7食目 町中華のチャーハンと餃子♪
4コマ
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昼。
住宅街と商店街の境目あたり。
杏々は今日も、特に目的地を決めずに歩いていた。
てくてく。
てくてく。
「…………」
お肉屋さん。
「コロッケ……」
少し惹かれる。
でも、その向こう。
「…………!」
古い赤い暖簾。
色褪せた食品サンプル。
ガラス戸には、大きな赤文字で。
『中華料理』
その下。
『創業五十二年』
「町中華……♡」
杏々の足が止まった。
入口近くまで来ると、店の中から香ばしい匂いが流れてくる。
油。醤油。焼けた餃子。
そして。鍋を振る音。
ガッ。ガッ。ジャッ――!
「…………」
ガラガラ。
「こんにちはー」
「いらっしゃい!」
元気な声が返ってくる。
カウンターの向こうにいたのは、白い調理服を着た年配の男性だった。
頭には白い帽子。
少し丸い身体。
笑うと目尻に皺が寄る。
いかにも昔からこの店に立っていそうな。
町中華のおじさん。
「一人?」
「うん」
「好きなとこ座って」
「はーい」
杏々はカウンター席へ座る。
壁いっぱいにあるメニュー。
『醤油ラーメン』
『味噌ラーメン』
『タンメン』
『チャーハン』
『天津飯』
『ニラレバ』
『麻婆豆腐』
『焼き餃子』
「…………♡」
多い。
とてもいい。
「何にする?」
「…………」
ラーメンは捨てがたい。
天津飯も気になる。
でも。
さっきから鍋を振る音が聞こえている。
「チャーハン」
「あいよ」
「大盛り」
「あいよ!」
「あと餃子」
「一人前?」
「…………」
杏々は壁を見る。
『餃子 一人前六個』
「二人前」
「おっ、食べるねえ」
「うん」
おじさんが笑う。
「ちょっと待ってな。すぐ作るから」
「楽しみ」
鍋に火が入った。
◇
強火。
油。卵。ご飯。チャーシュー。ネギ。
おじさんの手の中で、中華鍋が軽快に跳ねる。
ジャッ。ジャッ。ガッ。
杏々はカウンター越しにじっと見ていた。
「…………」
「そんなに見られると緊張するなあ」
「すごい」
「何十年もやってりゃ、このくらいできるようになるよ」
「私もできる?」
「毎日振ったらな」
「…………」
「食べる方がいい」
「ははは! そりゃそうか!」
最後に醤油。鍋肌へ。
じゅっ。
「…………!」
香りが一気に立つ。
杏々の目が輝く。
「はいよ!」
目の前に置かれたのは丸く盛られた黄金色のチャーハン。
湯気。
卵。細かく刻まれたチャーシュー。ネギ。
「チャーハン大盛り!」
「わぁ……♡」
「餃子もすぐ出るよ」
「いただきます」
待てなかった。
れんげ。
ざくっ。
ぱく。
「…………!」
米がほぐれる。油っぽすぎない。
でも、しっかり香ばしい。
卵の甘さ。チャーシューの塩気。ネギの香り。
「おいしい」
「そりゃよかった」
もう一口。
ぱく。
「…………♡」
ぱく。もぐ。ぱく。
止まらない。
「はい、餃子!」
焼きたて。十二個。
こんがり焼けた面が並んでいる。
「…………!」
すぐ一個。
醤油。酢。少しラー油。
「いただきます」
「もう食ってるだろ」
「餃子に」
「ああ、餃子にか」
ぱく。
カリッ。
「…………!」
焼き面は香ばしい。
でも反対側はもちっとしている。
中から肉汁。
「熱っ」
「焼きたてだからな」
はふ。はふ。もぐ。
「…………♡」
「どうだい?」
「おいしい」
「よかったよかった」
ニラ。キャベツ。豚肉。にんにく。
野菜の甘さと肉の旨味。
「これ好き」
「餃子?」
「うん」
「うちのは毎朝、全部店で仕込んでるからな」
「…………」
一個。もう一個。さらに一個。
「おじさん」
「ん?」
「餃子追加」
「もう?」
「二皿」
「二皿!?」
「うん」
