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ギルド





 その後、リトとアルファは、カウンターから手を振るフィロに見送られながら店を後にした。薬草を買ったリトだが思った数が買えず少し不満げだった。道を歩きながら小さくため息をついたリトに、アルファは覗き込むようにして目を向ける。


「どうしたの、リトさん? 目当ての薬草が買えたのに、がっかりって感じだけど?」

「別にがっかりしてるわけじゃないです。欲を言えば、もう2枚ほど欲しかったんですよ」

「そんなに欲しいなら、ギルドで募集したら? 持ってる人、見つかるかもよ?」

「……そうですね」


 なんだか都合よく同行を促されたような気がしたが、リトはアルファの提案に乗って一緒にギルドへと向かった。


「リトさんって、なんでそんなに頭良いの?」

「はい?」


 道中の雑談に、アルファはここ最近抱いていたリトへの疑問を口にした。


「私の時もそうだけど、さっきフィロさんの店のこともすぐに見抜いちゃったし、ただの農家にしては頭良すぎじゃない?」

「別に頭が良いわけではないんですけどね」


 アルファは頭を傾けてリトを見た。その純粋な視線に、リトは困ったように愛想笑いをして頭を搔いた。


「僕みたいな辺境で暮らしてる農家は、国同士が戦争をすれば真っ先に巻き込まれますし、魔王が活気づけばすぐに魔物に襲われます。そんな環境で暮らしてるのに、戦士や格闘家みたいに剣術や武術に優れているわけでもなければ、魔法使いや僧侶みたいに魔法が使えるわけでもない。だからせめてものの護身術として『物事をよく見て、知恵を絞って、事に対処する』。そんなスキルが生きる上で欠かせないんですよ」

「それだけで、あそこまでできるようになる?」

「案外、できるものですよ。アルファさんもやってみたらどうですか?」

「いやぁ、それはやめとくよ」


 自分にはとてもじゃないが無理だと、アルファは苦笑した。


「街で暮らそうとは思わないの?」

「えぇ。危険はありますが、今の生活が僕には性に合ってますので」

「なんで、そんな生活するようになったの?」

「それは……ひみつぅ」

「ぶふっ!」


 リトの似合わない仕草に、アルファは噴き出して笑った。


「アハハハ、なにそれ、フィロさんの真似?」

「えぇ。良かったら当ててみて下さい」

「いやいや、似合わないって!」


 クスクスと笑うアルファから、リトは遠くに視線を向けた。二人の歩く道の先に、とんがり屋根のついた茶色の建物が見えた。




 ***




 フォーツヒル王国の街の中心部に、大きな建物がひとつ建っている。その建物は周りの建物よりも一層大きい木造の建築物で、大きさの割に質素な作りだが、独特な雰囲気を感じさせる。おかげで、このフォーツヒル王国を初めて訪れる冒険者も、迷わずこの建物がギルドだと気づくことができている。

 いつぞや、アルファが出入口の前で小さくなっていた場所だ。

 適当な会話を交わしながら、ギルドへたどり着いたリトとアルファは、慣れた様子で中へと入った。

 建物の中は広く、簡素なテーブルや椅子が並んでいる。そこで冒険者たちは自由に過ごし、皆それぞれご飯を食べたり自分の装備を整理したりしている。まるでどこかの休憩所と大衆食堂が合わさったような空間だ。建ってからの歴史もあるようで、床を踏む度に木が軋む音が鳴る。

 二人は隅に設けられた、掲示板と受付の前へと向かった。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


 受付人はリトと同い年くらいの女性だった。


「クエストの依頼がしたいのですが」

「依頼ですね。内容は?」

「『ラミュヒの葉が2枚欲しい』です。報酬金は金貨1枚。詳細は名前の通りです。治療に使える程度に成長した葉を譲ってほしいです」

「かしこまりました。依頼人のお名前は?」

「リトです。東の方にある民家で農家をしています」

「リトさんですね。少々お待ちください」


 お互いやり取りを淡々と終わらせて、受付人は一礼して建物の奥へと向かう。振り返りざまにドレスのスカートがゆらりと揺れる。先日の一件で妙に細かいところまで目を向ける形になってしまったが、“本物の”受付人の慣れた動作に、リトは安心して目を離した。

 視線を横に向けると、アルファがクエストが貼り出されている掲示板を眺めていた。アルファは指を立てて、何かを探すようにくるくると回す。


「何を探してるんですか?」

「昨日リトさんの家で話してたクエストだよ。確かこの辺に……あっ、あった。リトさん、これだよこれ!」


 そう言って、アルファは掲示板の隅にあるクエストの紙を指さした。

 モンスター討伐のクエストや賞金首の似顔絵が描かれたクエストにまぎれ、薄茶色の紙に『薬草を10個もってきて』という、アルファが話していたクエストが貼り出されている。そして、その見出しの下にはクエストの詳細や依頼者の名前が薄いインクで書かれている。

 リトはそのクエストの詳細に目を向けた。


「えーっと……『薬草を10個もってきて。報酬金は金貨1枚。解毒のためにポイロゼの草が欲しい』か。ポイロゼの草って?」

「そのものずばり毒消し草のことだよ。冒険者の中では、よく使われてる薬草で、フィロさんの店にもあったよ」

「それって、どんな草ですか?」

「んー、口で言うと難しいけど、こう……茎から生えた葉っぱがいっぱい重なって球みたいになってるの。魔物の毒にやられたときは、葉っぱを一枚一枚剥いて食べるんだ」

「茎についてる葉、全部食べるんですか?」

「ううん。毒の量にもよるだろうけど、大抵1枚食べちゃえば済むことが多いよ」


 アルファは杖を肩にかけて、両手で球を転がすような動きをする。物は無いが、その手の中の大きさはトマト一個分くらいの大きさである。

 その説明と動きを見て、リトはフィロの店に結球状の形をした植物があったことを思い出した。


「依頼人は、この近くの住民のようですね」

「まぁ、毒消しっていっても、魔物の毒以外にも効くからねぇ。ある国では食当たりの治療に使ったりするって聞くし、この人もそういう使い方するんじゃない?」

「……そうでしょうか?」

「えっ?」


 アルファはリトの顔を見る。

 リトは虚空を見つめるように、しばらくそのクエストの紙を眺めながら、黙って考え込んだ。


「やっぱり……このクエスト、おかしいです」


 やがて、リトは大きく息をついてから言った。







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