ツンデレ王子と貧乏人の俺が出会った日
「レイジ、知り合いか?」
「知り合いって言うか、何て言うか…」
「…詳しいことは、後で聞くか」
「すまん…」
言いにくい事だろうと察し、向けていた目をエドワードに変える。
「何かな、ライト王子」
「単刀直入に聞こう、貴殿は何者だ」
「答えると思いで?」
「答えないのなら、魔法局局長であるイサム殿に連絡する」
「ああ、お好きにして頂いて構いませんよ」
「それは、イサム殿がエイリーン国最強の魔導士と知っての発言か?」
「ええ、彼のことはよく知っていますので」
「……そうか」
(脅しが効かないとなると、何かあると考えた方が良さそうだな)
「問答は終わりですか?」
「貴殿の目的は何だ」
「言った通り、王子である貴方ですよ」
「口が堅いな、王子である僕の何が狙いだ」
「言ったでしょ?貴方の魔力を奪いに来た、と」
「何故、僕を狙う。魔導士で秀でた者なら他にもいる筈だ」
「そうですね、確かに貴方より秀でた魔導士は沢山います」
「なら、何故」
「答えるのは、ここまでです。今度は、こちらの質問に答えて貰いましょうか」
「……良いだろう」
「では私も王子である貴方に倣い、単刀直入に聞くとしましょう」
「……」
「魔力を奪わせて下さい」
「何を言っているかは分からないが、その言葉の意味するものが僕の死ならば断らせて貰おう」
「即答、ですか」
「王子たる僕が、悪党に屈するなど有ってはならないのでな」
「悪党とは心外です、私は世界を本来あるべき姿に正したいだけです」
「あるべき姿…?」
「この世界は腐っています、恐ろしいことに誰も気が付いていない」
「腐っている…?誰もが今日を必死に生きている、腐っているのは貴殿の考えでは?」
「……そうですか、やはり受け継がれていないのですね」
「何を言って」
「問答は終わりです、貴方の魔力を奪わせて頂きます!」
「気を付けろライト、こいつ最上級魔法を幾つも使える!」
戦闘になることを察知し、レイジは急ぎ情報共有を行う。
「だろうな」
「だろうなって、あいつのこと知ってたのか!?」
と言うより、感じる魔力量から出来ることは察しがつく。
あとはイサムの名前を聞いても、退かなかった。
それが、ライトにとっての何よりの証明と言って良いだろう。
「人は闇は祓えず、人は闇に支配され、人は光を拒絶し、闇は全てを呑み込む!」
「人を照らせ、道を照らせ、闇を照らせ、是は救いの光である!」
「てか、まだ言い切って―――」
最も重要な情報を言う前に、2人は詠唱を始めてしまう。
(まだ、伝えてないことがあるのに…!)
トップレベルの魔導士の戦いに、レイジが口を挟む余裕は無い。
「≪異次元の暗闇≫!」
「≪天照≫!」
互いが互いを打ち消す相性上、相殺の形しか取れない。
「打ち消しましたか」
「最上級魔法なら、僕も使える」
「良いでしょう、他の魔法も見せてあげますよ!」
これが狙いだと言いたげな顔に、エドワードは少しイラつく。
「それは、楽しみだな!」
「降る雨は増し、やがて海となり、やがて星を沈ませ、水は星と化す!≪純水惑星≫!」
まるでダムから、そのまま持ってきたかのような量の水。
「駆けるは疾風、吹き荒れるは突風、是は神の怒りである!≪風神≫!」
対して、それすらも風で切り裂き、ただの大雨にする。
ライトが有利な属性で対抗しているとは言え、相殺にしかならないのはエドワードの魔導士としての腕
が高いことの証明。
「大地を駆け、街を駆け、破壊し尽くすは狂風!≪荒廃した世界≫!」
「燃やすは焔、燃べるは炎、是は紅蓮の炎である!≪鳳凰≫!」
先と同様に、エドワードの魔力と詠唱から属性を看破。
合わせて相性の良い属性で、詠唱をするライト。
「また同じ手ですか…」
「嫌ならば、本気で来ることだな」
実力で言えば、エドワードが有利なのは間違いない。
しかし、笑っているのはライト。
決して、何もさせていないことに満足している訳では無い。
何故なら、このまま同じことを続ければ勝つのはエドワードだ。
魔力量も上回っていると言う時点で、これは時間稼ぎにもならない。
ではどうして、これを続けているのか。
(……なるほど、狙いは私の情報を引き出すことですか)
確かに、これでは決着までに時間が掛かる。
人目に見られないように動いている以上、早めに目的を果たしたい。
しかし焦れば大して知らないライトに、手の内を見せることになる。
(やはり、手の内を見せる気は無いか)
実はエドワードについて、特徴と何かを企んでいることを少しだけ聞いていた。
あくまでも命を狙われることになるから、教えただけ。
なので問い質そうとしても、イサムも魔法局も、それ以上は何も教えてくれない。
王子として国民を守りたい気持ちが強いライトは、少しでも情報が欲しかった。
情報があれば、手の打ちようがあるかもしれないと考えたからだ。
捜査のしようも無く、頭の片隅に置いていれば、思いがけないタイミングで鴨が葱を背負って来たでは
ないか。
これを絶好の機会だと考えたライトは、こうして煽っているのだ。
問題は、その鴨がライオンな上に葱も紙屑の可能性があると言うことだが。
(子供がやることでは、ないですね…!)
