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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
勇者と古代竜編
65/71

バケモノ達の宴

アヤ達との和解が叶ったエト。

そして、大切な存在がいかに自分にとって大切なものなのか-それを理解したエトは不安定で歪な心をゆっくりとしかし以前よりも強く繋ぎ合わせていく。


そんなエトにアヤからもたらされた新たな情報-。

それは妹であるユーリに繋がる可能性のあるものだった。

その情報を元に、エト達は竜族の中でも伝説と言い伝えられる二大竜の一角『古代竜メルトガリア』との接触を図る。

そこで得られるものとは-?


そして謎に包まれ、一切の情報が無い勇者アレヴ。

その存在にトウヤ達は辿り着く事が出来るのか-?


更に、動き出した〝異質な二人〟がノーフェイスに接触を目論む-。



新たな強者とエト達が相対する時、物語は大きく動き始める-!


 「ありゃ〜···。これは···なんていうか······凄いな」

 「そりゃあねー。急に緊急クエストをキャンセルだもん。みんな怒るよ〜」

 

 北方大陸の東地方、リーブル王国内にあるジブルという商業地区。その中心に位置する冒険者ギルド『ツェルニル』では今まさに冒険者達でごった返していた。

 というのも、ほんの二日程前、全大陸の冒険者ギルドに緊急クエストが発注されたのだ。

 

 『謎の侵略者達の討伐』

 

 それはアディーロの指揮で各地に進軍していた、魔獣と傭兵の混成部隊の討伐を目的とした大規模な作戦であった。これは大陸連盟からの直接依頼であり、報酬も破格だった為、多くの冒険者達がクエストの参加に名乗りを挙げていた-。

 

 しかし、蓋を開ければ募集最中の件の解決。たった一日半という短時間で大規模な侵略戦は呆気なく幕を下ろしたのだ。

 

 当然、冒険者達は納得がいかないだろう。噂にも相当な尾ヒレがついている。結果的に大陸連盟の誤認。冒険者達に対する重大な失態だと大陸中に広がる事となった-。

 

 「オラ! ふざけんじゃねえよ! この依頼を受けんのに他の仕事を蹴ってきてんだ!! 慰謝料払いやがれ!!」

 「た、大変申し訳ございません!! 本ギルドとしても事実確認中でして、冒険者様方には多大なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございません!!」

 

 言葉や口調は違えど、先程からずっとこんな感じだ。ギルド側の責任問題として冒険者達は慰謝料の請求を求めている。

 その数は計り知れない。数人の受付嬢達では対処が追いついていない。最早、収拾がつかない程だ。

 

 「なんて言うか、みんな勝手だよな〜。こんなのしょうがないじゃん」

 「ちょっと、トウヤ···聞こえちゃうよ?」

 「だってさ〜···」

 「トウヤさん? こんな状況では、私達も勇者アレヴの情報を得られないのでは?」

 「そうだね。受付のお姉さんなんて、さっきから泣きそうな顔してるし······。トウヤ、ここは諦めて次の街に行かない?」

 「ん〜······。そうだね。もう少ししたらローレットも帰ってくるだろうし、あいつの土産話を聞いてからにしよっか」

 「はい!」

 「わかった!」

 

 ユーリッドの命により、勇者アレヴを探し求めるトウヤとサキとシルフィー。彼らは冒険者パーティー『クリスマスローズ』として世界を旅している。

 目的は先の通り、勇者アレヴという存在の捜索。この世界に勇者の末裔は少なくはない。だが、勇者の称号を持つ存在はその者ただ一人と言われている。

 しかし、その素性はおろか、姿を見た者も居ないらしい。それでも噂や風の音でその名は誰もが知っている。そんな不思議な存在を探しているのだ。

 

 

 

 -と、その時。うるさいくらいに賑わい、ごった返していたギルド内が一瞬にして静寂に包まれた。それは少し前にトウヤとサキが肌で感じたことのある感覚。

 

 ギルド内の全ての者が見つめる視線。ギルドの入口には異様な雰囲気を漂わせる集団がいた-。

 

