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セフィロト ー王国の巫女と黒き騎士ー  作者: 由岐
第4章 運命の輪
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7.きょうだいと鋼鉄の男爵

 カフへ向かう途中で立ち寄ったのは、牧場を営むシエーク一家の家。

 自慢の牛乳やバター、チーズをふんだんに使った料理の数々は、シャルリエとマルシャルの心に染み渡る味だった。

 手作りのクッキーを振舞ってくれた長女のナタリーは、シャルリエの一つ年上だと分かった。

 彼女の趣味はお菓子作りだということで、それに興味を持ったシャルリエはナタリーの話に聞き入っていた。


「新鮮なミルクがうちの自慢だから、色んなお菓子が美味しく作れるの。家族からの評判も良いし、シャルリエちゃんにもマルシャルさんにも喜んでもらえたし……良かったわ」


 歳が近く、二人はすぐに打ち解けた。

 ナタリーの部屋のベッドに並んで腰掛ける。


「ナタリーは、他にどんなお菓子を作れるのですか? 気になりますっ」

「そうね……。アップルパイとか、チーズケーキとか。一通りのものなら作れるかな」

「すごいですナタリー! わたし、お料理は全然したことがなくて……。でも、今日ちょっとだけですけど、ナタリーとナタリーのおばあさまのお手伝いをして、その楽しさが分かりました!」


