022
一方のミシェは疑問は感じたようだが何も聞いては来なかった。
「それにしても、結構な大物だったな」
「そーだな。やっぱ倒せるなら他所の国でも大物狩った方が効率いいんだな……」
確かに、あの魔力量なら時間をかけてでも狩る価値はあるだろう。普通の人間にとっては脅威で、ただの害獣のような存在でしかない魔族も、神と勇者にとっては美味しい獲物になり果てる。
「けれど、守る物がある方がいいな」
「俺もそう思うよ」
勇者の中には、自分の為に魔族を狩り、結果的に町や国を守っているだけの人も少なくないかもしれない。しかし、きっとミシェは近くに相性のいい大物が現れたとしても、自分が守る町を優先するだろう。まだまだ伸びしろのあるミシェは、それでも伝承の中の勇者の面影があった。
「そろそろ帰還の時間かな」
東の空が白み始め、星も殆ど浮かんではいない。刻限の夜明けまであと僅かだ。
約束通り魔力も渡し、後は帰還を待つだけ。ただ、ワームを倒した時に宙に消えた魔力はここの神であるフォグ様に回収されているから、譲渡分の魔力に含めても構わないとの事。
「……なあ、お前ら、また来るのか?」
「さあ?」
この短時間で随分と仲良くなったように思う。ミシェは名残惜しそうに聞くが、生憎保証は出来ない。
「だが、縁があればまた会うだろ」
「そうだな!」
もはや仲良くなりたいと言う気持ちを隠してすらいないが、それでいいのだろうか。
「じゃあ、またな!」
「また」
ミシェが大きく手を振り、こちらも小さく笑顔で振り返す。地平線の果てから僅かに太陽が顔を出すと同時に景色が切り替わっていた。
「おっかえりなさーい!」
「わっ! 小人!?」
いつものエリュシオンの外れ。帰還と同時に小人が飛びついてきた。
「うーん、やっぱり反応が薄くなってきたかなー……」
「……十分びっくりしたよ」
顔を合わせれば挨拶するし、普通に話もする。ただ、基本鍛練していて入り辛い所為か、当初のようなスキンシップは久しくなかった。
「そうそう、昨日女王に聞いたんだけど、外まで魔族狩りに行ってたんだって?」
「え」
確か、以前見た時は妖精が近くにいるのも居心地悪そうにしていなかっただろうか。しかし、小人は分かっていないなあとでも言うように指を振った。
「分からないのに何となく距離をとるのは性分じゃないもんでね。実はあれから何度か城に入ってたんだ」
「そうだったのか!」
「でも、女王達は肝心な事はのらりくらりと躱す時があるから、観察を中心にしてたんだけど、やっぱりそれでも居心地が悪くてね。そんなに経たない時に直接聞いたのさ。『女王は一体何を考えてるのか』って」
「それは……」
随分直球な聞き方である。小人らしいと言えば小人らしいが、小人はそんなに女王を嫌っていた訳ではないらしい。
「そしたらさ、『少なくとも敵ではありません。しかし、最低限の他は目的を最優先にしているのですよ』って言うのさ」
これは初めて聞く情報だ。何となく目的の為に動いている事は察していたが、必ずしも最優先と言う訳ではないらしい。
「それで女王に関してはとりあえずすっきりしてさ。多分これ以上疑う必要はないんだなって」
小人は心底安堵したのだろう。誰かを信じられないまま時間を過ごす事がどうしようもなく辛いのだ。
「で、それから君らの鍛錬をちょっと覗いた後は城に行くのが定番になっててね。女王の目的は何だろうって好奇心に任せて調べていたのさ!」
この展開は完全に予想外である。確かに小人は好奇心が強くて、研究者気質であったが、城に入り浸っていた所為で朝にちょっとだけ顔を合わせる以外での接点が無くなっていたとは。
「でさあ、昨日の朝畑まで行ったら君達の姿が無くて、丁度いいから君達が何やってるのかも女王に聞いたんだ。それで、こんなものを用意してみたんだけど。『常世の風。この手に力を』」
小人は飛び降りながら空中で呪文を唱える。すると、人の身長よりも長い、返しのある槍のような透明な武器が現れた。空中で体の大きさを無視したような取り回しは以前も使っていたらしいことをうかがわせた。
「軽くて自在に動かせる戦闘用の銛っぽい武器無いって聞いたら貰ったんだ。うん、またこれを振り回す時が来るとは思わなかったよ」
小人は銛で地面を突き、反動で人の頭の上に飛び乗る。その重さは先程と全く変わらず、風のような見かけ通りに重さは殆ど無いらしい。
「と言う訳で、次回から僕も参加するからね」
「あ、ああ、分かった。けれど、今はこれから城へ報告に行くんだけど」
小人が頭から飛び降り、銛を手放すと、銛は風となって消える。既にこの槍もかなり使いこなしているようだ。
「じゃ、いってらっしゃい。また明日」
「ああ、また明日」
いくら身体的に平気でも、気分的にはそろそろ寝たい。まだ早朝だが、報告を終えたらゆっくり休息をとろう。寝るのが好きだと公言しているドライアドは瞼が落ちかけている。
「明日の鍛練には小人も誘ってみようか」
「……多分自分から来る」
「それもそうか」
長い一日はもうすぐ終わりそうだった。




