精霊女王エイン・セル
-ズ・ド・ンッ!!!!!!
強烈な衝撃の後、辺りを舞う砂塵の中から一人の存在がその姿を現した。
左手で仮面を抑えながら首をコキッと鳴らす。その存在を認知した瞬間、その場の全員が息を飲んだ。得体の知れなさはバルドル以上、存在感・威圧感もバルドルや先程まで居たユミルという男よりも遥かに上回っている。
「んで? 俺の敵は······」
仮面の男が周囲を見渡す。満身創痍の騎士団団員達、驚きのあまり光化を解いたラナンキュラス、そして異様な存在感を発しているバルドル。考える間もなく、仮面の男はバルドルが自分の敵だと直ぐに理解した。
「その仮面······、それにその斑模様の髪。き、貴殿が噂に名高い『ノーフェイス』か?」
「は? え? あぁー、そっそうだな。そうだ」
「助かった······。すまないが手を貸してほしい! 奴は神の使徒と名乗るバルドル。【天上門の鍵】なるものを探して-」
「いや、どうでもいいよそんな事」
「え?」
人が折角親切に相手の情報を! -と苛立つラナンキュラスだったが、彼の右手に持つ『モノ』を見た瞬間にそんな苛立ちは一瞬にして消えてしまった。
「理由も目的も素性もどうでもいい。ただ、お前らが俺の邪魔をしたってことが全てだ。第一、神の使徒だと? 〝その程度〟で俺の邪魔をしようってか? ふざけんじゃねえよ」
-ゴロッ。
「ッ!!!!?」
バルドルの前に投げつけられたモノ。それは先程まで会話をしていた同胞の『氷帝』ユミルの首だった。それを見た瞬間、バルドルの額から異様なまでの冷や汗が流れ始める。
「そ、それは······なんの冗談でしょう? 彼はフロドロストの中でも五本の指に入る有能者···ですが」
「知らねえよ。コレがいきなり喧嘩売ってきたんだ。それで邪魔だから〝弾き飛ばした〟。それだけさ」
「······はい? は、弾き飛ばした!? 彼を? そ、そんな馬鹿な事が!!」
焦りの表情を浮かべるバルドルを不思議そうに首を傾げながら見つめる男に、バルドルは全力の攻撃を放った-。
「『エウクレイデスの光典』ッ!!」
それは高密度のレーザービームだった。規格外な一撃にラナンキュラスは言葉を失う。と、同時に仮面の男を庇おうと手を伸ばす-が。
-パリンッ!!!!
「なっ!? は、はああああ!!?」
微動だにしない仮面の男にバルドルの攻撃が通じることは無かった。男に当たるどころか、直前で攻撃自体が粉々に砕け散ったのだ。
訳の分からない状況にバルドルは出したことの無いような声で大きく驚愕してみせる。
「終わり? 急いでんだけど」
「ぬっ! まだまだ! コレが当方の全力です!! その〝おかしな仮面〟ごと吹き飛ばして···差し上げ······まっ···」
「一応、これはお気に入りなんだよ」
そう言いながら自らの仮面を指差す。気付けばバルドルは首を跳ね飛ばされていた。
「へぇー。実体化してるだけだと思ってたけど、お前、本物の使徒じゃないんだ?」
「ッ!?」
「力を与えられた偽物ってところか。本物の使徒はもうちょっと歯応えがあるんだけど」
「ひ、姫君······申し訳·········ござい-」
この者は〝危険〟です·········。
力尽きたようにその場で倒れ込むバルドルを仮面の男は勢いよく蹴り飛ばした。遥か彼方へと飛んで行ったことを確認し終えると、バルドルとユミルの頭部を粉々に消し飛ばしてみせる。
「フィー。状況はどお?」
【はい。現状、まだ動きはございません。どうやらこの戦いの終戦が進軍の合図だったようです】
「へえ。やっぱり来てよかったね?」
【はい! お見事でございました!】
顔を赤く染めながら胸元で小さく拍手を送るフィーに仮面の男、エトは少しだけ照れた様子をみせる。
「あ、あの······」
「ん? あれ? ······キミ」
「え?」
苛立ちから全く気が付かなかったが、俺の背後で蹲っていた女性は魔法祭の時に接触して来た怪しい女性だった。
「あ、いや。なんでもないよ。それより何?」
「貴方は我々の味方···なのだろうか?」
「······さあね。俺の邪魔をしなければ敵になることは無いよ」
にしても、なんだか口調が魔法祭の時と違うような······。
「そう······か。差し支えなければ教えて欲しい。貴方は······何者なんだ?」
「何者···なんだろうね?」
「え?」
【〝エト様〟、魔界でも進軍が開始されたようです!】
「おっ、始まったね。魔界は問題ないよ。それよりも他は?」
【東方大陸にも進軍の動きがあるようです。そちらに向かわれますか?】
「東方大陸か。あそこにはイルミが居るから大丈夫だと思うけど。アディーロの動きは?」
【いえ。彼女はまだ姿を現してはいません】
「そっか。とりあえず、この場に留まっていよう。敵の戦力がこの程度だとは思えないし」
【はい!】
それじゃあ-とラナンキュラスに視線を向けると、彼女は口を開いたまま固まってしまっていた。よく分からないが、そっとしておこうと思った俺とフィーだった。
少し離れた場所で腰を下ろしている仮面の男とその付き人の女性。そんな二人をラナンキュラスはただただ眺めていた。
「エト······? エト・リエル? えっ、彼が!?」
······いやぁああん! どどどどどうしよう! 声掛けた方がいいかな? でもいいのかな!? 〝今の私は〟ロア王国の王国騎士団団長のラナンキュラスだし、〝エーくん〟に私情で接するのは······うぅぅぅ! でもでもこんな機会、もう無いかもしれないし! あっ、でもどうしよう! 〝また一緒に〟なんて言われたら私、断れないよぉ〜!!
