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ツンデレ王子と貧乏人の俺とワガママ姫の建国物語  作者: 逆張りオタクの天照大御神


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4/9

ワガママ姫と貧乏人の俺が出会った日



「空気は揺らぎ、空間を熱し、ここに炎の海を灯す!≪火炎(モスト・)(フレイム)≫!」

 

 その威力は高く、辺り一帯に炎が生き物のように燃え盛る。


 かなりの高度な制御が出来ているのか、レイジに炎の熱さは届いていない。


「上級魔法!す、すげぇ初めて見た…!」


「威勢の良さは、高い魔力と実力から来るようですね」


「なっ!?あれ食らって、無傷なのか!?」


 轟々と燃える炎の中から、男は現れた。


「効いて、いないようですね…」


「いえ、子供だからと侮って傷が出来てしまいました」


 そう言って見せる腕には、確かに小さめな火傷跡がある。


 しかし、この程度で動けなくなる訳でもない。


 命を懸ける戦いであれば、傷とは言えないだろう。


「加減したとは言え、その程度とは…」


 かなり本気で放った様子で、あまりのダメージの無さに後退りをしている。


(この人が俺より強いのは、火を見るよりも明らかみたいだな…)


 初級魔法しか扱えないのでは、足手まとい。


 潔く場を離れ、通報するしかない。


(俺にも、何か出来れば…)


 同じぐらいの年の女の子を、1人にはしたくない。


 だが、そう言ってもいられない状況だ。


「戦うのなら、殺す気で来なさい」


「くっ…!」


「…っ、悪いけど俺は離れるぞ!」


「…!ええ、お願いします!」


「女性を置いて逃げますか」


「うるせぇ、俺は俺の出来ることをやるだけだ!」


「人は闇は祓えず、人は闇に支配され、光を拒絶し闇は全てを呑み込む!≪異次元の暗闇(バジリスク)≫!」


「まずっ―――」


 蟻一匹逃そうとはせずに、何の容赦も無く闇属性の最上級魔法が放たれる。


「させませんわ!道を照らし、人を照らし、ここに光の海を灯す!≪光閃海(モスト・シャイン)≫!」


 しかし瞬時に闇属性の魔法と見抜いたセルフィが、光属性の魔法で相殺した。


「助かった!」


「早く、連絡の出来る場所まで!」


「ああ、恩に着る!」


 作ってくれた隙を逃さず、落ち着いて連絡を出来る場所まで走る。


(そうです、それで良いのです)


 一番は共に戦ってくれるのが理想ではあるが、無理強いは出来ない。


 魔法局の人間が複数人来れば、自分が相手になる必要も無くなる。


 正体がバレる前に、早く避難したいのが本音だ。


 だが、それは出来ない。


 今は人がいないが、日の出も近い。


 もう少しすれば、誰かが来てしまう。


 そうなれば、誰かを巻き込むことにもなる。


 次期王妃として、1人の人間として、被害は出したくない。


「まぁ良い、君のその高い魔力を()()()()!」


「これは私が、お父様とお母様から受け継いだもの!奪わせはしません!」


「大人しく奪わせてくれるのなら、危害は加えないが」


「ならば、抵抗あるのみですわ!」


「そうか、では死んで貰おうとしよう」


「……!」


(何ですの、この魔力の質は…!)


 先も感じた妙な魔力が、段々と高まるのを感じる。


 魔力量もだが、それ以上に不気味さが増して行く。


 白い紙に点々とあった黒い点が、線を引かれ内側から塗られている感覚。


「人は闇は祓えず、人は闇に支配され、光を拒絶し」


(この魔法は…!)


 詠唱の仕方が、初級とも中級とも上級魔法とも違う。


 これが何なのかは、すぐに分かった。


 これは闇属性の最上級魔法だ。


 魔法には属性があり、それぞれに相性がある。


 火は水に弱く、水は風に弱く、風は火に弱い。


 そして光と闇は互いが打ち消す関係上、使い手同士だと決着が付かないこともある。


 とは言え、上級の魔法なら相性が悪くとも初級中級なら対抗出来る。


 しかし、光と闇は違う。


 格が上ならば強引に有利に持ち込むことが出来るのだ。


 生憎セルフィは、上級魔法を習得してはいるが火属性のみ。


 つまり、この闇属性の最上級魔法は食らわざるを得ない。


「闇は全てを呑み込む!≪異次元の暗闇≫!」


「きゃああああっ!」


「誰かに見つかる訳にも行かないので、早めに決着を付けさせて貰いますよ」


(この方、最上級魔法を習得していることもですが…)