「ははは! 分かった分かった!」
おじさんは嬉しそうに厨房へ戻った。
◇
チャーハン。完食。
餃子。最初の二皿。完食。
追加二皿。完食。
「…………」
お茶を一口。
「大満足」
「そりゃ何よりだ」
おじさんは笑いながら、さらに餃子を包んでいた。
「まだ食べるかい?」
「…………」
杏々。
ちょっと考える。
「食べる」
「やっぱりな!」
「もう一皿」
「あいよ!」
おじさんが餃子を焼く。
じゅう。
蒸気。そして。焼き上がり。
「はい。これで最後な」
「ありがとう」
「ちょっと俺、外してくるから」
「?」
「すぐ戻るよ。ゆっくり食べてて」
「うん」
おじさんは手を拭き。
店の裏口から出ていった。
餃子をぱくつく。
「…………♡」
カリッ。
もぐ。
今日。かなり当たり。
「また来よう」
そんなことを考えながら。
二個目。
ぱく。
その時だった。
「――待ってください!」
「…………?」
杏々の耳が動く。
店の外。
かなり遠い。裏口の向こう。
さっきのおじさんの声。
「もう少しだけ……!」
続いて。もっと大きな声。
「いつまで待たせんだコラァ!!」
「…………」
餃子を置く。聞き間違いではない。
「約束が違うじゃないですか! 今月は――」
「うるせぇ!!」
鈍い音。
ドッ。
「ぐっ……!」
「…………」
杏々は立ち上がり声をかける。
「おじさん?」
返事はない。
もう一度。
何かがぶつかる音。
「…………」
杏々の顔から。
さっきまでの緩い表情が消えた。
「助けないと」
裏口へ向かう。
◇
店の裏。細い路地。
そこにおじさんが倒れていた。
「……っ」
壁際。腹を押さえている。
その前に立つ男。
当然杏々より大きい。
おじさんよりもさらに大きい。
太い首。厚い肩。いかつい顔。黒いシャツ。太い腕。
「おじさん」
「え……?」
おじさんが杏々を見る。
「嬢ちゃん、なんで……」
「殴られた?」
「いや、これは――」
「なんだぁ?」
男が振り返る。
「ガキが出てくる場所じゃねぇぞ」
「…………」
杏々は男を見あげる。
「その人、殴るのやめて」
「あ?」
「痛そう」
「関係ねぇだろ」
「あるよ」
「なんでだよ」
「餃子作ってくれた人だから」
「…………は?」
「まだお会計もしてないし」
「そういう話じゃねぇ!」
男が怒鳴る。
おじさんが慌てて立ち上がろうとする。
「嬢ちゃん、店に戻っててくれ。これは俺の問題だから」
「問題?」
杏々は首を傾げる。
男が鼻で笑った。
「このジジイ、俺らから金借りてんだよ」
「お金?」
「ああ」
「返してねぇから取り立てに来てんだ」
おじさんが苦しそうに言う。
「返してないわけじゃ……毎月ちゃんと払ってる。でも、利息が……」
「黙れ!」
男が手を上げる。
杏々は間に入った。
「やめて」
「どけ」
「やだ」
「どけっつってんだよ」
「殴る必要ないでしょ」
「…………」
男の眉が動く。
「ガキ」
「?」
「痛い目見ねぇと分かんねぇらしいな」
腕を振り上げる。
「危ない!」
おじさんが声を上げる。
拳が杏々へ振り下ろされた。
◇
空振り。
「……あ?」
男の拳は。
何もない場所を通過した。
そこにいたはずの杏々がいない。
「…………」
男の横。
「こっち」
「!?」
男が振り返る。
長い手足。静かな目。
「てめぇ……!」
男は拳を横薙ぎ。
杏々は一歩下がる。
拳が鼻先を通る。
「ちょこまかと!」
左。右。
強い。だが杏々は身体を少しずつずらし、最小限の動きで避けていく。
「…………」
「逃げてんじゃねぇ!」
「逃げてないよ」
「あぁ!?」
「当たらないだけ」
「このっ!」
男はさらに踏み込む。
杏々は腕へ触れた。
「?」
手首。肘。ほんの少し方向を変える。
「うおっ!?」
男の身体が前へ流れる。そのまま壁へ。
ドン!
