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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
勇者と古代竜編
69/71

想いの丈


 「うぐっ······悲しい···お話···だね」

 「そう···ですね。それにしても、子供の読む書物とはとても······」

 

 本を読み終えたサキは瞳を潤ませ、シルフィーは表情を曇らせる。誰が何を想って書いたものなのか、話の内容的に実体験とも思えない。なら、何故こんなにも悲しい物語をあえて生み出したのか-。

 

 「にしても、勇者とは関係なかったな。どーする? マジで大定図書館ってとこに行くか?」

 「ひぐっ。······はぁ。ね、ねえ、あのね? ちょっと思考を変えてみない?」

 「おっ。なんだか面白そうだね? どういうことだいサキ君?」

 

 三人の視線が集まる中、涙を拭い、コホン-と小さく咳払いをしたサキは自慢気に人差し指を突き立てる。

 

 「勇者を探すのは止めて、勇者が対峙しそうな存在を探すの!」

 

 聞けば勇者という称号は【世界の救済者】なる素質が関係しているとかいないとか-。

 なら、世界の脅威となる存在を張っていれば、自ずと勇者の方から現れるのでは? -サキはそう考えたようだ。

 

 「······あれ? やっぱダメかな?」

 「いや、悪くないね。ただ、問題もあるけど」

 「問題??」

 「サキの言った、勇者が対峙しそうな存在ってのが問題なんだよな? ローレット」

 「うん。そうだね。勇者程の存在が対峙する相手、果たしてそんな相手を僕達が見張れるのかな?」

 

 ローレットの疑問に、確かに-と生唾を飲むサキ。勇者と言えば魔王! -などと、後に言おうと決めていたようだが、改めて考えると心底おっかない。それに勇者が現れるとして、相当な時間もかかる筈だ。現実的とは到底思えない。

 

 「やっぱり無理じゃん〜」

 「サキさん、トウヤさん? よければ〝エト様〟とお会いしませんか?」

 「え!? あ、あの人と!?」

 「エ、エト···さんと······」

 「おぉ! 僕が合流する前に出会った凄いって噂の人だね? おや? トウヤ君、どうしてそんなに嫌そうなの? サキ君はなんだか顔が赤いし。どうしたの?」

 「い、いやぁ〜···あははは。嫌じゃないんだけど。なんて言うか、あの人は凄過ぎて怖いって言うか······」

 

 苦笑うトウヤと瞳を泳がせるサキ。そんなよく分からない二人を不思議に思いつつ、ローレットはシルフィーに声をかけた。

 一体何があったのか、というより、そのエトと言う存在は何者なのか、ローレットの問いにシルフィーは落ち着いた様子で答えた。

 

 「エト様は、私と私の妹を救って下さった恩人です。とてもお優しくて、とてもお強い素敵なお方です!」

 「へぇー。いい人そうじゃないか?」

 

 いい人そう-。確かにいい人なのかもしれないが、人は得体の知れない存在には畏怖してしまうものである。

 

 「うっ···。ローレットは目の前であの人を見てないから、そんな悠長な事が言えるんだよ」

 

 目の前に立った時の圧迫感、圧倒的な存在感。思い出す度にトウヤの溜め息の数は増えていく。この冒険者パーティー『クリスマスローズ』のリーダーであるトウヤがそこまで不安視する存在。

 ローレットも流石にその存在を警戒し始める。

 

 「······キミがそこまで言う存在···か。それで? そんな子に会いたい理由は?」

 「はい。推測ですが、エト様はこの世界の中心とも言える存在の内の一人だと言っても過言では無いと思うのです。エト様を中心に世界が-なんて大それた事を言いたいわけではありません。ただ、何か大きな事が起こる時、そこにあの方が関係している気がするんです」

 「······なんだろ。私、シルフィーさんの言いたいこと、ちょっと分かる気がする。何だか不思議な人だもんね〜。もしかしたら勇者の事も何か知ってるかも!」

 

 そう語るサキとシルフィーは不思議と笑みを浮かべる。自分で言っていて可笑しくなったのだろう。エトという存在が何かにつけて関係している-なんてそんな訳が無いだろうに、不思議と納得してしまう。

 いつの間にか、シルフィーもサキすらも、エトという存在に不思議な魅力を感じているのだ。

 

 「エトさんね。『世界地図』-エトを検索。·········あれ?」

 「ん? どうしたの?」

 

 ともあれ-と、早速トウヤは自らのスキルでエトを探し始めた。が、瞳を伏せながらトウヤは首を傾げる。

 