 「······ちょっと流石に大所帯が過ぎるわね、これ」

 「そうね。一歩間違えば収拾がつかない程よ? というか、凄いメンツね······」

 「アリアちゃん、私······場違いじゃないかな?」

 「だ、大丈夫ですわ? それを言うなら、わたくしこそ場違いですの。ほんの少し前までは、ただの学生だったのですから」

 「ギルドかぁ! 強い奴居るかなぁ!!」

 「もぉーラグ! またエトくんに怒られるよ?」

 「ふむ。これ程人が集まっているとは···。変身魔法を使っておいて正解だったな」

 〘ほぇ〜。こうも人間が多いと気持ち悪いなぁ。なんやのこれ?〙

 〘むー。同感なのだぁ······〙

 【エイン様、リヴァイア様、決して揉め事は起こさぬよう宜しくお願い致します】

 「ミーア殿。吾輩、今なら何も恐れるものはありません!」

 「ですね! 世界征服だって目じゃねえです!」

 「じゃねえ! なのですぅー!」

 「はぁ······。何故こうなった······」

 

 そこに現れたのは十四人の異質者達。

 

 エトの師匠兼魔邪の樹海の女王イルミンスール。

 元竜王の銀翼竜ニーズヘッグ。

 今ではS級にも匹敵するアヤ・ケイシス。

 学生の域を超えつつあるアリア・スペルシア。

 英雄候補にして【星の瞳】を宿すラグ・エンド。

 勇者の血を引く『竜殺し』ステラ・メリュジーヌ。

 城塞国家ロア王国王国騎士団団長ラナンキュラス。

 精霊女王にして精霊界最強の幻覚術者エイン・セル。

 魔王の娘にして魔界最強リヴァイア。

 ウルスマキナの使者ディープ・フィールド。

 伝説の神獣『白麒麟』ルカ

 吸血鬼ミーア・ベル・フォーラ

 伝説の獣王『オールド・テイル』ヤオ

 そして彼らを付き従える『仮面の竜使い』ノーフェイス-もとい、エト・リエル。

 

 その場の誰も動けやしない。エトによって他者に危害を加えないよう言い聞かされている-という事もあり、魔力や存在圧を押さえ込んではいるものの、これほどのバケモノ集団に相対せる者などここには居ない。

 

 「お、おい······な、なんだよありゃ······」

 「おっかねぇ······。それにほら······」

 「ああ、先頭の仮面。あれって噂のノーフェイスだよな···? つーことは、どっかに伝説の竜王もいるってのかよ?」

 「ま、まさか···。ありゃ、ただの噂だろ? だ、第一本当にあのノーフェイスなのかよ···?」

 

 聞こえるか聞こえないか程の小さな声で囁き合う冒険者達。彼らが何者か-なんて誰一人として知り得ない。それでも、本能的にこの異質者達に接触してはいけないと顔を強ばらせている。

 

 

 

 「さてと。魔法学園もどうにか無期限休学って事に出来たし。本当は退学をお願いする筈だったんだけど······。まぁともあれ、魔法学園から一番近くて一番大きなギルドに来たけど、ここにユーリの情報があるんだよね? アヤ?」

 「ごめんね? そこまで正確な情報じゃないの。ユーリちゃんかどうかも分からないし······。でもここのギルド関係者の話によると、青髪の若い子がよく出入りしてたって」

 「にしても、よく調べあげたわね?」

 「イルミさん、悔しいけどたまたまなんです。丁度一週間前にその人と話す機会があって-」

 

 俺達がここに来た理由。それは俺が居ない間にアヤが手に入れたユーリらしき人物の目撃情報からだった。

 というのも、魔法学園に定期的に訪れるギルド関係者がアヤにそういった情報を教えてくれたらしいのだ。そもそも定期的にギルド関係者が訪れるという事自体が怪しくはあるのだが、そこはまぁよしとする。あのアリスタシアの事だ。信用出来るかは置いといて、不信感は不思議と無い。

 

 ともあれ、時期は丁度一週間前。魔法学園にギルド関係者が来る-という事に疑問を感じたアヤは学園長であるアリスタシアに合わせる前にその関係者の記憶を操作し、情報を聞き出したのだ。

 何処から情報が手に入るか分からない。これは元クリムゾンの一員だったアヤだからこその機転と言える。

 

