024
「そう。僕達にとっては神は優しいのが当たり前。皆、人間であった君にも友好的だったもんだから、そんな確執には思い当たりもしなかった」
おそらく、皆が優しかったのは、行き場を失った事に対する同族意識と、周囲の人間に反発したであろう立場から。今でも普通に優しい方と言える程度に気にかけてもらえてはいるが、警戒心の所為か多少距離を置き気味。
「小人が悪い訳じゃない」
「……そう言ってくれると助かるよ」
知らなかった事は悪い事じゃない。知るチャンスすらなかったのに、それを問うべきじゃない。
「……誰も怒ってはいないから大丈夫」
「自分もここの皆だったら問題ないと思う。所詮はちょっと戸惑ってるだけなんだから、実害はないし、むしろこれでちゃんと分かり合えると思う」
もし、ここが外の世界なら絶対に許さないなんて過激な反応をする人もいたかもしれない。でも、他人に気遣ってばかりの人だけが集まったここなら、心配する事なんか何もない。
「……よっし、そうだな! どうせここは似たもの同士の集まりだ。どうせ心配されてるだけなんだから、やりたい事やって、いつかこのままついて行っても大丈夫なんだって教えてやろう!」
「その意気」
いきなり方針転換したのは合理的な行動ではある。けれど、ドライアドのように全面的に後押しできるかと言ったら、少々迷う所だった。
「…両極に走ったなあ……」
女王を信頼しているこその行動だとは思うが、一体小人は女王と何を話したのだろうか。
「あ、そうそう。別に、聞いてもいいんだよ? 過去について」
「え?」
小人はあまりにあっけらかんとして聞いてくる。
「ただの隣人ならともかく、君なら無責任に途中で放り出すような事はしないでしょ? 少なくとも僕は今更過去を隠したりはしないよ。……どうせ、ある程度察しはついてるだろうし」
「う……」
昨日のミシェの話が頭に浮かぶ。まだそうと決まった訳ではない、迂闊に他人の領域には入れないと、何も話さずにいたが、それはミシェのためにはよくない事だ。
「……まず、君の名前はリリアであってるか?」
「うん。ミシェに会った? 相変わらずの、勇者とは名ばかりのヘタレだったんじゃない?」
「ヘ、ヘタレ…なのかあれは?」
「何かあっても神がサポートしてくれるのに、大物相手だからって怯んでるようじゃ、勇者としてはヘタレだよ」
小人は距離も時間の開きも感じさせず、近所に住む腐れ縁の相手について語るように言う。あの時のミシェは勝てそうにない相手に、多少怯んでいたものの逃げ出しはしなかった。と言うか、普通の戦士なら、勝てない相手から逃げるのも大切なのだが。
「…君を探しているようだったよ」
「……だろうね」
本題に入るも会話が続かない。ちらりと一瞬遠くを眺める。小人に似つかわしくない複雑な表情の理由を読み取るには、まだ付き合いが短すぎた。
「……心配?」
「……それなりに」
代わりにドライアドが尋ねる。あまり感情をこめない平坦な言葉は、今この場に相応しく感じる。答える言葉も口調こそ適当な雰囲気だが、不思議と真面目な言葉だと伝わる。
「会える?」
「まだその時じゃない」
「…会いたい?」
「分からない」
迷いそうな質問だが、答えはすらすらと出てくる。一方のドライアドは慎重に言葉を選んでいるようで、そのリズムだけを見れば、どちらが答えているのか分からないほどだ。
「……後悔は」
「それだけはない」
最後の質問に小人は特にはっきりと言い切る。迷いなど関係なく、それだけは自明の理であるようだ。ドライアドもそれを理解しているようで、返答に頷くと質問を終えた。
「あ、そうだ。半竜」
「ん」
「言っておくけど、後悔はするなよ。あれこれ考えるのは後でいいから、少なくとも今だけはね」
「ん? 分かった」
意味は分からないが、今の問答から連想したらしい。釘を刺すような言い方だが、自分は昔から盲目的に誰かの後に付く事は得意だった。それで褒められた事も、貶された事もあった。また、従順すぎる物言いに、初めて見た人は本当に大丈夫かと訝しむ事が殆どなのだが、何故か小人は疑おうとしなかった。




