013
気が付けば、高かった日も随分傾いてきている。料理もおおよそ片付き、そろそろお開きの雰囲気が漂い始めていた。
村人達も事情はある程度知っているのか、祝福や励ましの言葉はこれからの門出を意識していたように思う。歪ながら、その歪さがここでは普通に受け入れられているのだろう。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
ひらひらと飛んできた妖精が手を構える。
「あれ、今回は問答無用じゃないんですね」
こちらを窺う妖精は、いつものような前のめり気味な提案ではなく、ゆったりと返事を待っているようだった。
「まあ、ウチはこんなイベントをそんなに開けないですからね。どこかの国と繋がりがある訳でもなければ、この村もウチだけと繋がりがある訳でもないですし」
つまり、今の内に楽しめるだけ楽しんでおけと言う事だろうか。残念ながら能天気に楽しめるだけのゆとりは、まだ手に入れられずにいる。けれど、祭りの余韻ぐらいならまだ心に留めておけるように思えた。
「……気遣いありがとうございます」
「……この程度で気遣いと言いますか」
妖精は仕方ないなあとでも言うように腰に手を当てる。その姿は後輩を見守る年長者のようで、初めてこの妖精が少しだけ神様の使いであるように見えた。
妖精の術で移動してきたのは、この島で最初に足を踏み入れた岩陰。振り向きもしない妖精の後を、後ろを見ながらついて行くと景色がぐにゃりと曲がって再び深い森へと姿を変えた。そして、唐突に鳴り響いた手を叩く音に驚いて振り返ると、そこはいつか訪れた城の中だった。
「ご苦労様。初仕事はどうだったかしら」
久々に見た女王は、先程の話の所為か、神秘的な雰囲気を感じさせる。また、その目は初めて会った時のような客人に向ける物ではなく、お付きの妖精のような眷属に向ける物だ。
「有意義な物だったと思います。多少戸惑う部分もありましたが、問題と言うほどでもないでしょう」
「……そんなに硬くならなくてもいいわ」
何故か女王はどことなく寂しそうに言う。確か、自分は初めて会った時も似たような口調だったはずだが、何か思う所でもあったのだろうか。
「いえ、殆ど顔を合わせてもいないのにそんな事を言われても困るだけですね。ただ、これからはきっと何度も顔を合わせる事になるでしょうから、この場所にも馴染んでくれると有り難いわ」
「そうですね」
大きな城ならともかく、これほど小さく少人数の集団であれば、全員が側近のような物になりえる。特に、まだ幼い女王であれば、親しい人間を欲しがるのも自然な事だ。
「本当ならもう少しゆっくりしていってほしいのだけど、今日はもう疲れたでしょう。今日は送って差し上げますから、早めにお休みなさいな」
「お気遣い痛み入ります」
つくづく思うが、彼女は女王と言うには、自分達に至れり尽くせり過ぎであると思う。あからさまに住人の期待を外す行動をわざとする事もある所為で印象が薄いのかもしれないが、王族としてあり得ない行動だ。魔法の存在もあるのだろうが、以前仕えていた前国王も優しい方だったが、ここまででは無かったはず。
「ああ、そうだ。その前に一つお願いをしてもいいかしら」
「ええ、構いませんが」
「……何でもない時にあなた達をここに呼んでもいいかしら?」
躊躇いがちに発せられた言葉は予想とは異なる物だった。女王の手元には魔法の気配があり、次の瞬間には家に帰されているだろう。遠慮ではなく、ただ無理強いはしたくないと言う気持ちが感じられる。迷いのある言葉には寂しさもあったのだろう。
「ええ、構いませんよ」
「……同じく」
ずっと静かだったドライアドもはっきり口に出して快諾する。返答にほっとした顔を浮かべ、次の瞬間には全てがかき消えていた。