 無邪気に微笑むシャルリエに、ナタリーは照れ臭そうにしながらもシャルリエの頭を優しく撫でた。


「そう言ってもらえるなんて嬉しいわ。マルクトの巫女様も、可愛い女の子にかわりないのね」

「か、可愛いなんてそんなっ! わたしより、ナタリーの方が可愛くてお綺麗ですよ」

「ふふっ、ありがとう。もしもあたしに妹が居たら、シャルリエちゃんみたいな子がいいわ」


 すると、弟のティムがマルシャルの手を引いて部屋へやって来た。


「お姉ちゃんと巫女のお姉ちゃん!」

「どうしたのティム?」

「マルシャルお兄ちゃんすごいんだよー! パパを倒しちゃったの!」


 興奮して語るティムの言葉に、シャルリエとナタリーは固まる。


「ど、どういうこと?」

「マルシャル、何をしたのですか……?」

「えー……まあ、その……パパさんと真剣勝負したんだよ」

「ああいうの、ざんぱいって言うんだよね!」

「そうなるねぇ」


 それを聞いて、シャルリエはみるみるうちに顔を青くさせた。


「ま、まさかマルシャル……!」

「か、勘違いしないでシャルリエ! 命に関わるようなことはしてないから! わざわざマルクトの評判落とすような真似しないからね僕!!」


 夕食の後、ティムの遊び相手をしていたマルシャルの元に、彼の父であるライアンがやって来た。

 その時に、ライアンがマルシャルとの手合わせを願い出たのだ。


「パパが……マルシャルさんと手合わせを?」

「昔は僕と同じ騎士を目指してたんだってさ。だから腕にはちょっと自信があるって言って、木刀持って来て外で一戦交えたんだ」


 ティムが見守る中、手加減はいらないと言ったライアンの言葉に従って、マルシャルは本当に加減をせずに戦った。

 しかし、それはライアンの身体に攻撃を叩き込むようなものではなく、足を引っ掛けたりフェイントをかけてみたり、次々と来る攻撃を避けたりというものだ。

 手加減ぜずに、避けまくる。おちょくりまくる。

 そんなマルシャルに翻弄されたライアンは今、リビングのソファーに倒れ込みヘロヘロになっている。


「流石に一般人相手に怪我させられないしぃ? まあ、スジは良かったけど」

「そういうことだったのですね……びっくりしました」

「ティムが誤解生むようなこと言うのがいけないんだよー」


 屈んでティムのむにっとした頬を摘まむ。


「ごめんなひゃーい!」

「このむにむにほっぺめ!」

「ふふっ! ティムったら変な顔になってるわ」

「あんまり強くつまんではいけませんよ?」

「わかってるー!」


 賑やかな時間が流れ、夜は更けていく。

 そして、朝にも美味しい食事を用意してもらい、いよいよ二人がシエーク一家と別れる時がやって来た。


「マルシャルお兄ちゃーん!」


 マルシャルに飛び付くティムを受け止め、頭をぽんぽんと叩く。


「おーティム、朝から元気だねぇ」

「聖戦がんばってね! おうえんしてる!!」

「ん、ありがとー」

「ナタリー、皆さん。短い間でしたが、本当にお世話になりました。ありがとうございましたっ」

「シャルリエちゃん、マルシャルさん……あたしたちこそ、二人と一緒に過ごせて楽しかった」

「またいつか遊びに来てちょうだいね」

「達者でな!」

「はいっ!」

「またねー」


 笑顔で見送られ、マルシャル達は再びカフへと向けて出発した。


 そして、太陽が真上に来た頃コクマとの国境に程近いカフに到着した二人は、アドナイ・メレクから授けられたヒントである屋敷を探し始めた。

 聞き込みをしていくうちに、それらしい屋敷の目星がついてきた。

 町の中心部にある、エギラ男爵が住んでいる屋敷。その男爵は機械弄りが趣味のようで、少し変わった人らしい。


「アドナイ・メレク様の言うことを疑うわけじゃないんだけどさぁ……あの奇妙な建物が、事件とパスに何の関わりがあるってのかねぇ」


 男爵の屋敷にしては、ある意味で他人を寄せ付けない異彩を放つ珍妙な景観に、門の前で苦笑いする。

 何かの機械の残骸と、大きな歯車達が転がっている庭は、シンのツヴァルグの屋敷の美しい庭園とはかけ離れていた。


 (屋敷は屋敷でも、これじゃあゴミ屋敷じゃん……?)


 本当にこんな建物に男爵など住んでいるのだろうか。

 そんな疑問を持たずにはいられなかった。


「で、でも男爵様ということは、何か有力な情報を持っていらっしゃるかもしれませんし。行ってみないとわからないですよ」

「まあそうなんだけど……何この入りにくい雰囲気」

「ちょっと勇気がいりますよね……」


 二人が躊躇うのは、訪ねる相手が男爵だからではない。

 寧ろ、マルシャル達は旅立つ前日に城で開かれたパーティーで国王と顔を合わせているし、あの五月蝿く暑苦しい残念なイケメン、ツヴァルグも一応は侯爵家の人間だ。

 国の誇りと未来を背負った巫女と戦士にとって、相手の立場が何であれ神の導きと天使の加護の下、平等に接するのが常である。

 今二人がこの門を潜ることを躊躇してしまう理由は、屋敷にあった。


 (何で屋敷の中から物騒な物音がするんだろう……)


 何かが爆発するような音に、ガラスが割れる音。悲鳴と破壊音が絶えず聴こえてくるのだ。


「ねぇシャルリエ……このお屋敷って、悪の秘密結社のアジトとかじゃないよねぇ? 何で穏やかな住宅街の一角からこんなデンジャラスな音が漏れ出てるの?」

「い、行ってみないと……わかりません」


 (変わった人ってレベルじゃないでしょこれは! 普通に怖いわ!)


「……まあ、ここで立ち止まっててもしょうがないよねぇ。腹決めるっきゃないか」


 そう言ってマルシャルは門に手を掛け、金属製のそれを開けて敷地内に足を踏み入れた。

 次の瞬間、玄関扉を吹き飛ばす程の爆発音と共に人型の銀色の塊が二人に向かって走って来た。


「何あれキモッ! キモッ!」

「こ、こちらに向かっています!」

「おめーらァ! そいつを止めてくれェ! 町中に出たら大変なことになっちまう!!」


 爆発の煙の中から、逞しい男性が必死に叫んでいる。


「っ、シャルリエ! 念の為壁作っといて!」

「はいっ!」


 シャルリエに機械が外に出ないよう門に防御壁を張ってもらうと、マルシャルは剣を抜き一気に距離を縮め、先制攻撃を浴びせた。


「はあぁっ!」


 しかし、機械人形のボディはマルシャルの剣を弾き、傷すら付いていなかった。


「嘘でしょ!?」

「ハイじょ! ハイジョ! しンニュウシャ! ハイジョすル!」


 言葉を話す機械に驚いたのも束の間、機械人形は両の手の平から野球ボール程の大きさの玉を出してきた。


「気を付けろ坊主! そりゃあ小せえが威力はデカい爆弾だァ!!」

「ば、爆弾!?」

「逃げて下さいマルシャル!」


 しかし、逃げたところで他に誰があの人形を止められるだろうか。


「……っ!いくよサンダルフォン!」


(天使の力、頼むから通用してよ……!)