 結果、俺が事前に教えていたユーリの特徴である青髪-という単語にその関係者は反応を示したようで、その者曰く、一年程前にこの『ツェルニル』という冒険者ギルドによく出入りしていた少女が青髪だった-そう語ったらしい。

 

 本当にアヤには感謝しかない。俺が好き勝手していた間にもちゃんと目的を果たそうとしてくれていた。

 

 これは本当に例の約束を果たしてやらないとな···。

 

 そう心で呟きつつ、全員を静かに待機させて俺は受付嬢の元へと歩みを進めた。

 何故か冒険者達がゾロゾロと道を開け始める。いや、この仮面のせいか···。

 

 「······はぁ」

 

 うん。やはり冒険者というのは嫌いだ。私欲にまみれた瞳、我欲の貼り付いた顔、今すぐにでも殺したくなる······。

 

 「······エト?」

 「大丈夫?」

 

 そんな俺の心根を感じ取ったのか、ニールとイルミがそっと俺の肩に手を添えてくれた-。

 

 「うん。ありがとね、二人共。大丈夫だよ」

 「そう。ならよかったわ」

 「殺るなら言ってね? 私が全員消してやるから」

 「······流石は元竜王ね。言うことがおっかないわ」

 「そういうアナタこそ。殺気がダダ漏れだったじゃない。人の事言えた義理? 親バカなの?」

 「親バカ? 上等じゃない。そーよ、悪い? というか、人の事って。そもそもあなた、人じゃないでしょ? なんなの? 殺るの?」

 「殺る-ですって? 人間風情がこの私に勝てる訳ないでしょ? 面白い冗談を言うのね。どうしてもって言うのなら、軽く捻り潰してやるけど?」

 「ふふふ。強がっちゃって。その人間風情にボコボコにされているあなたを容易に想像出来るわよ? 泣きながら尻尾を白旗のように振っている様をね?」

 「「ふふふふふふふ」」

 

 ·········なんだろう。似たもの同士だな、この二人。

 

 「二人共。その辺にしてね」

 「「はーい!」」

 

 うん。素直な所もそっくりだ。

 

 「少し、いいか?」

 「は······はい!!」

 

 案の定、受付嬢に声をかけると、もの凄く怖がられてしまった。まぁ、メンツがメンツなだけに分からなくもないが、安心して欲しい。今のところ暴れる予定は無い。

 

 というか、ここにいる連中くらいのレベルなら、俺達の中の誰が戦ったとしても一人で余裕なんだろうな······。

 

 「このギルドの記録、一年程前に出入りしていた奴の情報が見れるものを見たいんだけど」

 「も、申し訳ございません······。そ···その、個人情報なので、記録の開示は出来ないんです」

 

 やっぱりそうなるか······。

 

 「どうあっても見せて貰えないのかな?」

  

 そう言って、俺は彼女をほんの少しだけ威圧してみた。のだが、彼女は冷や汗を流しながらも懸命に首を横に振ってみせた。流石はギルドの受付嬢だ。それなりに根性も据わっている。

 とはいえ、こちらとしてはその情報を知り得る為だけにこんな鬱陶しい場所へと足を運んで来たのだ。無理だと言われて、はいそうですか-なんて引き下がれる訳が無い。

 

 「···アヤ。頼む」

 「うん! 任せて! そりゃ、個人情報だしね。あなたは何も悪くないよ?」

 「え? あ、あの···一体何···を?」

 

 アヤは俺の考えがすぐに理解出来たらしい。まぁ、つまりはアヤの『記憶操作』を行使するのだ。この程度のことで強行手段に出る必要も無い。

 アヤは俺に笑顔を見せるとそっと受付嬢の手を取った。そしてゆっくりと自分の顔を受付嬢の顔に近づける。

 

 ん? そんな近づく必要なんて無いだろ?

