1.目覚めた「元」戦士と優しき友
熱く疼く腹部の痛みで、マルシャルは顔を歪めながら覚醒した。
彼の目が捉えたのは見知らぬ天井。そして、首を回せばそこには気の合う緑髪の青年、リルガーの姿があった。
騎士団の鎧は脱がされベッドに寝かせられたマルシャルの上半身には、至る所に包帯が巻かれている。白く清潔であっただろうそれには、主に腹の部分から出た赤が滲んでいた。
ベッドから起き上がろうと試みた途端、腹の傷が激しく痛んだ。
思わず呻きが漏れると、椅子に座ってうとうとしていたリルガーが目を開けた。
「……ん? あっ、マルシャル! 目が覚めたんだね。えっと、お腹とか色々大丈夫?」
結局起き上がるのを諦めたマルシャルに、心配そうに訊ねるリルガー。
そんな彼に苦笑いで言う。
「うーん……めっちゃお腹痛い……」
「だろうねー……オレもあの試合観てたけど、かなーり深めにザックリいかれてたじゃん? 一応大会関係者の人達が応急処置とかしてくれたけど、流石にビックリしちゃったよー。生きてて良かった……」
「あー……」
(意識飛ぶ直前、目の前で血が飛び散ってたもんなぁ)
鎧を貫き、肉を斬り裂いたヴァンセンの剣。
一瞬、ひやりと金属の冷たさが触れたかと思うと、すぐさま燃えるような激痛と共に視界に散った幾つもの赤い玉。
(わざわざ僕に見せ付けるように血を飛ばしたな……性悪騎士め)
リルガーは彼が気絶した後のことを語ってくれた。
あの後、マルシャルはすぐに救護室に運ばれた。シャルリエも彼を治療しようと救護班について行こうとしていたが……
「対戦相手の……ヴァンセンって言ったっけ? その人がさ……シャルリエ様をどっかに連れてっちゃったんだ」
「シャルリエを……」
何故この部屋にリルガーしか居なかったのか。マルシャルが大怪我を負ったとなれば、彼女なら目が覚めるまで側を離れないはずなのだ。
ヴァンセンが彼女を連れ去った理由──マルシャルには心当たりしかなかった。
「オレ、何かあの人おかしいなって思ってすぐに後を追ったんだ。戦士と巫女は二人で一つのチームなんだから、それを引き離すなんてあり得ない。これは裏で絶対何かあるに違いないってテーラも言っててさ。だから二人で探そうとしたんだけど、マルクト騎士団に邪魔されちゃって……」
「うちの騎士団が?」
「何でなのかはわからなかった。結局二人は見失っちゃったし、オレ達もオレ達で次の試合の時間が迫ってたから、何も出来なかった……ゴメン、マルシャル」
申し訳なさそうに俯く彼に、マルシャルは首を左右に振って小さく笑う。
「元はと言えば僕が負けたのが悪いんだもん。リルガーが気にすることじゃないよ」
「でも……!」
「あのテーラまで協力してくれたんでしょ? それだけでも僕は嬉しいよ。敵同士なのに、僕とシャルリエの為に動いてくれたんだからさ」
ふと、マルシャルは窓の外に目を向けた。
(きっと二人はダアトに向かったんだ。負けた僕をクビにして、新しいサンダルフォンの戦士になったヴァンセンが彼女を連れて……)
試合会場にはマルクト担当の賢者プラタナスが居た。これが仕組まれたものだとすれば、ヴァンセンはもう賢者に認められた戦士として振る舞うに違いない。
だが、マルクトの神アドナイ・メレクに選ばれた真の戦士はマルシャル一人なのだ。
シャルリエもきっと、そうであることを望んでいるはず──
(シャルリエを絶対に連れ戻す。そして、ヴァンセンの野郎を今度こそぶっ飛ばしてやる! そうじゃなきゃ気が済まないんだよ!)




