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誕生祭 10



「その人、エヴィ、にだけ、分かるようなヒント、残してると思う」



俺とエヴィは、突然話に割って入ってきたアリスに顔を向ける。アリスは菓子を食べている途中だった。「ヒントって?」とエヴィが尋ねると、「それは…まだ、よく、分からない、けど」と言って菓子を食べる手を再開する。腹が減っているらしい。



「何だ、証拠もないのにそんなこと言えるの?」


「まぁそう言うな。アリスが言うなら一考の価値はある」



彼女にそう言わせるのは、お得意の勘だろう。ヒント、ヒントな。手がかりが何か…とまで考えて、俺は思い付いた。



「エヴィ、祖母からもらい受けたものはあるか?形見でも、贈り物でもいい」


「…あるわ。形見はないけど、誕生祭に贈ってもらったプレゼントか幾つか」


「では、それから探してみよう」



鍵をそのまま渡す、またはそのまま隠すよりも、他のものに紛れ込ませた方が見つかりにくい。


ましてやエヴィに見つけてもらうために隠した鍵だ。手がかりは彼女だけが持っているものである可能性が高いだろう。


エヴィはかつて自分が使っていた部屋から、その贈り物を取ってきた。種類は幅広いが、そのほとんどは奇抜なものではなく、服やアクセサリー、玩具といった少女が喜びそうなものだ。テーブルの上に十個程度のそれらを並べていく。


俺は暫く眺めた後、手前に置かれていた熊の縫いぐるみを手に取った。



「これだけ素人の手作りだな。左右の目が対称につけられていない。左側だけ少し歪んでいる。あとは縫い目が甘い。これは?」


「小さい頃にもらったものよ。テディベアって、子供が乱暴に扱っても壊れないように、丈夫に作ってるから、プレゼントにピッタリだって」


「そうか」



エヴィの説明を聞いた後、俺は左手を縫いぐるみの胴体に、右手を頭に置き、そして勢いよく横に引っ張った。


エヴィの悲鳴が上がる。耳を塞ぎたいところだが両手は塞がっているので断念し、そのまま縫いぐるみの首を引きちぎった。ブチブチッ…と裂ける音がなり、縫いぐるみの胴体と頭は完全に分離した。



「惨殺したわよ!!私のテディベアを!!アンタ、マジで馬鹿なんじゃないの?!私が!小さい頃から!一緒に寝て!私の最初の友だちを!ブチブチッって!惨殺したわ!!テディベアの惨殺者め!!」


「…耳元で叫ぶのは寄せ。頭に響く」


「はぁあ?!私のテディベアを殺しておいてよくもそんなことが言えるわね?!DV男なんてもんじゃないわ!惨殺者よ!テディベアの惨殺者なんだわ!!」



一向に叫ぶのを止めそうにない彼女の様子に溜め息をつき、俺は無惨に綿が溢れ出ている縫いぐるみの胴体に、手を突っ込む。期待通り指に固いものが当たる感触がした。



「ほら、見つかったぞ」


「アンタなんてね、テディベアに襲われる悪夢に毎晩魘されればいいんだわ!!…今、何て言った?」


「見つかったぞ、鍵」



綿まみれになった金色の鍵を取り出し、エヴィに放り投げる。エヴィはぽかん…とした顔をして、俺と受け取った鍵を交互に見て、「…………え?」と間抜けな声を出した。



「ついこの間、同程度の大きさの縫いぐるみを持つ機会があってな。この縫いぐるみは、その時に持ったものと比べて重量が重い。まるで()()()()()()()()()()()みたいに。それで探したら当たりだ」


「…お祖母ちゃんの遺言のこと、私、数ヶ月くらい悩んだのよ?家中それらしいものを探したりして。それでも分からなかったのに…。そんなにあっさり?」


「見つかったな」


「私の数ヶ月間はなんだったのよぉ…」



ウジウジと嘆く彼女を放置し、俺は鍵と共に縫いぐるみに入れられていた紙を取り出した。なるほど、遺言と同じように次のヒントが隠されていた訳か。やはり乱暴に開かずの間をこじ開けるのは駄目だったようだな。





"私が残した言葉の意味、気がついたようで何よりだわ。


昔、貴方は宝探しが好きだったわね。


久しぶりに、お祖母ちゃんと宝探しをしましょう。


分からなければ信用できる人に頼りなさい。


誰でもは駄目よ。貴方の目で見て、この人なら信頼できると思える人を探すの。そして、その人との縁は大切になさい。これは宝探しだけじゃなくて、人生でも言えることよ。


行き詰まったら、信用できる人と助け合いなさい。いいわね。



では次の言葉よ。『上から三段目、右から三つ目の本、百四十三ページ、五行目、左から四つ目の文字。それから、五段目、右から六つ目の本、二十三ページ、十四行目、左から五つ目の文字。最後に、八段目、右から一つ目の本、二百八十九ページ、二行目、右から三つ目の文字』



P.S.隠した私が言えることではないけれど、縫いぐるみの頭をもぐのは駄目なことよ。ものは大切に扱いなさいと教えたでしょう、エヴィ"





手紙を読み上げると、「私じゃないわ、お祖母ちゃん!コイツよ!この惨殺者が私のテディベアを殺したの!!」とエヴィは叫んだ。






レオの主な呼び名


「レオ(君、さん)」

「坊っちゃん」

「魔王」

「化け物」

「妖精さん」

「DV男」

「暴力男」


「テディベアの惨殺者」←NEW!!



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