 驚くべきは、その繰り出される魔法の強さだ。


 魔法の強さは初級から最上級のランク付けがされ、そのランクにより威力が異なる。


 とは言え、卓越した技術や莫大な魔力を用いれば初級の詠唱でも中級並の威力にも成り得る。


 中級なら上級、上級なら最上級。


 ならば最上級よりも上は、どうなるのか。


 それをセルフィは今、身を以て体験した。


「どうしました、もう終わりですか?」


「いいえ、ここからですわ!」


 だからと言って、ここで引き下がる訳には行かない。


「ならばウォーガマ国王女の力、見せて下さい!」


(私のことを知っていましたのね…!ですが今は―――)


 こうなれば魔力を温存する意味も、正体がバレることを危惧する理由も無い。


 目一杯、戦えると言うものだ。


「この炎は星を照らし、宇宙を照らす炎!≪迫来襲太陽(フェニックス)≫!」


 光と闇属性で勝てないのは、目に見えている。


 ここは自分が出せる最上級魔法で、勝負を決めに行くしか無い。


(その歳で最上級魔法を扱えるとは、これは予想外の収穫になりそうですね!)


「降る雨は増し、やがて海となり、やがて星を沈ませ、水は星と化す!≪純水惑星(シーサーペント)≫!」


「なっ!?まさか、複数を―――っ……!?」


 水の最上級魔法で、セルフィの放った炎魔法は無効化されてしまう。


 それどころか、嵐の夜のような波に襲われる。


 大きな刃と化した水に、為す術は無い。


「他の最上級魔法は、使えないようですね」


「くっ……!」


 悔しがり、汗を掻く様子から使えるのは炎属性だけと見抜かれる。


「貴方は使えそうだ、宜しければ仲間になりませんか?」


「……申し訳ありませんが、お断りさせて頂きますわ」


「そうですか、それは残念です」


(まさか、ここまで強いとは…!)


 どうすれば良いかを考えるが、正解は導き出せない。


 それもその筈、セルフィは一つ間違いを犯している。


 この男は、全ての最上級魔法を習得していると。


 故に、1つしか扱えないセルフィの勝利は有り得ない。


 挑んだこと、それそのものが間違いと言えるだろう。


「威勢が良いのは構いませんが、それでは蛮勇(ばんゆう)だ」


「っ…!」


 正論に、捻り出す言葉すら見つからない。


「では、若い芽は早めに()ませて貰いますよ」


「そう易々と、倒されませんわ!」


「いいえ、貴方では不可能です」


「くっ…!街を駆け、空を駆け、ここに風の社を奉る!≪風雅の社(モスト・ウィンド)≫!」


「人は闇を祓えず、人は闇に支配され、人は光を拒絶し、闇は全てを呑み込む!≪異次元の暗闇≫!」


「うぐっ…!」


「上級魔法で、これだけ粘るとは」


(な、何て力ですの…!)


 拮抗しているようには見えるものの、セルフィは既に全力を出している。


 反対に、男の方は涼し気な顔をしている。


「しかし、それだけです」


「があああっ!」


 別属性とは言え、魔法も個人のレベルも上の相手に勝てる訳も無く。


 涼し気な顔を崩さず、押し負けてしまう。


「姿を見られるのは困るので、貴方には悪いですが死んで貰いますよ」


(悔しいですが、今の私が勝てる相手ではありませんね…)


 まさか旅先で、人生を終えることになるとは思いも寄らなかった。


 魔法局への連絡を急かしたが、セルフィは連絡出来ないことを知っていた。


 せめて好きになった人だけでも、と。


 巻き込まない為に、レイジを逃がしたのだ。


「さて、死を悟った顔をしていますが言い残すことは?」


「…ありませんわ」


(ここまで、ですか…)


 *  *  *


 一方で、魔法局への連絡をしている筈のレイジは。


「クソッ、忘れてた…!」


 まだ朝が早く、魔法局への連絡が出来ないと言うことを忘れていた。


(勢いで帰って来たけど、この時間はやってないんだ…)