 「エトさんって、フルネームなんて言うの? 検索結果でエトって名前の人が二人いるんだ。西方大陸のコルネル村付近に一人と東方大陸のシュゲルって山脈に一人。どっちがあのエトさんだろ?」

 「確かに全土で探すとなると、エトという名前の方は複数居られますよね。すみません、フルネームは私も······」

 「単純に考えて、リーブルから二日で行ける距離だと、西方大陸のコルネル村だよね?」

 「サキ君。単純に考えるのなら、二日で西方大陸には渡れないんだけどね······。消去法なら分かるけど」

 「うっ······。じゃ、じゃあ消去法で!」

 

 エトの現在地が判明した。四人は目的地を西方大陸のコルネル村に決め、早々にクオリオーネ王国を出る事にした。

 着いた時には既にエトが旅立った後-なんて事が無いようにトウヤは数分置きにスキルでエトの居場所を確認する流れとなった-。

 

 

 

 

 

 一方。

 

 〘エト様と御一緒やなんて! こんな嬉しいことあらへんなぁ〜。えへへぇ〜〙

 〘なのだゾー! うぉーなのだー!!〙

 「······ま、魔界の姫に精霊界のじょ、女王···。はぁ······。相変わらずエーくんってば節操が無いんだから」

 「ん? ラナンキュラス、何か言った?」

 「いや、何も。それよりエト殿、暫くはノーフェイスでは無く、エト殿として行動するのだな?」

 「あぁ。その為にこうやって髪も染めたんだ」

 「うむ。黒髪もよく似合っているな」

 「え? あ、うん。ありがと」

 

 リーアとエイン、そして俺とラナンキュラスは西方大陸のコルネル村に来ていた。

 これは二日前にリーブル王国でパーティー分けをした結果だ。厳正なる審査の結果、俺とリーアとエインとラナンキュラス。ニールとヤオとアヤとアリア。ラグとステラとルカとミーアとイルミ。という振り分けになった。ちなみにフィーはウルスマキナに帰還している。

 

 【わたくしだけ仲間外れ······】

 

 別れ際、そんな事をボヤいていたが、また会いに行くね-と微笑むと、もの凄く嬉しそうに帰って行った。

 

 

 

 久しぶりにコルネル村の空気を肌で感じつつ、俺達は近くのベンチに腰掛けた。正直、オーリア山脈に向かったニール達のことが気が気じゃない。古代竜メルトガリア······。一体どんな奴なのだろうか。

 そんな事を考えながら、ふう-と一息つこうとした途端、俺の存在に気付いたのだろう。村人達が血相を変えて俺の元に集まり始めた。

 

 「エト様ッ!!!」

 「お久しぶりでございます!!」

 「何やら逞しくなられたご様子!」

 「エトさま遊ぼ〜!!」

 「「「遊ぼ〜!!」」」

 「エト様ぁ〜! 今夜はうちの宿に泊まってくださいな? 村の娘みんなでお相手させて頂きます!」

 

 怒涛も怒涛。勢いというか、圧がすごい······。隣でエインとリーアが完全に停止してしまっている。

 

 「-っ!? え? 何?」

 「·········バカ」

 「なんだって?」

 

 唐突に、俺の二の腕が攻撃を受けた。当然、痛くないが、感覚的につねられたらしい。すぐさまラナンキュラスに視線を移すと、彼女はぷいっ-とそっぽを向く始末。

 

 「と、とりあえず皆落ち着いて!!」

 

 嘆きとも取れる俺の声はコルネル村全体に響き渡った-。

 

 

 

 数分後。

 ようやく落ち着きを取り戻し、エインとリーアの魂も引きづり戻した所で、俺達はコルネル村の村長であるミネルバという老婆に会う為、彼女の住む住居に向かった。

 

 「これはこれは···。よもや生きておる間に再び貴方様と会えるとは······。これもきっとエイラ様のお導きでしょうぞ」

 

 いや、俺の気まぐれなんだけど······。

 

 このコルネル村でも聖母エイラを信仰している。ミネルバの背にある小さな石像がそれを物語っているようだ。

 

 「して、本日はどのような御用で?」

 「いや、用という程じゃないんだ。道すがら立ち寄っただけだよ。騒がせてごめんね?」

 「ほっほっほっ。謝罪の言葉なぞ、貴方様に限っては不要ですぞ。お好きになされて下さいませ。貴方様がどのような方かは、村の者全員が存じております。村の娘達に至っては、貴方様にその身を-おっと。ほっほっ。少々老婆の戯れが過ぎましたのぉ」

