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行方知れずのノネット  作者: ツァツァ
第二話 雛鳥の第一歩
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 妖精に導かれるままに、漁師と別れて軽い山道を行く。自分は普段から体を鍛えているため特に息が上がる事は無い。ただ、エリュシオンで感じていた体の軽さは感じない。あれはエリュシオン内限定の効果だったのだろうか。ふと振り返ってみたらドライアドの姿が無く、突然横の崖の下から伸びてきた蔓が勢いよくドライアドを引き上げていったのを見た時は言葉を失った。しかも、何故かちっとも動かない様子を見て近付いてみれば、ドライアドの息は随分上がっていて、恨みがましい目でこちらを見ていた。

「……植物の体は歩き辛い」

「……背負おうか?」

 あまりに辛そうだったので提案してみたが、ドライアドは首を振って断った。

「……いい。人に持てる重さではないから」

 声はかけたものの、木の幹と一体化した姿はちょっと運ぶだけでも相当大変そうだと思っていたから助かったが、断る前に一瞬迷ったのは見逃さなかった。ただ、これだけ苦労していても女王達に協力するのを止めようとは思わないらしい。ふと、傍に馬鹿力がいたのを思い出して視線をやると、にこにこと跳ね除けるような笑顔が見えた。

 休憩をはさみながら数時間ほど。おそらく島の中心と海岸の中間あたりをぐるっと回って、島の反対側にある漁村へと辿り着いた。

「……」

「大丈夫?」

 ほぼ力尽きているドライアドに声をかけてみたが、殆ど反応が無い。村に着いたのだから、どこかで水を貰えないかと見渡せば、広場らしい場所に人だかりを発見する。とりあえず近付いてみれば、何故か思わぬ歓迎を受ける事になった。

「あのー、すみません」

「おお! ようやく到着したか!」

「待ってたぞ!」

「……はい?」

「さあさ、こっちへ来なさいな!」

「ちょっ!」

 様々な性別、年代の人達に腕を掴まれ、背中を押され、あれよあれよという間に集まりの中心となっていた人物の前に連れて行かれる。

「よくぞ来られました! 私がここの村長でございます」

 村長だと言う老人は、年の割に背筋が伸びていて元気そうな人だ。村長以外の人々も、皆がっしりとした体格に日焼けした肌、老人でも真っ直ぐ伸びた背筋と、全体的に元気そうな人々だ。なんだか以前にも似たような展開あったよなあと思いながら、流されるままに握手に応じる。このまま長い話が始まりそうな状況であったが、今回は言うべき事があった。

「すみませんが、先に水とか貰えませんか?」

 自分がちらりと目線をやれば、集まった人々の視線もそれにつられる。そこには、妖精に翅で風を送られるドライアドの姿があった。


「いやー、もう一人いらっしゃったとは気づきませんでした」

 数分後、村人達にバシャバシャと水をかけてもらったドライアドは復活していた。コップでも水を飲んでいたはずだが、足元の水も綺麗さっぱりなくなっていて、根っこからも思う存分水を飲んだらしい。ただ、妖精が耳打ちしてくれた情報として、普通のドライアドは植物扱いで水を撒かれる事は好まないらしい。雨や川から水を吸い取る事はよくても、人に飲み物や食べ物を足元に投げられるのは見下されていると取られるそうだ。その気持ちは何となく分かる。しかし、あのドライアドを見ても全くそんな風には見えず、あのドライアドはあまり参考にすべきではなさそうだと認識を改めた。そもそも自分達は本物ではないのだし。

「さて、神使様。随分と砕けた雰囲気であらせられますが、手短な方を好まれますかな?」

「シンシ?」

 改めて村長から話を聞く事になったが、妖精の耳慣れぬ呼び名に首を傾げる。

「もちろん。で、今回の獲物は何です?」

「ハーピーの群です。島の火口付近で先日生まれたばかりらしく、さほど力も知能もありませんが、空を飛ぶ点だけは厄介ですな」

「ほうほう。それは丁度いいですねー」

 どんどん自分達を置いて話が進められる。そして、気付けば自分達はたった二人で山の中に放り出されていた。

「……どうしろと」

 手元にあるのはいつも手にしている一振りの剣。仕掛けはありそうだが、どんな仕掛けがあるかはいまだ不明。ドライアドの武器は長く伸びる蔓だが、上空高い場所にいる相手に届くとは到底思えない。

「……新入りの隠された力が目覚めたりする」

「しないから」

 後ろを歩くドライアドから真面目な顔で放たれた冗談は一蹴する。ばっさり切り捨てられたドライアドは不満げだ。足で歩くのを諦めて大量の蔓や枝で押したり引っ張ったりして移動しているが、あれは本当に歩くよりも楽なのだろうか。

「群、だったな」

 火口付近を縄張りとするハーピーの群。能力的には雑魚と言えるレベルだが、いきなり放り出された今回は対空技が全くない。まあ、雑魚と言っても、そこそこに素早さはあり、戦闘訓練を全く積んでいない人間にどうこう出来る代物ではないが。一体なら不意打ちでどうにかできても、群が相手ではそれも難しいだろう。散り散りに逃げられては捕捉も難しく、死ぬ可能性は低いものの、勝てる自信もない相手と言ったところだろうか。

「……ここか」

 山の頂付近。ふっつりと森が途切れた先、岩肌のところどころから蒸気が噴き出す場所に彼らはいた。数は見える範囲だけで二十以上。

「臭っ」

 硫黄の匂いもするが、それ以上に強烈な独特の悪臭が漂ってくる。ハーピーは頭から胸元までの胴体が人で、残りは鳥と言う魔族。基本的に女性型だが、あれを女性とは認めたくないぐらいに不潔。何をしていてもお構いなしに糞をまき散らし、例え倒してもまき散らした物までは消えないので、早々に倒さないと後始末がこの上なく面倒な存在だ。以前見た時はここまで酷い臭いではなかった気がしたが、ここに棲んでいると言うだけあって、辺りにまき散らされた糞の量が酷い。ただ、構造的に人より鳥に近いのか、まき散らされる物も白っぽい鳥のそれなのはせめてもの救いか。

「ゲテモノ退治も従者の務め?」

「うげ……」

 正直帰りたい。茂みから観察している今ならまだ気付かれていないので、逃げるのは簡単だろう。けれど、背後の茂みによく見ると違う方向から伸びる枝が混ざっている。

「今帰ったらすごく情けない」

 一人で戦うのは嫌だと顔に書いてある気がする。けれど、自分が出れば確実に近接での戦闘になる。どうせ戦うのなら弓を用意していればまだマシだったのだけれど。しかし、無い物は無い。こんな理由で引き下がるのは情けないと言うのは同感であるので、腹をくくっていつでも飛び出せるように剣を構えた。

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