 知っている連絡先は、魔力を持たない一般人である父のみ。


 そんな父が、魔法局に知り合いがいるとも思えない。


 そもそも居たとして、こんな朝早くから対応してくれるのかも甚だ疑問ではある。


(一体、どうすれば…)


「レイジ…?お前、電話の前で(うずくま)ってどうしたんだ…?」


 起こしてしまったのか、それとも単に目が覚めたばかりなのか。


 父であるフラットは、眠たげな顔をしながら声を掛けてきた。


「父さん…」


(何が起きてるか話すか?いや、でも…)


 魔導士ではない父に言っても、どうしようもない。


 だが今、戦っているのは自分と同じぐらいの女の子。


 わざわざ囮になってくれたと言うのに、男である自分は尻尾を巻いて逃げた。


(そんな情けない話が、あってたまるか…!)


「具合が悪いのか…?」


「……父さん、魔法局に知り合いっている?」


 意を決して、望み薄と分かりながら聞いてみる。


「どうして今、そんなことを―――分かった、少し待ってなさい」


 レイジの目から飛び出た焦りが、フラットに伝わり、急ぎ電話を掛け始める。


(いる、のか…!?)


 少しの希望が湧いた、しかし問題は、この後だ。


『はい、もしもし』


 電話に出たのは、レイジには聞き覚えの無い声。


「もしもし俺だ、フラットだ」


『フラット!?どうしたんだ、こんな時間に電話なんて』


 電話越しではあるが、相手は親し気な感じ。


(父さん、魔法局に知り合い居たんだ)


 仕事ばかりで忙しく、フラットが誰かと遊んでいる姿を見たことが無い。


 こう言っては何だか、少し意外とも思った。


「息子が何やら急用らしくてな、今変わる」


『ああ、分かった?』


「レイジ、出れるか」


「お、俺が出て良いのか」


「状況が分かるのは、お前しかいないからな」


「…も、もしもし、あの実は―――」


 レイジは電話を取り、事情を説明した。


 自宅から少し離れた場所で、長髪で紫髪の男と自分と同じぐらいの年の子が戦っていることを。


『…分かった、今すぐにそちらへ向かおう』


 とだけ言い、相手は電話をすぐに切った。


「レイジ、今の話は本当なのか」


「父さん、もしかしてあいつのことを知ってるのか!?」


「……いや、知らない」


「…?知らないって、無理あるだろ」


「とにかく、これで通報は出来たんだ。お前は家に居なさい」


「家に居ろって、女の子が1人で戦ってるのにか!?」


「それでもだ、今連絡したのは魔法局局長だ」


 魔法局局長は、悪の道に堕ちた魔導士を取り締まる機関で最も強く、最も権力を持つ者。


 その力はエイリーン国最強と(うた)われ、その権力は国王と王子の次とも言われている。


 これだけで、フラットが連絡した相手が如何に凄い相手かは自明の理。


「何で、そんな人と父さんが」


「ただの昔馴染みだけどな、とにかくあいつに任せれば大丈夫だ」


「だから任せろ、ってか」


「お前が態々(わざわざ)、危険を冒す必要は無い」


「け、けど…!」


「レイジ、子供であるお前に強い言葉は使いたくない」


「……っ!分かってる、分かってるけど!」


 未だ初級魔法しか扱えないレイジは、父が何を言いたいか瞬時に分かった。


「だったら、ここで大人しくしててくれ」


 フラットの強めの言葉には、怒りではなく悲しみに満ちていた。


「………ごめん父さん、俺行くよ」


「あっ、おい!」


 故に一頻り悩みはしたものの、レイジはセルフィの所に向かうことに。


「風よ風、駆けろ!≪駆風(ロウ・ウィンド)≫!」


(頼む、間に合ってくれよ…!)


 セルフィが強いのは分かっているが、それ以上の魔力を、あの男から感じた。


 不安と風に駆られながら、2人がいるであろう場所に戻る。


(あ、あれは…!)


 その時、目にしたのは抵抗出来ずに殺されそうになっているセルフィだった。


「何を、してんだぁ!」


 怒りに身を任せ、そのまま殴り掛かる。


 しかし飛んで来た拳を、軽々と受け止められてしまう。


「レイジさん!?」


「貴方は先の、何をしに来たのですか」


「何って、その子を助ける為だ!」


「……!」


(私を、助ける為に…?)


