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「うーん、こう、微妙に情報があって、行って行けなくもない状況だと、いっそ、直接現地まで行ってみたい気もするなあ」
エルフや妖精たちと話していた小人が笑いながら言う。口調こそ軽く見えるが、表情は本気であるように見えた。
「えっそれは流石に危険……」
「構いませんよ」
あまりに気楽すぎる小人の発言をエルフが遮ろうとしたが、女王があっさりと許可を出す。
「やった!」
「いやいや、大陸中心ってかなり危険だからね!? 何か知りたいなら私が答えるし、下手したら死にますと言うか、普通に死にますよ!」
エルフがすごい剣幕で反対する。普段のエルフらしい静かな物腰が鳴りを潜めているが、実はこちらが素なのだろうか。
「中心と言っても、別に懐まで切り込むわけではないですから。ただ遠くからでも現地が見られれば良いのでしょう?」
「うん」
冷静に返す女王と、一つ一つ算段を付けていく小人。実利を兼ねて好奇心の為に確実に計画しているといった様子だ。
「いや、それだってアイツらがただで置くわけないからね!? 魔族の中にはすごく目のいい奴もいて、こっそり様子を見るなんて無理ですし。そもそも皆は勇者なんでしょう!? ただ見てただけですなんて言い訳も通じるわけないんですよ!」
「少なくとも貴方の思う最悪の状態にはしませんよ。」
「そういう問題ではないです! ほら、君達も他人事じゃないだから、一緒に止めて下さいよ!」
「え」
一人では埒が明かないと判断したエルフがこちらにも援護を頼む。けれど、顔を見合わせた自分達の回答はまた違っていた。
「女王が大丈夫っていうなら」
「きっと大丈夫」
「そんな無責任な……。もうちょっと自分を大事にした方がいいと思いますよ」
女王をそれほど信用していないエルフは心配そうにこちらを見る。
「では、後日丁度いい場所を狙って道を繋ぎましょう」
「よろしくー」
「ああ勝手に!」
結局、意思のすり合わせがメインだったのだろうか。お茶会と言うよりただの話し合いになったなと思いながら、並べられた紅茶とお茶菓子に手を伸ばした。
ところで、今のところ女王と距離を置いている獣人と竜人だが、自分達とは決して仲が悪い訳ではない。当初の共に助け合う仲間と言った雰囲気は失われたが、ごく普通の隣人として話したり差し入れを貰ったりと言う事はある。
「ん? 今日も小人と一緒なのか」
あのお茶会の翌日。畑の前でいつも通りに過ごしていれば、獣人の姿があった。
「やっほー。なんなら君も参加するかい?」
「いや、それは遠慮する」
数日前から参加している小人が声をかける。けれど、こちらをじっと見ていた獣人は迷うそぶりすら見せずに断った。
「ただ、ながらくそういう物から距離を置いていたお前がどういう吹き回しだろうって思ってな」
「今度出かける事になったからその準備的な?」
獣人は心配するように言うが、あまり良い雰囲気とは言い難い。獣の顔は表情が読み辛いが、小人の回答に顔をしかめる。
「……女王の依頼か?」
「んーん。僕の希望」
探るように聞いた獣人は、小人の答えに少し驚く。随分女王の事を警戒しているようだが、たったあれだけの事でそこまでするだろうか。……あるいは、他の神との間に何かあったのだろうか。少しして、獣人は緊張をわずかに緩めるように息を吐いた。
「お前が望んでやっていると言うのなら口を挟む事も無いな。……無理はするなよ」
「大丈夫大丈夫ー」
小人がひらひらと手を振れば、獣人はいくつかの野菜と果物を持って立ち去った。心配げに振り返るその姿を最後まで見送ると、小人の方を見やる。
「まあ、無駄に危険な事やって、先を知れなくなったら本末転倒だから、そこは安心していいよ」
何となくつられて心配になってきた事に気付いたらしい。察しが良すぎる事に何故と問えば、簡単な事だと言う。
「ま、どうせ似たもの同士でしょ? 他人を気遣い過ぎて何も発散できないような人間じゃなけりゃ、きっとここには来ないよ」
小人族の童顔が余裕のある表情を浮かべる。人外だらけのこの場所で、外見で年齢が全く判断できない事は知っているが、どうしてここの子供は下手な大人よりもずっと聡いのだろうかと思わずにはいられなかった。




