最強を目指す少年
前回のあらすじ。
少年、シュウ。魔法学園の最強格の一角、五峰の『鬼神』シュウこと洲上 朱雨は気まぐれに三人の少女を救った。アリア・スペルシア、そしてシルビア・リレンザとクロナ・シーロである。
そして出会った白髪の女性とその付き人とも言えよう若い青年。彼らが何を求め、何を行っているのか、そんな事はつゆ知らず、シュウは自ら厄介事に首を突っ込んでいく。
結果、青年ソールに心臓を穿かれ、若くしてその命を落とした············かに見えたが、その結果は全くもってなんとも不思議なものだった。
心臓を穿たれた亡骸は消え去り、死んだはずのシュウは何事も無かったように、白髪の女性アディーロ・フロディアーデと青年ソールを見下ろす。
再度、ソールとシュウの戦いの火蓋が切って落とされる中、少年シュウは自らを『鬼宿の一族』洲上 朱雨であると名乗り、その立場を持って相対すると宣言した。
刹那。
青年ソールの右脇腹から血飛沫が噴き上がる。
状況が理解できないソールとアディーロ。そんな二人の前には〝異形の姿を成す〟洲上 朱雨が真っ直ぐに二人を見つめていたのだった---。
「······あらあら。ソールったら、ちょっと遊びが過ぎるんじゃない? 手を抜くにも程があるわよ?」
状況を理解できないアディーロだが、それでもこのポーカーフェイスと余裕を見せる程には驚愕してはいない。何せ今件の首謀者的な立ち位置なのだ、このくらいで彼女の心は揺らぎはしないのだろう。
一方のソールは内心相当に驚いていた。いや、ショックだったと言えよう。ラグの時とは違い、自らが『お嬢』と仰ぐ存在であるアディーロの前で傷を負ってしまったのだ。
これ以上の屈辱は無い。
「···っ。お嬢の前でこの失態······。情けない。まさか-」
そしてソールは目の前のシュウを凝視する。
「まさか人間じゃ無かったとはな。してやられる訳だ」
これは何も言い訳で言った言葉ではない。ただ、ソールはその〝存在故〟に人間相手となると何処か気が抜けてしまう部分がある。例えるなら赤子相手に本気で戦う大人はいないだろう。
まぁその結果、赤子では無かった···という訳だ。
尚も視線を合わせあう二人。沈黙が続いた中、先に口を開いたのはシュウだった。
「いや、ホンットに強いなあんた。ソールっつったっけか? 脇腹の傷がもう治ってんのはさて置いて。俺様は一応、胴体を真っ二つにするつもりだったんだけど? あ、それと俺様はれっきとした人間だからな!」
「なんだって? 人間なわけが······まぁいいか。確かに今のはびっくりしたよ。高速で横薙ぎに振り払った腕は捉えられた。でもお前はその場から動いちゃいなかった。しかし結果はこのザマ。···その左の額に生えた角と歪な右腕、それに背後に浮かんでる大きな扇子、それが関係してるってことでいいのかな。つーか、やっぱり人間じゃないでしょそれ」
ソールの問いにシュウは無言で返す。
《コイツら、この扇子が見えてんだ···。スズ、ありがとな。アイツの驚いた顔が見れて大満足だ》
【お褒めに預かり光栄です。ところで、何故主様は一人称を普段の「俺」ではなく、「俺様」と仰っておられるのですか? あ···いえ、別に寿々めはどちらでも良いのでございますよ? ただ、少々気になったのでございます】
《あー、それはイメージを定着させるっつーか、挑発する為だな。知ってるか? スズ。言葉ってのは面白いもんでよ? 「俺」って言葉に「様」って付けるだけで、アイツらに俺の方が立場が上だと俺自身が思ってる-そう思わす事が出来る。まぁ、つまるところ、アイツらは見下されてると思うわけだな》
結果、相手に焦燥感を与え、挑発剤と成りうる。
仮に「俺はお前を倒す」と言い放つとする。それを「俺様はお前を倒す」という言葉に変えると、不思議な事に相手の認識は「〝仕方がないからお前を倒してやる〟」と言われているように錯覚するのだ。
上から目線でそう言われれば、相手は少なからず多少の苛立ちを覚える。相手が実力者であればある程だ。
シュウ曰く、実力の知れない存在と戦う際、一番面倒なのは防御-つまり受け身に回られる事だと言う。
挑発し、相手を煽り、苛立ちを芽生えさせる事で、相手の方から攻撃させる。それを颯爽と回避する事が出来れば大きな隙が生まれる-そう語った。
【なるほど。そういう意図があったのでございますね? 流石は寿々めの主様です!】
《つっても、アイツの攻撃の速さ···。相応の実力が無いと喰らって終了なんだけどな。······さて、相当に苛立ってくれてるし、本格的に殺り合うとすっか。頼むぜ、スズ!》
