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「にしても、ちょっと舐めてたなあー」
小人が鍛練に参加するようになってから数日が経っている。あまりに不意にいう物だから何の事かと思ったが、単純に自分達がこれまでやっていた鍛練の事だったらしい。
「……まあ、多少ヒートアップしてしまった感は否めないが」
小人相手の時はまだ練習と言う意識が残るが、ドライアド相手の時は完全に真剣勝負である。互いの成長と性格が後押しして、日々進化というべきか悪化と言うべきか。また、以前であれば事故を警戒した物だが、生身同士でないために加減が必要ない。更に、何をやっても怪我をしないと言われた今後は、さらにエスカレートしていくだろう。
「いやいやそこじゃなくてさ」
それ自体は否定しないと言った様子だが、言いたい事は他にあるらしい。
「それは僕も人の事言えな……ってそうじゃなくて基礎練の方」
「あー」
返事を返したのは自分ではなくドライアド。確かにこちらについても多少やり過ぎな部分も否定できないが、少しずつ体力がついて来れば負荷を上げていくのは自然な事だろう。しかし、他所の事など知らないから、傍から見れば奇異に映る事もあるかもしれない。
「いや、僕も鍛練らしい鍛練はした事が無いから君がおかしいと言うつもりはないけどさ。ただ、よく毎日毎日延々と地味な事を続けられるなあって」
実は、こちらとしては探求以外は飽きっぽそうに見える小人がここまで続けられている方が意外だったのだが。
「飽きたのか?」
「別にそういう訳ではないかな。もとはちょっと体の動きを確かめるだけのつもりだったんだけど、何となくじわじわと強くなってる感じがするし」
「あー、それは自分もちょっと気になってたな」
「ほへ?」
ここで鍛練をするようになってから、ずっと不思議に思っていた事があったのだ。
鍛練をすれば、少しずつ技術と身体能力が上がっていく。以前はなかなか体力がつきにくい方だったが、最近どうにもその速度が速いような気がしていたのだ。気のせいかもしれない。それに、今の自分はエリュシオンの特性によって人からドラゴンへと少しずつ変わってきている。今の状況がその影響なのか、隠された特性なのか判断しかねていた。
「えー、じゃあ、普通はこんな簡単に強くなれないの? やっぱり基礎は大事なのかなって感心してたのに」
「戦い慣れているのに一朝一夕で成長を感じるような物ではないぞ」
残念そうにする小人に、小人だからいいかとそのまま事実を言ってやると、案の定小人は大して落ち込みもせず、むしろ何かよい事があったかのように顔を上げた。
「じゃあ、普通よりも楽しみながら修行できるって事だね!」
「え、ああ、そうだな」
予想以上のポジティブさで両手を握りしめる。
「中心に行くのが楽しみだねー」
「君が言うとただの旅行に聞こえてくるな……」
ふとドライアドの方を見ると、同意とも否定とも取れない微妙な顔をしていた。
「……油断は禁物」
「うん、分かってる分かってる」
「とんでもない化け物揃いだって話だもんな」
本来なら、近づく事すら無謀な場所。通常ならエルフや獣人のような反応の方が正しい。
「ところでさー、皆がこれまでにあった戦った事のある一番強い敵ってどんなだった?」
「これまで?」
「そう。ここに来る前も含めてね」
流れるような話題転換に、一瞬まだ続けるのかと思う。しかし、実際に思い返すと、全員の戦闘経験を確認する質問であると気付いた。
「僕の場合はクラーケンだったなー。クラーケンはもともと時々出る魔族だったし、墨と足に気を付ければ普通に倒せる敵だったから油断してたんだけど、そいつが実はシーサーペント並みに魔力貯め込んでてさ」
「うわあ」
「もともと賢い生き物だったのも原因かなー。ステータスの配分も追加能力もえぐいのなんの。それ以来、普通の色の魔族にはとりあえず警戒するようにしてるよ」
シーサーペントは水の亜竜。ワイバーンやワームと同格の存在だ。単純なステータスではシーサーペントに劣っても、もともとクラーケンは強い生物であり、厄介な能力をいくつか持つが、そこへ更に未知の能力を持てば、実際のステータスよりもずっと厄介な事になるだろう。
「自分は、あー、先日のワームが一番強い事になるのかな? 昔の方が死ぬかもって思った時は結構たくさんあったんだけど。大百足の大群とか、ワイバーンのペアとか。集団系はきついね。とにかく物量で押してくる奴とか、連携が上手い奴とか」
「おー、魔法無しでそれはきっついなー」
いずれも、最大の功労者は先輩達だったが、自分も容赦なく引っ張り出されて、本気で死ぬかと思った。特に大百足の時はまだまだ駆け出しも同然だったのに、殆どサポートも無しに前線に立たされた記憶がある。
「…私も一番強かったのはこの間のワームだと思う。死ぬかもって思ったのは、人間の集団とか、魔術師とかだけど」
「……ある意味大変だな、それ」
人の強さは、様々な魔族を倒してきた立場からよく分かる。時に甚大な人的被害が出た事もあるが、退けられなかった事は一度もない。
「魔術師って使い魔型? それとも神の眷属?」
「神の方」
「うわー。よくそれで女王について行こうと思えたねー」
「……もともとヤマ様の印象はよくなかったから」
「それでも結構一括りにされる事は多いけどな」
「女王は別に悪いって感じじゃなかったもんね。かと言って、良いって雰囲気も無いんだけど」
こうして思い返すと、あの国は比較的強力な魔族の少ない地域だったとよく分かる。ただ、それを聞いた小人はたった一言。
「うん、やっぱり逃げる一択かな」
「是非そうしてくれ…」
まだ諦めていなかった、と言うのは冗談だと思いたい。




