◆ 会えるのは本当にこの時季だけ? ◆
「ところで主、引き続き日本を拠点にされる理由をうかがっても?」
「美麗。とでも言っておこうか」
「……昨年の理由である“美しい”の表現を変えただけではありませんか」
ところがそれに構わず、魔術師は空になったグラスを突く。クロウは溜め息交じりに、またブラックベルベットを注いだ。
「本業をする方が愉快なら、それ一本にしてはどうかと。副業がいずれ激務になるならば」
「そうすりゃあ、あんたはずっと口が利けるしねぇ。ま、諦めな」
クロウは一声叫ぶと、日本酒と大きく筆で書かれた一瓶を、すっかり空けてしまった。
「ならばせめて模様替えを頼もう。ハッキリ言って環境に飽き飽きだ。心の換気以外にも、物理的な換気は必要です。館が埃っぽくていいはずがない」
魔術師は口を尖らせ、しばし視線を宙に左右させる。そして
「なら、空気循環のためにサーキュレーターを置こう。明日にでも家電屋へ買いに行くとしよう」
「……何故あなたは、そうセンスが偏ってしまうのか。まずは窓を取りつけようとは思わないのか」
「表現者の書籍を綴じるのに風が厄介になる。陽射しが入れば色褪せる。窓は無しだよ」
「あのー……」
とうとう私は、足の思うがままにそこへ近づいた。二人は口を止め、こちらをチラと見やる。
魔術師はおもむろに口元を吊り上げると、肩に預けていた杖をもたげ、切り出した。
「そうだ。コレと、世に知れ渡っている“夜の地球”とが同じではない、と言った件だけど」
「え……いや、まずはその……まぁ、いいです、お先にどうぞ」
こちらが聞きたい事は分かっているはずだろうにと思いながらも、ひとまず魔術師の隣に座り直す。
「見ての通り、金の光に浮かび上がるのは大陸だが、この一つひとつは、人間一人ひとりが灯している本音の光なんだ」
「ああ、だから別物なんですね」
本音の光――その言葉がポツリと頭に残ると、この場所を改めて見回してみたくなった。
皆はまだ、ランタン作りに夢中になっていた。その間もたくさんの話が聞こえてくる。それは新鮮な物語や歴史や、その人の個人的な話と様々だ。
国籍が違う。文化が違う。言語が違う。なのにここでは、限られた時間だが繋がりを感じられる。また、協力ができることを知らず知らずのうちに感じさせられる。まるで、国境なんて関係ないように。
「なんだか、力が合わさることのよさを、改めて感じられた気がします。分かっていても、忘れがちですし」
「そう……こうして、暗いところに潜んでいるものが形を変えて出てくる時。それが、私はとても好きなんです」
魔術師が帽子の影に顔を隠し、カクテルを流し込むところ、クロウが私を見た。
「あなたは偶然オニキスを引きました。それには、他のパワーストーンとは少しばかり違った力があります。もし聞こえてしまったことがおありなら、情報のお取り扱いには充分にご注意願います」
低く告げてきたクロウは、出来合いのカブのランタンを差し出してきた。私は戸惑い、二人を交互に見つめてしまう。
「では、それをお約束する代わりに聞きたいのですが」
私はいい終わりに、少々いたずらな笑みをしてみせる。二人の表情は、途端に動かなくなった。
「お二人に会えるのは、本当にこの時季だけですか? 聞こえた限りだと、他に活動をされている場所がありそうです。それも、引き続き日本で」
問いかけは確かに響いており、二人の眼差しがそっと細くなる。そこに鋭い光を感じても、私は動じなかった。
「魔術師オニキスさん。あなたはひょっとして、さっき図書館で――」
言い終えることはできたのか。大きな指の音が声に合わさったのを最後に、視界は湯気に溶けてしまった。