【勿論でございます! 寿々めにお任せ下さい主様!】
自らの内で会話を終えたシュウは右腕をゆっくりと前に突き出す。先程と同様の攻撃が来るとみたソールはすぐ様シュウとの距離を縮めにかかる。
それはラグですら認識出来なかった五速。
地面を蹴り上げ、あと数センチでシュウの心臓を捉える-そうソールが確信した瞬間······
-パチン。
「っ·········は!?」
何かが折り畳まれたような音が響いたと同時にソールは自分の置かれた状況に唖然とする。
それは五速という超次元的な速度で懐に潜り込んだ筈の自分が、初めの立ち位置に〝戻されていた〟からだった。
「······お前、一体何をした?」
全くもって理解できないソールはおもむろに問いかける。体に何かの魔法やスキルが使われた感覚は無い。これには流石のアディーロもソールの背後で表情を崩していた。
「魔力の残滓も無いし、スキルが発動した痕跡も無い······。何なのかしら。この私が目の前で起こったことを理解できないなんて······。強いて言うなら、違和感を感じた? ······のだけれど」
「へぇ。違和感、感じたんだ? やっぱ、後ろの真っ白白助のあんたの方がソールよりも強いんだな。······んー、そうだな。ちょっとだけタネを明かしてやるよ」
そう言いながら、シュウは右腕を真っ直ぐ真横に持ち上げる。そして背後に浮かんでいる大きな扇子を右腕の後方に移動させて見せた。
「古来より扇子って言うのは呪具として用いられてんだ。その用途は色々あってよ、結構万能なんだわ。ある呪術師は扇子の事を······扇、つまり【奥義】と言った。まぁ、これは単なる言葉遊びなんだけど。で、その呪術師はこんな事を言ったらしい。『扇子の扇面は全てを弾き、扇面を支える骨はあらゆるモノを折り畳み、扇の要は力を束ねる』ってな」
「······なるほど。そういう事なのね。だとしたら相当に厄介な代物と認識せざるを得ないのかしら?」
「お、お嬢!?」
シュウの言葉を聞いたアディーロはゆっくりとソールの隣に並び立つ。それはソールでは相手が悪い-そう理解したが故の行いだった。
「ソール。さっきの違和感、その正体はあの子の言った骨によるものよ。扇子の骨を折り畳む事でソールと私の空間を折り畳んだ。縮めたのよ。結果、ソールはあの子との距離を縮められなかった」
「な······なんだよそれ」
「ソール、貴方は強い。でも、今回は相手が悪いわ。速さを封じられたら······分かるわよね?」
「·········本気を出したとしても?」
「さぁ、どうかしら。でも、あの子の言った言葉が本当なら貴方の攻撃を跳ね返す可能性がある。魔力に通ずる魔法やスキルなら問題はないのだけれど、魔力とは〝違う力〟を使っている気がするの。···ソール? 貴方、自分の本気を自分自身で受けて無事でいる自信はある?」
「っ·········ごめん、お嬢」
「いいのよ。それよりも貴方を失う方が私は辛いわ。それはきっと〝あの子〟も···ね」
「あぁ。分かったよ」
現実、状況を理解したソールはゆっくりと後退する。そしてソールに代わり、アディーロがゆっくりと歩みを進め、シュウの眼前に立ちはだかった。
【主様、あの者······相当に強いです。寿々めの力を持ってしても勝機は薄いかと·········申し訳ございません】
《やっぱりそっか。薄々そんな気はしてたんだ。でも······だとしても、アイツを超えるまでは負けらんねえ。連中が何の目的でここに来たのかは知らねえけど、ここで逃げちまったら俺はきっとアイツに勝てねえと思うんだ》
【主様······】
《最強を目指すって決めてから覚悟は出来てる。最大限に足掻いてやるさ!》
【最強·········。ですが、それは寿々めの為に-】
《ばーか。今更何言ってんだよ。俺とお前は一心同体。何があってもお前の体は絶対に取り戻すって言ったろ? 俺に······いや〝俺様〟に任せとけって!》
【······ふふふ。本当に「様」と付けるだけでこんなにも安心感が増すのでございますね? はい。お任せ致します。そして精一杯、御助力させて頂います!】
《おう!!》
アディーロとシュウ。互いが戦うことを決意した。向き合う二人がゆっくりと身構える中、唐突に戦いの幕は開けた-。
先に動いたのはアディーロだった。
右手を前に突き出し、手のひらを地面に向ける。
「まずは小手調べよ。『天地封殺』!」
-ゴオォッ!
