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行方知れずのノネット  作者: ツァツァ
第四話 隣人のような人
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018

「早速ですが、あなた達に魔族討伐を依頼します」

 朝。まだ前回外に出てから一週間後の事。ベッドで眠っていると、何となく誰かに呼ばれているような感覚がした、と思ったらドライアドと共に女王の前にいた。

「まだちょっと早すぎたかしら?」

「いえ、そういう訳ではないですが」

 思ったよりも気が抜けていたらしい。少しぼんやりとしていれば、女王は後日でも良いけれどと言う。

「まだ魔法と言うのに慣れないだけですよ」

「そう。ならいいわね。ドライアドも眠いだけかしら?」

「……話なら半竜が聞いてる」

「え、丸投げ…?」

「随分仲を深められたようで何よりです」

 返事を聞いた女王が手を翳せば包み込むような感覚と共に自分達の服装が変わる。そんなのでいいのだろうか。いや、この場においては女王が良ければそれでいいだろう。思惑はそれぞれとしても、この場にいるのは女王の意思に従う人間ばかり。常識などあってないような物かもしれない。女王の意思を酌むように、隣に控えていた妖精が歩み出て、魔法で広げられた大小の二枚の地図を指し示しながら説明を行う。

「今回の目的地は海に近い砂漠の町です。前回と違い、この町は他の神の支配下にあるので、街中での目立つ行動は慎むように。標的は町の周囲をうろつくスコーピオンを中心とした魔族で、滞在期間は最大で明日の夜明けまで。時間になれば強制送還しますので、極力数を狩れるよう心掛けて下さい」

 世界地図の中では中央の大きな大陸、今後は超大陸と呼ぶ事にする、の左下。拡大した地図では半分には陸地、半分には海が描かれている。縮尺と比べるに、結構大きな町のように見えた。

 妖精の事務連絡のように話す姿がかつての城の騎士団長の姿に重なり、懐かしさを覚える。騎士団長は姫君が存命だった頃から兵士だった人で、その時から城の中で顔を合わせては話をしたり、一緒に訓練をした事もある。仕事の外では大らかで明るい親戚のおじさんと言った感じで、仕事では真面目な頼れる指揮官。今も生きているはずの人達の中では最も親しい間柄でもあったと思う。あの人も無事でいるだろうか。

「今回は日差しが厳しいですから、これも追加しておきましょう」

 前回の格好の上に、肌を隠すような砂色のローブが重ねられる。

 それから、準備が出来次第出発するようにと言う言葉の後、前回とは異なる出入り口から出発した。


 文字通り太陽に焼かれるような強烈な日差し。ローブ越しでもはっきりと太陽の存在を感じられ、並の人間であれば一時間もしないうちに倒れてしまう事もあるだろう。

「……暑さもカットしてくれればいいのに」

「十分カットはしてるとは思うぞ?」

 そんな中でも自分達はふらつく事無くしっかりと岩屑の散らばる大地に立っていた。

「感覚だけは酷いけど、問題なく体は動くし、体力の消耗も無し。今すぐだって戦いに行けるな」

 見渡す限りの岩石砂漠。ローブから感じる微かな力が天然の灼熱のブレスを完全に無効化する。皮膚は焼けるように熱いのに、汗すらかかないのは不思議な感覚だった。

「まさに心頭滅却すれば火もまた涼し。でも、そんな事が出来るのはある意味プロだけ」

「そうか?」

 体温も上回る気温の中、何故か二人のテンションは天と地ほどの開きがあるようだった。

「さて、町の周囲に魔族がうろついてるんだったな」

 殆ど真っ平らな風景をぐるりと見回せば、まず背後に町らしきものの影がぼんやり見える。通常なら一度真っ直ぐにそちらを目指すのだろうが、今回はそんな事はしない。なぜなら、ドライアドは本来それなりに水が豊かな土地を好む種族だからだ。下半身を幹に覆われ、頭上を自分の身長と同程度の枝に覆われる。こんな乾燥地帯に来れるはずもない、どうしようもなく目立つ種族が町に入れば注目されるし、何より酷く怪しまれるだろう。それに、自分も以前よりもじわじわと角が伸びてきて、そろそろ鉢巻きなどで違和感無く隠すのも難しい長さになってきた。住処から滅多に出てこない竜人がその辺をうろついていると知れれば、ドライアド以上の大騒ぎになりかねない。

「……ん?」

 そういえば、何であれほど様々な能力を使い、ここまで慎重な行動をしているのに、こんなにも目立つ変化をさせているのだろうか。

「……向こうに何かいる」

 ドライアドが指を差す方を見れば、遠くでうぞうぞと動く影が見える。こんなに距離があっては何か分からない。それでも、つい目を凝らしてみれば、意外にも鮮明な姿が目に映った。

「……あれはスコーピオンだな」

 スコーピオンの数はおよそ十。淀みとは違う綺麗な紺色。彼らもこちらに気付いて近付いてきているようだった。


 スコーピオン達はバラバラになる事も無く、簡単な隊列を組んで近付いてくる。その姿は先日のハーピーよりも高い知能がある事をうかがわせた。

「ばらす」

 スコーピオンの足元からゆるく掴んだ腕のような樹が突き出す。何体かは捕まったが、意図的に対象から外された何体かは仲間が遅れた事に反応できずに少数で飛びかかってきた。

 まず飛びかかって来たのは三体。スコーピオンは人の半分ほどの大きさがあり、重い体躯は一度に薙ぎ払うのは無理だ。だが、強力な鋏と毒の尾はどちらも無視できるものではない。

 対処は必須。でも、攻撃を防げれば十分か。

「ふっ! っは!」

 それは何度も繰り返した動き。当てるだけなら難なくこなせるようになった自分にドライアドが負けん気を出して重量を増した幹の連撃。

 向かってくるスコーピオンの力を的確に弾いていく。二体がバランスを崩して落ちていく様子を横目に捉えながら、最後の一体に真っ直ぐ剣を突き刺す。

「キイィ!」

 渾身の一撃は節の部分から深く刺さり、スコーピオンが悲鳴を上げる。もう一撃でも加えられれば倒せそうだったが、飛び退いた瞬間に木から抜け出した一体が飛び降りた。

「堅いな」

 飛び退いた場所から沢山の岩屑がまき散らされ、あそこで追撃していればこちらも大きなダメージを負っただろう。

「この調子でいく」

 キイキイと鳴きながら体勢を立て直したスコーピオン達の中心に再び樹が現れる。二度目の攻撃にスコーピオンは即座に回避しようとしたが、現れた樹はそれ以上伸びない。スコーピオン達は拍子抜けしたように一瞬戸惑ったが、それは甘い。群れの端から生えた別の樹が斜めにスコーピオン達に襲いかかる。

「もう一体!」

 混乱する中、一体を突き刺して魔力の塊へと変える。樹の中からも魔力へ変わる様子が見え、先程の個体が樹に止めを刺されたと分かった。息を吐く間もなく攻撃を続ければ、更に二体が剣の餌食となる。混乱の中で果敢に向かってきたが、狙いも連携も無いバラバラの攻撃など簡単に見切れる。一度混乱した群は簡単に崩壊していった。

「思ったよりも呆気な……!」

「クキッ……ココマデ……カ……」

 群れに一番後ろにいた個体。他よりも僅かに大きく、どことなくリーダーっぽい雰囲気だったスコーピオンは、仲間を失い、最後の足掻きに飛びかかった。そのスコーピオンは剣の一撃に倒れながら、口惜しい声を漏らしたのだ。

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