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7.魔術師レイとの対面

 グリモード伯爵家では、1か月後に迫ったギルバートの留学の準備が進められていた。


セバスが、兄の部屋でガーラ国の学院に送る荷物をチェックしている横で、ギルバートは肩をすくめて梱包された箱を眺めていた。


「こんなに荷物いらないよ~」


「お坊ちゃま、これらは最低限の荷物のみ詰めてあります。他に必要なものがございましたらガーラ国の御屋敷の者にお伝えください。すぐに送らせていただきます」


(お兄様、たった3箱しかありませんけど?)


ギルバートは、部屋の前にいたクリスティーナに気がつくと「あっ、そうだった」と、クリスティーナの手を取って父のいる執務室に向かった。


兄がノックをして執務室に入ると、ちょうど母が執務室でお茶を飲んでいるところだった。


「あっ、母上もいてくれてよかった。お話があるんですが、今よろしいでしょうか?」


「あら、ギルどうしたの」


母は侍女に子供たちのお茶の準備をするようにいうと、父と一緒にソファに腰を下ろした。


「実は、辺境伯令息のガイも1年早いけど、俺と一緒に留学することになったんです。それで魔術師のレイ師匠もガーラ国に戻ることになりました」


「そうか、ガイ様が一人で辺境伯領に残るよりもその方がいいかもしれんな……」


父はそう呟くと、何かを考えているような表情をした。そして兄は、クリスティーナを見ると、ニヤリと視線を送った。


「それで、俺達がガーラ国に行く前に師匠がうちに挨拶に来るって……」


「えぇ!レイ様にお会いできるのね!」


クリスティーナは、兄の言葉にかぶせるように叫び、喜びながら立ち上がって拳を握った。魔法協会に登録出来るような魔術師になると決心してから、レイ様にお会いしたいとずっと兄にお願いしていたのだ。


「あぁ、レイ師匠にはクリスのことを話してある。ガーラ国に留学した際には、俺達と一緒に魔法訓練してくれるって承諾ももらってるよ」


「嬉しい~!私、出来る限り早くガーラ国に留学します!直ぐにでも入学試験を受けられるように、お父様、学院に交渉をお願いたします!」


両親と兄は、私のすぐに留学したいという熱量に引いていたが、父は「わ、わかった、学院に連絡してみよう」と頷いてくれた。


兄は、「でもな……」と渋い顔をしてクリスティーナを見た。


「俺達は、この国では魔力無しで登録されてる。だから留学先で魔術科に入ることはできないんだ」


クリスティーナは「あっ、確かに……。それじゃ、どうしたらいいの……」と呆然としていたが、兄は「さっき言っただろ」とクリスティーナの頭をポンポンとたたいた。


「俺達は、学院の魔術科には入れない。だから俺とガイは騎士科に入学する。そしてクリスは淑女科か経営科。魔法はレイ師匠が魔法協会の訓練場で指導してくれることになってる」


「えっ、凄い!魔法協会の訓練場で指導が受けられるなんて!それもレイ様直々に!ギル兄様、私、死ぬ気で頑張ります!」


クリスティーナは、書類が積み上がった執務室で、飛び上がりながら喜びをかみしめていた。


♢*♢*♢*♢*♢*



魔術師レイから、ギルバート達がガーラ国に出発する1週間前にグリモード伯爵家を訪れると手紙が届いた。手紙には、ギルバートとクリスティーナの将来の進路について両親の意見を聞きたいと書かれてあった。

 


