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11.ガーラ王立学院への入学

 魔の森でレイの魔法指導が始まってから2か月を過ぎ、夏の暑さも収まってきた頃、クリスティーナは、ガーラ王立学院の入学式の日を迎えた。


「ノア~、リボン曲がってない?制服、どこもおかしくないかしら?」

 

侍女を側に置かずに自分で身支度を整えているクリスティーナは、ノアを捕まえると、ノアの前でクルクル回りながら制服の確認をしてもらっていた。


「お嬢様、大丈夫ですよ。いつも通り可愛らしいですからご心配なさらずに、早く馬車に乗ってください」


先に馬車に乗り込んでいたギルバートとガイは、クリスティーナが玄関の前で騒いでいるのを呆れた様子で見ていた。


クリスティーナが馬車に乗り込むと、ギルバートは「誰から?」とクリスティーナが手に持っている手紙を指さした。


「フフフっ。実は私の友人のフェミリア様も、ガーラ王立学院に入学することになったって連絡がきたの。彼女、ガーラ王立学院の入学試験は両親に内緒で受けて合格はしていたんだけど、グルフスタン伯爵がどうしても留学はさせないと反対していて。でもギリギリまで粘って説得して、3日前にようやくガーラ国に着いたって。今日の入学式で会いましょうって、今朝手紙が届いたのよ。本当に間に合って良かったわ~」


「えっ、グルフスタン伯爵のフェミリア嬢って、俺の従兄妹の?」とガイは身を乗り出した。


「ガイ様、そうでした。グルフスタン伯爵家は、ガイ様のお母様のご実家でしたわね」


ガイは、少し気まずいような顔をしながら頷いた。


「……あぁ、母の実家だ。フェミリア嬢には一度だけあったことがある。彼女の10歳のお披露目の時か……。爽やかな凛々しい雰囲気のご令嬢だった」


(おぉ~、フェミリア様が自分に自信を持って生まれ変わったお披露目パーティーでお会いしたのね)


「フェミリア様は、騎士科を専攻されます。ガイ様もお兄様も、フェミリア様をよろしくお願いいたしますね」


クリスティーナは二人に強い眼差しで念を押すと、ガイもギルバートも何も言わずに首を縦に振った。



♢*♢*♢*♢*♢*


 入学式が終わり、組み分けされた教室に入ると、「クリスティーナ様!」と窓際に座っていたフェミリアが手を振っていた。


この学院は3年制で魔術科・騎士科・経営科・淑女科に分かれているが、2年生までは専攻科に関係なく成績順にクラスが分かれており、週に数時間だけ専攻科に分かれて授業を受ける。卒業した後は、家業や仕事に就く者や婚姻のための準備をする者、そして文官を目指す者は高等学院に進学する。


クリスティーナもフェミリアも「Aクラス」で、入学試験でトップから20人がこのクラスに振り分けられていた。


「クリスティーナ様、同じクラスなんて心強いです」


「私もフェミリア様と同じクラスで嬉しいです!あっ、フェミリア様の従兄妹のガイ様もこの学院にいらっしゃいますので、昼食時に兄と一緒にご紹介しますね」


「えっ、メナード辺境伯のガイ様ですか!ガイ様は顔に傷を負われてから、ずっと仮面をされていると……。そういえば、私のお披露目会で以前お会いした時も仮面をつけていらっしゃいましたが、今はお怪我のほうは治癒されたのでしょうか……仮面をつけなくてはいけないほどの怪我を負われたなんて、相当に辛い思いをされたと思います」


(やっぱり、フェミリア様は優しいわね。仮面が恐いとか酷いことをいう人も多々いるけど……。フェミリア様とお話をしていると、真っすぐな受け答えが気持ちいいのよね)



学院にも慣れてクラスの生徒とも仲良く過ごせるようになってきた頃、Dクラスの男子生徒が小柄なフワフワしたピンク色の髪色をした女の子を腕にぶら下げて大声を上げてAクラスの教室に入ってきた。


「ローラはいるか!」


窓際の席で本を読んでいた女子生徒が顔を上げた。


「ジョージ様?」


教室にいた生徒達は何事だと、入り口に仁王立ちしている男子生徒を唖然と見ていた。


「相変わらず陰気臭い顔をしている。お前のような、いつも髪で顔を隠しているような眼鏡女は俺の婚約者には相応しくない!今日をもってお前との婚約は破棄する。金輪際、私には近づくな!」


そう言うと、その男子生徒は腕にぶら下げた女の子を連れて教室を出て行った。


「えっ……」ノーサンプトン侯爵令嬢のローラ様は呆然と教室の入り口を見つめていたが、そのまま顔を俯かせて本を閉じると教室を小走りに出て行った。私とフェミリア様は、目を合わせて頷くと彼女を追いかけた。


