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強化倍率∞ ~最弱スキル《超強化》だけで大陸を制した男~  作者: 伝説の男前
第一部 覚醒編

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第3話 「割れた盾」

夜襲の後始末は、思いのほか早く片付いた。


捕らえられた敵兵は基地の奥へと連行され、レンたちは仮設のテントに押し込まれて、束の間の休息を許された。とはいえ、眠れた者はほとんどいなかっただろう。土嚢の隙間から見えた短剣の輝きと、それを両断した錆びたナイフの光――あの光景は、召喚者たちの間に、レンへの新しい視線を植え付けていた。


嘲りではない。かといって、敬意でもない。強いて言うなら、警戒に近い何かだった。


「――お前、いったい何者なんだ」


翌朝、基地の食堂で向かいに座ったガイウスが、開口一番そう聞いてきた。レンは配給された固いパンをちぎりながら、困ったように目を伏せる。


「何者、と言われても……本当に、道具を強くするだけの力なので」


「昨夜のあれが『だけ』のわけがあるか。あの短剣、根元からきれいに両断されてたぞ」


「それは……ナイフの切れ味を、ちょっと上げただけです」


「ちょっと、ね」


ガイウスは呆れたように息を吐いたが、それ以上は追及しなかった。代わりに、自分のパンをレンの方へ押しやる。


「食え。今日も何があるか分からん戦線だ」


意外な優しさに、レンは戸惑いながら頭を下げた。


その日の昼、基地に緊張が走った。


「敵、砲兵陣地を展開! 大口径榴弾砲による制圧射撃が来るぞ!」


見張り台からの叫びに、基地全体が慌ただしく動き出す。指揮を執る若い将校――ダミアン中尉と名乗るその男は、召喚者たちを土嚢の陰に集めながら、苦い顔で状況を説明した。


「敵は新型の重榴弾砲を投入したらしい。着弾すれば、土嚢の防壁ごと吹き飛ばされる威力だ。塹壕の奥まで下がれ」


「おいおい、俺たちを最前線に立たせといて、いざとなったら逃げろってか」


ジークが皮肉げに吐き捨てる。ダミアン中尉は取り合わなかった。


「文句は生き延びてから言え」


遠くで、重い発射音が轟いた。数秒の静寂のあと、着弾の衝撃が地面を揺らす。土嚢の防壁の一部が、文字通り吹き飛んだ。悲鳴と怒号が入り乱れる中、レンは咄嗟に、支給された木の盾を抱え込んでいた。


――理解すれば、際限なく強化できる。


その言葉が、頭の中で反響する。だが、盾の構造や強度について、レンはナイフの時ほど鮮明な理解を持っているわけではなかった。木材の繊維の向き、接合部の強度、衝撃をどう分散させるか――知識の断片は浮かぶが、どこか曖昧で、掴みどころがない。


二発目の砲弾が、レンたちのいる陣地へと迫っていた。


「レン、逃げろ!」


ガイウスの声が響く。だが、逃げ場はなかった。仲間の召喚者数人が、まだ塹壕にたどり着けていない。このままでは、着弾の余波だけで命を落としかねない。


レンは、震える手で木の盾を構えた。


理解が浅ければ、力は伴わない――そのことは、なんとなく分かっていた。それでも、目を閉じて、盾という「道具」そのものに意識を集中させる。誰が、何のために、これを作ったのか。衝撃をどう受け止め、どう散らすように設計されているのか。粗末な木材の一枚一枚に刻まれた、名もなき職人の工夫を、想像力の限り読み取ろうとした。


「……頼む」


盾の表面が、ナイフの時と同じ淡い光を帯びる。だが、その光は不安定に明滅していた。理解が足りない証拠だった。


榴弾が炸裂した。


爆音と共に、爆風と土砂が周囲を飲み込む。レンは盾の陰でうずくまりながら、全身に叩きつけられる衝撃に耐えた。木の盾はみしみしと軋み、ひびの入っていた部分がさらに裂ける。それでも――砕けはしなかった。


爆風が去り、砂煙の中でレンはゆっくりと顔を上げた。手の中の盾は、ひび割れをさらに増やしながらも、かろうじて原形を保っていた。周囲にいた仲間たちは、擦り傷程度で済んでいる。


「……生きてる、のか」


誰かが呆然と呟いた声が聞こえた。


ダミアン中尉が駆け寄ってきて、レンの手の中の盾をまじまじと見つめた。


「これは……たかが木の盾で、榴弾の直撃圏内に近い距離での爆風を防いだというのか」


「あの、防いだというか……ひび割れちゃいましたし、完全に、ではなくて」


「それでも、だ」


ダミアン中尉の目つきが変わった。それは、ハズレの召喚者を見るものではなく、何か別の可能性を見出した者の目だった。


「貴様、名は」


「黒崎レン、です」


「黒崎……この件、私から上に報告する。しばらく、この盾もナイフも手放すな」


ダミアン中尉はそれだけ言うと、足早に去っていった。レンは、ひび割れた盾を見下ろしながら、小さく息を吐く。


――理解が足りなければ、これが限界。


裏を返せば、理解を深めれば、まだ先がある、ということだ。


「おい、レン」


ガイウスが、砂埃を払いながら近づいてくる。その顔には、もう嘲りの色はなかった。


「その力、俺にも少し、詳しく聞かせてくれないか」


レンは戸惑いながらも、小さく頷いた。


戦場の片隅で始まったこのやり取りが、後にエルデシア大陸の戦史を大きく塗り替える、最初の協力関係になるとは、この時のレンにはまだ知る由もなかった。


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