 

 「···あなた、名前は?」

 「は、はい。セリス···です···が」

 「そう。じゃあセリスさん、どうせ忘れるだろうけど一つだけ忠告。あなたの行いは正しいよ? ギルド関係者としては······ね。でもいい? エト君は大切な人を探す為に来たくもないこんな場所にわざわざ足を運んで来たの。分かる? ···分かるわけないよね。理不尽かもしれないけど······あんまり私の大切な人をがっかり〝させんじゃねえぞ〟」

 「っ!? あっ···え? ······あ、あの······-っ」

 

 何やら話し込んだ後、アヤはそっと前のめりの姿勢を正してくるりと軽快に振り向いた。

 

 「アヤ? 何話してたの?」

 「ううん! なんでもないよ? それより、奥の応待室で話をしたいって!」

 

 アヤ言葉を聞き、受付嬢へと視線を向けると彼女は深々と頭を下げ、奥の応待室へと誘導の意志を示した。

 

 「ノーフェイス様、御足労感謝致します。よくぞお越しくださいました。お手数ですが、こちらへお越しくださいませ」

 「あ、ああ」

 

 彼女の後に続き、俺は歩みを進める。応待室へと向かうのは俺一人。他のみんなはその場で待機させる事にした。······にしても、アヤの奴。なんでもないにしては結構長く話していた気がするんだけど。

 

 それに-。

 

 「一瞬、受付嬢に殺気を向けてたよな···?」

 

 近くにいた俺にしか分からない程の殺気。元々顔見知り? な訳はない。なら、何にアヤはそんなにも殺意を抱いたのか······。

 

 「······まぁいいか」

 「ノーフェイス様?」

 「あ、いや。気にしないでくれ」

 「はい」

 

 

 一方、待機を命じられた一行は待機用のテーブルを占拠していた。そんな彼らを未だに恐る恐る見つめる冒険者達。彼らに安息の時間が戻るのはもう少し後のようだ。

 

 「冒険者かぁ。戦ってお金も貰えるんだよね? 僕もなろっかなぁー!」

 「ラグ、冗談でもそれはエトの前では言わないようにね。本気で消されるわよ」

 

 微笑みながらも忠告を受けたラグは横目でイルミを見つめる。仲間-とは言ったものの、まとめ役のエトが居ない彼らが仲睦まじくいれる筈もない。それぞれがバケモノ地味ているのだ。ほんの些細な事から争いの波は広がっていく···。

 

 「······はいはい。わかってるってばー。僕もエト君と殺り合う気は無いからね。ただ、勘違いしないでね? 僕は基本的に縛られるとか、強制されるのが嫌いなんだ。エト君の言うことは聞くけど、それ以外の〝有象無象〟の言うことを聞く気は無いよー?」

 

 その言葉に反応を示したのはミーアとルカだ。一体彼は誰にものを言っているのか、エトですら強者と認める存在に今何を言った? 有象無象? 冗談じゃない。エトが師匠と呼び、親だと語る偉大なイルミンスールに対してそれは無い。冗談では済まされない。

 

 「···ラグ殿、言葉が過ぎますぞ」

 「ですね。誰にもの言ってんだこの野郎···です」

 「へぇー。吸血鬼と神獣が出張るなんてね? 面白いじゃん! いいよー? どうせエト君が戻ってくるまで暇だし、遊んであげてもいいけど。あ、心配しないでね? エト君に怒られるのはゴメンだから、ちゃんと手加減してあげるよ!」

 「っ···。いい加減、吾輩も我慢の限界です」

 「てめぇ、その行動と言動がエト様の顔に泥を塗ってるって理解してんのかよおい!!」

 

 荒々しくなるミーアの口調。それはさながらブチ切れたエトそのものである。

 

 「くっははは!! いーね! ミーアちゃんだっけ? 中々の殺気だよ! これは予想以上に楽しめそうかも!!」

 「···ラグ、流石にやり過ぎ。ステラ、擁護出来ないよ?」

 「いいよいいよ。集合の時はエト君に止められちゃったけど、やっぱりみんな実力は示しとかないとね! ほら、ニールさんもさ? 参戦しない? てか、参戦してよ!」

 

 瞳を輝かせるラグ。そんな彼を溜め息混じりに呆れた表情で見つめるニール。くだらないったらない。この現状をエトが許す訳が無い。そんな分かりきっていることに加担する訳が無い。

 第一、こんな安い挑発に乗る馬鹿はミーアとルカ位のものだ。彼らはエトの信者第一号と第二号だから分からなくもない。しかし、考えてもみろ。とうのイルミは呑気に何処で手に入れたのか分からない紅茶をすすっている。