危険な行為である以上に、とても学生とは思えない胆力。
嘘だと思いたいが、明らかに倒そうと言う意思が感じられないのが、何よりの証拠。
年の割に強さも、考えも抜けているのは畏怖すらある。
敵にしたくないと言う意味では、今一番厄介だ。
「どうした?貴殿の力は、こんなものか?」
こうなれば、エドワードが取れる選択肢は2つ。
このまま背を向けて逃げるか、本気を出して始末するか。
「……良いでしょう、少し本気を出してあげましょうか!」
ライトの能力の高さは、魔法局の人間を入れても上位に来るレベルだ。
とは言え、エドワードには何の問題も無い。
(挑発に乗って来たか!)
「何だ、この魔力は…!」
「やはり、使えるか」
「このままでは埒が明きませんから、使わせて貰いますよ!」
(感じた魔力、余裕から合体魔法を使えるのは予想が付いた)
合体魔法とは、文字通り魔法の合わせ技。
威力は倍増し、属性も増やせ、1つの魔法では打ち消せなくなる。
闇属性と他属性を合わせれば、光属性に消されること無く効力を発揮出来るように。
極々一部の魔導士が扱える、言わば魔法の究極形とも言えるだろう。
欠点を消し、強味を増やす。
一見するとメリットが多いが、魔力の消費も激しい。
出来るには出来るが、普段使いは決して出来ない。
ここまではライトの想定通り、思い描いた場面。
問題は、この怪物を相手に生きて帰れるか否か。
「暗き焔よ、かの者を地獄の業火で灼き尽くせ!」
(分かってはいたが実際に目の当たりにすると、こうも圧があるとは…!)
「ライト!」
「どこまで通用するか、試させて貰おう!」
「≪暗黒より来たる獄炎≫!」
炎属性と闇属性が合わさり、水では消せない黒い炎が辺り一帯を焼き尽くしながらライトとレイジに襲い掛かる。
「照らし出すは救いの光!≪天照≫!」
詠唱を短縮し、まずは光属性で打ち消すことを試みる。
「合体魔法は二つの属性、一つでは打ち消せません!」
「そんなことは、分かっている!降り注ぎ流れるは、神の恵み!≪龍神≫!」
と思いきや、間髪入れずに水属性を繰り出す。
合体魔法とは行かないものの、真似をして威力を最小限に抑える。
(連続で詠唱することで、合体魔法と同レベルのものを出すとは…)
一年前に戦った、セルフィを思い出す。
「ちっ、やはりこれでは駄目か…」
抑えはしたが、ダメージは食らってしまった。
本来であれば大怪我だったが、擦り傷程度で済むのはライトの強さあってこそだろう。
(セルフィさんは土壇場で、やって見せましたが)
ライトは、それを当たり前のように使いこなし防ぎ切った。
比べるには判断材料が足りないが、断言して良いだろう。
ライトは、セルフィよりも上の高みに居ると。
「どうした、この程度が貴殿の本気では無いのだろう」
「あまり、調子に乗られては困ります!」
「ならば、本気を出して貰おうか!」
「暗黒の海よ、かの者を地獄の海に突き落とせ!」
「駆け荒れるは神の怒り≪風神≫!」
「≪暗黒より来たる獄海≫!」
「照らし出すは救いの光!≪天照≫!」
同じことを繰り返し、相殺を狙うことで抗いはしているが。
「このまま、これを続ける気ですか」
「だとして、貴殿には何の損も無かろう…!」
状況は少しずつ、亀のような速度ではあるが動いている。
無論、エドワードにとっての良い方向だが。
(ライトの奴、一体何を考えて…)
そんな状況に、レイジは訝しむ。
不利であることは、ライトが一番理解している筈だ。
にも関わらず、同じことを繰り返している。
出会ったばかりではあるが、どうにも納得が行かない。
「地獄の風よ、かの者を彼方まで吹き飛ばせ!」
「燃やし燃べるは紅蓮の炎!≪鳳凰≫!」
(てか、こんな所に居たら俺が巻き添い食らうな…)
