義兄の行方と勇者の行方
「ってな訳でエト坊を探してんだ。なんかいい方法ねえかな?」
十人の巨人の王達に現状報告と目的を伝え終えたリン。カナも隣で不安そうに見つめている。巨人の王達は主であるリンの言葉を聞き終えると、それぞれがエトの事を思い浮かべる。
〘なるほどな。あのトンデモ小僧を探してると〙
〘ポルピュリオの言う通り、あの子は凄かったものね。徐々に強くなっていくっていうか、底が見えないっていうか。私達が人の子に驚かされたのっていつぶりだったかしら······〙
〘ふむ。あれは紛れも無く強者じゃった。あのペースじゃと、今やどうなっておるか······〙
〘ただ、まぁ探す方法ならあるんじゃねえか? なぁ、キュオネウス!〙
〘はい。あの強き者なら、早々に見つけられるかと〙
「え? マジで!?」
「ほ、本当ですか!?」
キュオネウスの言葉でリンとカナの表情が明るくなる。それはマヤやフィーネも同様だ。正直、大した成果は得られないと考えていたリンにとって、それは予想外の答えだった。
リンがその方法を問うと、巨人の王達の視線は一人の王に集まった。
〘エウリュトはミマスが適任だと思うの。ミマスは予知能力を持ってるの。エトエトの事もすぐに見つけられる筈なの〙
〘え。マジ? エウリュトの無茶ぶり怖っ。いやまぁ、わりかし頑張ったら出来なくは無いけど···。待って。これやる流れのやつじゃん。拒否権無いやつじゃん。ウチの基本的人権的なやつどこ行ったの?〙
「えっと···。悪いミマス、頼めるか?」
リンの問いにミマスは渋々首を縦に振って見せた。
〘いや、もういいよやるよ。これでやんないとウチめっちゃ空気読めない奴ってレッテル貼られるっしょ。それは勘弁だし。エトたその魔力ならちゃんと記憶してるし、マジ目のガチ目でやってみる〙
「おう! マジでありがとな! まぁ、そのなんて言うかギャルめな話し方はクセが強過ぎな気がするんだけど。その『たそ』とか···。いや、とにかく始めてくれ! カナも早く知りたいだろうからな!」
「よ、よろしくお願いします!!」
〘り。んじゃまぁ、サクッといくよ〙
「その姿見···。初めて見るな」
ミマスが唐突にどこからともなく取り出したのは、人がすっぽりと隠れる程の大きな姿見。鮮やかな金色の薔薇が装飾された額縁がなんとも高級感を漂わせている。
そんな姿見の鏡面にスッと触れると、まるで水面が揺らめくように鏡面が波打ち出す。
〘鏡よ鏡、この世で最も美しい-〙
「ちょ、待て待て待てッ!!!?」
詠唱なのか、何かの呪文なのか、ミマスが鏡に向かって語りかけた瞬間、リンは待ったをかけた。
「急いでるっつってるだろ!?」
〘冗談じゃん。可愛いジョークじゃん。リンたそガチ過ぎ。まぁ自分でもこりゃ無いわって思ってたけど〙
「ならやるなよ·········」
〘······ははっ。それな。えっと···。彼の者の名はエト・リエルっと。んでもって宝具【アイギス】発動。現状報告ね? 予知対象のエトたそと〝同等の魔力〟を消費。んであの子の未来を手繰り寄せ·········-っ。あっ、やっばっ······。リンたそめんご···。〝魔力不足〟で形態維持無理げ。強制帰還だわこれ。エトたそマジえぐいって···-〙
その瞬間、ミマスの体は空気に溶け込むように忽然と消え去る。
その光景に巨人の王達は言葉を失っていた。それもその筈、彼等は一人一人が膨大な魔力を保有している。つまりはその膨大な魔力が一瞬で吹き飛んだ-という事になる。そもそも巨人の王達の魔力量は人間のそれとは比べ物にならない筈なのだが···。
〘······エトエト···ちょっと異常なの。人間でコレはありえないの〙
