誕生祭 11
翌日。俺とアリスは次の謎を解くべく、エヴィの祖父の家に訪れていた。案内されたのは、昨日の建物に比べると随分と古びた家だ。
庭は雑草が伸び放題、壁の塗装は剥がれ欠けている。その外見はアーラの家を思い出した。
エヴィに案内されてその家の中へ足を踏み入れる。
「開かずの間とやらは?」
「二階の一番奥よ」
階段を登りながらエヴィが答えたその時、「エヴィ!」と彼女を呼ぶ大声がした。アリスが驚いてびくりと肩を震わせる。
その様子を見てエヴィは決まりの悪い顔をして、「…ごめん。お祖父ちゃんだわ」と言い、階段をかけ上がっていく。残された俺たちは顔を見合せ、彼女の後を追った。
「酒ぇ!酒はねぇのかぁ!!」
「ないわよ、お祖父ちゃん!そんなお金もないし、何より医者の人に飲むなって言われてるでしょ?!」
二階の部屋で二人の叫び声がする。俺とアリスが入り口から覗き込むと、ベッドに寝転がりながら酒と叫び暴れる老人と、それを必死に宥めるエヴィがいた。
アリスがはっとした顔をして、エヴィの方へ走っていく。丁度、エヴィの祖父が腕を振り上げたところだった。
意図してやったものではないのだろうが、握られた拳はエヴィの顔にぶつかる方へと伸ばされる。が、彼女に当たる直前に、アリスが彼女を押し倒して無事に済んだ。
「…大丈夫?」
「あ、ありがと。助かったわ」
アリスがエヴィに手を差し伸べ、立ち上がりやすいように引っ張ってやる。彼女の祖父はまだ酒を求める声をあげていた。
「祖父はいつもあんな感じなのか?」
「…まぁね。お祖母ちゃんがいた時はもっと大人しかったらしいんだけど。頑固だから言うことを聞いてくれないの。子供が何を言ってるんだ、って」
「あれでは苦労するな」
「…それでも、最後の家族なのよ。悪く言わないで」
「それは失礼した」
暴れる祖父をどうにか落ち着かせ、エヴィは開かずの間に俺たちを案内した。縫いぐるみの中にあった鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。ガチャリ、と音がしてドアはあっさりと開いた。
「ここが開かずの間…?」
小さな部屋だった。一人分の机と椅子、そしてランプと、あとは本がぎっしりと詰め込まれている本棚。家具はそれだけだ。部屋といよりは書斎のようだった。
俺は本棚へと近付き、部屋の端に置かれている梯子を使って、上段にある本の背をなぞる。
「上から三段目、右から三つ目の本、百四十三ページ、五行目、左から四つ目の文字。それから、五段目、右から六つ目の本、二十三ページ、十四行目、左から五つ目の文字。最後に、八段目、右から一つ目の本、二百八十九ページ、二行目、右から三つ目の文字…だったか。まずは三段目の三つ目だな」
「嘘でしょ…覚えてるの?」
「記憶力はいい方だ」
「うわ…感心したいところだけど、一周回って気持ち悪いわ…」
祖母からの手紙を手に、本棚を睨んでいたエヴィが言う。わざわざ手紙をまた読むのは面倒だし、覚えた方が手っ取り早い。
三段目にある三つ目の本を手に取り、百四十三ページを開く。五行目、左から四つ目の文字…と手を動かしていく。"太陽"。
同様に本を開けていくと、残りの二つは"堕落"、"翼"だった。
ふむ。太陽に、堕落に、翼。太陽と翼は共通点がありそうだが、堕落という単語の意味はなんだろうか。
俺は必要だった三冊以外にも何十冊とある本を見る。これらの本はただのカモフラージュのためのものなのか。それとも、これを使えという暗黙のメッセージなのか。三単語の意味が分かったとして、それの使い道は…?
「レオ」
アリスに呼び掛けられて、後ろを振り向く。彼女は机を動かして、それに設置されている引き出しを見せた。
「これ、だけ。鍵穴。多分、縫いぐるみ、の時と同じ」
「また鍵を見つけろということか。エヴィ、この単語に聞き覚えか何かは…」
「ねぇ…私、多分やっちゃったわ」
今度は俺とアリスが、エヴィの方を向く。
「本棚に本がこんだけあるんなら、何かあるかしらって適当に取ったんだけど…これ、その鍵よね?」
見かけは本の形をした箱、その中にある金色に輝く鍵を発見したエヴィがこちらを見て困った顔をしていた。




