表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/28

セカンド・クエスト『証拠を探せ!』




 太陽が頂点を超えて、地平線に向かって落ちる。建物の影が伸びて、辺りはほんのり薄暗い。中央区に比べて、人通りが少ないせいもあり、静かな雰囲気が漂っている。並んでいる建物が総じて簡素であることも一因だろう。

 居住下区にやってきたリト達は、まっすぐディーンの家へと向かった。すれ違いざま、住人は衛兵の鎧と剣を身に付けたハイドとアクアを見て目を見開き、何事かと物珍しい眼を向けながらすれ違う。

 当の本人たちとリトは特に気にした様子はないが、一緒にいるアルファはなんだか自分が悪いことをしたように見られているようで、やや気まずい思いをしながら歩いていた。


「別にハイドさん達は付いて来なくても良かったのに……」

「あんな物騒な話を聞かされて、放っておけるわけないでしょう!」


 リトにそう返すと、アクアはため息をついた。そんな彼女を見てハイドは苦笑を浮かべた。

 農家と魔法使いと衛兵二人……一見何のパーティか分からない四人は、ディーンの家の前に辿り着いた。昨日リトとアルファがメイガンと話した場所に立って、四人はディーンの家を眺める。汚れが目立つ家屋の横にある囲いの中では、相変わらず豚が騒がしい鳴き声を上げている。


「さて、証拠を見つけるなんて言ってたけど、どうするつもりですか?」


 アクアがリトを見て訊ねた。


「そうですね……まずは簡単なところから行きましょうか」


 リトはキョロキョロと周りを見渡すと、どこかへ向けて歩きだした。 

 てっきりディーンの家を訪ねるのかと思っていたアルファ達は、一体どこへ行くのかと目を合わせて首を傾げて、リトの後を追う。

 するとリトは身をかがめて、ディーンの家に沿って足早に歩き出した。顔を下へ向け、まるで地面に何か落ちていないかと探しているようだ。たまに地面の土を取っては、指先でころころと球を転がすように触る。

 その意図が分からず、アルファ達はまた首を捻ったが、静かに彼の様子を伺う。

 やがて、ディーンの家の周りをぐるりと回り、再度周りを眺め、リトは近くにある小道へと入った。


「リトさん、一体さっきから何を探してるの?」


 しびれを切らしたアルファが訊いた。


「メイガンさんが毒薬を作っている証拠です」

「証拠? 証拠が家の周りに落ちてるの?」

「いえ、家の周りにはなかったですね」


 道を進むと、ずいぶんと寂れた場所に着いた。周辺に人影はなく、人が住んでいる家屋もない。代わりに、住民共用の馬小屋や倉庫、物見やぐらが並んでいる。建物の隅には藁を運ぶための木製の手押し車やスコップなどの農具が置かれていた。

 リトは馬小屋に目を向けると、ゆっくりと歩を進める。小屋の中では荷運び用と思われる馬が鼻を鳴らしている。家畜特有の臭いに、リトは眉間を寄せて鼻を撫でた。

 するとまた、小屋の周辺の地面を見ながら、先ほどと同じように捜索を始めた。


「っ!」


 小屋の裏側へ来ると、リトは目を大きく見開き、茶色の土を拾う。彼が指先で摘んだ土はポロポロと形を崩して地面に落ちた。


「どうやら、ここのようですね」

「えっ?」


 アルファは目を丸くするが、そう呟いてからのリトの行動は速かった。小屋の隅にあるスコップを手に取り、せっせと地面を掘っていく。あまりの手際の良さに、三人はしばらくその様子を呆然と見ていた。

 アルファ達が状況を冷静に見ることができるようになった頃には、すでに膝の高さほどの穴ができていた。


「はやっ!」

「だてに農家やってませんから」


 口ではそう言っているが、この穴の掘りやすさは自分の農家としての技術だけではないと、リトは理解していた。

 そして、次にスコップを突き立てた途端、リトは眉間に皺を寄せた。


「……やっぱり」


 目的の物を見つけて、リトは表面の土を払っていく。


「なになに……くさっ!」

「うっ! なんだ、この臭い!」

「“腐臭”ですね」


 リトの掘り返したものを覗き込もうと顔を寄せた途端、三人は揃って自身の口元を押さえた。

 アルファ達は鼻を刺すような臭いに耐えながら、再度穴の中を見る。穴の中には茶色の土をかぶった薄いピンク色の何かが顔を出していた。


「これは……豚?」

「その死骸です」


 リトの言った通り、穴の中から出てきたのは、まるまる太った豚であった。丸い鼻に土が掛かり、尖った耳と顎がだらんと垂れている。当然、生気はない。


「どうして分かったんです? ここに豚が埋まってるって?」

「さっきフィロさんのお店で、メイガンさんは豚をポイロゼの草の毒で死なせたと、僕は言いましたけど……」


 アクアの問いに答えながら、リトは同時に土を掘り返し続ける。


「豚を死なせた場合、その豚はどこへ処分するのか。毒死させた豚を売りに出すわけがありませんし、正規の方法で何匹も処分していたら、周りの住民に不審に思われます。だから、メイガンさんはどこかに埋めたんだと考えました。それが一番手っ取り早くバレずに処分できますからね」


 リトは息を切らしながらも、さらに続ける。


「しかし、豚一匹の重さは、およそ人間二人分。これを女性が運ぶには相当な力が必要です。そんなに遠くに持って行けるとは思えません。だからディーンさんの家からそう遠くなく、加えて人目が付かない場所が怪しいと思って探してたんです。おまけに、一度掘り返したせいで、このあたりの土は柔らかくなってました。こんなにはやく掘り返せたのもそのおかげです」

「……なるほど」


 先ほど土を拾いながら歩いていたリトの行動に合点がいき、アクアは大きく頷いた。そしてこの豚の死骸がどこから来たのか、彼女はそのおおよそを推察できた。

 リトは周辺の土を掘り返し終えた。柔らかくなっている土をすべて掘り返したところ、およそ10頭ほどの豚の死骸が出てきた。どれも外傷らしきものはなく、肉を切り取ったような跡もない。


「ふぅぅ」


 リトは息をつき、額の汗を拭った。


「この豚全部、メイガンさんが埋めたってこと?」

「そうでしょうね」


 するとリトは膝をついて、持っていた自分のナイフで豚の口をこじ開けた。まるで商人がアイテムを鑑定するように、口内を覗き込む。舌、喉奥、歯の隙間と、リトは異臭に耐えながら口内の各所にナイフを滑らせた。1体だけでなく、2体目、3体目と、リトは同様に豚の遺体の口内を探っていった。


「……やっぱり」


 やがてリトは振り返って、三人にナイフの先を見せた。そのナイフの先には緑色の干からびたヘドロのような汚れが付いていた。


「なにそれ?」

「これらの豚が食べたポイロゼの草の残骸です。胃の中を調べれば、もっと見つかるでしょう。豚の種類が同じことからも、あそこから運んだとみて、まず間違いないです」


 リトに言われ、その汚れが植物をすり潰したものであると分かった。原型はとどめていないが、色合いや繊維はポイロゼの草のものと同じである。


「さて、これでメイガンさんが毒薬を知っていると分かりましたね」


 宣言通り証拠を見つけたことに、アルファは目を見張る。

 ナイフを仕舞い、服に付いた土を払いながら、穴から出てきたリトはアルファに目を向けた。


「それじゃあ、次に行きましょうか」






ブックマーク追加や評価いただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