「ぐっ……!」
「…………」
「もうやめる?」
「舐めんな!!」
男が振り返る。
顔は真っ赤だ。
「クソガキがぁ!!」
突進。大きな腕が杏々を掴みにくる。
杏々が半歩入る。
「!」
腕を取る。腰。重心。男の勢い。
全部そのまま利用する。
「え――」
身体が浮く。
ドンッ!!
背中から路地へ落ちた。
「がっ……!」
男の息が詰まる。それでも起きようとする。
「まだ……!」
静かに見る。
「おじさん殴ったの」
「…………」
「もう一回やったら」
一歩。
「今より痛いよ」
「…………っ」
男が止まる。
杏々は構えを取っていない。
分かる。勝てない。
「…………」
男は奥歯を噛む。
「覚えてろよ……」
「覚えないと思う」
「てめぇ!」
「でも」
杏々の目が少しだけ鋭くなる。
「またおじさん殴ったら」
「…………」
「その時は覚える」
「…………っ」
男は何も返さない。
立ち上がる。
そして。
杏々から距離を取りながら、路地の奥へ消えていった。
◇
「おじさん」
杏々の姿は既にいつもの小さな姿だった。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
「痛い?」
「ちょっとな」
「病院行く?」
「いや……そこまでは」
「行った方がいいよ」
「…………」
おじさん。
困ったように笑う。
「本当に強いんだな、嬢ちゃん」
「?」
「いや……ありがとう」
「うん」
「でも」
「?」
「また来るんでしょ?」
「…………」
おじさんの顔が曇る。
「借金」
「…………」
杏々は借金というものに。
そこまで詳しくない。
お金を借りて返す。それくらい。
「いくら?」
「え?」
「返すの」
「いやいや!」
おじさんが慌てる。
「嬢ちゃんには関係ないよ!」
「でも返さないとまた来る」
「それは……」
「だったら――」
「お姉ちゃん」
「?」
聞き慣れた声。
杏々が振り返る。
「…………」
そこには杏々の妹が立っていた。
「いたの?」
「いました」
「いつから?」
「最初から」
「…………」
「どこに?」
「その説明はあとでいいです」
妹はため息をつきながら、おじさんへ近づく。
「怪我、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
「一応、病院には行ってください。診断書も取っておいた方がいいです」
「診断書?」
「はい」
妹はスマートフォンを操作している。
「それと」
おじさんを見る。
「借金の契約書、残ってます?」
「え?」
「原本でもコピーでもいいです」
「あ、あるけど……」
「返済記録は?」
「通帳と領収書が」
「全部あります?」
「たぶん」
「じゃあ見せてもらえますか?」
「…………」
杏々は妹を見る。
「何するの?」
「確認する」
「何を?」
「いろいろ」
「…………」
よく分からない。
でも、妹がやると言っている。
なら。たぶん大丈夫。
◇
店内。カウンター。
さっきまでチャーハンと餃子を食べていた場所に。
今度は、契約書、返済明細、領収書、通帳。
いろいろ並んでいる。
妹が書類を順番に目を通していく。
「…………?」
眉。
少し動く。
「これ、最初に借りた金額はいくらですか?」
「これくらい」
「今まで返した金額は?」
「正確には分からないけど……」
妹が何やら計算をしている。
「…………」
横から覗く。
「分かる?」
「お姉ちゃんは分からなくていいよ」
「うん」
即答。
「それより。この借金を全部返せば、とりあえずこのお店には来なくなると思う」
「じゃあ払う」
「早い」
「払える?」
「…………」
妹が杏々を見る。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「自分が今、いくら持ってるか知ってる?」