 戦闘好きのリーアですら大あくびで机に伏せている。みんなコレがエトの嫌がる事だと言うことを理解しているのだ。

 だから、彼女から言うことは一つしかない。

 

 「はいはい。後でエトに事細か〜く言っておいてあげるから。それとミーアとルカも。イルミが黙ってるのにしゃしゃり出ないの」

 「うぐっ···エ、エト君に······そ、それはちょっと······」

 「ぬっ。わ、吾輩とした事が、申し訳ございません」

 「わ、わたしは! ·········ご、ごめんなさいです」

 

 まぁ、反省したのかは分からないが、どうやら落ち着いたようだ。

 

 「別に仲良くしなさい-なんて言わないわ。ただ、ここにいる貴方達はエトが少なからず大切な存在として認めた者達よ。それを自覚しなさい。これは忠告···になるのかしら? 言っておくけど、あの子が大切な存在と位置付けた者が一人でも欠けたら······あの子、今度こそ〝取り返しのつかない存在〟になるわよ」

 

 イルミの語った言葉、その意味と重みはその場の全員が理解した。結果、ラグも含め、全員がエトの戻りを大人しく待つ形に落ち着いた。

 

 

 

 

 その頃、応待室へと通されたエトはソファーに腰掛け、受付嬢であるセリスが用意した分厚い記録書に目を通していた。

 

 「ノーフェイス様、申し訳ございませんが記録として残っているのはこちらだけになります」

 「いや、十分だよ。ありがとう」

 

 この記録書を見る限り、ユーリ・リエルという名の記録は残っていない。つまり、仮にユーリが本当に出入りしていたとしても偽名を使っていた事になる。

 

 「セリスさん、一年程前に訪れた者の中に青髪の女性はいなかったか?」

 「青髪···ですか? 特徴的な髪色なので面識があれば記憶していると思いますが······すみません、存じ上げません」

 「···そうか。なら、そういう話を聞いたことは無い?」

 「噂···ということですね? そうですね······。青髪······青···ん? 青? あっ!」

 

 どうやら彼女は何かを思い出したらしい。慌ただしく席を立つと勢いよく応待室を飛び出して行った。時間にして数分だろう。バタバタと戻って来た彼女は小さな鉱石を俺の前に置き、ゆっくりと呼吸を整わせる。

 

 「これは?」

 「は、はい。これはとある冒険者様が置いていった品物で、ガリア鉱石というものらしいです」

 「ガリア鉱石?」

 

 ガリア鉱石···。初耳だ。

 

 「はい。なんでも魔力を込めると青く光る鉱石のようで」

 「·········ちょっと待て」

 「は、はい?」

 

 待て待て。まさか、『青』って単語で思い出したのが青く光る鉱石でした-なんて馬鹿は言わないだろうな!?

 

 「青で思いついたのが···コレ······なんて事、言わない···よな?」

 「はい。流石に私も単に青く光る鉱石をこのタイミングで持ってくるほど馬鹿ではありませんよ?」

 

 お、おう。よかった。その素敵笑顔が見れて本当によかった。

 

 「なら、これを持って来た理由を聞いても?」

 「はい。丁度一年程前、当時の担当の者がこんな事を言っていたんです。『達成期限無期限の難易度Sクエストを何度も受注して、その度に失敗したという報告をしに来る青い髪の冒険者様がいる』と」

 「青い髪?」

 「はい。私が担当した方ではなかったので忘れていたのですが、その冒険者様が最後に訪れた際、この鉱石を置いていったというので」

 「それで思い出したわけか」

 「はい」

 

 なるほどな。

 

 「それで? その冒険者の名前って分かるのか?」

 「はい。その記録書にある『達成期限無期限の難易度Sクエスト』の受注記録欄を見て頂ければ」

 「······っと、これか」

 

 『達成期限無期限の難易度Sクエスト』-その内容は北の山脈に住むと言われている古代竜メルトガリアの討伐。受注者は二人。アルドリア・レーヴァとティシー・オルド・カイネル。

 

 当然、双方共に聞いたことがない名前だ。それより、古代竜メルトガリア。竜には多少の縁があるが、それでも聞いたことがない。それに北の山脈? オーリア山脈に竜の存在なんて感じなかったが···。

 