その瞬間、強烈な圧力がシュウの体を押さえつけんとする。
「っ! 重力魔法かよ! スズッ!」
【はい! 『扇面返し』!】
しかし、シュウは体勢を崩しながらもそれを難なく扇子の扇面で跳ね返す。それは無効化したと言ってもいい程に見事なものだった。
「なるほど。跳ね返す先は発動者···という訳では無いのね。力がかかる方向と逆に反射させる······と。ちょっとした賭けだったのだけれど、大きな収穫だったわ? 今ので私に魔法が跳ね返って来たら、正直手をこまねる所だったから」
「ったく。余裕だよな、真っ白白助の奴」
お互いがお互いの実力を理解し始める。と同時にアディーロは艶のある白い髪を手櫛でときながらシュウに問いかけた。
「ねぇ少年、貴方······さっきから〝誰と〟会話しているの?」
先程の反射時も然り、ソールとの戦いの中での沈黙時もシュウは誰かと何かを話しているようにアディーロは感じていた。
しかし、シュウはその問いにクスッと微笑み、ウインクしながら舌を口元から覗かせた。
「さーな」
「あら。意地悪な子。ふふふっ、でも嫌いじゃないわよ? そういうの」
「そりゃどーも」
「さてと。それじゃあ続きを始めましょうか」
「だな。こんな馴れ合いなんて、俺様にもあんたにも必要ねえんだから」
その言葉に微笑むアディーロ。それに応えるように笑みを見せるシュウ。そして二人は拳を合わせる-。
-ボコォッ!!
アディーロは『魔装』状態の左拳を、そしてシュウは異形と化した右拳を。その衝突によって巻き起こる衝撃波はその場を支配する。
「『魔装』状態の打撃に対しても反射は働いているのね。その右腕、背中の扇子の能力を纏っているのかしら?」
「·········ハズレ。この右腕と背中の扇子は全くの〝別物〟だぜ」
「ふーん。······そういう事」
「······へへっ。あんたってホント、察しが良過ぎて気持ちわりいな-っ!!」
「っとと」
拳を交え、両者一歩も譲らない状況の中、シュウが拳を振り切った事でアディーロは後方に弾き飛ばされる。地面を抉りながら後退する彼女に追い打つシュウ。
背後の扇子がパチン-と折り畳まれた刹那、シュウは瞬く間にアディーロの懐に潜り込む。
しかし、アディーロは扇子の骨折りすらも先読みしていたように拳を握り締めていた。
《ちっ。全く隙がねえ。スズ······〝アレ〟をやる》
【なっ···! あ、主様!! お待ちくださ-】
「果てはこの世の全てを悟り、三明この身に降ろし煩悩滅す、さすれこの身は朽ち果てようとも信念貫き天元と化すっ!【三明顕現憑依-沙門果経】ッ!!」
「こっ-···この子!!?」
それはアディーロの理解力を超えていた。
アディーロが反射的に繰り出した拳はシュウの顔面を〝通り抜け〟空を切る。そしてシュウの右拳はアディーロを確実に捉えた-。
-バキバキ···。
「ぅっ···がはっ···-!!」
「お嬢っ!!!!?」
肋骨の軋む音。いや、砕ける音が響き渡る。
弾丸のように吹き飛ぶアディーロをソールは受け止め、すぐ様回復薬を投与する。
「お、お嬢っ! しっかりしてくれ!!」
「くぅっ······」
そんな二人を見つめるシュウの瞳は蒼い炎を纏い、体中から蒸気のようなものを発している。
【主様······。まさか『魂焼憑依』までお使いになられるなんて······。寿々めは···心配でございます···。主様、そのお力は魂を燃やす事で〝鬼神〟様の力を宿すモノ······。長くは持ちませんよ······】
「ヴウォアアアアアアアアアアッッ!!!!!」
そしてここに鬼神は降臨した-。