〘うむ。そもそもあれは人間かのぉ? 到底信じられんわい〙
〘あの御方は主様のお認めになられた強き者。驚きはあれど、意外ではありません〙
「ったく。エト坊の奴、どこまで強くなろうってんだよ。······んで? ミマスが消えるまで頑張ってくれた成果が〝これっぽっち〟かよ······」
そこに映し出されたモノ。それは大きな〝城〟のようなものに一人歩みを進めるエトの背中だった。
たったこれだけの情報しか手に入らなかったのだ。場所は疎か、いつの出来事かすらも分からない。
「お兄ちゃん······」
「ん〜。どこやろなぁ、これ。この建もんに見覚えある人〜?」
そんなマヤの問いに反応を示すものは居ない。それぞれが想像で語る事しか出来ないようだ。
〘そーだなぁ。お! アレか? 西方大陸のステイシア城じゃねえか!?〙
〘ポルピュリオ殿、それは遥か昔に滅んでおるぞ? 我は南方大陸の最南端〝円卓の荒城〟であると愚考いたしまするぞ殿よ!〙
〘ちょっとエンケラード? 確かそれも滅んでなかった? あの〝バケモノ集団〟なら、とうの昔に全員死んでるんだから。その城も今じゃ名前を変えて······えっと······?〙
〘キ、キャ、キャメロン、じょ、城で···す〙
〘そうそれ! だからそれは無いわよ。というか、私の記憶だと、こんな外観じゃなかったと思うけど?〙
巨人の王達はそれぞれの持つ記憶を頼りに当てはまりそうな場所を次々と上げていく。しかし、どれもこれも相当に古い内容のようで、誰一人として映像の城がどこの建物なのかが分からない。
「はぁあああ······。こりゃあ、砂漠の中で金を探し当てるレベルだな。とりあえずお前ら、戻っていいぞー」
結局、エトの行方が分からないまま、巨人の王達はリンの一声で姿を消した。
分かったことといえば、エトが相当に強くなっている事と、どこかの城のような場所にいつの日か単独で乗り込もうとしている事くらいだ。これはもう収穫無しと判断してもいいレベルと言えるだろう。
「悪いな、カナ。やっぱすぐには分かんねえや」
「いえ。ありがとうございます······」
自分の為にここまでしてくれたリン達に心の底から感謝はすれど、やはり落ち込んだ様子にリンとしても気落ちしてしまう。本当にエトの義妹だと言うのなら手助けをしてやりたかった。いや、例えエトとの繋がりが無かったとしても、この少女の為にどうにか力になってやりたかった。
それ故に自分の非力さを憂いているのかもしれない。
「そ、そや! それこそ魔法学園に行ってみいひんか? 一ヶ月半も経ってるんや。もしかしたら戻って来てるかもしれんやろ?? そやなくても、誰かなんか知ってるかもやし!」
「なるほど! マヤちゃんにしてはナイスアイデアだね!」
「な···。ウチにしてはって何やねん!!」
「灯台もと暗し···か。確かに悪くねえな!」
現状、エトの居場所が分からないまま、宛もなく探すのは得策とは言えない。マヤの言う通り、行方不明者を探すにはまず、その行方不明者が最後に居た場所を調べる-というのが定石だろう。
マヤの提案にカナは思考を巡らせる。居たはずだ。エトの事をよく知る仲間達が-。
「誰か······。あ! アヤさんとアリアさんだ!!」
「ん? なんや? エトやんの事、知ってそうな奴に心当たりあるん?」
「はい! その二人、お兄ちゃんの仲間だって!」
「二人? ·········んー。聞き覚えがねえんだけど······。ウルルとルカじゃねえよな?」
「え? あ、はい。アヤさんとアリアさんですよ?」
「リンさんは興味が無いと、本っ当に顔とか名前を覚えませんからね! この間、お会いした時にその二人は居なかったんですか?」
