルファさん、もう一度探索魔法をお願いします」

「うん、わかった」


 アルファは杖を構え、また探索魔法を使う。薄暗い室内に、魔法陣の青い光が広がった。

 そして同時に、部屋の奥からエプロン姿のメイガンが現れた。後ろでまとめた茶髪が揺れ、魔法陣の光が彼女の顔を照らす。


「あ、あなたたちは!」

「どうも。あっ、そこで動かないでください」


 家の中にいるリトとアルファに、メイガンは目を丸くした。


「おい、これは何のつもりだ!」


 ディーンが大声をあげながら、ハイド達と一緒に部屋に入ってきた。


「衛兵なら人様の家に勝手に入っても許されるのか!」

「いえ、ちょっとした捜査のためにお邪魔するだけですから。用が済めば、すぐに出ていきます」

「コイツ等知ってるぞ。昨日、俺のところに来たヤツだ!」

「まぁまぁ、ひとまず落ち着いて」


 ハイドがディーンをなだめている間に、魔法陣の矢印が動きを止めた。リトとアルファが魔法陣の示す方向へ目を向けると、矢印の先にはメイガンが立っていた。

 困惑するメイガンを見透かすように目を向けたリトは、ゆっくりと歩み寄り彼女の前に立つ。


「あ、あの、何なんですか?」

「いえ、ちょっと探し物があって……」


 このまま承諾書を出せと言っても彼女が言うことを聞くとは思えず、かと言って無理やり奪うこともできず、リトはしばし思考した。目の前で自分の身体を上から下まで隅々まで見回すリトに、メイガンは警戒心をあらわにする。


「すみませんけど……これ、見てもらえますか?」


 リトは懐から何かを取り出し、メイガンの目線の高さに合わせて見せつけるように持ち上げた。

 彼の意図が分からずメイガンは首を捻るが、リトとアルファ、ディーン、ハイド、アクアと目をやり、やがて言われるがまま、リトが取り出したものに目をやった。


「これ、何かわかります?」

「えっ、なにって……ナイフに見えますけど?」

「そう。これですね、僕が農作業するときによく使うナイフなんですよ……」


 リトは作為的な笑みと物言いで、メイガンにナイフを見せる。


「一体何なの?」

「あぁ、すみません。別にこのナイフには何もないんです。ただ、僕が探していたのは、こっちなんですよ」


 そういって、リトはナイフを持つ手と逆の方の手を上げる。そこには、いつの間にか折りたたまれた紙が摘まれていた。


「えっ! あっ、いつの間に!」


 その紙が何なのか、メイガンはすぐに理解した。そして、その紙があったと思われる、自身のエプロンのポケットの中に手を入れる。しかし、いくらポケットの中を探っても自分がいつも肌身離さず持っている“それ”はない。

 信じられないが、どうやら目の前にいる男が持っている紙が、ポケットの中にある“それ”なのだと、メイガンは理解した。

 一連の彼の動作に、メイガンだけでなく、はたから見ていたアルファ達も目を見張った。まるで奇術師が手品を見せるお客の気を逸らせるような、見事な手捌きだった。


「リトさん、そんなこともできたの?」

「昔、知り合いの盗賊冒険者に教えてもらったんです。盗賊スキルの基礎なんですって」


 感嘆するアルファに、リトは折りたたまれた紙を開きながら答えた。


「何者なの、あなた?」

「ただの農家ですよ」


 狼狽するメイガンに、リトは微笑した。

 開いた紙面には、彼の予想通り“薬草を10個もってくるクエスト”の内容が書かれていた。








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