ライトへの負担を少しでも減らす為に、一度離れた場所に向かう。
「≪暗黒より来たる獄風≫!」
「照らし出すは救いの光!≪天照≫!」
ぶつかり合う強大な魔法、余波は離れていても充分に伝わってくる。
(すげぇな…俺も、いつかは―――)
そんな光景に、同い年でありながら遥か高みに住むライトに憧憬を抱く。
「何故、意味の無いことを続けるのですか!」
一方でエドワードは焦りも募り、苛立ちが増し続けている。
レイジから見ても、意味が無いのは分かるが。
それが今、ライトが出来る精一杯。
だから、意味が無いようにも見えるのだろう。
そう思っていたが離れて見た景色は、どこか妙だった。
(これ、もしかして…)
打ち消された筈の魔法は空気中を漂い、何かの指示を待っている様。
明らかに可笑しい光景。本来であれば残ることは無いが、これが意図的に仕組まれていると言うのなら話は変わる。
「意味が無い?戦況は、動き続けているだろう!」
(そういうことか…!)
「理解出来ません、貴方程であれば他に出来ることはあるでしょう!」
「迫り来るは影!≪暗影≫!」
「また、貴方ですか!」
隙を突いて影を操り、エドワードに尻餅を搗かせる。
「このまま何も、しない訳にも行かないんでな!」
「ですから、貴方では戦力にならないと言っているでしょう!」
「レイジ!」
「闇に支配され呑まれよ!≪異次元の暗闇≫!」
「おわっ!?」
距離が離れていた為に、下手な怪我はしなかったが間一髪だった。
「あまり無理をするな!」
心配になり、近くによってライトが前に立つ。
「分かってる!けど、必要だろ!」
「…!まさか、君」
どこか思わせぶりな顔を見て、手を出した理由を察する。
「俺じゃ役不足だろうけど、いないよりはマシだろ!?」
「ははっ、そうだな!レイジ!」
その理由に気付ける者は少ない、求めていた人材に心を踊らせる。
「暗き焔よ、かの者を地獄の業火で灼き尽くせ!」
(何故です、何故そこまで粘ろうとするのですか…!)
分からないのも無理はない、エドワードの立場では見えないのだから。
「降り注ぎ流れるは、神の恵み!≪龍神≫!」
「水よ湧き出ろ!≪湧水≫!」
何のアクションも無しに、同時に詠唱を始める辺り、息も合うようだ。
「≪暗黒より来たる獄炎≫!」
「照らし出すは救いの光!≪天照≫!」
「燃やし灰と為れ!≪火焔≫!」
レイジの魔法が意味あるかは、さておき。
再び迫り来る黒い炎に今度は、2人で対抗する。
「……キリがありませんね、何故諦めないのですか」
どうにも煮え切らず、エドワードは苛立ちが隠せない。
「僕は、この国の王になる男だ。諦めるなど有り得ない」
「っ…!そうですか、ならば望み通り本気で相手をしてあげましょうか!」
「本気って、今まで本気じゃなかったのか!?」
(勝てない相手では無いと思っているが、しかし…)
ライトには、嫌な予感がある。
相手の底知れない力と、自分の力が通用するか否かから来る不安では無い。
何か、自分の知らない力があるのでは無いか。
それに倒されるのでは無いか、と言う不安がある。
しかし魔法の種類は初級中級上級、最上級と合体魔法のみ。
これ以上の奥の手が、ある筈が無い。
「あっ、そうだ!まだアレが!」
「アレ?」
「ライト、落ち着いて聞いてくれ。あいつは魔法を―――」
「地獄より来る黒き化身よ、かの者を暗黒に落とせ!≪地獄より来たる暗黒神≫!」
今度は闇属性を掛け合わせた合体魔法、消し去るには光の最上級魔法を四度唱えるか、同じ光属性を掛
け合わせた合体魔法を唱えるしか無い。
しかし、そんなことをしている余裕は無い。
「レイジ、避けろ!」
「え?」
闇属性最大級の威力を誇る合体魔法が、無慈悲にも2人を襲う。
(だ、駄目だ、間に合わない…!)
