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「第十二回、エリュシオン住人親睦会!」
「おー!」
「おー」
ある日の城の一角。小人の音頭に妖精とドライアドが拍手で微妙に盛り上げる。
この間の会話から数日後。ここにいるのは、小人、エルフ、女王、妖精、それから自分とドライアド。なぜこうなったのかと言えば、小人と女王の発案で親睦会を兼ねたお茶会をしようと言う事にらしい。女王から距離を置いたグループがいないのは、ひとまず問題が起こり難そうなメンバーで絆を深めようと言う事だろうか。また、特にこだわりが無ければ敬語も不要との事。あと、ついでに今後も敬語無しで行きたいななどと言っていたが、小人に限っては今更じゃないだろうか。ちなみに、自分としてはこだわりはなく、何となく雰囲気で使っているだけだ。
大きな、と言っても人数から見れば多少小さめな机には銀のスタンドや浅いバスケットが置かれ、様々な種類のお菓子がたくさん入れられている。ケーキやマフィン、スコーンに果物など、お菓子も器もお城で見かけたような豪華な物から、何となく庶民的な雰囲気が漂う物まで、節操なさそうに見えて不思議な調和を作り出していた。
どこをどうしてそういう話になったのか。事情を全く知らないエルフが深く尋ねようとしたが小人はそれ以上は秘密としか言わなかったし、女王は雰囲気が楽しそうである他は何も言わなかった。深く突っ込まずに参加しているこちらに問いかける目を向けてきたが、こちらもそこまで詳しい訳じゃない。急に結託した二人にエルフは釈然としないようだったが、少なくとも何かを企んでいるといった風ではないから、ひとまず納得する事にしたようだ。
それにしても、嬉しそうな女王を見ていると、何故か外見よりも大人びて見えた。多少小人が押し切ったように見えなくもないが、そもそも女王は先日何もなくても呼んでもいいかとわざわざ聞いていたのだ。小人はきっかけに過ぎず、女王自身が本当に望んだものだったのだろう。
「でさー、ちょっと疑問だったんだけど、魔族って本当に殺してもいいの?」
「んん!?」
いきなり冒頭から酷い質問が飛び出す。女王や妖精、ドライアドは魔族の事情をある程度知っているが、自分や小人はあまり詳しい話を知らない。知らないのならば知っていそうな人聞いてみればいいじゃないと言う発想で遠慮も前フリも無しに小人はエルフに訊ねた。
「ず、随分軽いんだな……」
「あー、今更気にする事も無いんじゃないですかね」
「エルフもか……」
ものすごく軽い口調で言葉が交わされる。楽しいお茶会でその質問はいいのだろうか。女王の方を見れば、目が合ってニコニコと微笑まれた。
「小人の口調が軽かったのでつい。魔族は寿命無いですし、あと、放っておいても共食いする種族なので」
「共食い……」
机の上で紅茶もそこそこにお菓子を山ほど食べている小人に関してはいつも通りと言ってしまえばそれまでだが、エルフはそこまで軽い性格でもなかったはず。まあ、小人も流石に共食いと言う言葉には多少引いてしまっているが。
「あれ、そんなに引く事だったかな……? 他の種族でも条件が揃うと共食いする事もあるって聞いたんだけどな……」
「いや、普通しないっていうか。それ相当特殊な状況と言うか。少なくとも抵抗はあるし、襲って食べるなんてことはまずないと思うよ……」
「うーん、虫系種族とかドラゴンとかの一部のコミュニティだと時々あるって聞いたんだけどなあ」
「え」
虫はその辺のただの虫が共食いしているから、辛うじて知性を持つ虫系種族も分からなくはない、かもしれない、が、ドラゴンに関しては完全に初耳である。後で詳しく聞いた話になるが、いずれの場合も、干ばつなどで食料が乏しい時に子供を作るための栄養の足しにしたり、すごく気に食わない相手を丸呑みにしてなかった事にしたりするらしい。大群や巨体を維持するのも大変である。
「同族同士で協力するとかも無かったり…?」
「無くはないけど、結局魔族は自然発生する性質上、絶滅する事も無ければ、逆に数を抑制する事も出来ないからね。他の種族を追いやって住む場所を確保出来れば一番。共食いでも数を減らしつつ強力な個体が生まれればその足掛かりになる。いっそ、他種族の反撃で死んでもライバルが減ってそれはそれで良し。……結局魔族に戦いはデメリットが無いんですよ」
デメリットが無いと言いつつ、エルフは不快そうに顔を歪める。だが、初めに聞いたはずの小人は、ふーんとだけ言って次の話題を切り出した。
「じゃあ次。僕の所だと魔族は内陸からやってくるものって昔から言われてるけど、あれって正確にはどの辺から来てるの?」
「大陸の中心部。正確には強力な魔族が集まる一方で、戦いを望まない、あるいは弱い魔族が逃れてきてるんですよ」
次に答えたのは妖精。ひたすらエルフが答える事になるかとは思っていたが、急に妖精が口をはさんでも誰も驚きはしない。
「……それで他の種族襲ってちゃ、戦いを望まないも何もないんだけど」
エルフは妖精の説明に補足は加えず、独り言のように呟いていた。
「……半竜。私の所は大陸の外だったからか、どこからでも同じように魔族は現れた。半竜の所はどうだった?」
「え? 自分?」
ドライアドがそれとなく隣の自分に尋ねる。半ば常識のように扱われた事に対して、本当に全域だったのか気になったのだろうが、さて、自分の所はどうだっただろうか。自分の国は海に面した場所にあり、内陸側には多数の国があった。何度も国境や険しい山脈、深い森や険しい谷を越える毎に情報は乏しくなり、最も内陸側にあるだろう国の情報は殆ど無い。一応魔族の襲撃が大変だと言う話はあった気がするが、小国であり、その為に戦力に不安があるのだろうと言う推測で終わっていた気がする。
「……そっか」
はたして、こんな回答でよかったのだろうか。表情だけでは満足したのかどうかわからなかったが、とりあえず、的外れではなかったらしい。こちらの会話が一区切りつくと、向こうでも別の話が盛り上がっているのが見えた。