ローラ様を追いかけて中庭に出ると、彼女は声を抑えて顔を手で覆いながら涙を流していた。


「ローラ様、大丈夫ですか?」


私達が声を掛けると、眼鏡を外した彼女が顔を上げ、いつも前髪で隠していたローズレッドの瞳が私達を見つめた。


「だ、大丈夫です。申し訳ありません。恥ずかしい姿を見せてしましました……」


私とフェミリア様が、ローラ様の美しい瞳に見惚れていると、ローラ様はハッとして、手で前髪を降ろして美しい瞳を隠して俯いた。


「ローラ様、なぜそんなに美しい瞳を隠していらっしゃるのですか?私達、ローラ様の瞳に見惚れてしまいました。まだ知り合って間もないですが、私達で良ければお話をお聞きしますよ」


ローラ様は、恐る恐る顔を上げると美しい瞳で私達を見上げた。

 

「私の瞳が美しい……?気持ち悪くないですか?」


「いいえ!ローラ様のような美しいローズレッドの瞳を持つ方に初めてお会いしました」


ローラ様は、美しいローズレッドの瞳に、サラサラな銀髪を持つ美少女だったが、いつも何故かそれを隠すように眼鏡を掛けて前髪で顔を覆うようにしていた。


「……私は先ほどのサヴィル侯爵令息に、私の赤い瞳が気持ち悪いと言われ、ずっとこの瞳を隠して暮らしてきました。両親は彼は照れ隠しでそんなことを言っているだけだと慰めてくれましたが、会う度に気持ち悪いと言われ、いつの間にか私もこの瞳を晒すのが恐くなってきました。でも、先ほど婚約を破棄されましたので、ようやく彼に気持ち悪いと言われ続けることもなくなるんだと……。実は嬉しくて、涙が出てしまいました!」


((嬉し泣きだったんかい!))



クリスティーナとフェミリアが、ローラを挟んでベンチに座ると、彼女は小さな声で話し出した。


「サヴィル侯爵令息とは、両親達が共同事業を始める際に、両家にちょうど同い年の子がいるからと、確固な絆を結ぶために政略で婚約をいたしました。でも彼は初顔合わせの時に、私のこの目が気持ち悪くて怖いと言って、みんなの前で泣き叫び……、それ以来、私はずっと顔を隠してきました」


「酷いわね……。サヴィル侯爵夫妻は令息に注意なさらなかったの?」


「何度か注意してくださったようなのですが……。最近は、もう少し大人になれば酷いことも言わなくなるだろうと諦めたような感じで……」


「ローラ様、サヴィル侯爵令息との婚約はもう解消されたのです。もう貴方を貶めるようなことを言う方は側におりません。紅い瞳を稀有な目で見る方もいらっしゃるかもしれませんが、私達のように美しいと思う方も沢山いらっしゃると思います。人の思いなんて十人十色。これからは、なりたい自分になって、やりたいことをやってみてはどうでしょうか」


フェミリアが、クリスティーナの言葉に頷きながらローラに問いかけた。


「ローラ様は、何にも縛られないとしたら、何かしたいことはありますか?」


「何にも縛られないとしたら……」


「そうです。侯爵令嬢のローラ様ではなく、ただのローラ様だったら?」


「私、自分がしたいことって考えたことがなくて……。でも、自由に自分らしく顔を上げて道を歩いてみたいです」


フェミリア様は、ローラ様の手を優しく握ると、にっこりと微笑んだ。


「ローラ様、私も以前はすべての事を両親にいわれるがままに従い、自分の好きなものも、したいこともわからない状態でした。そして、悩んでいる時にお茶会でクリスティーナ様とお友達になり、彼女は私の悩みをすっかり解決してくださいました。実は、ここの学院に来るのも父にかなり反対されたんですが、父を説得出来るぐらい強くなれました。以前の私では想像できないことです。ローラ様も、勇気をだせば過去の自分を手放せますよ」


「過去の自分を手放す……」


「はい。私はクリスティーナ様から断捨離というものを提案していただき、自分が心地良いと思わない物をすべて処分したんです。そして、自分の大好きなものだけに囲まれて過ごすようになったら、自分の望んでいることを知ることができました。そしてその後に、過去の自分もいっぱい頑張ったねって、ギュッと抱きしめてから、過去の自分にさよならしたんです」


クリスティーナは、フェミリアに頷きながら微笑んだ。


「自分を抑えてずっと自分の気持ちに嘘をついていると自分の本音が分からなくなってしまいます。好きなことは好きといえる気持ちがローラ様を守ると思いますよ」


ローラ様は涙を溜めた瞳で私達を見つめると、うんうんと頷き、そしてそっと自分の体を両手で抱きしめた。



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