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行方知れずのノネット  作者: ツァツァ
第六話 観光客と世界
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 その後も小人の興味が赴くままフラフラと見て回る。全体的に食料品や日用品の比率が高いようだが、食べ物一つとっても見慣れない物が多い。更にそれを売る店主も買う客も見慣れない姿ばかりで、ほぼ冷やかしだけでも飽きる事はない。先程も、なんだかよく分からない真っ黒な毛むくじゃらな店主が、何かは分からないがとりあえず美味しそうな匂いのする葉っぱに包まれた物を、飾り羽や翅が沢山生えた客に売っていた。

「お姉さんお姉さん、ちょっと見てかない?こっちの布とか。仕立てもあるよー」

 ドライアドが、幾何学的な鮮やかな模様の布を持った、狐の耳尻尾を持つハーフの男性に声をかけられる。下手に出た客引きのやり方、目を細めた表情の作り方などはいかにも商人を絵に描いたような人物。小柄で童顔ではあるが、何となくお兄さんよりはおじさんに近い気がする。

「いらない」

「おー、綺麗な布だねー」

 ドライアドは商品をちらりと見ると、迷いもせずに断る。ドライアドの枝から頭に飛び乗った小人が興味深そうに見ているが、冷やかしの気配も漂っている。

「おいおい、褒めるならもっと欲しそうにしてくんないかね? そっちのお姉さんも一つどうかね?」

 商人も冷やかしの雰囲気は感じ取ったらしい。けれど、特に気分を害した様子はなく、今度はこちらに向かって売り込みをしてきた。

「半竜見て女扱いって珍しい…よね?」

「…記憶の中では無いかな」

 まだあまり外に出ていないから、小人が疑問符付きで呟く。自分は顔立ちも体格も、よく知る人なら完全に中性的だと言うが、以前は特に男が多い騎士の格好をしていたのもあって、少なくとも初見では大抵男性だと思われていた。けれど、商人も大した理由は無かったらしい。

「そりゃ、この辺じゃ女戦士も珍しくないし、こう言うの買うのは女ばっかだからねえ。迷ったらとりあえず女と思って、男の機嫌なんか知らねえってな」

 いっそ清々しい程の営業スマイルである。

「けど、珍しいね。君らは観光客っぽいけど、レイキアの人って訳でもないんだろ?」

「そうだよー。僕達はすっごく遠い所から来たんだー」

 レイキアと言うのは、ここから十数キロ離れた所にある大きな湖のほとりにある街だ。こちらに比べてやや裕福な人が多く、ちょっと出かける時なんかにこの街へ来る人がそれなりにいるそうだ。

「あの街以外からここまで来ようとすると、どうしても移動魔法が必須だからねえ。でも、わざわざ魔法を使う程何かある訳でも無いし、やっぱり格好がこの辺じゃないから結構目立ってるよ」

 移動魔法と言うのは、基本的に性能が上がれば上がるほどコストが跳ね上がる性質がある。特にこんな大陸のど真ん中まで来ようと思うと、徒歩や馬では何年かかるか分かったものじゃないし、結構な魔力を使う遠距離の瞬間移動を数百回は使うか、高速移動で何日もかけて行くしかない。そうやって考えると、エリュシオンが随分オーバースペックに感じられるな。

「ねーねー、話ついでにこの辺りの噂話とか聞かせてもらってもいーい? 具体的に言えば魔族絡みで。なんならその布買うからさ。と言ってもあんまり手持ちは無いんだけど」

「おや、意外。小人に服、獣人に宝石って言うように、普通小人にはこの手の品物は受けが悪いんですがね」

「そんな言い回しがあるのか」

「あれ? よそじゃ言わないですかね? この辺りだと多種族が入り乱れて暮らしてるから、そういう言い回しが多くてねえ。小人はケーキの方がいいし、獣人ならご馳走。服はドライアド、宝石はエルフの方が良いなんてよく言うんでさ。エルフの場合は金で飾った物より銀で飾った物。魔法の媒体としての側面が強いから原石でも喜ばれたりするけどな」

 独特な姿に個人差も大きいドライアドの服なんて結構難しそうだ。そう言えば、ここに来るまで布屋はそれなりにあったが、服屋は殆ど無かったような気がする。好みや価値観が様々なのも当然と言えば当然だが、実際に共に暮らしてみないと分からない事も多そうだ。

「で、こう言った小さい物なら魔貨3枚ぐらいから……」

 商人はいくつかの手ごろな商品を取り出す。小人は見せられた物の中から魔貨5枚で海のように青い色合いの物を買っていた。話のお代としてではあるが、それなりに気に入っているように見えた。

「さて、何か噂話をするのだったね。魔族となると……君達は国の調査員か、勇者の類ってところかな? でも、もし後者であったらちょっと残念かもしれないね?」

 改めて、商人は少々不思議な事を言う。

「そうなのか?」

「ああ。昔からここは強力な魔族が多い地域だってのは聞いた事があると思うけど、色々あって最近は随分平和になってるんだ」

「うん、確かに。話からのイメージと違ってちょっと驚いたよ」

「そうだな。魔族が来る場所だと聞いていたから、もっと荒廃しているのかと思っていた」

「あはは。そう思うのも無理はないだろうねえ。実際以前はギリギリの時もあったからなあ」

 何となく予想外の事がありそうな前フリで、しかし世間話をする程度の気安さで商人は話を続けた。

「この辺りは元々碌でもない言い伝えがあった上に、魔族の拠点っぽいって話もあったぐらいだしな。でも、一年前に勇者達がとうとう親玉らしき奴を倒したらしいんだ」

「……はい?」

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