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セフィロト ー王国の巫女と黒き騎士ー  作者: 由岐
第4章 運命の輪
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9.地下階段と謎の青年

 馬車を停めておいた場所からは、既にロメオと馬車が姿を消していた。


「うわー、やっぱり黒だったかぁ」


 走って戻ってきたものの、やはり馬には追い付けない。

 マルシャルは一度大きな溜め息を吐くと、きりりとした表情を浮かべる。


「……じゃあもう、遠慮しないで良いよねぇ」


 サンダルフォンの力を解放し、翼を広げて全速力で飛行する。

 空中から町を見下ろしていると、一目散に通りを走り抜けていく一台の馬車を発見した。


 (あれはクシランの……!)


 ロメオが向かう方角は都の方角だ。やはりロメオ達を率いているトバリが、この一連の事件の黒幕だと考えて間違いないだろう。

 尾行に気付かれないように、マルシャルは夜空を飛び続ける。

 馬は休みなく走らされているせいで、段々とスピードが落ちてきた。

 すると、トバリが寄越したであろう仲間の男が、クシランの馬を馬車から外して、連れて来た別の馬に馬車を引かせ始めた。


「待たせたなロメオ。どうだ、今回は大物はありそうか?」

「おう! どっかのお偉いさんに売るっつー、珍しい金属があるみてえだぜ」


 二人と積荷を乗せた馬車は夜通し走り続け、明け方には都に到着した。

 東の空が明るみ始め、しんと静まり返る街に馬の軽やかな足音と車輪の音が響く。

 マルシャルは、見失わないように着地して、翼を仕舞い物陰に隠れながら後をつけた。

 暫く大通りを進んだかと思うと、途中で左に曲がり、馬車が一台通るのがやっとという狭い道を行く。


 (こいつらどこまで行くつもりなの……)


 長時間精神を緊張させたままのマルシャルは、流石に疲れを感じていた。

 細道の突き当たりまで行くと、黒い扉があった。ロメオはそこで馬車を停め、もう一人の男と共に荷物を運び始めた。

 扉の先は地下へ繋がる階段となっているようで、二人は何度もその階段で行き来して、全ての荷物を地下へ運び終えた。


 (あそこがあいつらのアジトと見て間違い無さそうだ。早速クシランと合流して、カフで待ってる男爵さんに報告しに……)


「貴方でしたか。私の部下を尾行して、ここを嗅ぎつけるとは……ね」


 聞き覚えのある落ち着いた、思考の読めない低い声。


「……っ!!」


 背後から薬品を染み込ませた布で鼻と口を押さえ付けられ、ほんの数秒で意識が朦朧とする。


「フフ……無事に帰られると思わないで下さいよ? 我々の秘密を、貴方は知り過ぎてしまったのですから……」


 必死に意識を保とうとするが、強烈な目眩に立つこともままならず、ずるりと地面に倒れこむ。


 (あーあ……油断、しちゃった……)


 そうして、完全に意識を失ったマルシャルは、トバリが呼び寄せた男に担がれ、黒い扉の奥へと運び込まれていった。


 一方、マルシャルと別れたクシランはカイザイクが作った通信機でヨッドから連絡を取っていた。


「……はい、ですからロメオという男の後を追ったマルシャルからは、まだ何の連絡もないんです」

「そりゃあ何かおかしいなァ……」

「マルシャルの身に、何らかの危険が及んでいるんじゃないかと……」


 朝には一度連絡を寄越すはずのマルシャルから、昼になった今も連絡が入らない。

 クシランは勿論、カイザイクの声にも不安の色が浮かんでいる。


「あの坊主、そんなヘマやるようには見えなかったんだがなァ」


 (やっぱり、ちょっと剣が扱えるくらいのあの人に単独行動させるなんて、無茶だったんだ……)


「俺が、マルシャルについていっていれば……!」


 クシランは固く拳を握り締める。


「君が、商人のクシランかい?」


 ふいに声を掛けてきたのは、上質な衣服に身を包む黒髪に紅い瞳が印象的な青年だった。


「あ、あなたは?」

「私は、マルシャルの居場所を知る者だ。彼の身に危機が迫っている。シャルリエを連れて、今すぐ都へ向かってほしい」

「シャルリエ……? って、誰ですか?」

「シャルリエだと?」


 通信機越しにクシランの声が聞こえていたカイザイクが反応する。


「ご存知なんですか?」

「ご存知も何も、お嬢ちゃんなら俺の隣で今にも泣き出しそうな顔してるぜ」

「すまないが、その機械を渡してくれ」


 状況が飲み込めていないクシランの手から通信機を攫い、謎の青年が語りだす。


「シャルリエに変わってもらいたい」

「お、おい! どこのどいつだァ? 俺の許可も無く勝手に通信機使いやがっ」

「無駄話をしている暇は無いんだ。今すぐ、シャルリエと話をさせてほしい。このままではマルシャルの命が危ないんだ」


 どこの誰とも知らぬ青年の主張に半信半疑のカイザイクだったが、マルシャルの安否が分からない今、青年の話が真実であれば事は急を要する。

 渋々通信機をシャルリエに握らせると、青年は先程よりも穏やかな声色で言った。


「シャルリエだね?」

「は、はい……」

「私は君とマルシャルの味方だ。これから私が話すことを、よく聞いてもらいたい。……今、マルシャルはケセドの都の地下に囚われている。犯人は例の傭兵ギルドで間違いない」