「うっ······。い、いたような···いなかったような······?」
フィーネの言葉の矢はリンの心をしっかりと射抜く。少し落ち込んだ様子を見せたあたり、リン本人も少なからず気にしているのかもしれない。
「ボク、魔法学園に行きます!」
落ち込むリンをマヤが笑いながら宥める中、カナは決断する。
「提案しといて何やけど、ホンマにええんか?」
「いいんです! 早くお兄ちゃんに会いたいから! 会って、今度こそちゃんとお話したいから!!」
「そーか。なら、ええんよ」
「いや、言いたいことは分かるぞマヤ。一ヶ月半も休学してたんだ。戻るのってやっぱ変に緊張するもんな!」
「そうそう! ウチがおらん間に新しいグループ出来てたりとか、イジメの対象になってたりとかな? ······そう思たら、ウチら〝こっち来て〟もう結構やんな?」
「······マヤ。それは考えねえ約束だろ。まぁ、俺の魔法がありゃあ、戻れるだろうけど······」
「くっふふふ。こっちのが楽しいなってもうて、収拾つかんくなってるんやろ??」
「ぬぐっ······」
何やら盛り上がり始めた二人をカナは不思議そうに見つめる。一体、何の話をしているのか-そんな疑問の中、リンとマヤがまるでエトとアヤのように見えたカナは小さく微笑んだ。この懐かしい感じ。カナはエトへの想いを更に膨らませていく。
「えへへっ···」
「ほーら! リンさんもマヤちゃんも! カナちゃんに笑われてますよ? その辺にしておいて下さい!」
「はーい」
「よし、とりあえずカナの決意が固まったとこで、魔法学園に行くとするか!」
「「おー!!」」
「ありがとうございます!!」
そして四人は魔法学園へと歩んで行く。
しかし、既にそこにはアヤとアリアの姿は無いのだが-。
「にしても、ユーリッド王も無茶言うよなぁ〜。名前以外詳細不明な勇者を探せとかさ〜」
「まぁ、だから私達が呼ばれた-ってことだろうねー。トウヤのスキルでも無理だったの?」
「ん? あー、うん。俺の〝『世界地図』〟の検索結果にも該当者は無いみたい。だから、そもそも勇者の名前もアレヴじゃないってことだろうなぁ。はぁ······。どんな無理ゲーだよコレ」
「トウヤ君、サキ君? 諦めちゃダメだよ? シルフィー君を見習いたまえ」
『ツェルニル』の一件から二日後。北方大陸の東部、リーブル王国から更に東に位置するクオリオーネ王国。その王国内にある歴史館にトウヤとサキ、そしてシルフィーとローレットは来ていた。
椅子に腰掛け、次々と古い文献に目を通していくシルフィー。
「······ダメですね。やはり、勇者についての記述がある書物は見当たりません。南方大陸の大定図書館であればあるいは······」
「大定図書館か。あそこは警備が厳しいからね。誰でも入れる訳でも無いし。許可が下りるまでにどれ程の時間がかかるか······ん? どうしたんだい? サキ君?」
これといって勇者についての情報が手に入らない中、サキは一つの本を手にしていた。
それは文献や資料、日記や参考書では無い、ただの絵本だった-。
「ローレットさん、これは?」
「おや、懐かしいね。子供の頃に読んだことがあるよ。確か、『人間を愛そうとした神様の物語』-だったかな? 中々に興味深い内容だったと記憶しているよ?」
ローレットの言葉で、少しだけ興味が湧き始めたサキが持つその絵本は、当時多くの子供達が手に取った架空の絵本、『愛を知ったセティ』というものだった。
サキは興味本位でゆっくりとページをめくっていく-。
―――これは悲しい物語。ハッピーエンドの訪れない一人の少女と神様の物語。




