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2.戦士の焦りとマルクトの紋章

 衝撃的な速さで終結したケセドとのパス争奪戦は、マルクトの勝利で幕を降ろした。

 ルッダとシュカンタにそれを知らせようにも、二人はこの町のどこかで今もペーのパスを探していることだろう。

 それに、二人はバラバラになってパス探しをしている。片方を見付けてももう一人にすぐ会えるかわからない。効率が悪そうだ。


 (でも、勝負に勝ったからにはケセド神殿の二人からパスを貰わないとねぇ)


 ペーのパスを先に見付けた神殿に、負けた神殿は一つパスを差し出す。これが今回の対決のルールだった。


「シャルリエ、とりあえず僕らは教会に行こうよ。その内パスが僕らに取られたのに気付いて戻って来るかもしれないし」

「そ、そうかもしれませんが……」


 黙って自分達だけ休むことに抵抗があるシャルリエとは対照的に、マルシャルは早く教会に行ってしまいたくて仕方がなかった。


「これだけ人が多い町中で小さな子供二人を探すなんて非効率だしさぁ。時間があるんだから今のうちに残りのパスはどうなってるか、マルクトの神様に訊いてみたら良いと思うんだ」

「あっ、確かにマルシャルの言う通りかもしれません! では……ケセドの巫女様と戦士様には申し訳ないですが、お二人の到着を教会で待つことにしましょう」


 マルシャルとシャルリエは教会へ向かった。

 そして二人は早速祈りの間に行き、アドナイ・メレクの助言を求めた。

 シャルリエが祈りを捧げる小さな背中を見守りながら、マルシャルは考えていた。

 残るパスはごく僅か。そこに多くの神殿が集中するのは確実だ。これまでイェソド、ネツァク、ケセド神殿と争ってきたが、一番の強敵はきっとケテル神殿に違いない。

 前回の聖戦勝者であるケテルは、今回も負け知らずで勝利を重ね続けている。

 更にダアトの城はケテル国内に出現するだろうから、他の神殿の妨害を受ける間も無く戦闘禁止区域に逃げ込めてしまえる。

 それに引き換え、マルシャル達は十ヶ所の神殿の中で最もダアトから離れたマルクトから旅を始めている。ルートによっては他の神殿と出会い、こちらのパスが狙われて勝負を挑まれる確率も高くなる。

 己の剣の腕を信じてこれまで戦ってきたマルシャルだが、ここに来て抱えるはずのなかった不安が胸に押し寄せていた。

 その大きな原因となったのが、ケセドの傭兵ギルドの事件だった。


 (僕は、シャルリエの力になれているのかな)


 単独で敵地に向かい、捕らえられ、最後には守るべき巫女に救出された。

 今まで自分の力は誰をも凌駕していると信じて疑わなかった。それなのにあっさりと敵に捕まる情けない有様だった。

 シャルリエとカイザイク、そして謎の青年の手助けが無ければ確実にマルシャルは殺されていたはず。


 (……僕は、本当は弱いやつだったのか?)


 無意識の内に、頬を嫌な汗が流れる。


 (弱い僕は、シャルリエに見捨てられるんじゃないのか……?)


 マルクトを担当するダアトの賢者プラタナスは、シャルリエが望めば戦士の選定をやり直せると言っていた。

 マルシャルがマルクトに不必要だと判断されれば、いつ切り捨てられてもおかしくはない。


 (そんなの……そんなの嫌だ! 僕は強いんだ。誰よりも強い騎士で、シャルリエの戦士なんだから! もっと、もっと頑張らなきゃいけないんだ……!)


「……マルシャル、大丈夫ですか?」


 不安そうにたずねたシャルリエの声にはっとした。


「しゃ、シャルリエ……」

「顔色が悪いようですが……もしかして、教会へ行くよう勧めたのも具合が悪かったからでは……」

「そんなんじゃないよ、大丈夫。ちょっとボーッとしちゃってただけだからさぁ。それよりパスはどうだったの?」

「ええと……いよいよ残るパスはヌンで最後になったようです」


 マルシャルはいつも通り振る舞い誤魔化したが、彼女にどこまで通用しているかはわからなかった。


「ヌン……ここからすぐだねぇ」

「ええ」


 次の目的地はティフェレトのヌンに決まった。

 すると、祈りの間に近付く足音が聴こえてきた。


「マルクトの巫女さーん! もしかしてもうパス見付けちゃってたりしてるー!?」


 ここまで走ってきたらしいケセドの巫女ルッダだった。


「あ……えっと、見付けちゃってます」


 シャルリエはペンダントに新たに加わったペーの水晶を見せる。


「あーっ! ホントに見付けてるー!」

「ケセドの巫女様達と別れてからすぐにゲットしちゃったよ」

「うわー負けたぁ!」

「はぁ……はぁ……ルッダ、置いてくなんて……酷い……」


 途中で合流出来たシュカンタは、またもやルッダに走って置いていかれていたようだ。

 彼の胸に抱えられた兎のぬいぐるみは項垂れてぐったりしていた。


「ごめーん!」

「謝り方軽いな」

「……というわけですので、今回はわたしたちの勝ちですね」

「ぼ、ぼくたち……負けたんだ……」


 シャルリエとルッダはそれぞれペンダントを近付ける。そして、シャルリエのペンダントにもう一つ水晶が追加された。


「これは……テットのパスですね」

「テットのアルカナは【力】……なんだけど、あたし達にはいまいち使いこなせなかったからこっちを渡すね!」

「ぼくたちのパス……一個だけになっちゃった……」


 これでマルクトのパスは六個になった。

 現時点ではマルクトが最もパスを集めている。しかし、この聖戦はパスの数だけで結果は出されない。

 この先の行動次第でどの神殿にも挽回する機会は残されているのだ。


「よし、じゃあ早速ヌンに行こうかシャルリエ」

「そうですね、マルシャル」

「え、何でヌンに行くの?」

「もうそこにしかパスが残ってないからだよ」

「そ、そうなの!? あ、あたし達も行こうシュカンタ!」


 焦った様子で祈りの間を飛び出していったルッダ。


「ま、また走るの……!? 待ってよルッダ!」


  涙目でよろよろと駆け出していったシュカンタを見送って、マルシャルとシャルリエは町外れで待たせておいたクローブに跨った。



 白銀の髪を靡かせた見目麗しい青年が一人、ヌンの街にやって来た。

 誰もが目を惹かれるその美貌を携えた青年の腰には、細かな装飾が施され、マルクトの紋章が刻まれた剣が下げられている。


「戦士の力……俺のこの目で、直接見極めさせてもらいましょう」


 彼の後ろには、何故か賢者プラタナスの姿があった。



 

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