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行方知れずのノネット  作者: ツァツァ
第三話 先達と若人
14/34

014

 役目を与えられたとしても、そう急激に生活が変わる訳でもないらしい。けれど、いつもの鍛錬の内容は少しずつ変化していた。

「ふっ!」

「……変化無し」

「よっと!」

「……全然」

「……何やってるの?」

「変化の練習」

 変な人を見る目で見かけ、思い直して普通に聞いてきたエルフに、揃って何でもないように答える。気遣いは感謝するが、自覚はあるから別に変人でも構わなかったのだけれど。

 ドライアドの畑は比較的人が来やすい場所だ。自分的にはもう少し人通りが少なくて開けた場所の方が鍛練向きような気もしたが、物臭なドライアドの意見でこの場所が定位置と化している。まあ、昨日の様子を見ると、単純に物臭と言うよりも、植物の体が歩き辛かったからと言う理由も大きかったのかもしれないけれど。

 だから、今日のように通りがかった誰かが物珍しそうだったり、不審げに見て行ったりするのだが、別に隠しているわけでもなく、聞かれれば普通に答えるつもりだ。

「え、変化? 変化って練習する物だったっけ?」

「練習と言うか実験?」

 たまたま通りがかったエルフが聞き返すが、こちらだって説明出来るほど詳しい訳でもない。

「と言うか、あれは変化でいいのかな」

「どっちかと言うと変身?」

「ええと、変身って言うと、魔族みたいな? それとも人狼みたいな感じ?」

「それは……どっちだろう?」

 訳の分からない事をやっている自分達に、ちょっとは分かる話題だったらしい事を聞いてくる。だが、どっち?と揃ってこちらを見られても困る。そもそも、変身にパターンがある事も知らなかった訳で。

「ざっくり言うと、魔力を消費して任意の姿に変化するのが魔族式。もともと複数ある姿に体力を使って変化するのが人狼式」

 全く理解が追い付かずに答えかねていると、ドライアドが簡単に解説を入れる。が、これまで魔法を全く使ってこなかった人間に魔力の感覚を問われても困る。確かに昨日多少感じはしたものの、それはおそらく剣に宿った力だったからだ。現に、今だって体の中にあるはずの魔力は一切感じ取れていない。

「少なくとも、あまり体力を使ったような感覚は無かったが……」

「じゃあ、魔力式? 確か、人間も魔法は一応使えたよね?」

 エルフが確認をとるように言うが、人間の中で魔法を使う人間は少数派だ。と言うのも、確かに手順さえ踏めば誰でも使えるが、人間以外の魔法に比べて人間のそれはかなり面倒な手順が必要なのだ。

 この世界に魔法的な現象は色々あるが、一般に魔法と呼ばれる物には、能力と呼ばれる物と、呪文と呼ばれる物がある。

 能力とは、原則人間以外の生き物が使う、生まれ持った魔法だ。エルフなどは勉強して多数の魔法を習得する事もあるらしいが、基本的には生まれ持った力の延長線上のみとなる。その最大の特徴は魔法を使うための全てが自分の中で完結している事であり、呪文との大きな違いとなる。

 逆に、主に人間が使う呪文は、他の存在の魔力を借りて使う魔法だ。魔法の能力を持つ存在と契約を交わした上で、呪文をキーにして魔力とイメージを渡す代わりに、それを使った魔法を借りる。契約の形式にもいくつかの種類があり、細かい部分は割愛するが、一番広く使われているのは主に神や守護者のような力ある存在から力を借りる加護式と呼ばれる類の物。他にも対等か格下の存在から力を借りる使い魔式と呼ばれる物もあり、こちらは機会に恵まれなければ使うのは難しい。どちらにせよ準備にかなり複雑な工程が存在し、面倒な上に知識もいるため、魔法を使う人間は限られる。また、一応人間以外でも使えるものの、当然だが人間以外の生き物で呪文を使う者はかなり少ないらしい。

「へえ、結構面倒なんだね。魔法を使えるのが当たり前だから、人間もそこまで大差がないかと思ってた」

「まあ、古い知り合いの受け売りだけどな。ただ、準備さえすれば、実際に使うのはそこまで手間でもないらしくて、一度だけ魔法を見せてもらった事があったんだ」

 今は亡き、幼い姫君。当時は比較的年が近く、その祖父である当時の王に目をかけられていた事もあって、二人で遊ぶ事も多かった。聡明な姫君には様々な物を教えてもらったが、流行病で亡くなったために最後は殆ど会う事が出来ず、亡骸を見る事も敵わなかった。

 これまで魔法と接する機会と言えば、姫君がこっそり見せてくれた魔法だけ。どこぞの神の一人と加護の契約を交わしたとか言う話だったが、幼い時の話である上に、全く聞き覚えのない異境の神だったために名前までは忘れてしまった。


「にしても、ドライアド達って最近結構色々やってるんだねー。昔からドライアドはちょっと私達と違う感じもしてたけど」

「えっ、そうなのか」

 どちらかと言えばドライアドと親しげに見えたエルフは、どこか根本的に違う物を見るようにドライアドを見、次いで自分を見た。

「私達もドライアドも、同じように女王に助けられた身ではあるけれど、その受け止め方が違うって言うか……。私達が不思議な存在に偶然拾われたって言う感覚なら、ドライアドは神が慈悲の一欠けらを以って奇跡を享けたと言うか……何となくの信者と敬虔な信者ぐらいの差がある感じかな?」

 何となくでしかないとエルフは言うが、中らずと雖も遠からずと言えるのではないだろうか。ドライアドから直接いくらかの話を聞いている自分もそう的外れの物ではないと感じる。それだけ交流があったと言う事か、あるいは彼もまたそれだけ察しがいいのか。ここまで当ててくるのは素直にすごいと思う。と、思うと同時に、どこか他の住人達を一括りに見ていたかもしれないと反省する。

「……そうだな。やっぱり自分もそれなりに恩に報いたいとは思っているよ」

「……新入りも随分生き生きとしてきたね」

 エルフはほっとしたように穏やかに目を細める。

「そうか?」

 だが、周囲に言われるままの事しかしていない現状、自分としてはまだまだ本調子であるとは言い辛い。

「ここの住人達は皆、生きる気力すら失ってここへやって来る。だから、例えここで安心を手に入れたとしても、初めは抜け殻のようにしか生きられない」

 それは想像に容易い事だ。なぜなら、ここへ来る事のできる条件が、元いた場所に一切の未練を持たない事。生きる指針の一つでもあれば、決してここまで来る事などないだろう。

「ここだけの話。私はそういう人が立ち直っていく様を見る事が楽しみであり、生き甲斐の一つなんだ。君は私の歌はあまり聞きに来なかったけれど、本来はあの歌もそのための物でね」

「あはは、それは申し訳なかったね。結局ドライアドの所以外全然行かなくて」

「それなんだけど……、君達は昨日どこまで行ってたの?」

 一応初めの頃に一通りは回っていたのだが、ここまで気にかけられていた事に気付きもしないで乾いた笑いが漏れれば、エルフは更に心配そうに問う。これは最初の気ままなイメージが先行しすぎただろうか。誰も心配しないだろうと思い、昨日は妖精の訪問があってから少し余裕があったにもかかわらず、誰にも告げずに出かけてしまったのだ。

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