「くっ、せめて―――がああああっ…!」
その威力は高く、周辺にクレーターが出来る程。
人間が食らえば、立つことすら困難。
いくらライトが優れている人間とは言え、致命傷は逃れられなかった。
「弱き者を庇いますか、ライト王子」
「がはっ…」
土埃からは、血を吐くライト。
「何、してんだよ…?」
「お、王子として、国民を守るのは、当然のことだ…」
「だからって、お前!」
国民を守るべく、体を張って受け止め、ライトが致命傷を負った。
「こうなるのなら、最初からこうすれば良かったですね」
弱い方を狙って強い方が倒れるのなら、先の押し合いが無意味だとも言いたげな様子。
「クソッ…!俺の、俺のせいで…!」
煽り文句も無視し、足を引っ張ってしまったことを悔いる。
「な、何も、不安に、なるな…」
「不安になるなって、この状況で!」
「お前は、僕が守る…!」
「その傷で、何が出来ると」
「駆け荒れるは神の怒り≪風神≫!」
「無駄な足掻きを」
「風よ風、駆けろ!≪駆風≫!」
「今更、貴方如きが何をしようと!」
「うるせぇ、俺は俺の出来ることをやるだけだ!」
「最後の、仕上げだ…!誘い堕ち貶めるは暗闇!≪閻魔≫!」
「最後…?一体、何を言っているのですか!」
「光は廻り巡る!≪廻巡光≫!」
「ぐっ、懲りずにまた!」
1年前と同じように、いや今度は両手足を拘束した。
「今だ、ライト!」
「やるじゃないか…」
「待っ――――」
初めて出会い、初めての戦闘にも関わらず、完璧に意図を汲んでくれている。
これ程までに心地良く戦える相手は、そうはいない。
空と地面に設置されていた魔法が、エドワードに襲い掛かる。
魔法の応酬をしている間、ライトは密かに魔法を幾つも唱えていた。
詠唱を連発したことで、この設置した魔法は真価を発揮。
辺り一帯には地獄のように燃える炎、雷と共に吹き荒れる嵐。
連結された結果、全属性の合体魔法に近い威力となった。
「僕が、ただ打っていたと思っていたのなら大間違いだ…!」
無闇に唱えていた訳では無く、きちんとした狙いがあるかこそ。
最後の最後に回避不能、防御不能の魔法を放とうと画策していたのだ。
ボロボロになりながらも、勝つ為に動き続ける。
「これが、この国の未来の王…!」
あまりにも卓越した技術と魔法に、驚きを隠せない。
「代わりに、魔力を使い果たしたがな…」
立ち上がる力が抜けて、膝を着くライト。
肩を貸し、代わりに足となるレイジ。
格上の強敵を倒し、2人は笑い合う。
「ほう、それは嬉しい知らせですね」
しかし、終わりを告げたのは服の埃を掃うエドワードだった。
「あれだけの魔法を受けて無傷、か…」
「ち、違う!こいつ!」
あの窮地を抜け出す方法を、レイジは知っている。
「ええ、消し去りましたよ」
「消し、去った…?」
文字通り、魔法を消し去ることで生き延びたのだ。
「どういう訳か、魔法を消せるんだ…」
「何、だと!?」
これには流石のライトも、驚きの声を上げざるを得ない。
魔法を消す、それは不可能なことなのだから。
使えなくする方法はあっても、一度唱えられた魔法を消すことは出来ない。
「子供相手に手こずるとは私も、まだまだですね」
悲壮感を漂わせ、溜め息を吐く。
まるで、子供の遊びに付き合う親のように。
(レイジが言うことが正しければ、僕どころか…)
守る立場にある自分どころか、守るべき国民を殺してしまう。
最早、立ち向かう為の魔力すら無い。
「ち、畜生…!」
(せめて逃げてくれ、レイジ…!)