 戻ってくるとは思わなかった者が、今自分の為に動いてくれている。


 他者から感じる魔力は、その人の強さを表す。


 レイジが、セルフィの強さを分かったように。


 逆もまた然りで、レイジが弱いことは分かっていた。


「ぐぅっ…!」


「消えなさい、貴方には用がありません!」


「ぐわあっ!」


「レイジさん!」


(私は、何をしているのですか…!)


 そんな人にセルフィは助けられた、その事実が彼女が動く理由になる。


「とんだ邪魔が入りました、では貴方の魔力を―――」


「街を駆け、空を駆け、ここに風の社を奉る!≪風雅の社≫!」


「何!?」


 台風のような強烈な突風で、男を吹き飛ばす。


 自分よりも弱い者が、自分を助けてくれた。


 返しの一撃で、致命傷を負うかもしれないと言うのに。


「私、まだやりたいことがありますの!」


「弱き者に感化されましたか、ですが無駄な足掻きです!」


「無駄なもんかよ!風よ風、駆けろ!≪駆風≫!」


「風を、ブースターのように!?」


(この方、魔力も魔法も貧弱ですが…)


「レイジさん!」


「俺のことは良いから、早く詠唱を!」


「っ、分かりました!」


「この程度の足止め、意味などありません!」


「光は廻り巡る!≪廻巡光(ロウ・ライト)≫!」


「今度は輪!?」


(中々に器用な使い方を、しますね…!)


 本来、魔法とは魔力を使い放つもの。


 形を作り、拘束することも、ブースターとして使うことは無い。


 初級魔法は、必要な魔力も少なく操作がし易い。


 それ故にレイジは、独自の使い方で一瞬とは言え足止めすることに成功している。


「今だ!」


「空を巡り、地を巡り、ここは大海と成る!≪水海成(モスト・ウォーター)≫!」


「くっ…!」


 小さな光の輪、両腕が何とか入る程度の小さな輪。


 力も弱く、大人の力なら解けてしまう。


 しかし、豪快な量の水で男を吹っ飛ばす隙を作るには充分だ。


「まだまだ、行きますわよ!」


 風魔法と水魔法を連呼し、男を出来るだけ飛ばす。


 風を使って運び、水を使って押す。


 交互に打つことで、距離を取る。


(何と言う厄介さ、これではまるで…!)


 繰り出され続ける水と風は、次第に台風に変わっていく。


 同時では無いものの、これは合体魔法と呼ばれる超高等技術に近い。


 とは言え、それでも男に本気を出させるには至っていない。


「ふふっ、これで時間は稼げますわね!」


「時間?そんなものを稼いで、一体何になると!」


 セルフィは今、勝つことを諦めた。


 だが、負けることを諦めた訳ではない。


 勝てないのなら、相手の嫌がる事をするまで。


 王女の言う事では無いが、これは戦いだ。


 四の五の言う余裕など、今は無い。


「姿を見られるのが困ると、貴方は仰っていました!」


 ならば、どうにか時間を稼げる方法は無いか。


 数秒の思考、もう少し良い方法があったかもしれない。


(ですが今は、これで良い!)


「っ……!こうなれば、仕方がありません!」


 徐々に圧の増して行く攻撃に、男も本気を出さざるを得ない。


「―――へ?」


「魔法が、消えた…?」


 一瞬にして、全ての魔法が消えてしまった。


 いや、消されたと言うべきだろう。


(う、嘘、ですわよね…?)


「闇に支配され呑まれよ!≪異次元の暗闇≫!」


「きゃああああっ!?」


(詠唱の短縮、それ程までの実力者だったのですね……)