「…………」
杏々が財布の中を覗き込みながら考えていると
「そうじゃなくて」
「?」
「全部」
「…………」
少し長く考える。
「分かんない」
「だと思った」
「足りない?」
「全然大丈夫」
「じゃあ大丈夫」
「判断を全部こっちに投げないで」
「?」
妹はため息をついた。
でも。少し笑う。
「まあいいや」
おじさんが慌てる。
「待ってくれ! そんなの受け取れないよ!」
「でも、おじさんいなくなったら」
「え?」
「餃子食べれなくなる」
「…………」
「チャーハンも」
「…………」
「困る」
「そこ!?」
「うん」
杏々は真面目な顔で答える。
「だから払う」
「…………」
おじさんは言葉が出ない。
妹が横から補足する。
「こう言ってますけど、お姉ちゃん的には本当にそれだけじゃないと思うので」
「?」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「うん」
◇
それから。
妹は動いた。
取り立て業者へ連絡。残債の確認。返済条件。契約番号。振込先。そして。
「支払いだけじゃ駄目です」
電話越し。
「全額受領後、債権債務が存在しないことを確認する書面」
『――』
「完済証明」
『――』
「原契約書一式」
『――』
「担保、保証、付随契約があるなら全部解除」
『――』
「あと、この店舗と店主さんに対して今後一切請求しないこと」
『――』
杏々は隣で先ほど食べ残していた餃子をぱくついている。
「…………♡」
さっき途中だった。
冷めても。
おいしい。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「今ちょっと大事な話してるから静かに食べて」
「うん」
もぐもぐ。
電話が続く。妹は容赦がない。
「口頭だけでは受けません」
『――』
「書面でください」
『――』
「先ほど暴行もありましたよね?」
『――』
「こちら、記録ありますので」
「…………」
杏々は妹を見る。
「撮ってたの?」
妹は口元へ指。
「しー」
「…………」
杏々はまた餃子をたべる。
ぱく。
◇
数時間後。手続きが終了した。
「はい」
妹が書類を揃える。
「これで」
おじさんを見る。
「この借金については完済扱いです」
「…………」
「向こうから完済証明も出させました」
「…………」
「原契約関連も全部確認しました」
「…………」
「少なくとも、これを理由にまた取り立てに来ることはできません」
おじさん。
しばらく。
何も言わない。
「……本当に」
声。
震える。
「本当に、いいのか?」
「うん」
「でも、こんな大金……」
「大丈夫だって」
「いや、それは妹さんが言っただけで……」
「妹ちゃんが大丈夫って言ったから大丈夫」
「…………」
「お姉ちゃん、それ今後どこでもやらないでよ」
「?」
「私が大丈夫って言ったら何でも払うの」
「ダメ?」
「場合による」
「今回は?」
「大丈夫」
「じゃあ大丈夫」
「…………」
妹はもう諦めていた。
おじさんの目元が少し赤い。
「ありがとう」
頭を下げる。
「本当に……ありがとう」
「別にいいよ」
「…………」
「それより」
杏々が皿を見る。
「餃子」
「え?」
「また食べに来ていい?」
おじさんは一瞬ぽかんとした顔してそれから笑った。
「もちろんだ!」
「やった」
「次は腹いっぱい食わせてやる!」
「今日も腹いっぱい食べたよ」
「じゃあ次はもっとだ!」
「…………♡」
杏々は嬉しそうだ。
妹は横から杏々とおじさんを見る。
「借金払った時より嬉しそう……」
「餃子いっぱい」
「うん。そうだね」
◇