 「受注記録を見る限り、その青髪の冒険者ってのはこのティシーって奴だな。ひと月で十回も受注してやがる」

 「依頼内容が内容なだけに、依頼失敗のペナルティーもありませんしね」

 「······ちなみに、これって今でも依頼は継続中なの?」

 「え? あ、はい。依頼の破棄はされていません。そもそもそれは大陸連盟からの依頼なので、余程のことがない限り依頼の途中破棄はありえません。その···今回のような事にも成りかねませんし······」

 

 今回の件···ね。まぁ、今回の件に関してはそこらの冒険者が何百人集まろうが、先導者と相対した時点で全滅だったろうからこの程度の揉め事で済んで良かったと思うべきだろう。

 

 「セリスさん、この依頼。俺でも受けられるか?」

 「え!? ノ、ノーフェイス様が···ですか!? そ、それは伝説の竜王を従えると名高いノーフェイス様が受けて頂けるのであれば、こちらとしてはありがたいお申し出ですが······素材の買取とは違い、依頼の受注となると冒険者登録をして頂かないとなりませんよ?」

 「うっ······。やっぱりそうなるよな···」

 

 青髪の冒険者、ティシー・オルド・カイネルがユーリだとは限らない。どれだけ珍しい髪色だとしても世界は広い。このエルモア全土で数えれば青髪の人間なんて腐るほど居るだろう。

 ただ、少しの希望-情報があるかもしれないのであれば手に入れる他ない。

 

 とはいえ、この俺が冒険者? 俺の両親を目の前で奪った冒険者? 私欲に我欲に塗れた腐った存在にこの俺が···?

 

 ありえない。

 

 「······」

 「ノーフェイス様は冒険者方を嫌悪されておられますよね? よろしいのですか?」

 

 ······アヤか。確かに嫌悪している。嫌悪どころか殺してやりたいほどに憎んでいる。

 うん。やはり冒険者になるのは死んでもゴメンだ。

 

 「セリスさん。これってあれだよね? 依頼云々関係なしで勝手にやっても問題無いよね?」

 「え? ···あ、はい。依頼料や依頼達成の報酬が不要であれば何も問題はありませんが」

 「わかった。なら、そうさせて貰うよ。このガリア鉱石って貰って行っても構わない?」

 「すみません、それは一応落とし主が分かっている物ですので、所有者の許可無くお渡しする訳にはまいりません」

 「うん、そりゃそうだな。んじゃあ行くよ。いろいろとありがとうね」

 「い、いえ! ノーフェイス様のことですので、心配は無用かと思いますが、くれぐれもお気をつけて」

 「ああ。気をつけるよ」

 

 そして俺は応待室を出た。これで何かが得られるかは分からない。全くの無駄骨かもしれない。余計な寄り道かもしれない。それでもアヤが懸命に調べてくれた事だ。間違っていたとしてもその真相は掴んでやりたい。

 

 そんな事を思いながらギルドの広間へと向かうと何だかギスギスした重い雰囲気がイルミ達を包み込んでいた。

 まぁ、大方ラグがくだらない挑発でもしたのだろう。面倒事になっていないあたり、イルミかニールがその場を収めてくれたと見て間違いない。

 

 「ったく。お待たせみんな。イルミにニール、いろいろと面倒を見てくれてありがとな」

 

 そう言って俺はラグの頭に手を乗せる。ビクッと体を震わせたラグを見る限り、やはり俺の予想は当たっていたらしい。イルミもニールも「バレバレなのよ」と声を揃えて微笑んでいる。

 

 「そんで、今後の方針について話があるから町外れの教会に向かうよ。いい?」

 

 俺の問いに全員が賛成の意を示す。そうして俺達はギルド『ツェルニル』を後にした-。

 

  

 

 「······なぁサキ、さっきの人···」

 「うん。エトさん···だね。やっぱり凄いなぁ。なんかこうオーラっていうか、キラキラーってしてたよね!」

 「確かに凄いよな〜。これだけの冒険者を存在だけで一瞬で黙らせるんだから。そういえばシルフィー、声かけなくてよかっ-ってシルフィー!? ど、どうしたの!?」

 「シルフィーさん! 大丈夫!? ものすごく顔色悪いよ!?」

 

