『迷い猫を探せ』
人々の活気があふれる『フォーツヒル王国』。中央の城を囲うようにして広がる街は、中世ヨーロッパの風景を感じさせる。そんな街中を、今日も冒険者が勇ましい姿で歩いている。青空の下、体格の良い戦士や知的な雰囲気の魔法使い達が冒険に向かう。
そんな一行の横を、かごいっぱいの野菜を背負う青年……リトがすれ違う。旅に出る冒険者、行きかう街の人々、馬を連れた衛兵など、見慣れた街の風景を眺めながら、リトはいつもの街道を歩き、いつもの市場へと向かう。
たどり着いたのは、丸顔の店主、ポムがいる出店だ。
「どうも、ポムおじさん」
「おう! 待ってたぜ!」
リトが声を掛けると、ポムは爽やかな笑顔を浮かべて手を上げた。軽い挨拶を交わしながら、リトは野菜を卸し、ポムは勘定する。野菜の量や種類に差はあれど、つい数日前と同じやり取りだ。
「そういえば、ユーちゃんは見つかりましたか?」
「まだ見つかんねぇんだよ。クエストを受けてくれる冒険者も増えやしねぇ」
以前した話題。迷い猫のユーちゃんについて、リトが話を切り出すと、ポムは頭を搔いた。
「だから、猫じゃなくてマジックアイテム探しにすれば良かったのに。その方が探してくれる冒険者増えますよ?」
「バカ野郎、俺が探してんのはユーちゃんなんだよ。アイテム目的に探す奴なんて信用できるか」
「そうですか」
冒険者は良くも悪くも達成したクエストで自分の箔を付けようとする者が多い。そんな冒険者たちをクエストに呼び込むには、猫探しよりアイテム探しの方が、探す冒険者も増え、猫を見つける確率も上がる。
先日、リトは『そのクエスト、おかしいんじゃないですか?』と迷い猫探しのクエストではなく、首輪のマジックアイテム探しのクエストに変えた方が良いとポムに助言していた。
しかし、ポムの気持ちも理解できるリトは、それ以上何も言わなかった。
少なくとも今は、ポムのクエストを受けている冒険者がいるからだ。
「“彼女”は、どうですか?」
「あぁ、それがな……」
「おじさーーん!」
噂をすれば影が差す。聞き覚えのある声に、リトは振り返った。
こちらに向かって空色の髪をした魔法使いが駆けて寄ってくる。背中に青い宝玉のついた杖を背負い、その両手には猫を一匹抱えている。
「この子は、どう? ユーちゃんかな?」
「違げぇよ。ユーちゃんは白と黒の毛の猫だって言っただろうが。コイツは三毛猫じゃねぇーか」
「遠目で見たら白黒かなって」
「三毛だよ!」
「三毛ですね」
ポムが呆れると同時に、リトは薄笑いを浮かべる。そして目の前のアルファを見て、見つけるどころか難航しているのだと理解した。
「あっ、リトさん!」
「どうも」
リトに気づき、心なしかアルファの顔がパッと明るくなった。
「苦労しているみたいですね」
「そうなんだよ。この街、猫多すぎ! これで27匹目だよ!」
「……それ、何匹か同じ猫捕まえてません?」
よくそんなに捕まえたものだ、とリトは思った。
「魔法使いなんですから、魔法で見つければ良いじゃないですか?」
「探索魔法は、一度見たことがあるものしか見つけられないの!」
何事にも制限はある。アルファの魔法も万能ではなかった。
リトは適当に頷き、アルファを見る。
「まぁ、頑張ってください。そして、早く私の借金も返してください」
「むぅぅ、見てろよコノヤロー! すぐに返してやるからなぁ!」
クスクス笑うリトに、アルファは頬を膨らませて睨む。まるで、仲の良い兄弟のようだと、ポムは二人のやり取りを見て思う。
市場の賑やかな声に、二人の会話が加わる。アルファの腕の中では、三毛猫が大きなあくびをしていた。
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