ただ1人、動けるからと立ち上がる。
「風よ風、駆けろ!≪駆風≫!」
「向かって来ますか、ですが蛮勇です」
風をブースターのようにし、突撃する。
「がはっ…!」
だが魔法すら使わずに、素手で殴られ倒れてしまう。
「1年前のことを忘れたのですか?」
「忘れて無いさ、あの時の自分の無力さを!」
「貴方では、勝ち目が無いと言うのに」
(に、逃げてくれ…!)
「燃え続けるは、火焔!≪焔燃≫!」
「中級魔法一つ覚えた所で、この差は埋まりません!」
「がはっ…!?」
(レイジ、どうして逃げてくれないんだ…!)
またしても殴られ、地面に伏してしまう。
体を鍛えているのか、殴られた頬は想像以上に痛い。
血のせいか痛みのせいかも分からずに、体がフラつく。
このままでは殺される、抵抗をしてもしなくても変わらないであろう現実。
「はぁ、はぁ…」
それでも、レイジは諦めずに立ち上がる。
「…何故ですか、何故立ち向かうのですか」
「友達を置いて、逃げれる訳無いだろ!」
「レイジ…!」
たった一つの答え、たった一つの想い。
置いて行って逃げれば、助かる望みがある。
だがレイジの望みは、ライトと共に学園に通う事だ。
誰かを犠牲にしてまで、通学路を歩みたくない。
「もう良いです、弱き者が這いつくばる姿は実に見苦しいです!」
「見苦しくたって良い、俺は友達を守りたいんだ!」
「ならば死になさい!闇に支配され呑まれ―――」
煩わしいと、トドメを刺そうとした時。
「照らし出すは救いの光!≪天照≫!」
「くっ…!?」
エドワードよりも早く詠唱し、退けさせる。
「ライト…」
「何故、魔力はもう残っていないはず!」
レイジを守ろうと、ライトが限界を超えて立ち上がった。
「ははっ、情けないな…」
ボロボロな姿を誤魔化そうと笑うも、イマイチ感情を籠めれていない。
「悪い、俺…」
(ああ本当に、そうだ…)
「俺、何も…」
「国民に、こんなことを言わせている僕は…!」
「ら、ライト…?」
「魔力が、上がっているだと…!?」
不思議なことに、先まで消えかけていた魔力が微量とは言え復活している。
昂った感情が増やしているのか、別の要因かは分からない。
何にせよ、エドワードが後退りをしたのは事実だ。
「散らすは火花、弾けるは花火」
「これは、合体魔法!?ですが!」
「是は人を導く聖火である!≪聖なる輝炎≫!」
「無意味なことを!」
「無意味じゃねぇよ!水よ、湧き出ろ!≪湧水≫!」
「なっ!?」
魔法を消そうとしたタイミングに合わせ、わざと弱い魔法を唱え消させることで、ライトの魔法を消させずに済ませる。
その土壇場の判断には、流石のエドワードも驚きを隠せない。
「ちっ、こうなれば!暗黒の海よ、かの者を地獄の海に突き落とせ!≪暗黒より来たる獄海≫!」
消そうとすれば、もう一度同じことをされる。
ならば、より強い魔法で掻き消すしか無い。
すぐさま対応出来る魔法を詠唱するが、これが過ちだったとは気付けていない。
(まだ、これ程の力を隠し持っていたとは…!)
しかし咄嗟だったこと、ライトのレベルが高いことも相まって払い除けられない。
「行け、行ってくれ…!」
実力差はあるものの、拮抗出来ている。
望みを懸けて、何も出来ないレイジはただ願うしか出来ない。
だが均衡は、すぐに崩された。
「私を、甘く見るなぁ!」
「これでも、駄目なのかよ…!」
長年の経験と培ってきた実力で、返されてしまう。
「ははっ、子供が私に勝てる訳無いのです!」
「……」
「王子が死んで、言葉も出ませんか!」
「……お前の負けだ」
「は?私の負け?何を言って―――」
制したエドワードの前にライトの姿は無く、高笑いを浮かべる。
「思った通りに動いてくれて、助かる」
「ぐっ…!?」
(い、いつの間に背後に…!)
押し切られることは想定内。
レイジの風魔法の応用を真似して、背後を取ったのだ。
(これでも反応するのか、この男は!)