 エト達が立ち去ったギルド内。冒険者達は口数が大分と減っている。まだ彼らの圧倒的な存在圧の余韻が残っているようだ。ほとんどの者達が、未だに顔を引き攣らせている。

 そんな中、完全に空気と化していたトウヤ達。もしかしたら覚えているかも-という淡い期待は呆気なく崩れ去る。

 

 自分達の事など、ただのその他大勢。一介の冒険者といった程度なのだろう。 

 

 なんて思っていた矢先、すぐ隣のシルフィーがこの世の終わりと言わんばかりに表情を曇らせていた。

 サキは顔色が悪いと言ったが、これは顔色が悪い-なんてものじゃない。体を震わせ、冷や汗を流し、顔を真っ青に染め上げている-。

 

 異様過ぎるシルフィーの肩に手を当て、正気に戻そうと体を揺すると、シルフィーは気がついたように我に返ってみせた-。

 

 「うっぷ-······。はぁ···はぁ······」

 

 一体、何なんですか······アレ。魔力のオーラが······。まともな人が···一人もいませんでした······。全員がルカ様以上の魔力···? それにエト様······。あなた様は······何者なんです···? どうして私の『魔力視』で魔力のオーラが〝見えない〟んですか? こんな事······今までに無かったのに······。

 

 正気を取り戻しつつも、唖然と立ち尽くす-。もしかしたら自分は〝とんでもないモノを見てしまった〟のでは···? -シルフィーはエト達が去っていったギルドの入口を見つめながら、ただただそればかりを考えていた-。

 

 

 

 

 

 

 「それでエト? 今後の方針はどうするの?」

 「ああ。それなんだけど、三つの班に分けようと思うんだ。一班は引き続き目的地のイシュタル法国に。もう一班はシレア帝国で青髪の冒険者の情報収集。西方大陸に渡ったのなら必ずあそこは通る筈だから。それからもう一班、こっちは北の山脈オーリア山脈に向かってもらう。理由はそこに住んでるらしい古代竜メルトガリアに会うこと」

 「メ、メルトガリアですって!?」

 

 やはり、この名前に反応したのはニールだった。

 

 「やっぱりニールは聞き覚えがあったんだね」

 「聞き覚えもなにも、その御方は竜族の中でも伝説の二大竜の一角。初代竜王エイドス様の側近を担っていた方よ···。とっくの昔に亡くなっていた筈なのに···。エト、あなたの情報を信用しないわけじゃないけど、本当なの? メルトガリア様がオーリア山脈にいるって」

 「いや、正直分からないんだ。けど、受付嬢が言うにはあのギルドを訪れてた青髪の冒険者ってのがそのメルトガリアに何度も挑んだらしくてな」

 「······呆れた。その人間、馬鹿なの? っと。ユーリちゃんならごめんなさいね。でも、愚行も愚行よ? 竜族歴代最強の二大竜であるメルトガリア様に戦いを挑むなんて。戦ったことなんて当然無いけど、私なんて赤子の手をひねるくらい容易く殺す事が出来る程の御方なのよ?」

 「そっか。古代竜ってくらいだから、予想はしてたけど···。とにかく、この班だけは既に一部メンバーを決めてある。ニールとアヤだ。理由は···分かるよな?」

 

 理由。それは戦いよりも対話を求める為だ。

 元竜王のニールがいれば多少の譲歩はしてくれるだろう。そしてアヤ。もしかするとアヤの『記憶操作』が使える相手かもしれない。可能性はゼロに近いが···。そうじゃなくてもアヤには退避用の『瞬間移動』がある。何かあれば即座にその場から逃げられる筈だ。

 それに、セリスの話が本当なら古代竜メルトガリアに敵意は無いのかもしれない。そうでもなければ、下等な人間が何度も挑んで毎度無事に帰って来れる訳が無い。

 まぁそれも、その冒険者が本当にメルトガリアに戦いを挑んだのか分からないから保証も信憑性も何も無いのだが···。

 

 「はぁ···。了解よ。竜族として対話してこいって事ね。やってみるわ」

 「エト君、『記憶操作』は期待薄だから、私は『瞬間移動』で逃げることだけ考えておけばいいんだよね?」

 

 流石は二人。期待通り、二人を選んだ理由をしっかりと理解してくれている。

 