 「あはは。最後のは聞かなかった事にしておくね。それじゃあ、お言葉に甘えて今日一日はゆっくりさせて貰うよ」

 「おや? 明日には旅立たれるので?」

 「あぁ。イシュタル法国にね」

 「イシュタル······でございますか」

 

 イシュタル法国。クリムゾンのリーダーであるレイズから聞き得た当初の目的地だ。俺達はそのイシュタル法国に向かっているのだ。レイズの言っていたアズールという男が見つかればいいのだが···。

 

 しかし、イシュタル法国という名を出した瞬間、ミネルバは少し表情を暗くさせた。何かあったろだろうか、どうしたのか-と問おうとも思ったが、あまり深入りするべきでは無いと思い、そのままミネルバの家を後にした。悪いが、寄り道している時間がある訳じゃないのだ。

 

 〘なんや、エト様。もーええんか?〙

 「うん。顔合わせ程度だからね」

 

 ミネルバの家を出ると、扉のすぐ横でエインが大人しく俺の事を待っていた。相変わらず、その佇まいは可憐である。この羽織り姿もよく似合っているし······。

 

 〘エト様、この村はええなぁ。大人も子供も皆幸せそうや。何不自由無く、それぞれが自分の立場をよう理解してはる。無理に取り繕うてへんし、今以上のもんを得ようとしてへん。今まで見た中で、一番人間らしゅう生きとる。···きっとエト様のおかげなんやろなぁ〙

 

 そう語りながら、エインは微笑ましく村を見つめる。なんというか、本当に温かい笑顔だと思った。精霊にしてみれば、人間という種族は子に近いのかもしれない。それ故の眼差し-であるなら、少し納得だ。

 

 ただ、この光景は彼ら自身が作り出したものだ。俺のおかげなんかじゃない。

 確かに昔、俺はこの村を救ったかもしれない。それでも、この村を支えて維持して来たのは紛れもなく彼ら自身だ。間違ってもそれを他人のおかげなんかにして欲しくはない-。

 

 「あれ? ところでラナンキュラスとリーアは?」

 〘あー、それがなぁ。村の娘っ子らに連れて行かれてもうてな? なんや知らんけど、あの子ら可愛ええやろ? それでやろうなぁ〙

 

 いや、エインも大概なんだけど······。自覚が無いのかな。

 

 「まぁ、村の奴らと仲良くしてるっていうのならいいんだけどね。ならエイン? 二人で食事でもする?」

 〘まぁ! かまへんの!? ほんにめちゃめちゃ嬉しいわぁ!!〙

 「いいよ。何が食べたい?」

 〘ほんならウチ、三色団子いうもんが食べたい!〙

 「了解。ならそこのメルの店がオススメだよ」

 

 エインに手を引かれながら、オススメの茶菓子店へと歩みを進める。

 たまにはこんな日があってもいいだろう-そう思いながら、エインとのひとときを堪能した。

 

 

 エインとの食事を終えた後、俺達はリゼッタという女性が経営している宿に足を運んだ。ここ、コルネル村に来た際は必ずここに泊まるようにしている程、この宿は居心地が良い。

 

 「エト様ぁ! 約束通り、来てくれたんですね!? ふふふっ。ありがとうございますー!」

 「うん。またお世話になるね」

 

 約束はしてないけど······。

 

 「いつでも大歓迎です! それじゃあ、いつものセットプランでいいですよね? お部屋は三階の角部屋で、夕食と朝食付き、入浴時は露天風呂の貸切。サービスとして、今日は〝十八人で夜は御奉仕〟させて頂きま-」

 「ストップ」

 「え? あ、はい! すみません、少なかったですか? それじゃあ、他にも声をかけておきま-」

 「だからストップ」

 「はい? あ、今日は少人数の方がよかったですか? なら、私と······朝までずっと-」

 「もう一度言うよ。ストップ」

 「は、はい······」

 

 三度目で、ようやくリゼッタは落ち着いてくれた。少し威圧した甲斐があった。

 まず、いつものセットプランにサービスなんてものはそもそも無い。だと言うのに、あたかもいつもの事のように言っている事にまずは反省して欲しい。

 

 そして、そのサービスの人数だ。十八人? ―――死ぬわ。

 

 「リゼッタ? サービスなんて、今までした事無いでしょ? ありがたいけど、気持ちだけ受け取らせてくれる?」

 「そ、そうですよね···。調子に乗っちゃって、すみません!」

 「ううん、分かってくれたのならいいよ」

 〘······人間は欲深いなぁ。いや、せやけど強者との間に子を成すって言うんは、生存本能的に自然ではあるんやろか?〙

 「エインにはそういう概念は無いんだよね?」

 〘せやなぁ。ウチは特別やし、そーゆう機能も知識もあるけど、そこに至る思考やら本能やらは持っとらんしなぁ。結果的にはそーなるんやろね〙

 