完全に不意を突いたつもりだったが、受けられている。
(私が、こんな子供に…!)
「光は廻り巡る!≪廻巡光≫!」
「小賢しい真似を!」
「けど、充分だろ?」
光の輪を引っ掛けて態勢を崩した。
「ああ!ナイスだ、レイジ!」
「しまっ―――ぐはぁっ…!」
「そのまま、押し切っちまえ!」
これで、拳がよく入ると言うものだ。
そのまま、ステゴロでエドワードを10m以上も殴り飛ばした。
「日頃から、トレーニングをしていおいて良かったよ」
セルフィとの戦いでは終始、涼しい顔をしていたが。
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
今は地に手を付き血を吐きながら、こちらを見る目は随分と熱い視線を送っているではないか。
「初めてだったが、意外と成功するものだな」
「初めてって、よく出来たな…」
幾度の練習を重ね、ようやく行使出来る合体魔法。
全てが高水準でも楽では無い筈なのだが、一度で出来るのは才能か。
(初めて詠唱する合体魔法すらも、囮にして殴るとは…)
並の人間どころか、エドワードですら試したことの無い戦い方。
もし自分と同じ年、或いは数年後を想像すると、ゾッとする。
これ程の才能ならば、イサムを超えるのも難しくは無いだろう。
そしてイサムを超えるのが想像に難いと言うことは、エドワード自身も超えられる可能性があると言うこと。
手加減していた訳では無いが、直前でストップを掛けるようにしていた。
誤って殺してしまわないように、この大きな力を手に入れる為に。
(彼の魔力は欲しいですが、今ここで殺さねばなりませんか…!)
慎重に慎重を重ね、最悪バレても問題にならないように動いていたが。
「何を焦っているのだ、貴殿なら勝てるだろう?」
こうして挑発すらしてくる、先の疑似的な全属性の合体魔法で理解した。
エドワードが考えていた以上に、ライトは賢く強い。
じわじわと攻めれば、いつか足元を掬われるかもしれない。
(随分と厄介な相手です、二度は戦いたくありませんね…!)
実力が離れているにも関わらず、こう思わせられるのは相手にしたくない存在だ。
「レイジ、君も加勢してくれ!」
「分かってる、俺もそのつもりだ!」
「貴方達如きに、遅れを取っている余裕は無いのです!」
3人が、同時に詠唱を始めた時。
「おいおい、嫌な予感がして来てみたらビンゴじゃねぇか」
「…何故、貴方がここに居るのだ」
「言った通り、嫌な予感がしたんだ」
そこに現れたのは、イサム・S・パーソン。
1年前のことがチラつき、勤務前に見回りをしていたのだ。
「………ここで退きたくはありませんが、仕方がありません」
「今度は逃がさねぇ!」
「いえ、逃げさせて貰います」
すると、一台の車がエドワードとイサム達の間に入って来た。
「誰だ、こんな所に止め―――」
「エドワード様、お早く!」
「すまない、助かった」
「協力者か!」
突如として現れたのは、銀髪銀眼の女性。
「では、さようならです」
「待て、待ちやがれ!」
「次に会う時は必ず、貴方達の命を奪います」
協力者と思しき人物の車に乗り、エドワードは消えて行った。
確かな殺意と捨て台詞だけが、3人の心に刻み込まれる。
「……イサム殿、あの者について話がある」
「話は後だ、まずはお前らの傷だ」
そう言い、イサムは2人を病院まで送った。
命に別状は無いが、数週間の入院と絶対安静は必要らしい。
本人曰く、「僕は平気だ。第一、国民にみっともない姿を見せたくない」と言って言う事を聞こうとはしなかったがレイジに宥められ、仕方が無しに入院を承諾。
そんなレイジも入院を勧められるも、お金のことで頭を悩ませて倒れてしまう。
気付くとベッドの上で、見知らぬ天井に再び気絶。
そんなこんなで、知らぬ内に夜になり、仕方が無しに現実を受け入れる。
「……もう夜か」
「レイジ、起きたか」
「お前こそ、まだ起きてたのか」
「僕も寝ていたよ、流石に今日は疲れた」
「…そうだよな、すまん」
一国の王子相手、と言うのもあるが。
自分よりも戦い、怪我を負った相手に対して敬意の無い発言。
いくらライトが優しいとは言え、軽率だ。
「気にするな、それよりも今朝の件についての話を聞かせて貰おう」
「今朝…?ああ、あいつのことか…」
「そうだ、君が何故知り合いなのか」
「それは……」
(ライト相手とは言え、隣国の姫様と出会ったなんてことを言って良いのか…?)