 「うん。よろしくね。でも約束してくれる? 絶対に無理はしないって。相手が相手だからね、深追いは厳禁だよ」

 「うん!!」

 「わかってるわよ? 心配性なんだから」

 

 ということで、後は他のメンバーをどう振り分けるかだけど······。

 

 「まぁ、そのメルトガリアってのはニールに丸投げするとして、他をどうするかよね。全員エトの言うことをちゃんと聞けるみたいだから余計な揉め事は無さそうだけど」

 

 そう。イルミの言う通りだ。問題児のラグはイルミか俺につけておきたい所だが-。

 

 〘むむむむ〜。またエトと離れるのだ? 嫌なのだぁ!!〙

 〘あーあー、魔界のお姫さんもまだまだ子供やなぁ? ちゃんと我慢せなアカンよ? まぁウチは傍におるけどね!〙

 「エイン殿、吾輩······エイン殿もリーア殿と変わらない気がするのですが······」

 〘なっ! なんやて!? もっぺん言ってみい! ウチが姫さんみたいにワガママ言うてるて言いたいんか!? 調子ええ事言うてたら消し飛ばすえ!! 神獣如きがウチに意見する言うんか!?〙

 

 待て待て待て。

 

 「ちょ、落ち着けってお前ら」

 「あっははは! ねぇねぇ! この際、やっぱり誰がエト君の次に強いか決めるってのはどう? さっきも言ったけど、集合の時はエト君に止められちゃったじゃん? でもさ! 強さの優劣って重要だし気になるじゃん!!」

 「おいラグ! お前、さっきそれで一悶着あったんじゃねえのかよ! いい加減なこと言うんじゃ-」

 「なるほどね。悪くないわ」

 

 ちょ、おい! ニールまで!? お前実は面倒事丸投げされた事根に持ってんのか!? 持ってんだよな!?

 

 〘かかってこいなのだ!!〙

 「ヤオは大主様と主様の言うことだけ聞くのですぅ〜。だから誰が勝っても変わらないのですぅ〜!」

 「わ、私は不参加でお願いします!」

 「わわわ、わたくしも皆様と手合わせするには、実力がまだまだですので!」

 【······アイオーン様、わたくしも参加してよろしいでしょうか? ·········はい? そろそろエト様が〝プッチン〟??】

 「ふん! エーく······ゴホン。エト殿と並び立つのはこの私だ!!」

 「ミーアもやるです!! てめぇらかかってこいやです!!」

 「いいね! ステラもラグの提案に賛成!!」

 

 コイツら············。

 

 ふつふつと煮えたぎる俺の怒りをこの場の誰も知らない。

 

 そして俺は〝ブチ切れた〟······。

 

 

 

 

 

 

 

 「お・ま・え・らぁあああ············いい加減にしろォォォォォッ!!!!!!!!」

 

 その瞬間、その場の全員が一瞬で口を閉ざし、土下座を始めたのは言うまでもない。

 

 「······ダメね。やっぱりエトが一番おっかないわ」

 「そうね。少し自重しましょ」

 「エ、エトくん怖いってば······」

 「ステラ、エトくんが怒るとトラウマが······」

 〘にっしし〜! エト! 今の覇気、また強くなってるのだ! やっぱりエトが一番なのだー!!〙

 「主! 申し訳ございません!!!」

 「わわわわわわ!!」

 「あーあ、言わんこっちゃない」

 「アヤ様、止めなかったわたくし達も同罪では······」

 〘あれからまた強おなったんやなぁ。ほんに素敵やわぁ······〙

 【アイオーン様。やはり、わたくしは大人しくしていようと思います】

 「大主様が怒ったですぅ〜···」

 「この魔力。······エーくん、キミはどこまで行っちゃうの······?」

 

 森に響くバケモノ達の宴。異様で異質なこのパーティーを止められる者など最早居ないだろう。そして、世界の片隅で繰り広げられるこの宴をこの世界の誰も知る由もないだろう。

 ただまぁ、ある意味このパーティーが世界で一番安全で一番平和かもしれない-そう思ったエトだった······。

 

 

 

 ちなみに、集合時の小競り合いはいずれまた別の物語で語られるだろう-。

 

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