誕生祭 12
「いいの?ねぇ、いいの?お祖母ちゃん、多分頑張って考えたのよね?『色々悩むんでしょうね…うふふ』とか思いながら、一生懸命考えたのよね?それを?謎も解かずに?偶然見つけちゃった、で鍵を差し込んでいいの?!」
「うだうだ言わず、さっさと開けろ」
「アンタには人の心ってもんがないの?!私がやったのはルール違反みたいなものよ?!ドアが開かないなら蹴破ればいいじゃない、のアンタと同じくらいルール違反なのよ?!」
鍵を見つけたはいいものの開けてよいものか…などと意味不明なことを悩むエヴィ。俺は彼女の手から鍵を抜き取り、さっさと鍵穴に差し込んだ。
「…よかったな、エヴィ。お前の悩みは解決されたぞ」
「何?何が入っているの?」
「この鍵は偽物だ。鍵穴にちゃんと入らない」
奥まできちんと差し込めない。引き出しが開かないことを確認し、俺はそう言った。
「開かないってどういうこと?」
俺は本棚から無作為に五冊を取り出す。その内の二冊がエヴィが見つけた箱と似たようなものだった。中には同様に鍵が入っている。
「レオ。椅子、の下にも、鍵、張り付けてる」
「なるほど。今回はダミーを複数用意している訳か」
「ええ?!そんなに手間がかかっているの?!」
本棚、机の下、椅子の下。あらゆるところにダミーの鍵が隠されていた。一つ一つ鍵穴に差し込むのも手だろうが、ここにあるものが全てとは限らない。
開かずの間以外にも隠されている可能性は十分にあるため、手当たり次第に試すのは最終手段の方がいいだろう。三つの単語の意味を考えるのが先だ。
「太陽、翼…だ、だらく?」
「堕落。色々と意味があるが、ざっくり言うなら、落ちぶれることと、実際に落下することだな。翼と組み合わせて考えるなら、後者の意味が近いか?」
「ふぅん。…で?」
「さぁ。俺には思い当たるものはないな。エヴィは?」
「ないわ。堕落って言葉さえよく分からないのよ?」
一回目の時のように難なく、とはいかないようだ。暫く考えて何も思い浮かばなかったので、「…翼となればアイツだろうな」と人に頼ることにした。一人、翼と鳥に関しては俺より博識の奴がいる。
ただ…と俺はエヴィを見た。
「何よ?」
「いや、何でもない」
まぁ、どうにかなるだろう。アイツは気にしていないと言っていたし。
「ここは?」
「知り合いの家だ」
俺たちはエヴィを連れてアーラの家へとやって来ていた。ドアをノックし、アーラを呼ぶ。またドアが開けられることはない。
「…」
「…レオ。アーラ、また?」
アリスと顔を見合せ、共に、はぁ…と溜め息をついた。まさかとは思うが、前と全く同じ状況になっている、なんてことはないだろうな。
「また?またって何なのよ?ねぇ、詳しく説明してよ」
「…逃げないな?」
「に、逃げたいくらい怖い人なの…?」
「恐ろしくはない。ただ、お前にとっては顔を合わせたくない相手かもな」
「?」
「ガリガリに痩せていて、背が高い男に心当たりは?」
エヴィは背を向けて走り出そうとした。そうはいくかと彼女の肩を掴み、逃がさぬようにする。「こんな偶然あるの?!」と彼女は叫んだ。
「やはりお前のことか」
「私、これからあの人に会うの?!気まずい!気まずいんだけど!あの人、一番私のこと心配してくれたのよ!いい人過ぎて逆にこっちがどうしよう…って感じだったんだから!!」
「そうか。どうでもいい」
「アンタには人の心がないのね?!確信したわ!」
ズルズルとエヴィを引きずって、当たり前のように裏口から中へと入る。
「何だ。倒れている、という訳ではなさそうだな」
アトリエへと入ると、アーラは絵を描いている最中だった。ぶつぶつと独り言を呟きながら、必死の形相で作品を作っている。
流石にちゃんと作る気になったのか、と感心したのも束の間、すぐその絵が俺が止めろと言っていた絵だと気付いた。そう、俺に翼を生やしたものを対象としたものだ。
あれだけ脅してもなお描こうとするとは。コイツの心臓は鉄でできていたのか、それか余程死にたいと見える。
「アーラ」
「駄目ですね。この線。本物はもっと自然に…」
「おい、アーラ」
「いや、でも前方から風が吹いているなら、これもアリ…。いや、駄目です。やっぱ駄目です。変。不自然じゃなくてもバランス的に綺麗じゃない」
「その絵は、描くのを止めろと言ったはずだが。お前は少し前のことを記憶することもできないのか?」
「この線はもっとこう…。さっきから雑音が五月蝿いんですけど。虫か、幽霊の方ですかね?話が通じるんなら、ちょっと口を閉じててくれません?虫なら、自ら殺虫剤に浸かってください。そこら辺にあるんで。とにかく静かにしてくださいよ。集中できないんで」
「ほう。言うじゃないか」
苛立ったようにそう言われ、俺は意外に思った。セオドアから話は聞いていたが、筆を持っている時だけ気が強くなるというのは本当らしい。俺を虫呼ばわりとは。
これはこれでもう少し見ていたい気がするけども、今回は用事がある。俺はパレットの隣に置かれていた筆洗を手に取り、座っている彼の頭上でひっくり返した。
突然頭から水を被せられ、アーラは飛び上がった。
「目が覚めたか?」
「…………………ぴぇ」
「自分の立場を思い出せたようで何より。さて、虫なら…何だって?」
目をまんまるにして見開き、髪からはポタポタと水を滴しながら固まるアーラに、俺は微笑んだ。
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない。
ドアが開かないなら蹴破ればいいじゃない。
(そして、アーラは現在パンの代わりにお菓子を主食としているという奇跡)




