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5.心の痛みと身体の痛み

 闘技大会の会場は、二人の騎士と巫女が織り成す戦いを前にとてつもない熱気に満ち溢れていた。

 マルシャル達よりも前に他の神殿同士の試合があったが、これもまた観客の目を惹く一戦であることに違いない。

 すると、ヴァンセンがふと観客席の一角に視線をやった。マルシャルも油断しないように意識しながら、そっと目を動かす。

 そこに見えたのは輝きを放つ黄金の髪と、全てを見透かすかのような菫色の瞳を持つ少年──マルクト神殿の巫女と戦士を担当する十賢者の一人、プラタナスだった。

 彼はマルシャルとシャルリエにこの大会があることを伝え、エントリーまで済ませていてくれた。

 誰の手にも渡っていないパスがあるのは、ここヌンのみだ。もしも大会に出場出来ていなければ、後のパスを他の神殿から勝ち取るしか道が残されなかったことになる。

 観客席から見守るプラタナスは、これらを踏まえれば良心的な人間に見える。だがマルシャルは彼のことを信用していない。


(ヴァンセンが目をやった方向に奴が居た。これは偶然なんかじゃない。この対戦カードは、プラタナスとヴァンセンが仕組んだ可能性があるんだから)


 今日までの不信感が、徐々に確信へと変わっていく。

 プラタナスもマルシャルも、互いのことを快く思っていない。彼は以前、シャルリエに今からでも戦士を変えないかと提案していた。

 十ヶ所の神殿の中では上位のパス獲得数と戦績を誇っているマルクトだが、マルシャルは謎の男トバリに捕まってしまった。

 それまでは多少生活態度に問題のあるマルシャルについて目を瞑ってくれていたものの、これが切っ掛けとなったのだろう。プラタナスはマルシャルを切り捨てようと動いているように見えて仕方が無い。

 プラタナスの口から詳細には語られていないが、【セフィロト聖戦】の裏には世界が危機的状況に見舞われるような何かが隠されているのだろうとマルシャルは予想している。だからこそプラタナスはより強い戦士を求めているのだろう。

 マルクト神殿がより強くならねばならない何か──そんなものは見当がつかないが、遅かれ早かれその「何か」が明らかになるに違いない。

 その脅威に対抗出来、現サンダルフォンの戦士たるマルシャルを超えるであろう存在のヴァンセンの手によって、マルシャルを肉体的にも精神的にも潰す策略……


(だけど、そんなもん僕らが勝っちゃえば良いだけの話だからねぇ)


 視線が交わり、不敵な笑みを浮かべるプラタナス。

 マルシャルは薄ら笑いで睨みながら言う。


「全部思い通りに出来るなんて、本気で思ってるのぉ? アッホらしい~」

『審判の合図で試合が開始されるぜ! 魔法花火がパーンと弾けた瞬間からいつでも始めてくれよな! 勝敗は相手を戦闘不能にするか、降参させれば決着だー! ただし、相手を死なせたらその時点で失格とみなされるぜ? その辺注意しといてくれよな!』


 無駄に元気の良すぎる司会進行役の声と同時に、運営テントから客席から少し前に出たバルコニーのようなエリアに男性が躍り出た。

 大会運営の腕章を着け、ローブを纏ったその男が杖を構える。彼が審判役なのだろう。

 マルシャルは剣を抜き、シャルリエも黒い錫杖を召喚する。

 一方ヴァンセンはというと、これでもかと洗練された優美な動作で剣を抜き、観客達にアピールしていた。彼の美貌と気品溢れる振る舞いに、あちこちから黄色い声援が飛び出して来る。


(若くて騎士で強い男ってのは僕と同じなのに、この差って何なんだろうねぇ!?)


「絶対勝とうねシャルリエ! あいつなんかボッコボコにしてやろうね!」

「あ、えっと、怪我は全て治しますから、お互いとにかく頑張っていきましょう!」

「正々堂々、お相手させて頂きます」


 審判は頃合いを見て、いよいよ杖の先端から魔力の光を発射させた。

 細い光がみるみるうちに空へと登り、頭上で大きな花を咲かせるかのように弾けて飛んだ。


(早速行こうか!)


「シャルリエ!」

「はいっ!」


 名前を呼んだだけなのに、彼の意思がシャルリエには伝わっていた。

 マルシャルがヴァンセンの懐へ斬り込んでいく数秒で、シャルリエはマルシャルに防御魔法をかけ終える。


「はあっ!」


 剣は鎧を掠めもせず、ヴァンセンに避けられた。


(まだまだぁ!)


「サンダルフォン! 僕に力を!」


 あえて分かり易い攻撃を仕掛け、自分と距離を空けた隙にサンダルフォンの加護を発動させるマルシャル。


「ほう? もうその力を行使するのですか」


 赤黒い光と共に闇色の翼が出現すると、マルシャルにしか聞き取れない程度の声量でヴァンセンが呟いた。


「解放された上質な魔力──これが近い将来、俺の手に……」

「馬鹿言ってんじゃねーよこの顔だけ野郎! この力でお前を──」


 瞬時に上空へと移動し、マルシャルはサンダルフォンの魔力を結晶化させていく。

 より硬く、より鋭く、ありったけの憎しみを込めた黒水晶は見る間に巨大なものへと成長した。


「ぶっ潰す!!」


 掲げた剣をヴァンセンへと振りかざせば、隕石の如く巨大水晶が落下していく。


『マルシャル、いきなりの変身! そしていきなりの大技炸裂だーっ! この攻撃にヴァンセンはどう出るのかー!?』

「ふむふむ」


 直撃すれば即死も有り得る攻撃を前にして、彼は至って冷静だった。

 いや、正しくはマルシャルに落胆していたのだ。


「マルクトを代表する戦士の力量がこの程度だとは……神も判断が鈍っておられたのでしょう。これでは彼が新たな戦士を欲するのも頷けますね」


 ヴァンセンは冷めた目で刀身に白銀のオーラを纏わせ──いとも容易く黒水晶を一刀両断してしまったではないか。


「ハァ!?」

「サンダルフォンの水晶が、斬られた……!?」


(どうしてだよ!? 天使の魔力が凝縮された攻撃を、ただの人間が真っ二つにするなんて──)


「マルシャル、君とはもうさようならのお時間です」

「……っ!?」


 いつの間に目の前まで跳躍していたのか、マルシャルは気が付けば空中でヴァンセンの一太刀を浴びせられていた。

 シャルリエの防御魔法すら斬り裂いて、頑丈なはずの騎士団の鎧までも貫いた攻撃がマルシャルの腹を斬り付けた。


「どうか安心して下さい。後のことは、全て僕が引き受けますから」


 サンダルフォンの光と同じ、赤黒い液体がヴァンセンの顔に跳ねる。

 強烈な痛みと絶望を感じながら、彼の胸糞悪い笑顔を最後に、マルシャルはぷつりと意識を失った。



 

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