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異世界の魔獣肉に『万能スパイス』

「……あの、サエグサ。さっきから何をしているの?」

 焚き火の傍らで、エミリが不思議そうに首を傾げた。

 サエグサは慣れた手つきで、バックパックから厚手のアルミ製フライパン――スキレットを取り出し、火にかけていた。

「晩飯の準備。エミリさんがさっき『闇魔法』で仕留めてくれた、このウサギっぽい魔獣の肉。これ、食べていいんだよね?」

「ええ、食べる分には問題ないけれど……。でも、味付けはどうするの? 塩なんてこの辺りの村じゃ金と同じ価値があるし、魔法で生成した塩は苦くて食べられたものじゃないわ」

 エミリの言う通り、この世界では調味料すら「魔法の生成物」か「超高級品」の二択らしい。

 だが、サエグサはニヤリと笑い、ポーチから一本の小瓶を取り出した。

「これ。僕の動画ではお馴染みの、万能アウトドアスパイスだ」

「スパイス……? 薬草の調合品?」

「まあ、そんな感じかな。これ一本で、肉料理が王宮のディナーに変わる魔法の粉だ」

 サエグサは、表面をカリッと焼き上げた肉の上に、パラパラとその粉を振りかける。

 その瞬間だった。

 ガーリック、オニオン、胡椒、そして数種類のハーブが熱い肉の脂と混ざり合い、暴力的なまでに食欲をそそる香りが辺りに立ち込めた。

「っ……!? なに、この匂い……!? こんな、鼻をくすぐるような複雑な香り、嗅いだことがないわ!」

「いい匂いだろ? はい、焼き上がり。熱いうちにどうぞ」

 サエグサはシェラカップに肉を盛り、エミリに手渡した。

 彼女は戸惑いながらも、その香りに抗えず、肉を口に運ぶ。

「――っ!?」

 噛み締めた瞬間、エミリの瞳が大きく見開かれた。

 口の中に広がるのは、単なる「塩味」ではない。スパイスのパンチ、ハーブの爽やかさ、そして肉本来の旨味を引き立てる絶妙な調和。

「おいしい……! なにこれ、本当に肉なの!? 柔らかくて、噛むたびに知らない味が次から次へと溢れてくる……!」

「だろ? 日本のアウトドア技術を舐めちゃいけないよ。25万人の視聴者が『これさえあれば飯三杯いける』って言ってる鉄板スパイスだからね」

 サエグサは、自分用の肉を頬張りながら、チタンマグで淹れたばかりの熱いコーヒーを啜る。

 エミリは夢中で肉を頬張り、最後にカップに残った肉汁まで大事そうに飲み干した。

「……信じられない。火も、水も、光も、そしてこの『味』も。あなたは魔法を一つも使わずに、魔導士たちが一生かけてもたどり着けない高みにいる……」

「大袈裟だなあ。僕はただ、便利な道具を使いこなしてるだけだよ」

 サエグサはカメラを自分に向け、視聴者に語りかけるようなトーンで呟いた。

「皆さん、聞こえますか。異世界最初のアウトドア飯は、文句なしの『大成功』です。エミリさんのリアクション、これ、ガチの初見動画ならミリオン再生狙えたかもしれませんね」

 エミリは、焚き火の暖かさと満たされた胃袋に、先ほどまでの絶望をすっかり忘れて、穏やかな表情を見せていた。

 魔法という才能がすべてを決めるこの世界で、サエグサの「キャンプ術」は、彼女の心さえも解きほぐし始めていた。

「ねえ、サエグサ。その『動画』の精霊さんたちに、私からもお礼を言ってもいいかしら?」

「はは、いいよ。皆、喜ぶと思うよ」

 異世界の夜空の下、二人の笑い声が静かに響く。

 サエグサの異世界ソロキャンプ生活は、最高の滑り出しを見せていた。

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