「だ、団長?」
「ふぁい!??」
完全に自分の世界に入り込んでいたラナンキュラスは団員の声に情けない声で答える。相当に顔を赤く染めている事を心配されたらしい。
「だ、大丈夫···ですか?」
「ゴホン。あ、ああ。問題ない。彼のおかげだな」
そう言いながら彼女は仮面の男に視線を向けてまたも顔を赤く染めている。
「一体何者なんでしょうか。圧倒的······というか、あれは強いって次元じゃ無かったですよ?」
「······たしかにな。しかし、彼ならば分からないでもない」
「え? 団長、あの仮面の男の事知ってるんですか?」
「え?? あっ、ほ、ほら。大陸連盟から通達が来ていただろう? あれが仮面の竜使い『ノーフェイス』だ」
「あっあれが!?」
『ノーフェイス』という単語のせいか、団員達に緊張が走る。ニーズヘッグという竜王を従える化け物、そう認識していた彼らにとって、バルドルよりも厄介な存在なのでは? という疑問が不安を募らせているのだ。
一方。
【エト様? 何やら視線を向けられていますが?】
「だね。フィーが〝可愛い〟からじゃない?」
【やっ。エ、エト様ったら······。えへへ】
······冗談のつもりだったんだけど。
なんだか嬉しそうなフィーはさて置き、俺は精霊界に行ったであろうニールに念話で話しかける事にした。ラグやステラ、それにヤオもいるので全くもって心配なんてしてはいないのだが、俺の予想が外れてアディーロが精霊界に現れてやしないか-それだけが気掛かりなのだ。
《ニール? そっちの状況はどお? こっちはとりあえず敵を殺せたけど》
《ん? あら、エト。どうだった? 敵は強かったの?》
《いや、正直あれが敵の上位戦力って言うなら危険視する程でも無かったって感じかな》
《そう。という事は、こっちは〝当たり〟-ということかしら?》
《·········え?》
《ラグが〝防戦一方〟で押されているわ?》
ニールの言葉に俺は少し驚いてしまった。あれ程までの力を持つラグは十分に化け物じみている。そんな彼が防戦一方とは······。
流石にそう簡単には対処出来ない-か。というか、それにしてはニールってば落ち着いてる気が···?
などと思ったが、本来彼女は俺とヤオ以外の存在には興味が無い。いくら仲間のようになったからと言っても、ラグが生きようが死のうが多分そこまで深くは考えていないのだろう。
《状況を教えてくれる?》
《ええ。もちろんよっ》
時は少し遡り······。
念話によってエトから指示を受けたニーズヘッグはラグ達を集合させて今後の行動を説明する事にした。
「-って訳なのよ。だから私達は精霊界に行ってエトの敵を消す。いいわね?」
「うぉー! 来た来たぁ! OK! 承ったよエトくん!!」
······本当に嬉しそうねこの子。
ステラとハイタッチをしながらその場ではしゃぎ始めるラグ。そんな二人を私とヤオは不思議そうに見つめていた。
-っと。急がないとね!
