7.庭へ③
青いオーバーオールに、シャツと手袋。頭にはつばに虫食いあとのある麦わら帽子を被っている。その人の顔は――骨だった。
顔だけじゃない、よく見ると服の端からのぞいている腕や足首も骨だった。
ガイコツさんが、カタカタと動いてしゃべる。
「庭を血で汚すのはやめてくださいよ」
たしなめられて、アレクさんがふてくされた顔をする。
「まだ何もしてないだろ」
「何かする顔してたでしょう」
「そんなことは……」
「あります」
図星だって顔してる。ガイコツさんも、骨なのになんとなく呆れているのがわかる。
「というか、ベル様が止めてくださってたじゃないですか」
「でも、ぼくは身体が元に戻るんだから、少しくらいいいじゃないか」
「よくないですよ。せっかく手入れした木が汚れるのはかないませんから」
「そっち?」
わたしは二人の会話を聞きながら、目をぱちぱちさせる。
「……ガイコツさんがしゃべってる」
思わず口から声が出た。すると、ガイコツさんがわたしに気づいたようで、こちらを向いた。
「おっと。これはご挨拶が遅れました。はじめましてベル様。こうして顔を合わすのは初めてですね?」
ガイコツさんは麦わら帽子を取って、丁寧におじぎした。
「自分はジャンと言います。この庭の管理を任されている者ですよ」
「はじめまして」
言って、ジャンさんはにっこりと笑った。……と言っても骨だから、そんな気がしただけだけど。
わたしも続いてぺこりと頭を下げる。
「わたしの名前、知ってるの?」
「ええ。主様から聞いておりますから」
「そうなんだ」
わたしが頷くと、ジャンさんはカタカタとあごを鳴らした。やっぱり、笑っているのかな。
「さっきぼくが言った優秀な庭師ってのは、こいつのことだよ」
アレクさんの言葉にジャンさんは、そうですともと言わんばかりに胸を張る。
なるほど。この人がそうなんだ。
「それで、ベル様。この庭は気に入っていただけましたか?」
「うん!」
ジャンさんの問いに、わたしは大きく頷いた。
「おお、そうですか!」
「お花も木も、すっごくきれいで、見てて楽しいよ!」
「ほうほう」
「すっごく素敵なところだね!」
「……」
……あれ? ジャンさんうつむいて黙っちゃった。何か失礼なこと言っちゃったかな。
骨がさっきよりも激しく揺れている気がする。
「ジャンさん? わたし、何か悪いこと言っちゃった……?」
「あー、それはね、怒ってるわけじゃなくて……」
アレクさんが言い終えるより先に、ジャンさんがガバッと顔を上げた。
「ありがとうございますベル様!」
「わあっ!?」
ジャンさんは全身の骨をガチャガチャと鳴らしながら天を仰ぐ。
「いやあ、嬉しくて嬉しくて! やっぱり庭を褒められるのはいいですね!」
「こいつ、褒められたがりだから。自分が手入れした庭を誉められるのが一番嬉しいんだとさ」
「そうなんだ」
その場でくるくる回り始めたジャンさんを見ながら、アレクさんがこっそり教えてくれる。
そっか、よかった。気を悪くさせたわけじゃなくて。
「でも、ほんとにすごいね。こんなにきれいなお庭にできるなんて。全部一人でやってるの?」
「そうです! ……というわけではないですよ。流石に自分一人では、この庭は広すぎますから」
確かに、この広さを一人でなんとかするのは大変だ。誰かお手伝いしてくれる人が他にもいるらしかった。
「そうだベル様。せっかくですから、庭の奥まで行ってみますか? 花畑もあるんですよ」
「花畑があるの!?」
「そこまで大きくはないですけどね。どうです?」
「行きたい!」
それは是非見てみたい。わたしが答えると、ジャンさんは満足そうに頷いた。
「では、参りましょうか」
「うん!」
一緒に歩き出そうとしたそのとき、ジャンさんがひょいっとアレクさんの方を振り返った。
「そうだ主様。それ、預かりますね」
ジャンさんがアレクさんの手元を指差す。
そうだった。アレクさんが持っているハサミをなんとかしないとと思ってたんだ。
「えー」
「えー、じゃありません。庭の奥には、メルルもいますからね。あの子の前で余計なことをされると困ります」
「ぼくが何かする前提で話すなよ」
「しないんですか?」
「……」
渋っていたアレクさんが黙った。図星のようだ。
「ほら」
「はいはい」
渋々ハサミをジャンさんに渡す。ジャンさんはそれを自分の腰につけている道具袋にしまった。
信用ないなあ、とかぶつぶつ言っているアレクさんを流して、ジャンさんが再び歩き始める。
「そういえば、ベル様はまだメルルに会ったことないですよね?」
「メルルさん?」
「ええ。花畑の奥にいる子です。庭の仕事を手伝ってくれてる一人ですよ」
「そうなんだ! どんな人なの?」
「はは、それは会ってみてのお楽しみで。きっと仲良くなれると思います」
どんな人なんだろう。かわいい名前だから、女の子なのかな。
そんなことを話しながら、わたしたちは庭のさらに奥へ進んだ。