「そ、そんなっ! マルシャルは、マルシャルはどうしているのですか!?」

「落ち着くんだシャルリエ。マルクトの巫女として、冷静になるんだ」


 彼の言葉にはっとしたシャルリエ。


「彼らのアジトを特定した直後、マルシャルは薬で眠らされ、地下に連れて行かれた。ギルドの秘密を知ってしまった彼は、遅かれ早かれ……命を奪われる危険があるんだ」

「……っ、わ、わたしは……マルシャルを助けに向かいますっ」

「ああ、そう言うと思っていたよ。私は都の入り口で待っている。飛竜に乗って、大至急駆け付けてもらいたい」

「はい!」


 シャルリエの返事に小さく頷くと、青年は通信機をクシランに投げ渡した。


「君の馬と馬車は、私が宿屋に預けておいた。迎えに行ってやるといい」

「は、はぁ……」


 それだけ言い残して、青年は背中を向けて歩き出していった。

 シャルリエは通信機をカイザイクに返すと、急いで部屋を飛び出した。


「ちょっと待てシャルリエ!」


 カイザイクも追い掛けて廊下へ飛び出し、階段を降りていくシャルリエの後を追いかけた。


「おめー一人でんな危ねえとこに放り出す訳にはいかねェ! 俺も一緒に行ってやる!」

「ほ、本当ですか?」


 階段を降りきったシャルリエが足を止めて振り返る。


「本当に決まってんだろ! ダチのダチがピンチってんなら、手助けすんのが漢ってやつよォ!!」

「男爵さん……」

「ま、今まで一人もダチなんざ居なかった奴が言っても説得力ねえか?」


 カイザイクは使用人に愛用の剣を持って来させると、修繕された両開きの玄関扉を開け放った。


「あの坊主がこうなっちまったのは、俺が軽率な作戦を提案したのが原因だ。てめーの尻拭いはてめーでやらにゃあならねえしな」


 使用人達に見送られ、シャルリエとカイザイクは町外れへと向かう。

 すると、そこにはシャルリエが来ることが分かっていたかのように、しっかりと意思を持った瞳でクローブが待ち構えていた。


「うおっ! こりゃあ随分賢そうな竜だなァ」

「クローブ! マルシャルが大変なのです! 今すぐケセドへ向かいたいのですっ!」


 任せておけ、と言うように自信満々に頷くクローブ。

 二人は早速ケセドへと飛んだ。

 陸路を進むのと違い、ハシバ内海の上空を突っ切って行けば、格段に早く到着出来る。

 更に、今のシャルリエはマルシャルを助けることで頭がいっぱいだった。普段なら怖がるような猛スピードでも、しっかりと身体を支えてくれるカイザイクの助けもあって、ほんの数時間で都に着けた。


「待っていたよシャルリエ」


 約束通り、シャルリエの到着を待っていた謎の青年が二人を出迎えた。


「あなたが先程の……」

「君は……シャルリエを送り届けてくれたのか。ありがとう」

「礼ならあの竜に言ってやってくれ」

「フッ……そうだな。さて、地下への入り口に案内しよう。あまり良い予感がしないんだ。早く向かおう」

「はいっ!」

「おうよ!」


 今朝とは打って変わり、人で賑わう大通りを進んで行くシャルリエ達。

 途中で左に曲がり、更に奥へと進み、例の黒い扉までやって来たところで足を止める。


「……ここが入り口だ。残念だけど、私が案内出来るのはここまでだ」

「どうしてだよ?」

「私には私の都合があるんだ」

「こうして案内していただけただけでも、充分ありがたいです。ありがとうございます」


 早速ドアノブに手をかけるカイザイク。


「鍵は……かかってねえのかよ! 不用心だなオイ」

「いや、鍵ならここにある。私が既に開けておいたんだ」


 青年は幾つかの鍵の束をカイザイクに手渡した。


「これがこの先役に立つはずだ。どうか、マルシャルを救ってやってほしい」

「任せときな!」

「必ず、助けてみせます」

「……後は頼んだ。幸運を祈る」


 二人は扉をくぐり、地下へと続く階段を降りて行く。

 いつ何が起こるか分からない。先頭を行くカイザイクは剣を抜き、シャルリエも錫杖を出して警戒して進んでいる。

 壁に取り付けられた松明の灯りが点々と辺りを照らす中、階段を降りきると更にもう一つの扉があった。

 二人はアイコンタクトを交わすと、意を決して扉を開けた。

 目の前には、必要最低限の家具と灯りが用意された広めの空間が広がっていた。


「ん? 誰だお前ら」


 そこは傭兵達の共同スペースだった。何人もの男達がシャルリエとカイザイクを見ている。


「その身なり……怪しいな」

「おい! そのガキはマルクトの巫女じゃねえのか!?」


 シャルリエはその言葉に身構え、彼女を庇うようにカイザイクが立ち塞がった。


「ビナーの法衣も黒いが、あそこの巫女は代々黒髪の一族らしいからな……間違いねえ」

「いかにも! コイツは正真正銘マルクトの巫女さんだァ!!」

「あなた達の悪事は、全てお見通しです! 商人の皆さんから奪ったものも、わたしの大切なお友達も返していただきます!」

「ハンッ! 神のお怒りってやつか? 面白え、みんなやっちまえ!!」


 その男の言葉を合図に、数十人の男達が二人に襲いかかる。


「でりゃあァ!!」


 屈強な男達がカイザイクに武器を振り下ろす。

 しかし、幼い頃から染み付いた剣技と、機械弄りの為に身に付けた魔法が敵を退けていく。


「ハハッ! そんな腕で傭兵なんざ笑わせるぜ!!」


 カイザイクには敵わないと踏んだ男達は、とても強そうには見えないシャルリエから倒そうと向かって来た。

 だが、シャルリエもそう簡単にはやられない。

 精度の高い防御魔法の数々で、彼女に擦り傷一つ、指一本すら触れられないのだ。


 (待っていて下さいマルシャル。すぐに行きます……!)



 

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