「で? 精霊界にはどうやって行くの?」
「ちょっと面倒なんだけど、北方大陸の最北端にある『聖籠の洞窟』から行けるんだ!」
「へぇー。精霊邂逅の地ね。って事はラグ? 貴方、証を持っているのね?」
「うん! 普通は契約紋が証なんだけど、僕は契約どころか召喚師ですらないからね! これを刻んで貰ったんだ」
そう言いながらラグは右腕の袖を捲りあげて見せた。そこには魔法陣に近い陣が刻まれていた。
「なら、早速急ぎましょう。ステラ? 竜化してくれる? 私が竜化すると目立っちゃうから」
「ん! 分かった!」
そうして私達はあっという間に聖籠の洞窟『精霊邂逅の地』へと辿り着いたのだ-。
「主様ぁ? なんだかヒリヒリするですぅ」
「ヒリヒリ? あー、ヤオは最高位の魔獣だからね。精霊界に警戒されているのよ。それだけヤオが凄いって事ね!」
「おぉ〜! ヤオはスゴいのですぅ〜!」
なんて言いながら、あっという間に耐性を身につけてしまったヤオは本当に規格外である。
というか、やっぱり可愛い···。今だって小さな拳を掲げて前進まっしぐらだ。愛おしいったらない。
「え? ヤオちゃんって最高位の魔獣なの!?」
「あれ? 言ってなかった? この子、オールド・テイルよ?」
「「·········ええぇぇッ!!?」」
「なのですぅ〜!」
そして-。
聖籠の洞窟最深部に辿り着いた私達の前に、いかにも-といった雰囲気の門が姿を現した。近付いただけだというのに既にラグの腕の紋章が光り輝いている。
もしかすると、召喚師やラグのような存在以外にはこの門は現れないのかもしれない。
〘汝、その名を告げよ〙
突如、脳内に直接語りかけるように声が響き渡った。まさかこの私にまで聞こえてくるとは、精霊界の干渉力は相当優れているらしい。
「ラグ・エンドだよ!」
〘紋章と契約名の一致を確認。門を解錠する〙
「ありがとーっ!」
ギシギシ-と重々しい扉が開く中、脳内に語りかけていた声の主は私にだけ聞こえるように話しかけて来た。
《竜王様、何故貴方様が? もしや忘れてはおられますまい? 不干渉条約を》
《忘れてないわよ。そうね、きっと何を言っても信用出来ないんでしょ?》
《私個人だけの判断では》
《そう? なら、姫様にこう言いなさい? 〝エト・リエル〟の指示だってね!》
《ゴホッ!? え? ちょ、嘘!? って、あっつい!! あー、もう···ちょっと! セイレン、ここちょっと拭いてくれる?》
·········お茶でも飲んでいたのかしら? というか、やっぱり念話じゃないのかしら。向こうは普通に会話してるっぽいし。
《コッホン。ようこそおいで下さいました! ごゆるりとお寛ぎ下さい!》
《え、ええ。ありがとう》
やっぱりエトって凄いわね。どんだけ信用されてるのよ。
「ニールさん、行くよ?」
「ニール様!」
「ええ、分かっているわ!」
こうしてようやく私達は精霊界『パラケルス』へと歩みを進めた-。
「久しぶりに来たけどやっぱりすげぇ!」
感心の眼差しを向けるラグの気持ちはとてもよく分かる。澄みきった空気、心地の良い風、過ごし易い気温と安心感に包まれるような川のせせらぎ。
目の前を通り過ぎる者達はきっと全てが精霊なのだろう。しかし、なんの疑いもなく優しい微笑みで私達を迎え入れている。
「綺麗なところね。······っと、観光に来たわけじゃ無いんだったわね!」
そう。当初の目的を忘れてはいけない。ここにはエトの敵を殺しに来たのだ。エトとの会話で大体の事は把握出来た。きっと既に連中は精霊界に居るはずなのだ。あまり悠長にしている時間はない。
「ラグ? 貴方、索敵は得意?」
「得意な方だけど、まだ引っかからないよ。この辺にはいないみたい」
「ニール様、エトくんの索敵力を基準にしたらダメ。あの人は規格外なの」
「ぬっ。わ、分かってるわよ!」
まぁ確かに、今一瞬「使えないわね!」と思っちゃったけど······。
〘竜王様とその御一行様。王宮にて姫様がお待ちです〙
どうしたものか-と思っていた矢先、精霊界の姫君であるエイン・セルの使いの者が私達の前に忽然と姿を現した。
「あら。気が利くわね。ありがとう」