 詠唱の短縮は基本的に失敗が起こりやすく、余程の練度が無ければ出来ない。


 この男は、それだけの場数を踏み、実力を身に付けたと言うこと。


 最上級魔法を一つしか習得出来ていないセルフィには、雲の上のようなことだ。


「おい、大丈夫か!」


「だ、大丈夫、ですわ…」


 吹き飛ばされてしまい、駆け寄ったレイジに支えられる。


 少しだけ嬉しくなってしまうセルフィの事など、お構いなしに静かに男は近寄る。


「あれを見せるのは避けたい所でしたが、もう構いません」


「炎よ燃え上がれ!≪炎上(ロウ・ファイア)≫!」


「似た手は、もう通用しませんよ」


 足元に火を点けて混乱を誘うも、今度は魔法も使わずに振り払われてしまう。


「水よ湧き出ろ!≪湧水(ロウ・ウォーター)≫!」


「無駄なことを…」


「クソッ…!」


 顔に水を掛けて視界を奪おうとするが、所詮は水。


 拭いてしまえば、何の脅威にもならない。


「その魔力、頂きますよ」


「や、やめろ!」


「言ったでしょ、貴方に用は無いと!」


「っ、ぐはっ…!?」


 詠唱をせずとも、レイジ程度の相手なら致命傷を与えられる。


 これでもう、邪魔をする者はいない。


(一体、何をしようと……)


 既に体が、言う事を聞いてくれていない。


 迫りくる男を前に、ここで終わりかと思った時。


「祓い清めるは聖なる光!≪聖光滅(ユニコーン)≫!」


「この詠唱は…!」


「来て、くれたのか…!」


 恐らくは光の最上級魔法。


 そして、その詠唱を短縮出来る者は限られる。


「久しぶりだな」


「……お久しぶりです、イサム・S・パーソン殿」


(あれは確か、この国の魔法局局長…?)


 魔法局のトップであるイサムが何故、ここにいるのか。


 疑問に思うが、それよりももっと不思議なことがある。


「知り合い、なのか…?」


 どのような関係かは分からないが、何やら顔見知りの様子。


「状況的に、再会を喜べる余裕は無さそうだな」


「もとより、そんな間柄では無いでしょう」


「祝砲でも撃ちたい気分だよ、()()()()()()()()()


(同僚殺し…?)


 淡々と話しはしているが、声音は強張っており、目付きも鋭い。


 局長とエドワードと呼ばれる男は、ただならぬ関係のようだ。


「……貴方が出てくるのは想定外でしたが、嬉しい誤算でもあります」


「嬉しい、だと?」


「一般人に見つかる方が、遥かに面倒でした」


「どういう意味だ」


「貴方であれば、私の存在を公にはしないでしょ?」


「……、そういう意味か」


 エドワードと呼ばれた男は、自分がどういう存在かを理解している。


 魔法局局長であるイサムも、そのことは重々承知している為、例え逃がすことになろうとも、黙るしか無い。


「それでは、帰らせて貰いますよ」


「っ……!」


 エドワードと呼ばれた男は、太陽から差し込む光に紛れ消えて行った。


「…追いませんの」


「……俺と奴が戦えば、一般市民を巻き込む」


「確かに、そうですわね」


(これは何か、ありそうですわね)


 他国の人間とは言え、魔法局局長が如何に強い人物かは知っている。


 対峙した男も、途轍もない実力者。


 争えば、一般人を巻き込むのも事実。


 しかし、置かれた間は明らかに他の理由があることを裏付けている。


「それに、ウォーガマ国の王女である君を巻き込む訳には行かない」


「あら、気付いてましたの」


「王女…?って、まさか!」


 2人のやり取りを見て、レイジもようやく気が付く。


「すみません、明かす訳にも行かなかったので」


「い、良いけど…」


(じゃあ俺、隣国の姫様と手を繋いだってことか!?)


 戦う前の事を思い出し、急に顔が青ざめる。


(場合によっちゃ、国際問題になるってことだよな…?)


 そうなれば自分はどうなるのか、死刑になっても可笑しく無いのでは、と考えてしまった。


 死刑どころか、裁判沙汰にすらならないのだが。


「それよりも、あの方は」


 青ざめて冷や汗を掻くレイジとは裏腹に、セルフィは気になることを聞く。


「……悪いが、王女であり子供でもある君には話せない」


 隣国とは言え、王女の質問に答えない訳には行かない。


 と思っていたが割れる口が無いのか、余程の重要機密か話してくれなかった。


 深刻そうな表情で、「これ以上、踏み入るな」と言う圧も感じる。


「分かりましたわ。あの方の事は、お父様とお母様にも話しません」


(後で、調べる必要がありそうですわね)