「そして彼が何者なのか、イサム殿にも答えて貰おうか」
「って、あんたは」
「レイジが何故知り合いなのかも含め、全て俺が答えよう」
「…あの者は一体、何者なのだ。あそこまでの手練れならば僕が知らない筈は無い」
「……そうだな、まずは何から話そうか」
(あいつのことは俺も気になる、もしかして凄い奴なのか…?)
話すことが多いのか、それとも話せることが少ないからなのか。
イサムは頭を悩ませながら、ライトの質問に答える。
「あいつの名前はエドワード・ティーチ、元魔法局局員の1人だ」
「なっ!?」
「あいつが!?」
魔法局と言えば国に従事する役所仕事、魔を正し、魔を導き、正義を翳す。
言わば正義の味方、悪の道に行くことなど言語道断。
あってはならない、あれば正義の名の下に鉄槌が降ろされる。
「待ってくれ、イサム殿!では、奴は!」
「俺の手から、三度も逃れた手練れだ」
「三度って、二度じゃ」
「悪に堕ちた局員は、局長が直々に処分を下す」
「それって…」
「殺す、と言うことだ」
後悔も申し訳なさを出すことなく、淡々と語る。
昔馴染みの息子からの通報を受けた日、自主的に見回りをしていた今日。
そして、悪の道に行ってしまった日。
計三回、エドワードは全力で殺しに掛かったイサムから逃げ切っている。
それがどれだけ凄まじいことであり、悍ましいことでもあるかを2人が理解するのに時間は必要無い。
真剣で首を斬れられて、人間が生きていられるだろうか。
銃弾で脳を撃ち抜かれ、人間が生きていられるだろうか。
宇宙空間に放り込まれ、人間が生きていられるだろうか。
イサム・S・パーソンから逃げるとは、そういうことである。
エドワード・ティーチは三度も、これらの危機から脱したのだ。
「つ、つーか、あいつは何をしたんんだ」
「奴は、同じ魔法局の同僚の人生を奪った」
「!?」
「それが、同僚殺し…!」
1年前の、あの日にイサムがエドワードを呼んだ呼称。
「待ってくれ、イサム殿。そんな話、僕は知らないぞ」
「だろうな、これは魔法局が隠蔽している情報だからな」
「国家直属の魔法局が、隠蔽…?」
「隠蔽って、それ俺達に言って良いのかよ」
「お前達はもう、奴を知った。そして渦中の人間だ」
危ういとは分かっていても、必要なことだから話していると言う。
「……そもそも、エドワード・ティーチと言う名前は偽名では無いのか」
エドワード・ティーチは、過去に実在したとされている海賊の名前。
その人物は未だに出生も本名すら不明、偽るには打ってつけの名前だ。
「……!」
イサムの顔は、偽名であることを知らない顔だ。
「そうか…」
「…すまん」
「悪いのは悪事を働いた者だ、貴殿が謝ることではない」
”悪”は偽名を使い魔法局に潜り込み、仲間の人生を奪い去ったエドワードだ。
1人の人生を奪っておきながらも逃げ続けられているのは、単に奴が狡猾な悪人だから。
ただ、それだけのことだ。
悔いる彼を責める権利など、家族以外には無い。
それを理解しているライトは、顔を上げさせる。
「遺族には、話したのか…?」
ゆっくりと顔を上げるイサムに、レイジが問い掛けた。
「……いや、話せていない」
後ろめたさが残るイサムは、再びを顔を下げる。
「そうか、家族の人達も心配してんだろうな…」
「………そう、だな」
自身の母も、原因不明で寝たきりだからか思う所のあるレイジ。
何かを言いたげな口をしながらも、話すまいと唇を噛むイサム。
「でもさ、その家族は多分あんたのことは恨まないと思うぜ」
(何故、イサム殿は気まずそうに―――)
「だから、顔を上げてくれよ」
「っ!本当に、すまない……」
「おいおい、泣くようなことか!?」
恨んでいない、その一言に救われ止まらない涙を抑える。
(ああ、そうか…)
「すまん、そういうつもりじゃ無いんだ…」
「良いって、誰にだってあるし」
「ああ、そうだな…」
(そういうことか…)
ライトは1人、イサムが顔を上げられない理由を察した。