「ラグ? 女王様には会ったことあるの?」
「ん? いや、無いよ」
私が問い掛けようとしたことをステラが代わりに問いかけてくれた。確か、精霊女王は表には姿を現さない-と言うのが有名な話だったはずだ。そんな彼女が自ら接触して来た-という事は既にこの事態を把握しているのか······。
いや、きっとエトの名前で······よね。相変わらず節操のない子。話に聞いてるだけでも各界の重要人物との交流が半端じゃないわ。きっとエトがその気になればこの世界すらも······。
「なーんてね。さっ、行きましょう」
「「おーっ!」」
「なのですぅ〜!」
精霊界を歩んで数分、精霊界の王宮『霊柩』に辿り着いた私達は王室へと招かれた。
なんだか不思議な質感の床が足の裏を刺激してくる。なんて思っていると、ラグが表情を一変させた。
「こ、これ······。〝畳〟だ!」
「タタミ? ラグったらまた不思議な言葉使ってる!」
「すげぇ! こんな所で見れるなんて! んー! イグサの匂いがたまんないよ!」
······一体何を言っているのかしら? まぁいいけど。
と、その時。黒髪の美しい女性がゆっくりとその姿を現した。どうやらこの羽織り姿の女性が精霊女王エイン・セルのようだ。
〘竜王はんにラグ・エンド。そちらのお嬢さんらも、よう来たなぁ。お初にお目にかかります、ウチがこの霊界をまとめさせてもろてるエイン・セル申します。皆さんよろしゅうなぁ〙
「ええ。こちらこそよろしくね」
なんだろう。今まで見た中で一番綺麗かも······。
〘そいで? ウチの寵児はんはどちらにいはるん?〙
「ちょ、ちょうじ!?」
突然の単語に情けない声を上げてしまった私に視線が集まった。
いや、むしろ何故誰も突っ込まない!?
「ゴホン。エイン? エトは今人間界。彼はここには来ないわよ」
〘なんやぁ。残念やなぁ? にしても竜王はん? エラいお宅、エト様の事···親しゅう呼ばれはるんやなぁ? あんた······エト様のなんなんや?〙
「-ッ!!!!?」
その瞬間、私の目には私の胸を〝穿き嘲笑うエインの姿〟が映し出されていた-。
「な、なるほど。コレが精霊界当代最強の〝幻覚術者〟······か。五感全ての感覚を支配とは······」
〘ほぉ? 知ってはるんやなぁ。加えると、ウチの力はスキルでも魔法でもありゃしまへんえ? これはウチの固有能力。いわゆる〝【超能力】〟ゆーもんですよ〙
だから竜王だろうが誰だろうが防げない-ということらしい。まぁ確かに驚いた。驚いたが、それでも多分無敵では無い。きっと彼ならば-。
「それで? その超能力、エトに効果はあったのかしら?」
そう問いかけた瞬間、エインはそそくさと私の前に座り込み、私の両手を掴みながら涙目になり始めた。
〘そーなんよぉ! 竜王はん聞いてくれはる!? エト様ったら、どんな幻覚見せても「······で?」って言わはるんよ!? そんなアホなことあるー?? ウチが必死に幻覚見せてもそれなんよぉ?? ほんで、その後! コレが痺れたんよぉ!なんて言わはったと思う!? -エト様はな?〙
〝幻覚なんかより、現実のあんたの方が魅力的で俺は怖ぇよ〟
〘やってぇ〜! きゃぁぁああ! もー、ズキューンやわぁ! 撃ち抜かれてしもて、もうなんも言えへんかったんよ! どー思う? なぁ、竜王はん!〙
グラグラと私の上半身を揺らし続けるエイン。
いや、結局惚気話じゃない······。
気持ち悪くなりながら、私は彼女に「大変だったわね」-と一応の同情を見せると彼女は満足そうに頬を染め、足を崩しながら袖口を口元に擦り寄せる。
〘あれ以来、ウチはあの方のもんになってしもたんよぉ···。いやん! ウチの全てはエト様のもんっ! えっへへ〜! どや? 羨ましいやろぉ?〙
「そ、そうね。羨ましい限りね」
ダメだ······。全く話が進まない。
なんて困り果てていると、ラグが右手をゆっくりと挙げて口を開いた。
「ねえ? それよりそのエトくんからの伝言なんだけどさ? ここにエトくんの敵、つまりは僕らの敵が居るらしいんだけど、女王様は知ってるの?」
ナイスよラグ!!