「すまない…」


 礼と謝罪を兼ね、頭を深く下げられる。


「それにしても、魔法局局長と知り合いとは顔が広いのですね」


「い、いや俺も知らなかったんだけど…」


 レイジも状況を飲み込めていないようで、辿々(たどたど)しい言葉遣いで、自分の父とイサムが知り合いであ

ることを伝える。


「まぁ、そうでしたの」


「つーか、俺も聞きたい」


 2人の視線は、同時にイサムに集まる。


「フラットとは昔馴染みだ、最近は忙しくて話せてもいないがな」


(そんな話、父さんからは一度も聞いたことが無いな…)


 隠していた、と言うよりは話す機会が無かっただけだろう。


「ところで、レイジ君だったか?」


「えっ、はい」


「君は、魔導士になるのかい」


「いや、今の所は…」


「…そうか、なら良い」


 それだけ聞き、イサムはすぐに帰って行った。


(何だったんだ…?)


 良い理由が見当たらないが、どうせ魔力の少ない自分では向いていないから止めておいた方が良いとか、そんな所だろう。


 イサムが聞いた理由は、そこでは無いのだが。


 いずれ、語る時が来るだろう。


 それよりも今は、もっと大事にしたい人がいる筈だ。


「レイジさん」


「は、はい、何でしょうか…」


(やっぱ、国際問題にされるのか…?)


「この度は助けて頂いて、ありがとうございます」


「…!いや、俺は何も」


 要らない不安を抱きながら、怯えていると返って来たのは礼の言葉だった。


「もしレイジさんがいなければ、私は今頃死んでいました」


「……」


 レイジが駆け付けた時、セルフィは絶体絶命の危機。


 それを分かったからこそ、風魔法で駆け寄り殴り掛かった訳だが。


 確かに、勢い良く殴り掛からなければ、死んでいたのかもしれない。


「ですから感謝をさせて下さい、出来ればお礼もしたいですわ」


「い、良いって!王女様に、そんな事させられないし…」


「いえ、王女であるからこそです」


「……じゃあ、また会ってくれるか」


 強い眼で見られ、何でもないことを口にする。


「そ、そんなことで良いのですか…?」


「いや!あんたが嫌って言うのなら、良いんだ!」


 傲慢(ごうまん)だと思った。


 失礼ではとも思った。


 高望みだとも思った。


「ふふっ、嫌だなんて言ってませんわ」


「じゃあ、良いのか…?」


「ええ、だって私もまた貴方に会いたいのですから」


「……!」


「それと、私の名前はセルフィ・ウォーガマです」


「じゃあ、セルフィさ―――」


「セルフィ、そう呼んでくださいまし」


「…!せ、セルフィ」


「はい、何でしょうか?」


「また会おう、セルフィ!」


「ええ、またお会いしましょう。レイジさん」


 こうしてレイジは自宅に戻り、起きた事を父に報告。


 説教もされたが、同時に抱き締められ、父からの愛を再確認した。


 *  *  *


 列車に乗り、帰国している途中のセルフィ。


(運が良かった、だけですわね…)


 窓の外を見つめながら、拳を握り締める。


 王女と言う恵まれた立場上、強くなることは義務付けられていた。


 しかし、先程のエドワードと呼ばれていた男の異常な強さ。


 戦っている時は、何も思わなかったが、思い返すと悔しくて堪らない。


(それにしても何故、魔法を連発出来たのでしょうか…?)


 セルフィは本来あそこまでの魔法の連発が出来ないのだが、不思議なことに連発が出来た。


(あれが火事場の馬鹿力、と言うものなのでしょうか)


 だがそれでも、エドワードには及ばなかった。


(強くなりませんと、いけませんわね…)


 あれが自国の者だと考えると、ゾッとする。


 ウォーガマにも魔法局は存在しているし、対等に渡り合える者が、存在するのかもしれない。


 だがセルフィが感じた魔力は、そう思わせない程の強力な魔力だった。


 帰国したら、すぐにでも王女である立場を使って魔法局の人間に稽古を付けて欲しいぐらいには悔しいが、心に残ったものは悪いことだけではない。


(また、お会いできますわよね)


 1人、惚れた相手への想いを募らせながら自国へと帰国した。



エドワードの情報(名前と目的、同僚殺しについて)は次々回で書きます

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