 漆黒の翼をばさりと羽ばたかせ、マルシャルは上空へと飛び上がる。


「ハイじョ! はイジョ!」


 爆弾はマルシャルを狙って投げられた。


(これを避けたら、下に居るシャルリエが危ない)


「それなら……こうだ!」


 剣を握っていない左手を迫り来る爆弾に翳し、マルシャルは力を解き放つ。

 すると、飛んで来た爆弾は黒い水晶の中に閉じ込められ、中でぶつかった爆弾同士が爆発した。

 だが、水晶はひび割れせずにそのままの形状を保ち、重力に従って落ちていった。


「ハイジョ! しんニュウシャ!ハイ……ヒデブっ!!」


 水晶が落ちた先は、地面からマルシャルを見上げていた機械人形の図上だった。

 強い衝撃を加えられた人形の頭は大きくへこみ、煙を出してその場に倒れ停止した。


「やりましたねマルシャル! すごいですっ」

「う、うん……まあね」


 (僕的には、こんな倒し方で終わるはずじゃなかったんだけどね……)


 地面に降り立ち、パチンと指を鳴らせば水晶は跡形も無く消えた。


「すげーなァ坊主! その羽根は何だァ? 新型の機械かァ?」


 爆発に巻き込まれたせいか、髪や身体が薄汚れてしまった大柄な男性が近付いてきた。


「いや、これは機械じゃなくて天使の翼だよ」

「天使ィ?」


 興味深げに翼を観察する彼の目の前で、パッと翼を消すと男性は瞳を輝かせた。


「おおっ!? こりゃあたまげたぜ! もしかするとおめーさんら、どっかの神殿の巫女さんと戦士だなァ?」

「はい。わたしはマルクト神殿の巫女シャルリエと申します」

「僕はマルシャル。それにしても、あの機械何なの? 危なくない?」

「あれか? あれは俺の試作品よォ!」

「俺の?」

「おう! ガキの頃から趣味で機械を弄り回しててよォ、こんなおっさんになってもちまちまやってんのさ!」


(機械弄りが趣味ってまさか……)


「カフへようこそお二人さん! この俺、カイザイク・エギラ男爵がおめーさんらを歓迎するぜ!」


 マルシャルの予想は的中し、二人はカイザイクに案内され所々破壊された屋敷の中で、辛うじて爆発から逃れた部屋へ通された。


 (あの人が男爵だったなんて……上流階級の人間って変人ばっかりなのかなぁ)


「まあ見ての通りの有様だが、俺は正真正銘の男爵っつーことにかわりはねェ! とりあえず寛いでくれ!」

「は、はぁ……」


 貴族らしくない外見と性格のカイザイクに戸惑いつつ、二人は大人しくソファーに腰掛ける。

 いくらボロボロになっていようと、家具はどれも品質が良く、ソファーの座り心地も良かった。

 カイザイクは、テーブルを挟んだ二人の目の前のソファーにどかりと座る。


「さて、マルクトから遥々この町に来たってこたぁ何か用があるんだろ? アレを止めてもらった礼だ。俺に出来ることなら何でも力になるぜ」


 白い歯を見せて笑うカイザイク。

 屋敷はあれだが、そこに住まう人物は信用出来そうだと直感したマルシャルは、本題を切り出した。


「……僕らがここに来たのは、数年前商人達から金品を奪い去った犯罪グループを探す為なんだ」

「ケセドの傭兵紹介屋か」

「ご存知なのですか?」

「まあな。俺ァよく商人から機械に必要な部品とかを仕入れてっから、噂には聞いてたぜ」

「そいつらが最近になってまた動いてるみたいでねぇ……」

「そりゃあ取っ捕まえるしかねェよなァ」

「ここカフは、ケセドとの国境に近い町。男爵様ならば、何か犯人達に繋がる情報をお持ちではないかと思い参りました」


 カイザイクは先程の笑顔と一変し、大人の男性らしい真剣な表情でしばし考え込んだ。


「……おめーさんらが期待するような情報は、残念ながら何一つねェ」

「……」

「だが、打つ手はあるぜ」

「本当ですかっ?」

「おうよ! しかし、こりゃあ俺一人の力じゃどうにもならねェ。おめーさんらも手ェ貸せ!」



 

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