心の中でラグのファインプレーを讃えつつ、私は彼の話に乗り込んだ。
「そうなのよ。エイン。私達は一応、エトにその連中を殺すように言われてるんだけど」
その瞬間、エインは表情を一変させて真面目な顔付きに変わった。その表情を見るに、流石は精霊界の女王-と言ったところだ。
〘敵はんやて? なんやのそれ。どこぞの阿呆や?〙
「いや、詳しくは分からないんだけど、エトが言うには〝俺の邪魔をした連中〟-らしいわよ?」
〘へえ。エト様のお邪魔をなぁ。それはおるだけで論外やなぁ? ミー? おいで!〙
〘はいな!〙
エインの呼び掛けに颯爽と現れた黄緑色の髪が印象的な小さな少女は私達の前に膝をつき、深々と頭を下げてみせる。
〘エト様の敵がいはるんやて。ちょいと調べてくれはる?〙
〘お易い御用で! んー·········。おっ、数は一万。人間も混ざってるみたいですよ?〙
〘人間もってなんや? 他にもおるんか?〙
〘ほとんどは人間と魔獣ですね。ただ一人、あたいでも判断出来ない存在がいます。······強いですね〙
「あ、ちなみに人間が混ざってるからって、今回の件が人間界の思惑だなんて思わないでね? エトもそれは望んでないから」
-で、いいわよね? エト。
〘ん。ほな、行きまひょか? 被害が出る前に叩き潰さんとな!〙
「「おぉー!!」」
こうしてエインの指揮の元、私達は精霊界の北西部に位置する草原地帯へと向かうことになった-。
〘ふぅ。着いたはええんやけど······。なんやのアレ?〙
「はい! はいはいはい! 僕に殺らせて下さ〜い!」
〘ちょ、ラグはん正気か? あの先頭の若いおにいさん、明らかに〝異質〟やで? アレに進んで戦い挑もーやなんて勇気あるなぁ?〙
草原地帯に着くと、ミーの言う通り一万程の軍勢が陣形を保ちながらゆっくりと進軍を開始していた。しかし、その中でも先導者であろう先頭の青年だけは異様な雰囲気を漂わせていた。エトとはまた違った存在感。
確実に分かる事は今のエトに〝匹敵する〟強さを持っている-ということだ。
「勇気とか、そういうんじゃないんだよ。〝この世界に来たからには〟盛大に楽しみたいんだ!」
「······え? 今、なんて?」
なんだかラグの言葉に引っかかる部分があったような気がしたのだが······。まぁキラキラと楽しそうな瞳ではしゃいでいるので気にしないでいよう。
「よし! それじゃあ雑魚はよろしく〜! -ッ!!」
刹那、ラグはその場から〝消えた〟。
〘な、なんや? 今の速さ、尋常やないよ!?〙
エインの言う通りだ。今の動きはエトと戦った時よりも数倍速かった。などと感心しているとステラが落ち着いた様子で準備運動を始めていた。
「っしょ。まさか最初から『神速』を使うなんて。それ程の敵なんだね! それじゃあステラは雑魚退治ーっ! -ッ」
「······気持ち悪いわね」
レッツゴー! -とラグの後を追ったステラは、目を疑うような所業を行った。それはステラが〝千人〟程にわらわらと増えたのだ。それぞれに意思があるようで、仲良さげに話しながら駆け出して行く。
そんな彼女に率直な感想を零すと、隣のエインも首を縦に振ってみせた-。
「たのもーっつって! やっほーおにいさん。殺ろうよ!」
ラグの目の前にいる青年は突然現れたラグに驚くこと無くゆっくりと歩みを止めた。
「いいよ、殺ろうか。一対一? それともそっちの子も?」
「ううん、僕とおにいさんとでだよ! いいよね?」
「いいけど、俺は強いよ?」
「あー、そういうの〝いいから〟さ? さっさとかかって来なよ!」
その瞬間、ポーカーフェイスだった青年の眉がピクリと動いた事を見逃さなかったラグは、クスッと微笑んでみせた。
「プライドは意外と高め。単純で根に持つタイプっと。初撃は〝三秒後〟だね」
さん······にー······いち······-
-ボコッ!!!
ラグの予想通りに攻撃を繰り出した青年は、自分の攻撃が受け止められたことに少し驚いているようにも見える。
「へぇ。割りとやるもんだ。流石に〝一速〟は優し過ぎたかな?」
「······一速?」
「ん? 気になる? そんなに難しい事じゃないよ。ただのリミッターだから」
青年の挑発とも取れる言葉にラグは口角をぐっと上げた。強者上等、苦戦常考の彼にとって、それは脅しでもなんでもなく、ただただ〝楽しみが増えた〟-と言うだけの事だった。
「くっははは! いいね! 面白そう! それって〝百速ぐらい〟あるんだよね!? 期待してるよ!」
「·········なんか嫌だなお前」
それは例えるなら、予想外の答えで驚かそうと問題を提示したが、それよりも遥かに超えた回答がなされた時の無味乾燥と等しいものだった。
「その減らず口、聞けなくしてやるよ」
「おーう! ばっちこーい!!」
こうしてもう一つの衝突が始まった-。