数日後。
杏々が家のソファでごろごろしている。
手にはもちろんお菓子。
「お姉ちゃん」
「ん?」
妹が隣へ座る。
「この前の町中華」
「うん」
「借金の件」
「うん」
杏々はお菓子を食べる。
「どうしたの?」
「調べたら」
妹ちゃんが少しだけ表情を変える。
「あれ、無理やり作られた借金みたい」
「…………?」
杏々の手が止まる。
「どういうこと?」
「最初は普通の事業資金みたいな話だったんだけど」
妹ちゃんはスマートフォンを見ながら説明する。
「後から変な手数料を追加されたり、勝手に契約条件を変えられたりしてた」
「…………」
「返しても返しても減らないようになってたみたい」
「…………」
「しかも」
「同じようなことされてたお店、他にもあった」
「…………」
杏々の顔が少しずつ険しくなる。
「ひどい」
「うん」
「おじさん悪くないじゃん」
「そう言うと思った」
「…………?」
「だから」
「うん」
「お父さんに相談しといた」
「お父さん?」
「うん」
「それと協会の法務と、警察にも資料回して」
「…………」
「契約書とか、返済記録とか、あの時の取り立ての映像とか」
「うん」
「全部調べてもらった」
杏々はお菓子を持ったまま聞く。
「それで?」
「業者」
妹ちゃんはさらっと。
「潰れたよ」
「…………」
「営業停止」
「…………」
「関係者も何人か捕まった」
「…………!」
「被害に遭ってた店舗の契約も順番に調べ直してるって」
杏々が起き上がる。
「じゃあ」
「うん」
「他のお店も助かった?」
「少なくとも、同じやり方で潰されそうだったお店は大丈夫みたい」
「…………」
杏々は少しほっとした表情になる。
「よかった」
「あと」
「?」
「お姉ちゃんが払ったお金も、戻ってくる見込みだって」
「そうなの?」
「契約自体が無効になる可能性高いから」
「…………」
「じゃあ」
「うん」
「餃子いっぱい食べれる」
「なんで返ってきたお金を餃子換算するの」
「?」
「まあいいけど」
「それでね」
「うん」
「被害に遭ってたお店の一覧も少し見せてもらったんだけど」
「お店?」
「飲食店、結構あったよ」
「…………!」
「どんな?」
「定食屋さんとか」
「うん」
「洋食屋さん」
「うん」
「お蕎麦屋さん」
「…………」
杏々の目が輝く。
「あと、焼肉屋さんも」
「行く」
「まだ何も言ってない」
「行く」
「…………」
妹ちゃんが笑う。
「じゃあ」
スマートフォンで地図を開く。
「今度、どこか食べに行ってみる?」
「うん!」
「せっかく潰れずに済んだんだし」
「うん」
「美味しかったら」
「また行く」
「それと?」
「…………」
「いっぱい食べる」
「そうだね」
妹ちゃんが小さく笑う。
「それでいいと思う」
「どこから行く?」
「お姉ちゃん決めて」
「全部」
「一日では無理」
「じゃあ順番」
「はいはい」
二人でスマートフォンの地図を覗き込む。
「ここ」
「定食屋さん?」
「写真おいしそう」
「じゃあ最初はそこにする?」
「うん」
「その次は?」
「焼肉」
「早い早い」
「その次お蕎麦」
「全部決める気?」
「うん」
杏々は楽しそうに次々と店を指差していく。
少し前まで閉店するかもしれなかった店。
もう料理を作れなくなっていたかもしれない人たち。
でも。これからも。そこへ行けば。
きっと。美味しいものが食べられる。
「楽しみ」
杏々が言う。
「うん」
妹も頷いた。
「いっぱい食べようね」
「うん♪」
結局。杏々にとってそれが一番だった。
困っている人がいたら助ける。
美味しいお店が残ったなら食べに行く。
とても単純で。
杏々らしい答え。
――そして。
次のおさんぽ先も。
また一つ。
増えた。