 精霊は三大欲求が無い。いつか言った言葉だが、精霊女王だけは少し特別である。何故かは分からないが、子を成す機能も知識も彼女だけは持ち合わせている。が、子を成す-という行動には至らない。

 そこに至る思考や本能が無いからだ。ただ、他の精霊達と同様に傍で寄り添い、共に居たい-そういった感情は持ち合わせている。これがいわゆる精霊の加護-というものに繋がるのだ。

 

 落ち着きを完全に取り戻したリゼッタに案内されて、三階の角部屋に入ると、リーアとラナンキュラスがベットで力尽きていた。というか先に居たんだな。

 

 「······どうしたんだよ?」

 「うぅ······。まるで着せ替え人形だ······」

 〘けしょう-というやつで顔がコテコテだゾ〜。もう嫌なのだぁ〜······〙

 

 どうやら相当に弄ばれたらしい。ラナンキュラスはともかく、リーアはよく耐えられたものだ。うわああああ!! -とか言って発狂してもおかしくなかっただろうに。

 

 「お、お疲れ様。エイン、二人を労ってやってくれない?」

 〘はいな! エト様の御要望とあらば喜んで! ほなお二人とも、疲れも吹っ飛ぶくらいの幻想を御堪能あれ! そー······れっ!〙

 

 パチンッ-。

 

 エインが胸元で両手を叩き合わせると、リーアとラナンキュラスはビクン-と体を身悶えさせ、幸せそうに微笑み始めた。

 

 「·········相変わらず凄いね」

 〘なんのなんの。大した事やあらしまへんよ。ちょこーっとええ夢見てはるだけどす〙

 

 なんて満面の笑みのエイン。二人がどんな幻想を見ているのか、見せられているのかは分からないが、本当に幸せそうな表情をしている辺り、余程の夢を見ているのだろう。

 

 〘ウチの能力には、種族・魔力の優位性なんか意味あらしまへん。相手が魔界最強やゆーてもちょちょいのちょいどす! あ、エト様以外やけどね!〙

 「あー···。まぁ俺はエインの能力が干渉を与える〝そういう部分が壊れてる〟から」

 〘······そない自分の事、卑下にしたらあきまへんよ。確かに人に限らんと、生きとるもん言うんは、少なからず幻想を抱いとるさかい、どないな相手にもウチの能力は効果的どす。過去に色々あったエト様が幻想を抱くんやのうて幻滅してしもうてるから、効果が無いん言うんも分かっとります······。それでもな? エト様は幻想なんて曖昧なもんよりも、今この瞬間をちゃんと受け止めて受け入れられる。それは素晴らしいことなんよ? それを自慢はしても卑下するもんやない。ええどすか? 絶対に何があっても、エト様自身を見下すような事は言うたらあきまへんよ〙

 「······ったく。イルミにしてもニールにしてもお前にしても。どうして、うちの女王様連中はこうも俺の事を俺以上に考えてくれんだか」

 〘そんなん決まっとるやろ?〙

 「え?」

 

 エインが断言したその言葉は、俺の心にしっかりと刻まれた。

 

 『あんたの事が心底大切やからやで』

 

 その言葉もその言葉を告げた愛おしそうな眼差しも温かな表情も······。俺は一生忘れられないだろう。言い方は違えど、イルミやニールにも共通するその想いは、例えまた俺の心が壊れたとしても、きっと寄り添ってくれる-そう感じる程に熱く心強いものだった······。

 

 

 

 

 翌日。

 目が覚めると、俺はエインの膝の上で寝息を立てていた。膝枕には少し驚いたが、その感触はとても心地いい。

 視線をエインに移すと、眠気も吹き飛ぶ程の穏やかな笑顔で俺を目覚めさせてくれた。

 

 「昨日はごめんなぁ。ちょっと説教じみてしもて···」

 

 そんな必要のない謝罪にクスッと微笑みながら、俺はゆっくりと上体を起き上がらせる。

 

 「ううん。大丈夫だよ、ありがと。もしかしてずっと起きてたの?」

 〘ふふふっ。精霊は寝やしまへんよ。それに、こないなチャンス、滅多にあらへんしなぁ。存分に堪能させて貰いましたっ〙

 

