貧乏人の俺が魔法学園に通う日
俺はレイジ・ノルマル。家はアパートで、自分の部屋と言うものは無い小さい一室を借りて住んでいる。
自分で言うのも何だが、俺の家は貧乏だ。
父は働いているが、俺の幼い頃から母が難病に掛かっており毎月の医療費や薬や入院費が高く、そこそこの収入が多少のアルバイトで得た賃金しか無い。
先日、中学を卒業し働ける年齢になった。
本音を言えば魔法学園に通いたい。しかし、俺の家の懐事情では学園に行く為の金が無い。
なので、これからは学園では無くアルバイトをして働こうと考えている。
一応、魔導士は収入が高い職業として有名でアルバイトをしながら学園に通う手もある。
しかし、学園には独学でしか魔法を学べずに初級魔法しか扱えない俺とは違い、上級魔法すらも扱える生徒が大半で二年生にもなれば全員が初級魔法と中級魔法。
そんな所に行けば、馬鹿にされるのがオチだ。わざわざ罵られる為に学園に行くよりも、両親の為に働く方が何百倍も有意義だ。
だから今日、俺はアルバイトの面接に向かう。給料の良い場所を選びはしたが、俺のような者を受け入れてくれるかは分からない。
勉学はまずまず、運動もそこそこで、魔法は初級のみ。
お世辞にも求められている人材とは言い難いが、四の五の言っている余裕は無い。
「レイジ」
「父さん、どうしたの?」
「お前に少し、話がある」
「悪いけど、今からバイトの面接に―――」
「この国にある国立魔法学園のことは知っているな?」
「知ってるけど、何で今?」
この国、唯一の魔法を教われる学び舎。それがエイリーン国国立魔法学園。
何故、唯一かと言うと魔法を覚える者自体の数が少なく、一国でも3000人程度と言われているからだ。
だが俺の疑問はそこに無く、どうして今このタイミングなのかと言うこと。
「先月、入学手続きをして来た。今日から通って来なさい」
「……父さん、今何て言った」
「お前は今日から国立魔法学園の生徒だ」
「い、いやいや!金はどうするんだよ!母さんの医療費は!?家賃も食費も、光熱費もガス代もあるんだぞ!?」
「大丈夫だ、父さんな。この日の為に夜中の短い時間でアルバイトをしていたんだ」
「知ってるよ、いつも帰って来るのが遅いから向かえに行こうと思ったことがあったから…」
「…!何だ、バレていたのか」
まるで子供の我儘を聞く親のような、優しい笑顔で返される。
「何で、笑って…」
「安心してくれ、別に無理をしていた訳じゃないんだ。それに、生活のことは心配いらない」
「心配いらないって、心配するだろ!父さん、あんまり寝ていないんだろ…?」
「むっ、痛い所を突くな」
笑いながら見せる困り顔は、とてもじゃないが困ってる様子には見えない。
休日も仕事をして、休みなんて月に1度あれば良い方だ。その上で寝る時間も少ない。
そんな笑顔一つで誤魔化せて良いことじゃない。
だから俺は中学を卒業し、父さんの負担を軽くしようと働こうと思っていた。
「お前は何も心配しなくて良いんだ、もっと自由に自分の人生を考えて良いんだ」
「で、でも俺は魔法学園に通いたなんて思っていない…!父さんの助けになりたいんだ…!」
そうだ、あそこに行けば必ず俺は馬鹿にされる。いじめを受けるかもしれない。
考えるだけでも、通いたいだなんて思えない。
「だったら学園に通ってくれ、お前は俺と違って魔法を扱えるんだ」
「…っ!けど、俺は初級魔法しか…」
先も言ったが、魔法を扱える者は希少だ。それだけ価値があると言っても過言ではない、しかし俺は出来損ないだ。
父さんは魔力を持たない一般人ではあるものの、母さんは魔力を持つので、ある程度の知識はあるはずだ。
初級魔法しか扱えず、独学でしか学んだことの無い人間を魔法学園に通わせる意味を知っている筈だ。
「じゃあ何で、魔法を身に付けたんだ?」
魔法は”魔力”と呼ばれる、魔法を使う為のエネルギーが必要だ。車が動くのにガソリンが必要なように、自転車が動くのにペダルを漕ぐように。
しかし魔法は産まれた時から使えるのではなく、自分で身に付けようと思わない限り身に付けることは出来ない。
「……別に、理由なんて無いよ」
この世界では魔力がある者は皆、魔法を身に付けようと努力をする。俺も当たり前のように努力をしてきたが、いつまで経っても花は開かなかった。
「だったら、これは何だ?」
「そ、それは……!」
「『子供でも分かる!魔法の覚え方大全!』、これが何の本かは言わなくも分かるな」
それは俺が忙しい父さんの代わりに家事を任せれて、ほんの少しずつほんの少しずつ貯めて買った唯一自分の為に買った物だ。
「……そうだよ、ああそうだよ!俺は魔導士になりたいんだ!」
何かに怒るように、誤魔化せなくなった俺は本音を叫ぶ。
「だったら、行ってこいレイジ」
「けど、生活が…」
「言っただろ、大丈夫だ安心しろ」
「……!ほ、本当に良いのか…?」
「だから、そう言ってるだろ?」
「あ、ありがとう!父さん!」
この時の俺は、自分でも気持ち悪いと思うぐらい笑っていたと思う。
馬鹿にされるだとか、いじめを受けるかもだとかは戯言だ。
本当は魔導士になりたいんだ。
男なら誰だって憧れる筈だろ、一番を。
父さんの屈託の無い笑顔に動かされるように、俺は急いで魔法学園に向かった。