恐らく話そうとしないのではなく、話せないのだと。
「話を戻そう、お前達は奴の魔法を見たか?」
「その聞き方をすると言うことは、魔法を消した魔法について何か知っているのだな」
「あれを、見たか」
「なぁ局長、あれは何なんだ?」
魔法の参考書一冊しか持っていないレイジですら、知っている世界の常識。
この世界に存在する魔法は、五属性。
火、水、風、光、闇。
それ以外は存在しない、これが通説であり真実でもある。
「しかし奴が見せた魔法は、この五属性のどれにも当てはまらない」
「あれを”奪”属性、と俺達は呼んでいる」
文字通り、奪う魔法。
魔法が消えたように見えたのは魔法を発動し、発生する魔力を奪ったと言うもの。
直接では無く、間接的に魔法を消したのだ。
とは言え現状で防ぐ術は無く、魔力が奪われるのであれば魔法の発動は無かったことになる。
「奪、奪うってことだよな…」
「そんなものが、存在していたのか…」
イサムは被害にあった仲間の状態を見て、直感的に理解した。
「個人的に10年間ずっと研究を続けたが、そう結論付ける他なかった」
間違っている可能性は大いにあるものの、現状これでしか説明出来ない。
エドワードの言動から考えても、奪属性と言うのは非常に納得出来る一説だろう。
「だが奴はどうやって、その魔法を習得したのだ…?」
「何で知っているのか、何で覚えているのかは分からん」
ただ分かることは、魔導士である以上はエドワードに勝てないと言うこと。
イサムが取り逃がした理由も、正しくこれだ。
「他に、奪属性についての情報は無いのか?」
「国内外問わず、色んな歴史を見たりしたが何も無かった」
「そうか…」
確認出来ている人物は、エドワードただ1人のみ。
現状、彼固有の魔法と見て良いだろう。
「…あいつは何で、他人の魔力を奪うんだ?」
「それは俺にも分からん、仕事は出来たんだが如何せん、プライベートを晒さない主義だったからな…」
当時はイサムとも仲が良く、信用もしていた。
故に、事件を聞いた時は衝撃が大きく、困惑したと言う。
(奪属性、魔力を奪う理由、素性…)
何もかもが不透明なエドワード・ティーチ。
彼の目的は何なのか、第六の属性は本当に存在するものなのか。
対峙した3人だからこそ、分かる。
あれは間違いなく、倒さなければならない巨悪だ。
「それと、あの女性は何者だ?」
「それは俺も分からん、仲間だとは思うが情報が足りない」
どうやら、車に乗っていた女性はイサムも知らないらしい。
「イサム様、面会のお時間が」
話していると、局員だろうか。
スーツを着た者が、ノックをして入って来た。
「ああ、邪魔をして悪いな」
「行くのか」
「局長がルールを破る訳にも行かないからな」
「…そうか」
「……まっ、その内また話そうぜライト王子」
「そうだな、貴殿とは色々と話したいことがある」
「…?」
「じゃあな、安静にしとけよ」
それだけ言い、イサムは病室を出た。
「難しい話を聞いてたら、眠くなってきたな…」
「あれ程度で、眠くなるとは情けない」
「情けないって、あれより難しい話なんて王様の秘書ぐらいだろ」
「べ、別に君に秘書を頼みたいとは言っていないだろ…」
「いや言ってないし、引き受ける気も無いが?」
「何だと!?」
「秘書なんて俺がやる訳ないだろ!?」
「レイジ、君は王子である僕の秘書が嫌だと言うのか!」
「嫌に決まってんだろ!?俺は貧乏人だぞ!」
「ほう、ならば「やりたいです」と言わせるまでだ!」
「上等だよ!言わせられると思うなら、やってみろ!」
「貴方達!病室では静かに!」
「「あっ、はい…」」
通りすがりに騒いでいるのを聞いた看護師さんが、怒声で2人を黙らせた。
「「……」」
少し冷静になり、喧嘩をした理由に恥ずかしさを覚える。
「…寝るか」
「そうだな…」
こうして、レイジとライトの長い一日は終わりを迎えた。
次回からコメディに戻ります、しばらくバトル回は無し