「ねぇ、ギル兄様。まだかしら?」


クリスティーナは、門の前でソワソワと魔術師のレイが現れるのを待っていると、ギルバートが呆れた顔で妹を見た。


「約束の時間までもう少しあるだろ。家の中でお茶でも飲んで少し落ち着けよ〜」


「だってレイ様は、転移でここまでいらっしゃるんでしょ。レイ様が現れる瞬間を見たいの!」


兄妹で騒いでいると、後ろから笑い声が聞こえてきた。


「残念だったね〜。少し早めに来ちゃったよ〜」


背が高く、真っ赤な紅の髪に金色の瞳の逞しい美丈夫が笑いながら二人に声をかけた。


「師匠!」


レイは二人の前まで来ると、少し屈んでクリスティーナに目線をあわせ優しく微笑んだ。


「初めまして。君がクリスティーナだね」


(うわぁ!金色の瞳が虹色に光輝いてて、なんて綺麗な瞳なのかしら……)


クリスティーナは、頬を染めながらレイの美しい瞳に見惚れて数秒ほど固まっていたが、ハッと我にかえり、カーテシーをして何とか挨拶をした。


「初めまして。グリモード伯爵家長女のクリスティーナでございます」


「丁寧な挨拶をありがとう。んっ?君は不思議な魔力を纏っているね」


「えっ、不思議な魔力……ですか?」


「ん~、これは光の魔力だけじゃない……。闇の魔力も混ざっているな」


「「 闇!? 」」




門前で騒いでる子供たちの声に気がついた両親と執事のセバスが慌てて屋敷から出てくると、何故か父とセバスは、レイの顔を見て一瞬だけ目を瞠っていたが、すぐにいつもの表情に戻り挨拶をした。


「レイ様……でいらっしゃいますか?子供たちが案内もせずに大変失礼いたしました。グリモード伯爵家当主のウィリアムと申します。こちらは妻のサラージュです」


「魔法協会のレイと申します。今日はお時間をいただきありがとうございます」


(ん?レイ様は、父とアイコンタクトで何か会話をしている?)


兄と私が首を傾げていると、執事のセバスが空気を読んだかのように、サッと皆を屋敷の中に案内した。




そして応接室にお茶の準備が整うと、父はセバスを残してメイド達を部屋から退室させた。


父が何かを言おうとしたが、レイ様がそれを遮り話始めた。


「今日はご両親に御子息の進路について確認しておきたいと思っているんだが、ご両親はギルバート君を魔術師にしてもいいというお考えなのだろうか?この国では魔力無しと登録してあるが、魔力があったことを隠していたと、伯爵家が国から罰せられたりするのではないか?」


父は、母と目を合わせるとお互いに頷いた。

 

「そのことについては、子供たちが魔術を学びたいと言った時から、私達は覚悟を決めております。子供たちがガーラ国の学院に入ったら、私達も爵位を分家に譲りガーラ国に移住するつもりです」


「ガーラ国に移住して平民になると?」


私と兄は、両親が私達のために爵位を捨てて平民になろうとしていたと聞いて、びっくりして顔を見合わせた。

 

「はい。私達は爵位に執着はありません。商会を営んでおりますので平民になっても問題はありません。最近、屋敷にあった物の大半を処分したら、何故か執着という気持ちまで無くなってしまいまして……」


「執着……。そういえば、クリスティーナ嬢は『断捨離』というもので、ご令嬢達を手助けしていると聞いている」


「えっ、あ、大したことはしていません。少しだけ自分の気持ちに気が付けるアドバイスをしているだけなんです」


先程の両親の告白に呆然となっていたクリスティーナは、急に話を振られて頭が回らず、当たり障りのない返答のみ返した。


そしてレイ様は、両親に子供達を魔術師にすることの了承を得た後、父に話があると言って執務室に移動していった。


♢*♢*♢*♢*♢*


執務室に入ると、伯爵は、レイに向かって深々とお辞儀をした。


「ガーラ国王弟殿下」

 

レイは、苦笑いをしながら首を振った。

 