 寝顔を-か。まぁ、こんな魅力的な笑顔をされれば、怒る気も失せるというものだ。彼女が喜んでくれたのなら、多少の恥ずかしさなんてどうということはない。

 

 「なんだか、エイン。昔と雰囲気変わった?」

 

 そう。ふと思った。前に出会った彼女はこんな感じでは無かった。もっと、我が強く、残念さが引き立っていた筈なのだ。ここまで魅力を感じなかったのだが······。

 

 〘さぁ? どーやろ? 強いて言うなら、ちょっと自分の心に〝誓いを立てた〟-かもしれまへん〙

 

 なんて言いながら可愛らしく口元を指先で覆う。なんの事だかさっぱり分からないが、彼女は彼女なりに変化を望んだ-という事なのかもしれない。

 

 「そっか。-さてと。そろそろ準備をしよっか? っと、その前に朝食だね。エイン、二人を起こしてくれる? 特にその下着姿の情けないラナンキュラスとかね」

 〘えらい派手な下着やなぁ? なんや〝期待〟しとったんやないの?〙

 「さーね。······なんて言うか、この寝相の悪さ。······〝アイツ〟みたいだな」

 〘ん? なんか言いはった?〙

 「ううん、何も。ほら、早く行くよ」

 〘ほいほい。おーい! 己ら早う起きんけー! エト様が行くてゆーっとっちゃろ!!〙

 「·········」

 

 普段の話し方はマヤさんと似たような感じだけど、たまに出るこの訳の分からない口調は何処の言葉なんだろ···。

 

 

 

 〘にっしっし〜! なんだかいい夢を見て絶好調なのだ!!〙

 「そ、そうだな。·········えへへ。ちょっとやり過ぎちゃったぁ〜···くふふっ」

 

 上機嫌のリーアと顔を真っ赤にして何やら呟いているラナンキュラス。

 朝食を済ませた俺達は、朝からコルネル村を発つことにした。

 

 「にしても、ニーナに会わなかったな。また魔界に遊びに行ってるのかな?」

 〘どないしたんや?〙

 「いや、何でもないよ。それじゃあ、出発しよっか」

 「〘 〘 おーっ!!!〙〙」

 

 何故か息ピッタリな三人を背に、コルネル村の皆と別れた俺達はここから約五日程の旅路を進み始めた。

 

 

 

 「······。この辺は盗賊の巣か何かか?」

 〘さぁ? どうなんやろなぁ?〙

 「呆れた者達だ。このメンツを手にかけようなどと」

 〘エト〜? どうするのだ〜?〙

 

 コルネル村を旅立ってほんの一時間。目の前で街道を塞ぐように現れたのは百人近い盗賊団の連中だった。一度にこの人数を見るのは初めてだったので、少し驚いてしまう。

 ともあれ、感心したのはリーアだ。前のリーアなら有無を言わさず皆殺しにしていたであろうものなのに、今ではちゃんと俺に指示を仰いでいる。

 

 「エト殿。私の間合いだが、 一掃しようか?」

 〘へー。ラナンキュラスはんも中々やるみたいやなぁ。ええ覇気やで〙

 〘む! お前が殺るのなら話は別だゾ! だったら私が殺るのだ!!〙

 

 なんというか、どうグループ分けした所で面倒なのは変わらないらしい。まぁ、この面倒さが心地よくもあるんだけど······。頼もしいし。

 

 「こんな奴らに手を出す必要なんて無いよ」

 〘ふふっ。せやなぁ? もー既にあちらさんはエト様の間合いやのうて〝手中〟やしな〙

 

 その瞬間、ほんの少し殺気を放った-。

 

 なんてことは無い。ただの盗賊、有象無象程度なら何百人居ようが、少しの殺気で意識を簡単に刈り取れる。どう頑張れば盗賊風情が竜王の殺気に耐えられるというのだ。

 

 〘ぅおおー!! エト、エト! 今のでどのくらいなのだ!? まだまだ本気じゃないのだ!?〙

 「そういう所、リーアは相変わらずだね。今ので······そうだな、想像に任せるよ」

 

 なんて言うと、リーアは顎下でキューっと両拳を握り締める。キラキラとした瞳が全てを物語っている。ここ最近で一番の輝きだ。

 

 「流石だな、エト殿。私もようやく色々と〝戻っ-〟···いや、慣れて来たようだ」

 〘まぁ、エト様とおる内は常識は捨てとかんとな?〙

 「ほら。馬鹿言ってないで行くよ」

 「うむ!」

 〘本気がみたい本気がみたい本気がみたい本気がみたい本気がみたい······〙

 〘·········この子大丈夫かいな〙

 

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