「いや、今の私は只の魔術師だ。頭を上げてくれ」


伯爵は、レイにソファに座るように促すと、ドアをノックをして執事がお茶を運んできた。執事のセバスは、すぐに部屋を出ようとしたが、レイはセバスを呼び止めた。


「あぁ、執事殿。貴方にも一緒に話を聞いてもらいたい。実は、私から仕事を依頼したいんだ。メナード辺境伯についてなんだが……。伯爵なら辺境伯の出自の情報は掴んでいるだろう。現メナード辺境伯は、ガーラ前国王の庶子で、生まれてすぐにダリオン国の前辺境伯夫妻の元に秘密裏に連れてこられた。そして、前辺境伯夫妻には子供がいなかったため、彼を実子として届出を出した。前辺境伯夫妻が亡くなった後、彼はメナード辺境伯当主となり、執着した女性と無理やり婚姻を結び、ガイが生まれた……。辺境伯の息子ガイは私の甥だ」


ガーラ国の前国王は、すでに二人の子を授かっていた。しかし、前国王は、国境にある魔の森を訪れた際に竜人族の女性と出会い、その女性を王宮に連れ帰り、秘密裏に離宮に住まわせた。前国王は、王妃と彼女を平等に寵愛したが、その女性は国王の子を成すとすぐに自害した。竜人族であった女性は、番である国王の寵愛が他の女性にも向けられることが苦痛で毒を飲んだのだった。そして、その女性と赤児の事は緘口令がひかれ、王宮でも彼等のことを知る者は僅かだった。


現在のガーラ国王と王妃の間には子がいない。そして国王は、側妃は娶らないと宣言している。王弟のレイノルドも未だに婚姻をしていない。ということで、王家の血を引くガイを養子に迎えて王太子にという案が上がり、特級魔術師でもある王弟のレイノルドが、ガイの様子を見にきていたのであった。


伯爵は、仕事の顔に切り替えると淡々と答えた。


「はい。私共もメナード辺境伯の事情は存じておりました。辺境伯は、婚約者と結婚間近だったグルフスタン令嬢を攫って強引に婚姻を結んだと……」


グルフスタン令嬢は、婚約者と参加していた王宮の夜会で辺境伯に挨拶をした際に、辺境伯から番だと言われ、そのまま馬車に詰め込まれて辺境伯のタウンハウスへ攫われていった。そしてメナード辺境伯の分家だったグルフスタン伯爵家は、辺境伯から言われるがままに、婚約を結んでいた相手と婚約を解消して、そのまま辺境伯と婚姻を結んだ。


レイは、苦々しい表情をしながら腕を組み、今まで辺境伯領で得た情報を整理しながら伯爵と執事に説明をした。

 

「辺境伯……セイランの番に対する執着は、血だ。セイランの母親は竜人族だった。竜人族は、番に執着し、番う相手は生涯で一人だけだ。辺境伯夫人が亡くなってからは、彼奴は亡霊に囚われているようだったと報告がある。執事の話では、夫人が亡くなってから3か月程は伏せっていたが、急に自室から出て魔の森に単独で向かったと。辺境伯城に戻ってからは、自室から誰かと会話しているような声が毎夜聴こえてくるようになり、そしてその頃にガイの顔が消えたらしい」


伯爵は、顎に手を当てながら「辺境伯は、何をしに魔の森へ……。あっ、魔の森には竜の滝があったか……」と推測を立てている様子に、レイは、「流石は伯爵だな」と笑った。


ガーラ国との国境にある魔の森は、瘴気が強く魔獣が生息していて、滅多に人は近づかない森だった。魔の森の奥には昔に竜人族が住んでいたという竜の滝があり、そして、その竜人族は、膨大な魔力を持ち、時空間を操れる術を持つとも言われていた。


「私もセイランは竜の滝に向かったと推測している。しかし、ガイの顔が消えた事にセイランが関わっているのは確かだと思うのだが、竜の滝で何があったのかがが掴めていない。それがわからないとガイの顔を取り戻す方法も見つけることが出来ない。辺境伯城に潜り込んで探ろうと思ったのだが……。伯爵、済まないがお願いできるだろうか」


伯爵と執事は、レイに深々と頭を下げた。

 

「殿下の御依頼とあれば、私達が動かせていただきます」




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